確定申告・資金繰り

確定申告してない個人事業主はどうなる?今からの最も軽い進め方

2026.07.06

目次

ATOファクタリング

この記事の要点

  • 2026年9月24日に国税庁の次世代システム「KSK2」が稼働し、国税と地方税のデータ統合で無申告は機械的に把握されやすくなる
  • 調査の連絡を受ける前に自主的に申告すれば無申告加算税は5%に軽減され、利益が少ない帯では国保の軽減などでむしろ年間の支出が減る場合がある
  • レシートや帳簿が残っていなくても、今からレシートの撮影・集計を始めれば申告の準備は間に合う

「周りにも確定申告してない人は多いし、何も起きていない」——個人事業主やフリーランスの間で、こうした感覚は珍しくありません。実際、確定申告をしていない人が一定数いるのは事実です。ただ、その状態を続けた場合に何が積み上がっていくのか、そして2026年9月に国税庁の新しいシステムが動き出すことで何が変わるのかは、あまり知られていません。

本記事では、確定申告をしていない個人事業主に実際に起こりうることを、脅しではなくデータと制度の一般論で整理します。あわせて、今から動く場合に最も負担が軽くなる進め方と、利益が少ない人ほど申告でむしろ支出が減る場合があるという損得の構図を、概算つきでご案内します。

1. データで見る「確定申告してない人」の実像

最初に、「してない人は多い」という感覚がどこまで事実なのかを整理します。実態を正しく知ることが、過剰に怖がることも、逆に楽観しすぎることも避ける出発点になります。

1-1. 確定申告していない個人事業主は実際に一定数いる

事業所得があるのに確定申告をしていない、いわゆる無申告の状態は、統計的にも一定数存在します。国税庁は毎年の活動報告(国税庁レポート・事務年度報告)で無申告者への調査状況を公表しており、無申告への対応を重点課題のひとつとして明示しています。特に現金でのやり取りが中心の業種、開業時に届出をしないまま仕事を始めたケース、副業から専業に移行して申告の区切りを逃したケースなどで、無申告のまま数年が経過している例は珍しくありません。つまり「自分だけではない」という感覚自体は、事実に基づいています。

1-2. 「調査は来ない」がこれまで成立してきた理由

一方で、「周りに税務調査が入った話を聞かない」という感覚にも理由があります。個人に対する実地調査の件数は納税者全体から見ればごく一部で、小規模な事業者ほど調査対象になる確率は低い水準にとどまってきました。税務署側のリソースには限りがあり、優先順位は取引規模や情報量によって決まるためです。ただしここで重要なのは、「調査が来ていない」ことと「問題がない」ことは別だという点です。申告義務そのものは売上や所得の状況によって法律上発生しており、調査が来ていない期間も納税義務は消えずに残り続けます。後述するように、その間にも延滞税などの負担は計算上積み上がっていきます。

1-3. 「多いから大丈夫」と「多いから問題になっている」は裏表

無申告者が一定数いるという事実は、裏を返せば、税務行政にとって放置できない課題として認識されているということでもあります。国税庁の公表資料では、無申告は「申告納税制度の根幹を揺るがすもの」と位置づけられ、調査の重点対象とされています。件数が多いからこそ、後述するシステム刷新やインボイス制度のようなデータの整備によって、人手をかけずに把握できる仕組みづくりが進んできました。「みんなしていないから大丈夫」という推論は、制度の側が変わりつつある局面では成り立ちにくくなっている、というのが現在地です。

2. なぜ「見つからなかった」が続かなくなるのか|KSK2とインボイス

これまで無申告が把握されにくかった最大の理由は、税務署側のデータが税目ごと・機関ごとに分かれていたことです。この前提が、システムと制度の両面から変わりつつあります。

2-1. 2026年9月24日に稼働する国税庁の次世代システム「KSK2」

国税庁は基幹システムである国税総合管理システム(KSK)を刷新し、次世代システム(通称KSK2)へ2026年9月24日に全面移行することを公表しています(国税庁 e-Tax「国税システムの更改に伴う仕様公開」、参照日: 2026-07-06)。KSK2では、これまで税目ごとに縦割りだったデータベースが統合され、所得税・消費税・法人税などの情報を横断的に扱えるようになります。地方税務当局との情報連携や、金融機関へのオンライン照会で得られる情報の活用も進む見込みです。

