資金調達

事業承継に伴う資金調達MBOとEBOの選択ポイントを解説

2025.02.06

この記事の要点

  1. この記事でMBO/EBOの基礎知識と実務を学ぶことで、事業承継における株式買収の全体像を把握し、適切な手法選択で企業価値を最大化できます。
  2. この記事を読むことで、資金調達から税務対策まで包括的な準備手順を理解し、リスクを最小化しながら円滑な事業継承を実現する実践的なノウハウを身につけられます。
  3. この記事では、成功要因と失敗要因の分析をもとに、金融機関との交渉から契約実務まで具体的な対策を学習でき、MBO/EBO実施の成功確率を大幅に向上させることができます。

目次

ATOファクタリング

1. MBOとEBOの基礎知識

1-1. MBOとEBOの定義と違い

MBO(Management Buy-Out:経営陣による買収)は、現在の経営陣が株主から株式を取得し、経営権を確保する手法です。この方法により、経営陣は外部からの影響を受けることなく、自らの判断で経営戦略を実行できる環境を整えることが可能となります。

一方、EBO(Employee Buy-Out:従業員による買収)は、経営陣以外の従業員が株主から株式を取得して経営権を確保する手法です。従業員が中心となって買収を行うため、組織全体の経営参画意識を高める効果が期待されます。

MBOとEBOの主要な相違点は、買収の主体が経営陣であるか従業員であるかという点にあります。MBOは経営陣主導となるため意思決定の迅速化を図れる利点がある一方、多額の資金調達が必要となるケースが多く見られます。

これらの手法は、企業の所有と経営の分離を解消し、利害関係を一致させることで、より効率的な経営を実現する可能性を秘めています。また、外部からの敵対的買収への防衛策としても活用されています。

1-2. 事業承継手法としてのMBO/EBOのメリット

MBO/EBOは、事業承継における有効な選択肢として注目されています。親族内承継や第三者承継と比較した場合、社内の人材が経営権を引き継ぐため、事業の継続性が確保しやすいという特徴があります。

現場を熟知した経営陣や従業員が事業を引き継ぐことにより、取引先との既存関係の維持や従業員のモチベーション維持が比較的容易となります。企業文化や経営理念の継承という観点からも、極めて有効な手法として評価されています。

株式の集中化により意思決定の迅速化が図れる点も、MBO/EBOの重要なメリットとして挙げられます。上場企業の場合、非公開化による経営の自由度向上も期待できます。

さらに、事業に対する理解度が高い内部者による買収であるため、企業価値の適正な評価が行われやすく、売り手と買い手双方にとって公正な取引となる可能性が高まります。

1-3. 実施に必要な基本要件と準備事項

MBO/EBO実施には、買収主体となる経営陣または従業員の経営能力と資金調達力が不可欠です。経営計画の策定や財務デューデリジェンスの実施など、詳細な準備が求められます。

金融機関との関係構築も重要な準備事項となります。融資による資金調達が必要となるケースが多いため、事前の情報共有と交渉が不可欠です。

株主との合意形成も基本要件として重要です。適切な株式評価に基づく買取価格の設定や、株式譲渡に関する契約条件の調整など、専門家の支援を受けながら慎重に進める必要があります。

また、従業員や取引先への十分な説明とコミュニケーションも欠かせません。事業の継続性と雇用の安定を確保することで、関係者の理解と協力を得ることが重要です。

なお、実施時期や条件については、企業の財務状況や市場環境により大きく変動する可能性があります。詳細な検討にあたっては、公認会計士や証券会社などの専門家による最新の市場動向分析が必要です。

2. MBO/EBO実施時の資金調達計画

2-1. 必要資金の算定方法と資金調達の全体像

MBO/EBO実施時の必要資金は、株式買取資金を中心に、運転資金や設備投資資金など複数の要素から構成されています。これらの資金需要を正確に見積もることが、円滑な実施の第一歩となります。

株式買取資金は、発行済み株式数と1株あたりの買取価格に基づいて算定されます。非上場企業の場合、純資産価額方式や類似業種比準方式など、適切な株価算定方法の選択が重要になります。

