この記事の要点
- シリーズB資金調達は10-50億円規模の大型調達で、製品市場適合性が確立したスタートアップが次なる成長ステップを目指すために行う重要な資金調達である。
- VCとの交渉から資金調達までのプロセスや事業計画書作成のポイント、バリュエーションの考え方など、実務的な観点から必要な準備と実行方法を詳説している。
- 調達後の資金活用による事業拡大や組織強化の方法、ブリッジファイナンスやファクタリングなどの補完的な資金調達手法まで、成長戦略を包括的に解説している。

1. シリーズB資金調達の概要
1-1. シリーズB資金調達の定義と特徴
シリーズB資金調達は、スタートアップ企業が事業拡大フェーズにおいて実施する大規模な資金調達ラウンドとして位置付けられています。この段階の企業は、製品やサービスの市場適合性を確認し、持続的な収益モデルを確立している状態にあることが一般的とされています。
シリーズB資金調達の規模は、通常10億円から50億円程度となっています。この資金は、事業の本格的な拡大や、組織体制の強化、さらなる製品開発などに充当されることが想定されています。
主要な投資家はベンチャーキャピタル(VC)や事業会社のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)となり、シード期やシリーズA期と比較して、より専門的かつ厳格な審査が行われることが特徴的です。
投資家は企業の成長性や収益モデルの実現可能性を重視し、詳細なデューデリジェンスを実施いたします。そのため、企業側には綿密な事業計画の策定と、その実現に向けた具体的な施策の立案が求められています。
1-2. スタートアップ成長におけるシリーズBの重要性
シリーズB資金調達は、スタートアップ企業の成長曲線において重要な転換点となります。この段階で調達する資金は、事業の急速な拡大を実現し、業界内での競争優位性を確立するために不可欠な要素となっています。
事業拡大のためには、優秀な人材の採用や組織体制の整備、製品・サービスの品質向上、マーケティング活動の強化など、多岐にわたる投資が必要となります。シリーズB資金調達は、これらの投資を可能にする重要な資金源となっています。
シリーズB資金調達の成功は、企業の将来的な成長可能性を市場が評価したことを意味します。そのため、次のラウンドの資金調達や、最終的なIPOに向けた重要なマイルストーンとしても位置付けられています。
市場での競争優位性を確立し、持続的な成長を実現するためには、この段階での資金調達を戦略的に活用することが重要です。企業価値の向上と、次のステージに向けた基盤構築を同時に進めていく必要があります。
2. シリーズB資金調達の規模と適切なタイミング
2-1. 一般的な調達金額の規模
シリーズB資金調達における調達金額は、企業の成長段階や業界特性によって大きく異なる傾向が見られます。一般的な調達規模は10億円から50億円程度とされており、テクノロジー企業やバイオテクノロジー企業においては、より大規模な調達が行われることも珍しくありません。
調達金額の決定には、事業計画の実現性や市場の成長性、競合状況など、多岐にわたる要因が考慮されます。特に、シリーズAからの成長率や事業の拡大スピードが高い企業においては、より大規模な資金調達が可能となることが多く見られます。
グローバル展開を視野に入れている企業や、大規模な設備投資が必要な事業領域においては、100億円を超える調達も実施されています。調達規模は、企業の成長戦略と密接に関連しており、次のステージに向けた準備資金としての性格も有しています。
2-2. シリーズB資金調達に適した企業の成長段階
シリーズB資金調達を検討する企業には、一定の成長段階に達していることが求められます。具体的には、製品・サービスの市場適合性(Product Market Fit:PMF)が確立され、持続的な収益モデルが構築されていることが重要な要件となっています。
収益面においては、継続的な成長トラクションを示していることが必要です。顧客数や売上高の持続的な増加、市場シェアの拡大など、具体的な成長指標の改善が投資家から求められます。
組織面においては、経営管理体制が整備され、大規模な事業拡大に対応できる状態にあることが重要です。人材の採用・育成体制や、業務プロセスの標準化など、組織としての基盤が構築されている必要があります。
さらに、次の成長フェーズに向けた明確なビジョンと具体的な実行計画が策定されていることも重要な要素となります。グローバル展開や新規事業開発など、さらなる成長に向けた戦略が明確に示されていることが求められます。