2-2. 無申告にとって何が変わるのか

データが統合されると、これまで人手で突き合わせるしかなかった「矛盾」が機械的に浮かび上がるようになります。典型的なのは、住民税は給与天引きや申告で記録があるのに所得税の申告がない、というずれです。また、取引先が支払調書やインボイスの記録で支払いを申告していれば、受け取った側の売上は税務署側のデータに既に存在します。売上側の記録だけが揃い、本人の申告だけが無い状態は、統合されたデータの上では目立つ形になります。生活水準や資産の情報と申告所得の開きも、突合の対象になりえます。

2-3. 「可視化」と「調査」は別物——正確に恐れるために

ここで誤解しないでいただきたいのは、KSK2が稼働しても「無申告者全員に一斉に調査が入る」わけではない、という点です。調査対象の選定にAIやデータ分析を使う取り組みは以前から始まっており、最終的にどこを調査するかは調査官が判断します。変わるのは、「そもそも把握されていなかった」状態が「データ上は見えているが、まだ接触されていない」状態に近づいていくことです。つまり、時間が経つほど「見つからないまま時効を待つ」という選択肢の前提が崩れていきます。この変化は恐怖をあおる話ではなく、動くなら条件の良い今のうちに、という判断材料として捉えるのが正確です。

3. 放置した場合に積み上がるもの|延滞税・無申告加算税の一般論

無申告の状態を続けた場合に何がどのくらい積み上がるのかを、制度の一般論として整理します。金額の重さそのものより、「早く動くほど軽く、遅くなるほど重くなる」という構造を掴むことが大切です。

3-1. 無申告加算税——いつ申告するかで税率が大きく変わる

期限までに申告しなかった場合、本来の税額(本税)に加えて無申告加算税がかかります。税率は原則として本税の15%、50万円を超える部分は20%、300万円を超える部分は30%です(令和6年1月以降の申告期限分、国税通則法66条)。ここで重要なのは、税務署から調査の連絡を受ける前に自主的に期限後申告をすれば、この税率が5%まで軽減されることです(国税庁タックスアンサー No.2024「確定申告を忘れたとき」、参照日: 2026-07-06)。同じ過去分を精算するのでも、自分から動くか、指摘されてから動くかで、上乗せの負担が3倍から6倍変わる構造になっています。

3-2. 延滞税と遡及の年数——時間そのものがコストになる

納付が遅れた期間には延滞税もかかります。税率は年によって見直されますが、納期限からの経過期間に応じて年2%台〜8%台で計算され、放置した年数分だけ積み上がっていきます。また、税務署が過去に遡って課税できる期間(除斥期間)は原則5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です(国税通則法70条)。「5年逃げ切れば時効」と言われることがありますが、実際には、その5年の間に本税・加算税・延滞税が膨らみ続け、しかも前述のとおりデータ上は把握されやすくなっていく、という条件の悪い賭けを続けることを意味します。

3-3. お金以外に失っているもの

無申告のコストは税金だけではありません。申告をしていないと所得の証明ができないため、日本政策金融公庫などの公的融資、補助金・給付金、賃貸契約や住宅ローンの審査といった場面で、そもそも土俵に乗れない状態が続きます。また、後述する国民健康保険の軽減制度も、申告によって所得が確認できる世帯だけに適用されるため、所得が少ない人ほど「申告しないことで毎年損をしている」ケースが生じます。放置のコストは「いつか払うかもしれない追徴」だけでなく、「いま毎年失っている選択肢と軽減」も含めて考えるのが実態に合っています。

4. 申告は「軽いルートに乗る」前向きな手続き

ここまでの内容は「放置のコスト」の話でした。ここからは視点を変えて、申告することで何が軽くなり、何が得られるのかを整理します。特に利益が少ない帯では、申告は「取られる手続き」ではなく「支出が減る手続き」になる場合があります。

4-1. 自主的な期限後申告は、選べるなかで最も軽いルート

前章のとおり、調査の連絡を受ける前の自主的な申告であれば無申告加算税は5%に軽減されます。過去分をまとめて申告する場合も、税務署に相談のうえで分割納付の仕組みを利用できる場合があり、「一括で払えないから申告できない」とは限りません。重いか軽いかを決めるのは過去の未申告そのものではなく、これからどのタイミングで、どちら側から動くかです。この構造を知っているかどうかが、負担の差になって表れます。

