資金調達

事業承継に伴う資金調達:MBOとEBOの実務と選択のポイント

2025.02.06

この記事の要点

  1. 事業承継におけるMBOとEBOの違いを理解し、それぞれの手法に必要な資金調達の方法や実務上の留意点を詳しく解説しています。
  2. 金融機関からの融資や公的支援制度の活用方法、株式評価から契約書作成まで、実務担当者が必要とする具体的な手順とポイントを説明しています。
  3. 資金調達計画の策定から実行後のリスク管理まで、事業承継を成功に導くための実践的なノウハウと対策を網羅的に提供しています。
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1. MBOとEBOの基礎知識

1-1. MBOとEBOの定義と違い

経営者による企業買収(MBO: Management Buy-Out)は、現在の経営陣が株主から株式を取得し、経営権を確保する手法になります。この手法は、経営陣が自らの判断で経営戦略を実行できる環境を整えることが可能となります。

一方、従業員による企業買収(EBO: Employee Buy-Out)は、従業員が株主から株式を取得して経営権を確保する手法です。経営陣以外の従業員が中心となって買収を行うため、従業員の経営参画意識を高める効果が期待できます。

MBOとEBOの主な違いは、買収の主体が経営陣か従業員かという点にあります。MBOは経営陣主導で意思決定が迅速に行える反面、多額の資金調達が必要となるケースが多くなっています。

1-2. 事業承継手法としてのMBO/EBOのメリット

MBO/EBOは、事業承継における有効な選択肢として注目されています。親族内承継や第三者承継と比較して、社内の人材が経営権を引き継ぐため、事業の継続性が保たれやすいという特徴があります。

現場を熟知した経営陣や従業員が事業を引き継ぐことで、取引先との関係維持や従業員のモチベーション維持が比較的容易になります。企業文化や経営理念の継承という観点からも、有効な手法として評価されています。

株式の集中化により意思決定の迅速化が図れる点も、MBO/EBOの重要なメリットとして挙げられます。上場企業の場合、非公開化による経営の自由度向上も期待できます。

1-3. 実施に必要な基本要件と準備事項

MBO/EBO実施には、買収主体となる経営陣または従業員の経営能力と資金調達力が不可欠です。経営計画の策定や財務デューデリジェンスの実施など、綿密な準備が求められます。

金融機関との関係構築も重要な準備事項となります。融資による資金調達が必要となるケースが多いため、事前の情報共有や交渉が必要不可欠となっています。

株主との合意形成も基本要件として重要です。適切な株式評価に基づく買取価格の設定や、株式譲渡に関する契約条件の調整など、専門家の支援を受けながら慎重に進める必要があります。

2. MBO/EBO実施時の資金調達計画

2-1. 必要資金の算定方法と資金調達の全体像

MBO/EBO実施時の必要資金は、株式買取資金を中心に、運転資金や設備投資資金など複数の要素から構成されています。これらの資金需要を正確に見積もることが、円滑な実施の第一歩となります。

株式買取資金は、発行済み株式数と1株あたりの買取価格に基づいて算定されます。非上場企業の場合、純資産価額方式や類似業種比準方式など、適切な株価算定方法の選択が重要になります。

必要資金の調達手段としては、金融機関からの借入れが中心となりますが、自己資金や公的支援制度の活用なども含めた総合的な資金調達計画の策定が求められます。

2-2. 株式買取資金の調達スキーム

株式買取資金の調達においては、金融機関からの融資を基本としつつ、複数の調達手段を組み合わせたスキームの構築が一般的です。買収主体の信用力や担保力に応じて、最適な調達手段の選択が必要となります。

メインバンクを中心としたシンジケートローンの組成や、政府系金融機関の活用など、案件の規模や特性に応じた調達手段の検討が重要です。民間金融機関の企業価値評価に基づく融資条件の設定も、重要なポイントとなります。

後継者個人による資金調達の場合、経営者保証や担保提供などの条件面での調整も必要となります。金融機関との綿密なコミュニケーションを通じて、実現可能な調達スキームの構築を目指す必要があります。

2-3. 運転資金の確保方法

事業継続に必要な運転資金の確保は、MBO/EBO実施後の安定経営において極めて重要です。既存の当座貸越枠や手形割引枠の維持・拡大に向けた金融機関との交渉が必要となります。

季節変動や業界特性を考慮した資金繰り計画の策定も重要です。必要に応じて、売掛金や在庫などの資産を活用したABLの導入も検討対象となります。

運転資金の調達においては、既存取引金融機関との関係維持を基本としつつ、新規取引金融機関の開拓も視野に入れた調達先の多様化が望ましいとされています。

2-4. 設備投資資金の調達手段

MBO/EBO実施後の事業成長に向けた設備投資資金の確保も重要な課題です。設備投資計画に基づく資金需要の見積もりと、適切な調達手段の選択が求められます。

設備資金の調達においては、設備そのものを担保とした設備資金融資や、リース活用による資金負担の平準化なども有効な選択肢となります。政府系金融機関や信用保証協会の活用も検討対象となります。

中長期的な事業計画に基づく投資計画の策定と、それに応じた調達手段の選択が重要です。金融機関の理解を得やすい投資案件の選定と、適切な資金調達手段のマッチングが求められます。

3. 具体的な資金調達手法と選択のポイント

3-1. 金融機関からの融資活用のポイント

金融機関からの融資獲得においては、事業計画の実現可能性と返済能力の説明が重要な要素となります。財務状況や事業の将来性に関する詳細な分析資料の準備が必要不可欠です。

メインバンクを中心とした既存取引金融機関との関係強化が基本戦略となりますが、案件の規模に応じて新規取引金融機関の開拓も検討が必要です。融資条件の交渉においては、担保や保証の設定など、金融機関のリスク許容度を考慮した提案が求められます。

シンジケートローンの組成など、複数の金融機関による協調融資体制の構築も有効な選択肢となります。各金融機関の特性や融資方針を理解した上で、最適な融資スキームの設計が重要になってきます。

3-2. 公的支援制度の活用方法

事業承継に関連する公的支援制度の活用は、資金調達の重要な選択肢となります。日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金などの制度融資は、民間金融機関からの融資と併用することで、総合的な資金調達が可能となります。

各都道府県や市区町村が実施している地域独自の支援制度についても、積極的な情報収集と活用の検討が必要です。事業承継に関する補助金や助成金の活用も、資金負担の軽減に有効な手段となります。

公的支援制度の活用においては、申請要件の確認や必要書類の準備など、綿密な事前準備が求められます。専門家のアドバイスを受けながら、効果的な制度活用を図ることが重要です。

3-3. 信用保証制度の利用

信用保証協会の保証付き融資は、金融機関からの資金調達を円滑化する重要なツールとなります。事業承継特別保証制度など、承継に特化した保証メニューの活用を検討することが有効です。

保証付き融資の活用においては、経営者保証に関するガイドラインへの対応など、保証条件の調整も重要なポイントとなります。金融機関と信用保証協会の連携による融資スキームの構築が求められます。

3-4. 民間金融機関のMBO/EBO支援融資

民間金融機関各社は、MBO/EBO向けの独自の融資商品を提供しています。融資条件や審査基準は金融機関によって異なるため、複数の金融機関との交渉を通じて最適な条件を模索することが重要です。

MBO/EBO支援融資においては、株式買取資金に加えて、運転資金や設備資金など複合的な資金需要への対応が求められます。長期的な事業関係を見据えた融資条件の設定や、柔軟な返済条件の設定なども重要な検討事項となります。

4. 実務における重要ポイント

4-1. 株式評価と買取価格の算定方法

株式評価においては、純資産価額方式、類似業種比準方式、収益還元方式など、複数の評価方法の中から適切な手法を選択する必要があります。企業の規模や業態、財務状況などを総合的に勘案した評価方法の選定が重要となります。

非上場企業の株式評価では、財務指標に加えて、知的財産権やブランド価値などの無形資産の評価も重要な要素となります。将来の事業計画や成長性なども考慮した適切な評価が求められます。

買取価格の設定においては、既存株主との合意形成が重要です。税務上の適正価額と実際の取引価額の整合性確保も、重要な検討事項となります。

4-2. デューデリジェンスの実施と留意点

デューデリジェンスでは、財務・税務・法務など多角的な観点からの調査が必要です。特に財務デューデリジェンスでは、資産・負債の実態把握や収益力の分析が重要となります。

法務デューデリジェンスにおいては、契約関係や許認可の確認、知的財産権の状況など、法的リスクの洗い出しが必要です。人事労務面での調査も、円滑な事業承継のために重要な要素となります。

調査結果は、買収価格の算定や契約条件の設定に反映させる必要があります。専門家との連携による効率的な調査の実施が求められます。

4-3. 各種契約書の作成と注意事項

株式譲渡契約書をはじめとする各種契約書の作成においては、法的な正確性と実務上の実行可能性の両立が求められます。表明保証条項や補償条項など、重要条項の設計には特に慎重な検討が必要です。

金融機関との融資契約においては、財務制限条項や期限の利益喪失事由など、契約条件の詳細な検討が重要です。保証や担保に関する契約条件についても、慎重な交渉が必要となります。

4-4. 税務上の検討事項

株式の取得に伴う譲渡所得税や、承継後の相続税・贈与税など、税務上の影響を総合的に検討する必要があります。適用可能な税制優遇措置の活用も重要な検討事項となります。

事業承継税制の適用要件や手続きについては、税理士などの専門家との連携による慎重な検討が必要です。将来的な税負担も考慮した長期的な視点での税務計画の策定が求められます。

5. 円滑な実施のための実務手順

5-1. 事前準備から実行までのタイムライン

MBO/EBO実施のタイムラインは、通常6ヶ月から1年程度の期間を要します。初期段階では、基本スキームの検討や関係者との協議が中心となります。実現可能性の検討から始まり、具体的な実行計画の策定へと進んでいきます。

中盤では、株式評価やデューデリジェンスの実施、金融機関との交渉など、具体的な準備作業が本格化します。この段階での綿密な準備が、円滑な実施の鍵となります。

最終段階では、株式譲渡契約の締結や融資契約の締結など、法的手続きの完了を目指します。クロージング後の経営体制の移行も重要な検討事項となります。

5-2. 必要書類と申請手続きの詳細

必要書類は大きく分けて、株式譲渡関連書類、融資関連書類、税務関連書類の3種類となります。事業計画書や財務諸表など、基本的な企業情報に関する書類の準備も必要不可欠です。

融資申請においては、金融機関ごとの審査基準に応じた資料の作成が求められます。公的支援制度の活用時には、制度ごとの申請要件に基づく書類の準備も必要となります。

5-3. 金融機関との交渉プロセス

金融機関との交渉は、構想段階からの早期の情報共有が重要です。事業計画の実現可能性や返済計画の確実性について、具体的な数値に基づく説明が求められます。

複数の金融機関との交渉においては、幹事行の選定や役割分担の明確化が必要です。融資条件の調整や担保・保証の設定など、具体的な条件面での交渉も重要なプロセスとなります。

5-4. 株式譲渡手続きの実務

株式譲渡手続きでは、株主総会決議や取締役会決議など、会社法上必要な手続きの履行が求められます。株式名義書換や株券の発行・回収など、実務的な手続きの正確な実施も重要です。

特殊株式や種類株式が存在する場合は、それらの取扱いについても慎重な検討が必要です。株主名簿の整理や証券代行機関との連携など、細部にわたる実務対応が求められます。

6. リスク管理と対策

6-1. 財務面のリスク対策

財務リスク管理においては、キャッシュフローの予測と管理が最重要課題となります。特に、返済原資の確保に向けた収益管理体制の構築が必要不可欠です。

資金繰り管理においては、月次・週次での予実管理の徹底が求められます。季節変動要因や取引条件の変更など、キャッシュフローに影響を与える要因の把握と対応策の準備が重要となります。

財務指標のモニタリングシステムの構築も重要です。融資契約における財務制限条項への抵触を防ぐため、定期的な財務状況の確認と必要に応じた対策の実施が求められます。

6-2. 法務面のリスク対策

法務リスクへの対応としては、重要契約の管理体制の整備が必要です。取引先との契約関係や許認可の管理など、法的要件の遵守状況を定期的に確認する体制の構築が求められます。

コンプライアンス体制の強化も重要な課題となります。関連法令の改正動向の把握や、社内規程の整備など、法令遵守の徹底に向けた取り組みが必要です。

6-3. 返済計画の策定と資金繰り管理

返済計画の策定においては、事業計画との整合性確保が重要です。月次での返済予定額と実際のキャッシュフローの推移を照らし合わせ、必要に応じて計画の見直しを行う必要があります。

資金繰り管理では、運転資金の確保と返済原資の積立を両立させる必要があります。予期せぬ資金需要への対応として、一定の手元流動性の確保も重要な課題となります。

6-4. 金融機関への報告体制の構築

金融機関への定期報告においては、財務状況や事業の進捗状況など、必要な情報を適時適切に提供する体制の構築が求められます。月次での試算表の提出や、四半期ごとの事業報告など、報告内容と頻度の調整が必要です。

重要事項の発生時における臨時報告の基準設定も重要です。金融機関との信頼関係維持のため、透明性の高い報告体制の確立が求められます。

7. まとめ

MBO/EBOによる事業承継は、企業の持続的成長を実現する有効な手段となります。資金調達から実務手続き、リスク管理まで、様々な観点からの準備と対応が必要です。

専門家との連携による適切なアドバイスの取得と、関係者との綿密なコミュニケーションを通じて、円滑な実施を目指すことが重要となります。金融機関をはじめとする支援体制の構築も、成功への重要な要素となります。

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