必要資金の調達手段としては、金融機関からの借入れが中心となりますが、自己資金や公的支援制度の活用なども含めた総合的な資金調達計画の策定が求められます。

2-2. 株式買取資金の調達スキーム

株式買取資金の調達においては、金融機関からの融資を基本としつつ、複数の調達手段を組み合わせたスキームの構築が一般的です。買収主体の信用力や担保力に応じて、最適な調達手段の選択が必要となります。

メインバンクを中心としたシンジケートローンの組成や、政府系金融機関の活用など、案件の規模や特性に応じた調達手段の検討が重要です。民間金融機関の企業価値評価に基づく融資条件の設定も、重要なポイントとなります。

後継者個人による資金調達の場合、経営者保証や担保提供などの条件面での調整も必要となります。金融機関との綿密なコミュニケーションを通じて、実現可能な調達スキームの構築を目指す必要があります。

2-3. 運転資金の確保方法

事業継続に必要な運転資金の確保は、MBO/EBO実施後の安定経営において極めて重要です。既存の当座貸越枠や手形割引枠の維持・拡大に向けた金融機関との交渉が必要となります。

季節変動や業界特性を考慮した資金繰り計画の策定も重要です。売掛金や在庫を担保としたABL(Asset Based Lending:資産担保融資)の導入も検討できます。

運転資金の調達においては、既存取引金融機関との関係維持を基本としつつ、新規取引金融機関の開拓も視野に入れた調達先の多様化が望ましいとされています。

2-4. 設備投資資金の調達手段

MBO/EBO実施後の事業成長に向けた設備投資資金の確保も重要な課題です。設備投資計画に基づく資金需要の見積もりと、適切な調達手段の選択が求められます。

設備資金の調達においては、設備そのものを担保とした設備資金融資や、リース活用による資金負担の平準化なども有効な選択肢となります。政府系金融機関や信用保証協会の活用も検討対象となります。

中長期的な事業計画に基づく投資計画の策定と、それに応じた調達手段の選択が重要です。金融機関の理解を得やすい投資案件の選定と、適切な資金調達手段のマッチングが求められます。

3. 具体的な資金調達手法と選択のポイント

3-1. 金融機関からの融資活用のポイント

金融機関からの融資獲得においては、事業計画の実現可能性と返済能力の説明が重要な要素となります。財務状況や事業の将来性に関する詳細な分析資料の準備が必要不可欠です。

メインバンクを中心とした既存取引金融機関との関係強化が基本戦略となりますが、案件の規模に応じて新規取引金融機関の開拓も検討が必要です。融資条件の交渉においては、担保や保証の設定など、金融機関のリスク許容度を考慮した提案が求められます。

シンジケートローンの組成など、複数の金融機関による協調融資体制の構築も有効な選択肢となります。各金融機関の特性や融資方針を理解した上で、最適な融資スキームの設計が重要になってきます。

3-2. 公的支援制度の活用方法

事業承継に関連する公的支援制度の活用は、資金調達の重要な選択肢となります。日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金などの制度融資は、民間金融機関からの融資と併用することで、総合的な資金調達が可能となります。

各都道府県や市区町村が実施している地域独自の支援制度についても、積極的な情報収集と活用の検討が必要です。事業承継に関する補助金や助成金の活用も、資金負担の軽減に有効な手段となります。

公的支援制度の活用においては、申請要件の確認や必要書類の準備など、綿密な事前準備が求められます。専門家のアドバイスを受けながら、効果的な制度活用を図ることが重要です。

3-3. 信用保証制度の利用

信用保証協会の保証付き融資は、金融機関からの資金調達を円滑化する重要なツールとなります。事業承継特別保証制度など、承継に特化した保証メニューの活用を検討することが有効です。

保証付き融資の活用においては、経営者保証に関するガイドラインへの対応など、保証条件の調整も重要なポイントとなります。金融機関と信用保証協会の連携による融資スキームの構築が求められます。

3-4. 民間金融機関のMBO/EBO支援融資

民間金融機関各社は、MBO/EBO向けの独自の融資商品を提供しています。融資条件や審査基準は金融機関によって異なるため、複数の金融機関との交渉を通じて最適な条件を模索することが重要です。

MBO/EBO支援融資においては、株式買取資金に加えて、運転資金や設備資金など複合的な資金需要への対応が求められます。長期的な事業関係を見据えた融資条件の設定や、柔軟な返済条件の設定なども重要な検討事項となります。

4. 実務における重要ポイント

4-1. 株式評価と買取価格の算定方法

株式評価においては、純資産価額方式、類似業種比準価額方式、収益還元方式など、複数の評価方法の中から適切な手法を選択する必要があります。企業の規模や業態、財務状況などを総合的に勘案した評価方法の選定が重要となります。

非上場企業の株式評価では、財務指標に加えて、知的財産権やブランド価値などの無形資産の評価も重要な要素となります。将来の事業計画や成長性なども考慮した適切な評価が求められます。

買取価格の設定においては、既存株主との合意形成が重要です。税務上の適正価額と実際の取引価額の整合性確保も、重要な検討事項となります。

評価方法の選択は、企業の特性や買収の目的により異なります。複数の評価方法を併用し、総合的な判断を行うことが一般的です。

なお、株式評価額は評価時点の企業価値や市場環境により大きく変動する可能性があります。評価に際しては、公認会計士や不動産鑑定士などの専門家による客観的な評価を受けることを強く推奨いたします。

4-2. デューデリジェンスの実施と留意点

デューデリジェンスでは、財務・税務・法務など多角的な観点からの調査が必要です。特に財務デューデリジェンスでは、資産・負債の実態把握や収益力の分析が重要となります。

法務デューデリジェンスにおいては、契約関係や許認可の確認、知的財産権の状況など、法的リスクの洗い出しが必要です。人事労務面での調査も、円滑な事業承継のために重要な要素となります。

調査結果は、買収価格の算定や契約条件の設定に反映させる必要があります。専門家との連携による効率的な調査の実施が求められます。

4-3. 各種契約書の作成と注意事項

株式譲渡契約書をはじめとする各種契約書の作成においては、法的な正確性と実務上の実行可能性の両立が求められます。表明保証条項や補償条項など、重要条項の設計には特に慎重な検討が必要です。

金融機関との融資契約においては、財務制限条項や期限の利益喪失事由など、契約条件の詳細な検討が重要です。保証や担保に関する契約条件についても、慎重な交渉が必要となります。

4-4. 税務上の検討事項

株式の取得に伴う譲渡所得税や、承継後の相続税・贈与税など、税務上の影響を総合的に検討する必要があります。適用可能な税制優遇措置の活用も重要な検討事項となります。

事業承継税制の適用要件や手続きについては、税理士などの専門家との連携による慎重な検討が必要です。将来的な税負担も考慮した長期的な視点での税務計画の策定が求められます。

税制の詳細な内容や優遇措置の適用条件については、時期により変更される可能性があります。最新の税制情報については、国税庁の公式発表や税理士による個別相談を通じて確認することが重要です。

5. 円滑な実施のための実務手順

5-1. 事前準備から実行までのタイムライン

MBO/EBO実施のタイムラインは、通常6ヶ月から1年程度の期間を要します。初期段階では、基本スキームの検討や関係者との協議が中心となります。実現可能性の検討から始まり、具体的な実行計画の策定へと進んでいきます。

中盤では、株式評価やデューデリジェンスの実施、金融機関との交渉など、具体的な準備作業が本格化します。この段階での綿密な準備が、円滑な実施の鍵となります。

最終段階では、株式譲渡契約の締結や融資契約の締結など、法的手続きの完了を目指します。クロージング後の経営体制の移行も重要な検討事項となります。

5-2. 必要書類と申請手続きの詳細

必要書類は株式譲渡関連、融資関連、税務関連の各種書類に大別され、事業計画書や財務諸表などの基本的な企業情報資料も含まれます。事業計画書では、将来の収益予測や投資計画など、経営戦略の詳細な説明が求められます。

融資申請においては、金融機関ごとの審査基準に応じた資料の作成が必要です。キャッシュフロー計算書や返済計画書なども重要な提出書類となります。

公的支援制度の活用時には、制度ごとの申請要件に基づく書類の準備が必要です。申請手続きには一定の時間を要するため、早期の準備開始が重要となります。

各書類の作成にあたっては、最新の法令や制度に基づく内容とする必要があります。また、金融機関や関係機関の要求に応じて、追加資料の提出が求められる場合もあります。

申請書類の記載内容や要求される詳細度は、金融機関や制度により異なる場合があります。申請前に各機関の最新の要件を確認することが重要です。

5-3. 金融機関との交渉プロセス

金融機関との交渉は、構想段階からの早期の情報共有が重要です。事業計画の実現可能性や返済計画の確実性について、具体的な数値に基づく説明が求められます。

複数の金融機関との交渉においては、幹事行の選定や役割分担の明確化が必要です。融資条件の調整や担保・保証の設定など、具体的な条件面での交渉も重要なプロセスとなります。

5-4. 株式譲渡手続きの実務

株式譲渡手続きでは、株主総会決議や取締役会決議など、会社法上必要な手続きの履行が求められます。株式名義書換や株券の発行・回収など、実務的な手続きの正確な実施も重要です。

特殊株式や種類株式が存在する場合は、それらの取扱いについても慎重な検討が必要です。株主名簿の整理や証券代行機関との連携など、細部にわたる実務対応が求められます。

6. リスク管理と対策

6-1. 財務面のリスク対策

財務リスク管理においては、キャッシュフローの予測と管理が最重要課題となります。特に、借入金の返済原資を確実に確保するための収益管理体制の構築が不可欠です。

資金繰り管理では、月次および週次での予算と実績の比較分析を徹底的に実施する必要があります。季節変動要因、取引条件の変更、市場環境の変化など、キャッシュフローに影響を与える要因を早期に把握し、適切な対応策を講じることが求められます。

財務指標のモニタリングシステムの構築は、MBO/EBO実施後の経営において極めて重要な要素です。借入契約における財務制限条項への抵触を防ぐため、定期的な財務状況の確認と必要に応じた予防的措置の実施が必要となります。

売上高営業利益率、自己資本比率、負債比率などの主要な財務指標については、業界の特性と企業規模を考慮した適正水準の設定が重要です。これらの指標の適正範囲は、業界によって大きく異なるため、同業他社の財務データや業界平均値を参考に設定することを推奨いたします。

なお、設定された管理指標については、定期的な見直しと調整が必要です。事業環境の変化、金融情勢の変動、事業計画の進捗状況に応じて、適切に指標を見直し、現実的かつ効果的な管理体制を維持することが求められます。

具体的な管理指標の適正水準については、金融機関や公認会計士との協議のもとで決定することが重要です。個別の企業状況に応じた最適な指標設定により、リスク管理の実効性を確保できます。

6-2. 法務面のリスク対策

法務リスクへの対応としては、重要契約の管理体制の整備が必要です。取引先との契約関係や許認可の管理など、法的要件の遵守状況を定期的に確認する体制の構築が求められます。

コンプライアンス体制の強化も重要な課題となります。関連法令の改正動向の把握や、社内規程の整備など、法令遵守の徹底に向けた取り組みが必要です。

6-3. 返済計画の策定と資金繰り管理

返済計画の策定においては、事業計画との整合性確保が重要です。月次での返済予定額と実際のキャッシュフローの推移を照らし合わせ、必要に応じて計画の見直しを行う必要があります。

資金繰り管理では、運転資金の確保と返済原資の積立を両立させる必要があります。予期せぬ資金需要への対応として、一定の手元流動性の確保も重要な課題となります。

6-4. 金融機関への報告体制の構築

金融機関への定期報告においては、財務状況や事業の進捗状況など、必要な情報を適時適切に提供する体制の構築が求められます。月次での試算表の提出や、四半期ごとの事業報告など、報告内容と頻度の調整が必要です。

重要事項の発生時における臨時報告の基準設定も重要です。金融機関との信頼関係維持のため、透明性の高い報告体制の確立が求められます。

7. 実施における法令関連の注意事項

7-1. 会社法上の手続きと要件

MBO/EBO実施においては、会社法上の各種手続きの遵守が必要です。株式譲渡契約の締結や株主総会決議など、法定の手続きを適切に履行する必要があります。

特に、支配株主の変更を伴う場合、株主総会での特別決議や取締役会での承認決議が必要となる場合があります。これらの手続きについては、企業の定款規定や株式の種類により要件が異なります。

また、会社法に基づく株式買取請求権の対応についても検討が必要です。反対株主による株式買取請求権の行使可能性を含め、事前に対応策を検討しておくことが重要です。

法的手続きの詳細については、企業の現状や実施する手法により大きく異なります。実施前に弁護士による詳細な法務デューデリジェンスとアドバイスを受けることを強く推奨いたします。

7-2. 税制上の影響と対策

MBO/EBO実施に伴う税制上の影響については、売主と買主双方に複数の税目が関係します。株式譲渡所得税、法人税、消費税など、様々な税目への対応が必要です。

事業承継税制の適用要件についても、最新の法令に基づく確認が必要です。経営承継円滑化法に基づく特例措置の活用可能性についても、事前の検討が重要となります。

組織再編税制の適用についても、実施スキームにより影響が異なります。適格要件の充足状況や税務上のリスクについて、事前の十分な検討が求められます。

税務上の取扱いについては、改正税法の影響や個別の取引内容により判断が異なります。実施にあたっては、税理士による最新の税制に基づく詳細な検討が必要不可欠です。

具体的な税制上の影響については、実施スキームや企業の状況により大きく変動する可能性があります。正確な税務上の判断については、国税庁の公式見解や税理士による個別相談を通じて確認することが重要です。

8. 実施後の経営管理

8-1. ガバナンス体制の構築

MBO/EBO実施後は、新たな所有構造に適合したガバナンス体制の構築が必要不可欠です。取締役会や監査役の選任、業務執行体制の整備など、企業規模と業態に応じた適切な機関設計を行う必要があります。

株主構成の変化に伴い、株主総会の運営方法や意思決定プロセスについても見直しが求められます。新しい株主体制のもとで効率的な意思決定を実現するため、社内規程や運営ルールの整備も重要な要素となります。

内部統制システムについても、新たな経営体制に対応した見直しと強化が必要です。特に、リスク管理体制やコンプライアンス体制の整備は、ステークホルダーからの信頼維持において重要な役割を果たします。

少数株主が存在する場合は、その権利保護の観点から適切な情報開示体制の構築も重要です。透明性の高い経営情報の提供により、株主間の信頼関係を維持することが求められます。

8-2. 従業員との関係維持

MBO/EBO実施後の円滑な事業運営においては、従業員との良好な関係維持が極めて重要です。雇用条件の継続性、人事制度の運用、職場環境の維持などについて、適切な説明と合意形成を図る必要があります。

従業員のモチベーション維持のため、将来の企業価値向上への参画機会の提供や、業績連動型報酬制度の導入なども検討対象となります。人材の定着と組織力の向上に向けた施策の実施が重要です。

労働組合が組織されている企業では、組合との継続的な協議と合意形成が不可欠です。労働条件の変更や組織改編に関する事項については、労働関係法令に基づく適切な手続きの実施が求められます。

従業員に対する情報提供においては、企業の将来性や雇用の安定性について、具体的で信頼性の高い説明を行うことが重要です。不安要素の解消と積極的な経営参画を促すコミュニケーションが求められます。

9. 成功要因と失敗要因の分析

9-1. 成功につながる要因

MBO/EBOの成功を左右する主要因として、適正な株式評価に基づく合理的な買収価格の設定が挙げられます。過度に高い買収価格は将来の経営を圧迫し、低すぎる価格は既存株主の合意を困難にします。

確実な資金調達の実現も成功の前提条件です。株式買取資金だけでなく、実施後の事業運営に必要な運転資金や投資資金についても、包括的な資金計画を策定する必要があります。

経営陣の能力と実行力は、実施後の企業成長を決定する重要な要素です。明確なビジョンの設定、実現可能な事業計画の策定、ステークホルダーとの良好な関係構築などが求められます。

関係者間の利害調整と合意形成も成功の鍵となります。株主、従業員、取引先、金融機関など、各ステークホルダーの理解と協力を得ることで、円滑な実施と継続的な成長を実現できます。

9-2. 失敗リスクと回避策

資金調達計画の不備は、最も深刻な失敗要因の一つです。楽観的すぎる収益予測や返済計画は、実施後の経営を大きく圧迫するリスクをもたらします。保守的かつ現実的な計画策定が重要です。

株主間の利害対立やコミュニケーション不足も重大なリスク要因となります。特に、株式評価や買取条件に関する認識の相違は、実施プロセスにおける深刻な対立を招く可能性があります。

従業員や取引先の理解不足による関係悪化も避けるべきリスクです。十分な事前説明と継続的なコミュニケーションにより、関係者の不安解消と協力確保を図ることが必要です。

外部環境の変化に対する対応準備不足も失敗要因となりえます。市場環境の悪化や業界構造の変化に対応できる柔軟な戦略と実行体制の構築が求められます。

10. 今後の展望と課題

10-1. MBO/EBO市場の動向

近年、事業承継の手段としてMBO/EBOへの注目が高まっています。高齢化社会の進展に伴う経営者の世代交代需要が、この傾向を後押ししています。

金融機関においても、MBO/EBO支援を重要なビジネス領域として位置づける動きが見られます。専門的な支援体制の充実や独自の融資商品開発が進んでいます。

ただし、市場規模や実施件数の具体的なデータについては、一般社団法人日本経済団体連合会や公益財団法人日本生産性本部などの業界団体による最新の調査データを確認する必要があります。

10-2. 制度面での今後の変化

事業承継税制については、定期的な制度改正が行われています。税制優遇措置の拡充や適用要件の見直しなど、制度活用の利便性向上が図られています。

金融庁による金融機関の融資姿勢の変化も、MBO/EBO実施環境に影響を与えています。事業性評価に基づく融資の推進により、より柔軟な資金調達が可能となりつつあります。

しかし、制度の詳細や運用状況については、時期により変更される可能性があります。実施検討時には、必ず最新の制度内容を金融庁や国税庁の公式情報で確認することが重要です。

11. よくある質問(Q&A)

11-1. Q1. MBO/EBOの実施にはどの程度の期間が必要ですか?

MBO/EBOの実施期間は、通常6ヶ月から1年程度を要します。初期の検討段階から株式譲渡の完了まで、複数のフェーズを経て進行するためです。

具体的には、基本構想の策定に1-2ヶ月、デューデリジェンスや資金調達交渉に3-4ヶ月、最終的な契約締結とクロージングに2-3ヶ月程度が必要となります。企業規模や取引の複雑性により、この期間は変動する可能性があります。

11-2. Q2. 必要な自己資金の目安はどの程度でしょうか?

自己資金の目安は、買収価格の20-30%程度とされることが一般的です。ただし、企業の信用力や担保の状況により、この比率は大きく変動します。

金融機関により融資条件は異なるため、複数の金融機関との事前相談を通じて、実現可能な自己資金比率を検討することが重要です。また、経営陣や従業員による資金拠出の方法についても、事前に十分な検討が必要となります。

自己資金比率については、業界特性や案件規模、担保の有無などにより大きく変動する可能性があります。具体的な資金調達条件については、金融機関との個別協議を通じて決定されることになります。

11-3. Q3. 上場企業のMBOと非上場企業のMBOでは何が違いますか?

上場企業のMBOでは、証券取引所での株式上場廃止手続きが必要となります。また、TOB(株式公開買付け)の実施が必要となる場合があります。

非上場企業の場合、株式の譲渡制限や株主間契約の内容が重要な要素となります。株式評価の方法についても、上場企業は市場価格を基準とする一方、非上場企業では複数の評価方法を組み合わせた適正価額の算定が必要です。

11-4. Q4. 従業員の雇用は保障されるのでしょうか?

MBO/EBOの目的の一つは事業継続性の確保であるため、一般的に既存従業員の雇用維持が前提となります。むしろ、従業員の積極的な経営参画により、雇用の安定性が向上する可能性があります。

ただし、買収実施後の事業効率化や組織改編により、一部の業務内容や配置転換が発生する可能性はあります。事前に従業員との十分なコミュニケーションを取り、変更内容について丁寧に説明することが重要です。

11-5. Q5. 実施後の配当政策はどのように決まりますか?

MBO/EBO実施後の配当政策は、新たな株主構成と事業計画に基づいて決定されます。借入金の返済財源確保のため、実施直後は内部留保を重視した政策となる場合が多く見られます。

事業が安定し、十分なキャッシュフローが確保できるようになれば、株主への還元強化も検討対象となります。事前に株主間で配当政策に関する基本方針を合意しておくことが重要です。

11-6. Q6. 税務上の優遇措置を活用することは可能ですか?

事業承継税制をはじめとする各種優遇措置の活用が可能な場合があります。特に、中小企業の事業承継については、経営承継円滑化法に基づく特例措置の対象となる可能性があります。

ただし、適用要件は厳格に定められており、実施方法により適用可否が決まります。事前に税理士による詳細な検討を受け、最適なスキームを選択することが重要です。

11-7. Q7. 金融機関からの融資が受けられない場合の対処法はありますか?

融資が困難な場合、まず事業計画の見直しや買収価格の再検討を行うことが有効です。また、公的支援制度の活用や信用保証協会の保証付き融資の検討も選択肢となります。

複数の金融機関への相談や、政府系金融機関との協議により、解決策を見出せる場合もあります。必要に応じて、外部投資家からの出資受け入れなど、代替的なスキームの検討も必要となる場合があります。

11-8. Q8. 実施後の業績が低迷した場合のリスクはありますか?

業績低迷時の主要なリスクとして、借入金の返済負担増大があります。金融機関との融資条件(財務制限条項など)への抵触により、追加担保の提供や金利上昇などの影響が生じる可能性があります。

このようなリスクを回避するため、保守的な業績予測に基づく返済計画の策定や、景気変動に対応できる柔軟な資金繰り体制の構築が重要です。また、金融機関との定期的なコミュニケーションにより、早期の状況共有と対策検討を行うことが必要です。

業績低迷時の対応については、事前に策定したコンティンジェンシープランに基づく迅速な対応が求められます。金融機関との関係悪化を防ぐため、透明性の高い情報開示と建設的な協議が不可欠です。

12. まとめ

MBO/EBOは、事業承継における有効な選択肢として、多くの企業で検討されています。適MBO(Management Buy-Out)とEBO(Employee Buy-Out)は、事業承継における重要な選択肢として注目が高まっている手法です。これらは既存の経営陣または従業員が企業の株式を取得し、経営権を確保する手法であり、事業の継続性確保と円滑な承継を実現する有効な手段となっています。

MBO/EBOの実施には十分な準備期間(通常6ヶ月から1年)と綿密な計画が必要不可欠です。特に、適切な株式評価に基づく買収価格の設定、確実な資金調達戦略の構築、そして関係者間の利害調整と合意形成が成功の鍵となります。

資金調達面では、金融機関からの融資を中心としつつ、公的支援制度や信用保証制度の活用を含めた包括的なアプローチが重要です。自己資金比率は一般的に買収価格の20-30%程度が目安とされていますが、企業の信用力や担保状況により変動します。

実務上の重要ポイントとしては、デューデリジェンスの徹底実施、適切な契約書の作成、税務面での十分な検討が挙げられます。また、実施後においては、新たな所有構造に適合したガバナンス体制の構築と、継続的なリスク管理体制の整備が不可欠となります。

成功要因として、現実的な事業計画と返済計画の策定、ステークホルダーとの良好な関係維持、そして十分な自己資金比率の確保が重要であり、これらの要素を適切に管理することで、円滑な実施と持続的な成長を実現できます。

今後、高齢化社会の進展に伴う経営者の世代交代需要の高まりにより、MBO/EBOの重要性はさらに増すことが予想されます。制度面での改善や金融機関による支援体制の充実により、より多くの企業にとって実現可能な選択肢となることが期待されています。

MBO/EBOは企業の特性や状況により最適な実施方法が異なるため、実施検討の際は公認会計士、税理士、弁護士などの専門家による包括的な支援を受けることが強く推奨されます。

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