4-2. 利益が少ないほど「申告した方が支出が減る」構図がある

意外に知られていませんが、国民健康保険の均等割には所得に応じた法定の軽減制度(7割・5割・2割)があります。東京23区の令和7年度の例では、単身・40歳未満の均等割は年額約6.4万円で、7割軽減が適用されると約1.9万円まで下がります。ところが、この軽減は申告によって所得が確認できる世帯にしか適用されません。未申告のままだと、実際の所得がどれだけ少なくても均等割は満額のまま請求され続けます。青色申告特別控除や基礎控除の引き上げ(令和7年分から最大95万円)により、利益がおおむね160万円程度までは所得税がかからない帯も広く、この帯では「申告で増える税金」より「申告で下がる国保」の方が大きくなる場合があります。

4-3. 融資・補助金への道が開ける——資金繰りの選択肢が変わる

申告書と決算の記録は、事業の所得を証明する土台になります。これが揃うと、日本政策金融公庫の融資や、商工会議所の経営指導を経て利用できるマル経融資(小規模事業者経営改善資金、金利は年1.9%前後の水準)といった、低コストの正規の資金調達ルートが選択肢に入ってきます。無申告のままでは、資金が必要になったときに選べる手段が高コストのものに限られがちで、資金繰りの厳しさが固定化しやすくなります。申告は税金の手続きであると同時に、資金繰りの選択肢を広げる入口でもあります。

5. まず何から始めるか|レシート・帳簿がなくても動き出せる

「記録が何も残っていないから無理だ」というのが、申告に踏み出せない最大の心理的ハードルです。しかし、完璧な記録が揃ってから始める必要はありません。一般的な進め方を段階別に整理します。

5-1. ステップ1: 今日から先の記録を残し始める

最初の一歩は、過去ではなく「今日から」の記録です。会計ソフトのスマートフォンアプリを使えば、レシートを撮影するだけで日付・金額・支払先が自動で読み取られ、集計されていきます。銀行口座やクレジットカードを連携すれば、入出金の記録も自動で取り込まれます。帳簿づけの知識がなくても、まず「証拠が自動で溜まる状態」を作ることが、その後のすべての土台になります。月ごとの売上と経費が見えるようになると、毎月いくら手元に残っているのかという資金繰りの感覚も同時に手に入ります。

5-2. ステップ2: 過去の分は「あるもの」から再構築する

過去の分については、手元にレシートがなくても再構築の手がかりは残っていることが多いものです。銀行口座の入出金履歴、取引先からの支払明細や請求書の控え、スマートフォンの決済履歴、仕入先の購入履歴などが材料になります。経費の記録が立証できない場合、税務上は売上に対して経費がほとんど認められない形で所得を計算されるリスクがあるため、「経費の証拠を集めること」は自分の税額を下げるための作業だと捉えると取り組みやすくなります。

5-3. ステップ3: 複数年分・判断に迷う場合は専門家に渡す

未申告が複数年に及ぶ場合や、遡る年数・経費の扱いなど個別の判断が必要な場合は、税理士に相談するのが結果的に最短です。過去分の期限後申告は税理士にとって定型的な業務であり、記録の再構築の進め方も含めて実務的な段取りを組んでもらえます。相談の時点で記録が不完全でも問題はありません。「怒られるのではないか」と心配される方が多いのですが、自主的に精算しようとする相談は、専門家にとっても税務署にとっても、望ましい方向に動き出した案件として扱われます。

6. 自分の損得を概算してみる|利益帯別の支出早見表

最後に、「申告すると支出がいくら増えるのか・減るのか」の目安を、利益(売上−経費)の帯別に示します。下表は単身・40歳未満・青色申告特別控除65万円(e-Tax)・他に所得なし・国民健康保険は東京23区の令和7年度料率・国民年金は満額納付という前提のモデルケースによる概算です。

6-1. 利益帯別の概算早見表(モデルケース)

利益(売上−経費) ① 申告で納める税金
(所得税+住民税)
② 国保の年額
(申告あり・軽減適用後)
③ 申告で安くなる国保
(均等割の軽減)
④ 差引の目安
(③−①)
50万円 0円 1.9万円 4.5万円(7割軽減) +4.5万円
100万円 0円 1.9万円 4.5万円(7割軽減) +4.5万円
130万円 0.5万円 5.5万円 3.2万円(5割軽減) +2.7万円
150万円 1.4万円 9.5万円 1.3万円(2割軽減) −0.1万円
200万円 6.3万円 16万円 0円(軽減なし) −6.3万円
250万円 13万円 21.2万円 0円(軽減なし) −13万円
300万円 19.8万円 26.4万円 0円(軽減なし) −19.8万円
400万円 33.3万円 36.8万円 0円(軽減なし) −33.3万円