これらの要件を満たすタイミングでシリーズB資金調達を実施することで、調達の成功確率を高め、調達後の成長を加速することが可能となります。企業は自社の成長段階を客観的に評価し、最適なタイミングを見極めることが重要です。
3. シリーズB資金調達のプロセスと準備
3-1. ベンチャーキャピタル(VC)との交渉ステップ
シリーズB資金調達における交渉プロセスは、通常数ヶ月から半年程度の期間を要する重要な取り組みとなります。このプロセスは、詳細な事業計画書と財務予測の作成から始まり、潜在的な投資家リストの作成とアプローチ戦略の立案が初期段階で実施されます。
投資家との初期コンタクトでは、ピッチデッキや事業概要の提示が行われ、関心を示した投資家との初回ミーティングが設定されます。この段階では、事業の本質的な価値と成長可能性を簡潔かつ説得力のある形で伝えることが重要となります。
デューデリジェンスの段階では、企業の財務状況、法務状況、技術力などが詳細に調査されます。投資家からの追加質問や資料提出要請に迅速かつ適切に対応することが、信頼関係構築の鍵となります。
投資条件の交渉では、株式の評価額、投資額、株式の種類など、具体的な条件についての協議が行われます。この段階では、法務専門家のサポートを受けながら、将来の成長に影響を与える重要な条件を慎重に検討する必要があります。
3-2. 効果的な事業計画書作成のポイント
事業計画書は投資家の信頼を獲得し、高いバリュエーションを実現するための重要なツールとなります。計画書では、事業の本質を簡潔に説明し、独自の価値提案(Unique Value Proposition)を明確に示すことが求められます。
市場分析においては、ターゲット市場の規模や成長率、競合状況を定量的なデータに基づいて詳細に分析します。TAM(Total Addressable Market)、SAM(Serviceable Available Market)、SOM(Serviceable Obtainable Market)の概念を用いた市場機会の説明が効果的です。
製品・サービスの優位性については、競合他社との比較分析を通じて、自社の強みを具体的に示す必要があります。技術的優位性や特許など、模倣困難な競争優位性を明確に説明することが重要となります。
財務計画においては、今後3-5年間の詳細な財務予測を、その根拠とともに示すことが求められます。売上高、利益、キャッシュフローの予測については、保守的かつ現実的な数値を設定し、達成可能性の高い計画を提示することが重要です。
チーム構成の説明では、経営陣の経歴や専門性を強調し、事業計画を実行するための十分な能力があることを示します。また、アドバイザーや取締役会メンバーの紹介を通じて、経営体制の強固さを示すことも効果的です。
4. シリーズB資金調達における重要考慮点
4-1. バリュエーションの考え方と交渉のコツ
企業価値評価(バリュエーション)は、シリーズB資金調達における最も重要な交渉ポイントの一つとなります。適切なバリュエーションの設定は、調達金額と株式の希薄化のバランスを取る上で極めて重要な要素となっています。
バリュエーションの算出方法には、収益倍率法、DCF法(割引キャッシュフロー法)、類似企業比較法などが一般的に用いられます。各手法には特徴があり、企業の成長段階や事業特性に応じて、適切な手法を選択する必要があります。
交渉においては、バリュエーションの根拠を明確に示し、説得力のある説明を準備することが重要です。現在の財務状況だけでなく、将来の成長ポテンシャルを定量的なデータに基づいて示すことで、より有利な条件を引き出すことが可能となります。
4-2. 投資家との関係構築と経営体制の変化
シリーズB資金調達後、企業の経営体制は大きな変化を迎えます。投資家との関係構築は、企業の持続的な成長を実現する上で極めて重要な要素となります。定期的な情報共有や透明性の高いコミュニケーションを通じて、信頼関係を構築することが求められています。
経営体制の変化としては、取締役会への投資家代表の参加や、各部門における責任者の明確化、内部統制の強化などが挙げられます。これらの変化に適切に対応し、組織としての意思決定プロセスを整備することが重要となります。
投資家の経験やネットワークは、企業の成長を加速させる重要な資産となります。投資家からのアドバイスや支援を積極的に活用し、事業拡大や新規市場開拓に活かしていくことが求められます。
経営者は、企業の成長と投資家の期待のバランスを取りながら、長期的な視点で経営判断を行う必要があります。次のラウンドの資金調達や最終的なエグジットを見据えた戦略的な経営が求められる段階といえます。
5. シリーズB後の成長戦略
5-1. 資金活用による事業拡大と組織強化
シリーズB資金調達後の成長戦略において、調達資金の効果的な活用は企業の将来を左右する重要な要素となります。事業拡大と組織強化の両面において、戦略的な投資配分を行うことが求められています。
市場シェアの拡大においては、既存市場での顧客獲得を加速させると同時に、新規市場への展開を進めることが重要となります。マーケティング投資の強化や販売チャネルの拡充を通じて、効率的な成長を実現することが必要です。
製品・サービスラインの拡充も重要な施策となります。既存製品の改良や新製品の開発を通じて、顧客ニーズに応える幅広いソリューションを提供することで、顧客基盤の拡大と収益性の向上を図ることができます。
人材面では、経験豊富な幹部人材や専門性の高い人材の採用が急務となります。評価制度や報酬制度の整備を通じて、従業員のモチベーション向上と人材定着を図ることも重要です。
5-2. 次のラウンド(シリーズCやIPO)に向けた準備
次のラウンドに向けた準備は、シリーズB調達直後から開始する必要があります。収益モデルの確立と利益率の向上を図りながら、スケーラブルな事業モデルの構築を進めることが求められています。
コーポレートガバナンスの強化は、特に重要な取り組みとなります。取締役会の独立性確保や内部統制システムの整備、財務報告体制の強化など、上場企業としての体制整備を計画的に進める必要があります。
グローバル展開の加速も重要な戦略となります。国際市場での成功事例を作り、グローバル企業としての成長ポテンシャルを示すことで、次のラウンドでのバリュエーション向上につながります。
投資家向け広報(IR)活動の準備も早期から着手すべき課題です。企業価値を適切に伝えるためのコミュニケーション能力を高め、株式市場との対話を円滑に行える体制を整えることが重要となります。
6. シリーズB資金調達の代替手段と補完的手法
6-1. ブリッジファイナンスの活用
ブリッジファイナンスは、シリーズB資金調達の前後で活用される短期的な資金調達手法として位置付けられています。通常6ヶ月から1年程度の期間で設定され、次のラウンドまでの「つなぎ」として機能する重要な役割を担っています。
この資金調達手法の特徴は、条件設定の柔軟性と迅速な実行可能性にあります。多くの場合、次のラウンドでの株式への転換オプションが付与され、企業の状況に応じた調整が可能となっています。
ブリッジファイナンスは、シリーズB準備期間中の運転資金確保や大型プロジェクトの開始資金、予期せぬ事業機会への対応など、様々な場面で活用されています。一方で、金利が比較的高くなる傾向があることや、短期間での返済が求められることなど、考慮すべき要素も存在します。
6-2. ファクタリングなどの補完的資金調達手法
ファクタリングは、企業の売掛債権を活用して迅速に資金を調達する手法として、シリーズB資金調達を補完する役割を果たしています。債権の早期現金化による資金繰りの改善や、与信管理の外部化によるリスク軽減など、多様なメリットが存在します。
ファクタリングの主な種類としては、売掛債権を完全に譲渡する買取型、債権回収が保証される保証型、また取引形態によって2社間ファクタリングと3社間ファクタリングに分類されます。企業の状況や取引先との関係性を考慮し、最適な手法を選択することが重要です。
その他の補完的資金調達手法としては、設備投資に特化したリースファイナンスや、小口の資金を多数の支援者から募るクラウドファンディング、成長企業向けの融資商品であるベンチャーデットなどが挙げられます。これらの手法を戦略的に組み合わせることで、より柔軟な資金調達が可能となります。
7. まとめ
シリーズB資金調達は、スタートアップ企業の成長における重要な転換点として位置付けられています。10億円から50億円規模の資金調達を通じて、事業の本格的な拡大と組織基盤の強化を実現する重要なステップとなっています。
この段階では、製品・サービスの市場適合性が確立され、持続的な収益モデルが構築されていることが前提となります。投資家との交渉や企業価値評価、さらには調達後の経営体制の変化など、多岐にわたる課題への対応が求められます。
調達資金の効果的な活用と次のステージに向けた準備を並行して進めることが重要です。ブリッジファイナンスやファクタリングなどの補完的手法も活用しながら、持続的な成長を実現する戦略的なアプローチが必要となります。
シリーズB資金調達の成功は、企業の長期的な成功と持続可能な成長の基盤となります。市場の動向や自社の成長段階を的確に把握し、投資家のニーズに応える事業計画を提示することで、次のステージへの飛躍を実現することが可能となるのです。

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