資金調達

シリーズAからエグジットまで:各成長段階におけるベンチャーデットの活用

2025.01.23

この記事の要点

  1. シリーズA期のスタートアップ企業が、経営権の希薄化を最小限に抑えながら成長資金を確保するための、ベンチャーデットの基本的な仕組みと活用方法について解説します。
  2. 成長ステージごとの資金調達における具体的な数値や審査基準を示しながら、RBFやファクタリングなどの新しい資金調達手法も含めた実践的な活用戦略を提供します。
  3. 事業計画の立案から実際の調達交渉まで、企業価値を最大化しながら資金調達を成功に導くための具体的なノウハウと実務上の留意点を詳しく解説します。

目次

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1. ベンチャーデットの基礎知識

1-1. ベンチャーデットとは

ベンチャーデットは、スタートアップ企業やベンチャー企業向けに特化した負債性の資金調達手法です。従来の銀行融資とは異なり、成長段階にある企業の事業性や将来性を重視した審査基準が設定されております。

一般的なベンチャーデットの特徴として、返済期間は2年から5年程度に設定され、金利は年利5%から15%の範囲で調整されることが多いとされています。担保や個人保証に依存せず、事業のキャッシュフローや成長性を重視した与信判断が行われます。

ベンチャーデットの調達額は、シリーズAステージでは5,000万円から3億円程度、シリーズB以降では10億円を超える規模での調達も可能となっています。調達した資金は、人材採用、マーケティング施策、研究開発費用など、事業拡大に必要な成長投資に活用されます。

この資金調達手法の最大の特徴は、株式の希薄化を抑制しながら大型の資金調達が実現できる点にあります。エクイティ調達と比較して、既存株主の持分比率を維持したまま事業成長に必要な資金を確保することが可能となります。

1-2. エクイティファイナンスとの違い

ベンチャーデットとエクイティファイナンスの本質的な違いは、資金提供者への返済義務の有無にあります。エクイティファイナンスでは株式を発行して資金を調達するため、原則として返済義務は発生いたしません。

エクイティファイナンスの場合、株主となった投資家に対して配当や株式価値の向上による投資リターンが期待されます。一方でベンチャーデットは、契約で定められた返済スケジュールに従って、元本と利息を返済する必要があります。

両者の調達コストを比較すると、エクイティファイナンスは株式の希薄化という形で既存株主の持分価値が低下するため、実質的なコストは企業価値の上昇に応じて変動いたします。ベンチャーデットは金利という形で明確な調達コストが設定されています。

資金調達の時期や企業の成長フェーズによって、これらの手法を使い分けることが重要となります。特にシリーズA以降のステージでは、両者を組み合わせた調達戦略を検討することで、最適な資本構成を実現することが可能となります。

1-3. 成長ステージ別の資金調達手段の選択肢

スタートアップ企業の成長ステージは、シード期、アーリー期、ミドル期、レイター期と段階的に分類されます。各ステージにおいて、企業規模や事業の成熟度に応じた最適な資金調達手段が存在いたします。

シード期においては、エンジェル投資家やアクセラレーターからのエクイティ投資が中心となります。この段階では、事業実績やキャッシュフローが限定的であるため、デット調達の選択肢は限られています。

アーリー期に入ると、VCからのシリーズA投資に加えて、ベンチャーデットの活用が可能となります。月次売上高が1,000万円を超え、安定的なキャッシュフローが見込める企業においては、新株予約権付きのベンチャーデットなど、複数の調達手段を組み合わせた戦略が有効となります。

ミドル期以降は、シリーズB・C投資に加えて、より大型のベンチャーデット調達が選択肢となります。事業規模の拡大に伴い、金融機関からの融資やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)からの投資など、調達手段の多様化が進みます。

1-4. シリーズAにおけるベンチャーデットの位置づけ

シリーズA段階のスタートアップ企業において、ベンチャーデットは戦略的な資金調達手段としての重要性を増しています。この段階では、プロダクトマーケットフィット(PMF)の確認とビジネスモデルの確立が求められます。

VCからのエクイティ投資を補完する形でベンチャーデットを活用することで、急速な事業拡大に必要な運転資金や設備投資資金を確保することが可能となります。特に、マーケティング施策の強化や優秀な人材の採用など、短期的な成長投資に対する資金需要に対応することができます。

シリーズA企業に対するベンチャーデットの審査では、単月での黒字化達成や安定的な売上成長率の実現など、事業の収益性と成長性が重視されます。月次売上高が1,000万円を超え、過去6ヶ月間の売上成長率が15%以上であることなどが、一般的な審査基準として設定されています。

資金調達における株式の希薄化を最小限に抑制しながら、成長資金を確保したいと考えるスタートアップ企業にとって、ベンチャーデットは戦略的な選択肢となっています。次のステージに向けたバリュエーションの向上を見据えた資金調達設計において、重要な役割を果たしています。

2. シリーズAステージにおけるベンチャーデットの活用

2-1. シリーズA期に適したベンチャーデットの種類

シリーズA期のスタートアップ企業に対して、複数の種類のベンチャーデットが提供されています。代表的な形態として、新株予約権付きベンチャーデット、売上連動型ベンチャーデット、転換社債型ベンチャーデットが挙げられます。

新株予約権付きベンチャーデットは、通常の負債性資金に新株予約権(ワラント)を付与する形式となります。貸付利率は年利8%から12%程度に設定され、返済期間は3年から5年が一般的です。投資家にとって、企業価値向上後の株式取得機会が付与されることから、比較的良好な条件での資金調達が可能となります。

売上連動型ベンチャーデットは、月次売上高に応じて返済額が変動する仕組みを採用しています。売上高の5%から10%程度を毎月返済に充当することが一般的で、事業成長に応じた柔軟な返済が可能となっています。キャッシュフローの変動が大きい企業にとって、有効な調達手段となっています。

転換社債型ベンチャーデットは、一定の条件下で負債から株式への転換権が付与される形式です。通常の負債よりも低い金利が設定される一方で、企業価値向上時には株式への転換を通じて投資家がリターンを得ることが可能となります。

2-2. 審査基準と必要な実績

シリーズA期のベンチャーデット審査においては、定量的指標と定性的指標の両面から総合的な評価が行われます。定量的指標として、月次売上高、売上成長率、営業利益率、手元流動性などが重視されます。

審査の前提条件として、直近6ヶ月間の月次売上高が1,000万円以上であること、前年同月比での売上成長率が15%以上であること、単月での営業黒字化が達成されていることなどが挙げられます。これらの指標は、事業の収益性と成長性を評価する上での重要な判断材料となっています。

定性的な評価項目としては、経営チームの実績と能力、事業モデルの競争優位性、市場の成長性、既存投資家の評価などが重視されます。特に、プロダクトマーケットフィットの確認状況や、顧客基盤の安定性に関する評価が重要となります。

これらの審査基準を満たすために、スタートアップ企業には詳細な事業計画の策定と、それを裏付けるデータの整備が求められます。月次での経営指標のモニタリングと、投資家への定期的な報告体制の構築も重要となってきます。

2-3. 調達金額の目安と返済条件

シリーズA期のベンチャーデット調達における調達金額は、企業の事業規模や成長ステージによって大きく異なります。一般的な調達金額の目安として、5,000万円から3億円程度の範囲で設定されることが多い状況です。

調達金額の上限は、直近12か月の売上高や、年間EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の倍率によって決定されます。売上高の場合は6か月分から12か月分程度、EBITDAの場合は3倍から5倍程度が一般的な基準として採用されています。

返済条件については、元金均等返済方式あるいはバルーン返済方式が採用されることが多く見られます。返済期間は通常3年から5年に設定され、据置期間として6か月から1年程度が付与されるケースも存在します。

金利水準は、企業の信用力や成長性、担保・保証条件などによって変動いたします。一般的な金利レンジとして、年利8%から15%程度での設定が多く見られます。新株予約権が付与される場合には、金利が低く抑えられる傾向にあります。

2-4. 新株予約権(ワラント)付与の仕組みと留意点

新株予約権付与を伴うベンチャーデットでは、負債による資金調達に加えて、将来の株式取得権が投資家に付与されます。新株予約権の発行価額は、一般的にブラック・ショールズモデルなどのオプション価値算定モデルに基づいて決定されます。

新株予約権の行使価額は、直近の株式価値を基準として設定されることが多く見られます。行使期間は通常5年から7年程度とされ、一定の条件下で行使が可能となる仕組みが採用されています。

新株予約権付与における重要な留意点として、既存株主の持分希薄化への影響があります。新株予約権の潜在的な行使を考慮した上で、適切な発行数量を設定することが求められます。一般的な発行規模として、発行済株式総数の5%から10%程度が目安とされています。

投資家にとって新株予約権は、企業価値向上後の株式取得機会として重要な投資インセンティブとなります。デット調達における金利負担を軽減する一方で、将来的な株式価値の上昇分を享受できる機会を得ることが可能となります。

3. 成長段階別のベンチャーデット活用戦略

3-1. アーリーステージでの活用ポイント

アーリーステージにおけるベンチャーデットの活用は、プロダクトマーケットフィット(PMF)の確認後、本格的な事業拡大フェーズに入る時期が最適とされています。この段階では、安定的な月次売上高の確保と、持続的な成長トレンドの確立が重要な要素となります。

資金使途としては、マーケティング施策の強化、営業体制の構築、プロダクト開発の加速など、事業拡大に直結する投資が中心となります。特に、顧客獲得コストの回収期間が短く、投資効果が測定可能な施策への資金配分が推奨されています。

アーリーステージでは、調達金額を必要最小限に抑え、実績を積み上げながら段階的に調達規模を拡大していく戦略が有効です。初回の調達額は5,000万円から1億円程度とし、事業計画の達成状況に応じて追加調達を検討する approach が一般的となっています。

3-2. ミドルステージにおける戦略的活用法

ミドルステージでは、事業モデルの確立と収益基盤の強化が進み、より大型の資金調達が可能となります。この段階における調達金額は、2億円から5億円規模が一般的とされ、複数の調達手段を組み合わせた戦略的な資金調達が可能となります。

資金使途の中心は、事業規模の拡大に伴う運転資金の確保、新規事業領域への進出、M&A機会への対応など、より戦略的な投資に移行していきます。特に、既存事業の収益性向上と新規成長機会の獲得を両立させるための資金配分が重要となります。

ミドルステージでは、金融機関やベンチャーキャピタルとの関係強化を通じて、調達条件の改善や調達手段の多様化を図ることが可能となります。事業実績の蓄積に伴い、より有利な条件での資金調達を実現することができます。

3-3. レイターステージでの資金調達最適化

レイターステージのスタートアップ企業では、事業規模の拡大と収益基盤の確立に伴い、より大規模かつ多様な資金調達が可能となります。この段階での調達金額は、5億円から20億円規模へと拡大し、資金調達手段の選択肢も大幅に広がります。

レイターステージにおける資金調達では、既存事業の収益性と成長性のバランスが重視されます。安定的なキャッシュフローの確保により、より有利な条件での調達が可能となり、金利水準は年利5%から8%程度まで低下することも一般的となっています。

資金使途は、グローバル展開や大規模なM&A、事業ポートフォリオの拡充など、より戦略的な投資へとシフトしていきます。特に、将来的なIPOを見据えた財務基盤の強化や、企業価値の向上に直結する投資案件への資金配分が重要となります。

3-4. IPOを見据えた資金調達設計

IPOを見据えた資金調達設計においては、財務の健全性と資本効率性の両立が求められます。過度な負債依存は財務リスクを高める一方で、エクイティ調達への過度な依存は株式の希薄化を招く結果となります。

IPO直前期における負債比率は、一般的に総資産の30%から50%程度が目安とされています。この水準を維持しながら、成長投資に必要な資金を確保するための最適な資本構成の実現が重要となります。

ベンチャーデットの返済スケジュールについては、IPO時期を考慮した設計が必要となります。特に、IPO後の資金調達による借換えを視野に入れた返済条件の設定や、新株予約権の行使時期の調整などが重要な検討事項となります。

企業価値評価の観点からは、収益性指標の改善と成長性の維持が重要となります。EBITDAマージンの向上や、売上高成長率の維持など、主要な財務指標の改善を通じた企業価値の向上が求められます。

4. 先進的なベンチャーデット手法

4-1. RBF(Revenue Based Finance)の特徴と活用法

Revenue Based Financeは、売上高に連動した返済方式を採用する新たな資金調達手法として注目を集めています。毎月の返済額は、売上高の一定割合(通常5%から15%)として設定され、事業の成長状況に応じた柔軟な返済が可能となります。

RBFの最大の特徴は、固定的な返済スケジュールを設定せず、事業の成長速度に応じた返済を実現できる点にあります。季節変動の大きい事業や、成長速度の予測が困難な事業モデルにおいて、特に有効な調達手段として位置付けられています。

調達金額は、月次売上高の4倍から8倍程度を目安として設定されることが一般的です。返済総額は調達金額の1.3倍から1.8倍程度となり、事業の成長速度に応じて返済期間が変動する仕組みとなっています。

4-2. ファクタリングを活用した運転資金の確保

ファクタリングは、売掛債権を活用した短期の資金調達手法として、運転資金の確保に有効な手段となっています。特に、大企業との取引実績を有するスタートアップ企業にとって、魅力的な調達手段として機能しています。

ファクタリングの形態としては、買取型と保証型、また取引形態として2社間と3社間の方式が存在します。信用力の高い取引先に対する売掛債権であれば、年率換算で5%から10%程度の手数料での資金調達が可能となります。

売掛債権の早期現金化により、安定的な運転資金の確保が実現できます。特に、支払いサイトの長い取引先との取引拡大時や、季節要因による一時的な資金需要への対応において、有効な調達手段として機能します。

4-3. ブリッジファイナンスとしての活用

ブリッジファイナンスは、次回の資金調達までの一時的な資金需要に対応するための短期的な調達手法として活用されています。特に、シリーズAからシリーズBへの移行期において、事業成長を継続するための重要な資金調達手段となっています。

調達期間は通常6か月から12か月程度とされ、次回のエクイティ調達やIPOまでの「つなぎ資金」として機能します。調達金額は、次回調達までに必要な運転資金や成長投資の規模に応じて、1億円から3億円程度の範囲で設定されることが一般的です。

金利水準は、一般的なベンチャーデットと比較して若干高めに設定されることが多く、年利12%から18%程度となるケースが見られます。一方で、調達期間が短いことから、総額としての金利負担は抑制されることとなります。

4-4. デジタルレンディングの新潮流

デジタルレンディングは、データ分析技術とAIを活用した新しい与信判断モデルに基づく融資手法として注目を集めています。従来の財務指標に加えて、事業データやトランザクションデータなど、多様なデータソースを活用した審査が特徴となっています。

審査期間の短縮化と手続きの簡素化が実現され、申込みから実行までが2週間程度で完了するケースも増えています。特に、デジタル領域のビジネスモデルを展開する企業にとって、親和性の高い調達手段として位置付けられています。

与信判断においては、MRR(月次経常収益)の推移、顧客継続率、アクティブユーザー数の成長率など、事業の健全性を示す指標が重視されます。調達金額は1,000万円から5,000万円程度が中心となり、比較的小規模な資金需要への機動的な対応が可能となっています。

この新しい融資手法の特徴として、継続的なモニタリングとスコアリングの更新により、取引実績に応じて調達条件が改善される仕組みが導入されています。事業の成長に合わせて、調達枠の拡大や金利の引き下げが実現される点が、従来の調達手法との大きな違いとなっています。

5. ベンチャーデット調達の実務

5-1. 事業計画書の作成と審査のポイント

審査における事業計画書は、企業の成長戦略と資金需要の妥当性を示す重要な書類として位置付けられています。事業計画書には、市場分析、競争優位性、成長戦略、財務計画など、包括的な内容を盛り込むことが求められます。

特に重要となる財務計画においては、月次での売上予測、原価率の推移、固定費の内訳、キャッシュフロー計画など、詳細な数値計画の策定が必要となります。プロダクト別や顧客セグメント別の売上予測など、積み上げ型の計画策定が推奨されています。

資金使途については、調達資金の具体的な配分計画と、その投資効果の定量的な説明が求められます。特に、マーケティング投資やプロダクト開発投資については、投資回収の時期や効果測定の方法を明確に示すことが重要となります。

5-2. 財務指標の改善と企業価値評価の向上

企業価値評価の向上に向けては、収益性、成長性、安定性の3つの観点からの財務指標の改善が重要となります。収益性指標としては、売上総利益率、EBITDA margin、営業利益率などの改善が求められます。

成長性の指標としては、MRR(月次経常収益)の成長率、顧客数の増加率、ARPUの上昇率などが重視されます。特に、直近6か月から12か月間における安定的な成長トレンドの確立が、評価向上のポイントとなります。

安定性の指標としては、月次での営業キャッシュフローの確保、手元流動性の維持、運転資金回転期間の適正化などが重要となります。特に、事業規模の拡大に伴う運転資金需要の増加をコントロールすることが求められます。

5-3. 既存株主・VCとの調整方法

ベンチャーデットの調達においては、既存株主やVCとの事前の合意形成が重要な要素となります。特に、既存の株主間契約や投資契約における制限条項との整合性を確認し、必要に応じて条件の調整を行うことが求められます。

新株予約権付きベンチャーデットの場合、希薄化の影響を考慮した既存株主との協議が必要となります。特に、次回の資金調達ラウンドにおけるバリュエーションへの影響や、株主構成の変化について、十分な説明と合意形成を行うことが重要です。

財務制限条項の設定においては、既存の投資契約との整合性を確保することが求められます。特に、配当制限や追加借入の制限、担保提供の制限などについて、既存のVCとの調整が必要となる場合が多く見られます。

5-4. 調達条件の交渉術

調達条件の交渉においては、市場環境や他社事例を踏まえた適切な条件設定が重要となります。金利水準、返済期間、担保・保証条件など、主要な条件について、企業の成長ステージに応じた適切な水準を設定することが求められます。

新株予約権の条件設定においては、行使価額や行使期間、行使条件などについて、既存株主の利益と投資家のインセンティブのバランスを考慮した設計が必要となります。特に、IPOを見据えた場合の行使制限や、ロックアップ期間の設定などが重要な交渉ポイントとなります。

金融機関との関係構築においては、定期的な業績報告や事業計画の共有を通じて、信頼関係の醸成を図ることが重要です。特に、業績の変動や事業環境の変化が生じた際には、早期の情報共有と対応策の協議を行うことが推奨されます。

6. 資金調達戦略の最適化

6-1. 経営権希薄化の回避と成長資金の確保

成長企業において、経営権の希薄化を最小限に抑えながら必要な成長資金を確保することは、重要な経営課題となっています。この課題に対応するため、エクイティ調達とデット調達を適切に組み合わせた資金調達戦略の構築が求められます。

経営権の希薄化を回避するための具体的な手法として、段階的な資金調達の実施が挙げられます。事業の成長フェーズに応じて必要最小限の調達を行い、実績の積み上げによってバリュエーションを向上させることで、次回調達時の希薄化を抑制することが可能となります。

デット調達においては、新株予約権の発行数量を適切にコントロールすることが重要となります。発行済株式総数の5%から10%程度を上限とする一般的な基準を参考に、既存株主の利益を考慮した設計を行うことが求められます。

6-2. 追加調達を見据えた資金調達設計

追加調達を見据えた資金調達設計においては、将来の資金需要予測と調達タイミングの最適化が重要となります。特に、事業計画の達成状況や市場環境の変化に応じて、柔軟な追加調達が可能な設計とすることが求められます。

資金調達の設計においては、段階的な調達枠の設定や、業績連動型の追加調達条項の導入など、柔軟な調達スキームの構築が有効となります。特に、事業の成長加速時に機動的な追加調達が可能となる設計は、企業価値の最大化に寄与します。

調達手段の多様化も重要な戦略となります。金融機関との取引関係の構築、ベンチャーデットの活用、ファクタリングの導入など、複数の調達手段を確保することで、事業環境の変化にも柔軟に対応することが可能となります。

6-3. 調達手段の組み合わせ戦略

資金調達手段の組み合わせ戦略においては、各調達手段の特性と企業の成長ステージを考慮した最適なポートフォリオの構築が求められます。エクイティファイナンス、ベンチャーデット、金融機関借入など、複数の調達手段を効果的に組み合わせることで、資金調達の柔軟性と安定性を確保することが可能となります。

調達手段の選択においては、資金使途や返済計画との整合性を重視する必要があります。短期の運転資金需要に対してはファクタリングやRBFの活用、中長期の成長投資に対してはベンチャーデットやエクイティ調達の活用など、目的に応じた適切な手段を選択することが重要です。

財務レバレッジのコントロールも重要な要素となります。過度な負債依存は財務リスクを高める一方で、エクイティ調達への過度な依存は株式の希薄化を招く結果となります。企業価値の最大化に向けて、適切な資本構成を維持することが求められます。

6-4. 持続可能な資金調達体制の構築

持続可能な資金調達体制の構築においては、長期的な視点での財務戦略の策定が不可欠となります。特に、事業の成長ステージに応じた調達手段の最適化と、安定的な財務基盤の確立が重要な課題となります。

資金調達体制の構築においては、定期的なモニタリングと見直しの仕組みを確立することが重要です。事業計画の進捗状況や市場環境の変化に応じて、調達戦略を柔軟に修正することで、持続的な成長を支える体制を維持することが可能となります。

金融機関やベンチャーキャピタルとの良好な関係構築も、持続可能な資金調達体制の重要な要素となります。定期的なコミュニケーションを通じて信頼関係を構築し、事業の成長に応じた調達条件の改善や調達手段の多様化を実現することが求められます。

7. まとめ

スタートアップ企業の成長において、適切な資金調達戦略の策定は極めて重要な経営課題となります。特に、シリーズA以降のステージでは、ベンチャーデットを含む多様な調達手段を効果的に活用することで、企業価値の最大化を実現することが可能となります。

資金調達戦略の成功には、事業計画の精緻な策定、財務指標の継続的な改善、そして投資家との良好な関係構築が不可欠です。これらの要素を総合的にマネジメントすることで、持続的な成長を支える強固な財務基盤を確立することができます。

企業の成長ステージに応じた最適な資金調達手段の選択と、それらの効果的な組み合わせにより、経営の自由度を確保しながら必要な成長資金を調達することが可能となります。この戦略的なアプローチこそが、スタートアップ企業の成長を加速させる重要な要素となるのです。

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