「◯割軽減」は国民健康保険の均等割部分にかかる法定の軽減制度で、税金の割引ではありません。軽減は申告により所得が確認できる世帯だけに適用され、未申告のままだと均等割は満額のまま請求されます(所得割の扱いは自治体によって異なります)。

6-2. 表の読み方——プラスの帯とマイナスの帯で意味が違う

④がプラスの帯(この前提ではおおむね利益130万円程度まで)は、「申告した方が年間の支出そのものが少なくなる」目安の帯です。税金がほぼかからない一方で、国保の軽減が満額の未申告状態より効くためです。一方、④がマイナスの帯は申告により納税額が発生しますが、これは本来の納税義務が数字になったものであり、未申告を続けても義務が消えるわけではありません。むしろ発覚時には本税に加算税・延滞税が上乗せされるため、マイナスの帯の実際の比較対象は「払わない未来」ではなく「あとからより重く払う未来」です。加えて、この帯は融資や補助金といった資金調達の便益が最も効いてくる帯でもあります。

6-3. 自分の数字で確かめるには

上の表はあくまで固定の前提を置いたモデルケースです。ご自身の売上と経費のざっくりした割合を入れるだけで、この損得の目安を確認できる簡易チェックツールを用意しているので、まずは30秒ほどで概算を眺めてみてください。前提が当てはまらない場合(扶養家族がいる、65歳以上、他に所得があるなど)や、正確な金額が必要な場合は、税理士への相談をおすすめします。

7. よくある質問(FAQ)

確定申告をしていない個人事業主の方から寄せられることの多い疑問を、一般論としてまとめます。個別の判断が必要な内容は税理士にご相談ください。

7-1. Q. 何年申告しなければ時効になりますか?

税務署が遡って課税できる期間(除斥期間)は原則5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です(国税通則法70条)。ただしこの期間中も延滞税は積み上がり続け、データ統合により無申告は把握されやすくなっていくため、「時効まで待つ」は年々条件が悪くなる選択です。単に申告していなかっただけの場合と、意図的な隠ぺい・仮装があった場合とでは扱いが大きく異なる点も知っておくと安心です。

7-2. Q. 「20万円以下なら申告不要」と聞いたのですが?

いわゆる20万円ルールは、給与を1か所から受けていて年末調整が済んでいる人の「給与以外の所得」が対象の、所得税の確定申告に関する特例です。専業の個人事業主には適用されません。また、このルールに当てはまる場合でも住民税の申告は別途必要とされており、「20万円以下だから何もしなくてよい」わけではない点に注意が必要です。

7-3. Q. 住民税の申告だけすればよいのではありませんか?

住民税の申告だけでは所得税の申告義務は果たされません。むしろ、住民税側に記録があって所得税の申告がない状態は、データ統合後には典型的な「ずれ」として浮かび上がりやすい形です。事業所得がある場合は、所得税の確定申告を行えば、その内容が住民税や国民健康保険の計算にも連動するため、確定申告に一本化するのが基本の形になります。

7-4. Q. 過去の分のレシートが残っていません。もう無理でしょうか?

諦める必要はありません。銀行口座の入出金履歴、取引先からの支払明細、スマートフォンの決済履歴などから、売上と経費を再構築していくのが一般的な進め方です。記録が不完全な場合の経費の扱いは判断が分かれるところなので、複数年分をまとめて整理する場合は税理士に相談すると、認められうる材料の集め方から段取りを組んでもらえます。

7-5. Q. 今年からきちんと申告すれば、過去の分は不問になりますか?

今年分から申告を始めても、過去分の納税義務が自動的に消えるわけではありません。一方で、今年分から申告記録が発生することで過去との不連続は残ります。一般的には、動くと決めたタイミングで過去分も自主的な期限後申告として一緒に整理する方が、無申告加算税の軽減(調査の連絡前なら5%)を活かせるぶん、トータルの負担を抑えやすくなります。どこまで遡って申告するかは状況によるため、この点こそ専門家への相談が有効な論点です。

ご自身の売上規模で「申告するといくらかかるのか・いくら得になるのか」の目安を知りたい方は、まず簡易チェックで概算を確認するところから始めてみてください。過去の分をまとめて整理したい場合や、個別の判断が必要な場合は、税理士などの専門家への相談が近道です。

本記事の税額・保険料・加算税に関する記述は、一般的な制度の解説および特定の前提を置いたモデルケースの概算であり、個別の税務判断・申告要否の判断ではありません。実際の取り扱いは状況により異なるため、正確な判断は税理士にご相談ください。

監修: (編集長)

発行元: ATO株式会社

最終更新: