この記事の要点
- 請求書カード払いの仕組みとメリット・デメリットを正確に理解することで、適切な資金繰り判断ができるようになります。
- ファクタリングとの違いを把握することで、状況に応じて最適な資金調達手段を選択できるようになります。
- サービス選択のポイントを理解することで、手数料負担を抑えながら効果的に資金繰りを改善できるようになります。

1. 請求書カード払いとは何か
1-1. 請求書カード払いの基本的な仕組み
請求書カード払いとは、取引先からの請求書をクレジットカードで支払えるようにする支払代行サービスです。 通常の請求書払いでは銀行振込が必要ですが、このサービスを利用することで、クレジットカード決済による支払いが可能になります。
具体的な利用の流れは以下の通りです。 まず、利用者が請求書カード払いサービス会社に請求書の情報を登録し、クレジットカードで決済を行います。 次に、サービス会社が利用者名義で取引先の指定口座に振込を実行します。 最後に、利用者はクレジットカード会社の引き落とし日に、請求金額と手数料を支払う仕組みとなっています。
このサービスの最大の特徴は、取引先には従来通りの銀行振込として処理されるため、サービス利用の事実を知られることがない点です。 取引先側では何も変更する必要がなく、支払側だけの判断で利用できます。 事業者間取引(BtoB取引)において、売り手企業と買い手企業の間に立つ第三者サービスとして機能します。
1-2. 従来の請求書払いとの違い
従来の請求書払いと請求書カード払いには、決済タイミングと支払延長の可否において重要な違いがあります。
従来の請求書払いでは、銀行の営業時間内での振込が必要で、支払期日の延長は基本的にできません。 月末締めの翌月末払いといった取引条件が設定されている場合、その期日を遵守する必要があります。 支払期日に遅れた場合は、取引先との信頼関係に影響を与える可能性があります。
一方、請求書カード払いでは、24時間いつでも決済手続きが可能で、実際の支払いをクレジットカードの引き落とし日まで先延ばしできます。 この期間は利用するカードの支払スケジュールによって決まり、最大で60日程度の延長が可能となります。 取引先への支払いは期日通りに実行されるため、信頼関係を維持しながら資金繰りの調整ができます。
また、コスト面でも違いがあります。 従来の請求書払いでは銀行振込手数料のみ負担すれば済みますが、請求書カード払いでは支払金額の3.0パーセントから4.0パーセント程度の手数料が発生します。
2. 請求書カード払いの5つのメリット
2-1. 支払期日を最大60日先延ばしできる
請求書カード払いの最大のメリットは、支払期日を延長できることです。 通常の請求書払いでは指定期日までに支払いを完了する必要がありますが、請求書カード払いを利用すれば、クレジットカードの引き落とし日まで実際の支払いを先延ばしできます。
延長できる期間は利用するクレジットカードの締日と支払日によって決まります。 例えば、15日締めの翌月10日払いのカードを利用した場合、請求書の支払期日から最大約50日間の延長が可能となります。 この期間を活用することで、売上の入金を待ってから支払いを行うといった資金繰りの調整ができます。
特に季節変動の大きい事業や、売上の入金サイクルが長い建設業や製造業にとって、この支払延長機能は資金繰り改善の重要な手段となります。 急な支払いが重なった場合でも、時間的な余裕を確保できるため、慌てて高金利の借入を行う必要がなくなります。 運転資金の効率的な活用により、事業の継続性と成長性を同時に確保できます。
2-2. 審査不要で即日利用可能
請求書カード払いは、銀行融資のような厳格な審査が不要で、手続きが非常に簡単です。 基本的にはクレジットカードを保有していれば、法人・個人事業主を問わず誰でも利用できます。 財務諸表の提出や保証人の設定といった複雑な手続きは一切必要ありません。
サービスの利用開始までの手続きは、多くの場合、オンラインで完結します。 必要な情報は会社情報、振込先情報、請求書の内容程度で、複雑な書類提出や財務資料の準備は不要です。 登録から利用開始まで、最短で当日中に完了することも可能です。
また、取引先への振込も迅速に行われます。 サービス会社によって異なりますが、カード決済完了後、最短で翌営業日から5営業日以内に振込が実行されます。 急な支払いが必要な場合でも、迅速に対応できる点は大きなメリットです。 従来の銀行融資では審査に数週間から数ヶ月要する場合もあるため、スピード面での優位性は顕著です。
2-3. 手数料が他の資金調達手段より安い
請求書カード払いの手数料は、支払金額の3.0パーセントから4.0パーセント程度に設定されており、他の資金調達手段と比較して低コストで利用できます。
例えば、ファクタリングの手数料は2社間取引で5.0パーセントから20.0パーセント、オンライン完結型でも10.0パーセント前後が相場となっています。 ビジネスローンの金利は年率5.0パーセントから15.0パーセント程度で設定されることが多く、短期利用であっても相応のコストが発生します。 手形割引でも年率2.5パーセントから15.0パーセントの手数料が一般的です。
これらと比較すると、請求書カード払いの手数料は非常にリーズナブルです。 さらに、ポイント還元率の高いクレジットカードを利用すれば、実質的な手数料負担をさらに軽減できます。 還元率1.0パーセントのカードを使用した場合、実質的な手数料は2.0パーセントから3.0パーセント程度まで抑えられます。
2-4. 取引先に知られずに利用できる
請求書カード払いサービスでは、取引先への振込は利用者の名義で行われるため、サービス利用の事実を取引先に知られる心配がありません。
取引先から見れば、従来通りの銀行振込による支払いと何も変わりません。 振込名義、金額、タイミングはすべて通常の支払いと同様に処理されます。 そのため、資金繰りに困っているという印象を取引先に与えることなく、サービスを利用できます。
この点は、取引先との信頼関係を維持しながら資金繰りを改善したい事業者にとって重要なメリットです。 特に長期的な取引関係を重視するBtoB事業において、財務状況に関する懸念を与えずに済む点は大きな価値があります。 取引条件の見直しや支払条件の変更交渉を行うことなく、一時的な資金繰りの課題を解決できます。
2-5. クレジットカードのポイントが貯まる
請求書カード払いを利用することで、通常のクレジットカード利用と同様にポイントやマイルが貯まります。 事業経費の支払いでポイントを獲得できるため、実質的なコスト削減効果があります。
例えば、月に100万円の請求書をカード払いで処理し、1.0パーセントのポイント還元を受けた場合、年間で12万円相当のポイントを獲得できます。 これらのポイントは商品との交換やマイルへの移行、キャッシュバックなど、様々な形で活用できます。
また、法人カードの中には、ビジネス利用に特化した特典やサービスが付帯しているものもあります。 請求書カード払いと併用することで、これらの特典も享受できるため、総合的なメリットは手数料を上回る場合もあります。 経費管理の効率化と同時に、実質的なコスト削減効果を得られる点は、特に中小企業や個人事業主にとって魅力的です。
3. 請求書カード払いの3つのデメリット
3-1. 手数料負担が発生する
請求書カード払いの最大のデメリットは、手数料負担です。 支払金額の3.0パーセントから4.0パーセントの手数料が発生するため、従来の銀行振込手数料と比較すると、コスト負担が大幅に増加します。
例えば、100万円の請求書をカード払いで処理した場合、3.0パーセントの手数料であれば3万円のコストが発生します。 銀行振込手数料が数百円程度であることを考えると、かなりの負担増となります。 月に500万円の支払いがある事業者の場合、年間で180万円の手数料負担となる計算です。
また、サービスによっては手数料に消費税が課される場合があります。 手数料率が同じ3.0パーセントでも、消費税が課されるサービスでは実質3.3パーセントの負担となるため、事前に確認が必要です。 少額の利用では最低手数料が設定されている場合もあり、コストパフォーマンスが悪化する可能性があります。
3-2. クレジットカードの利用限度額に制約される
請求書カード払いで利用できる金額は、保有するクレジットカードの利用限度額によって制約されます。 高額な支払いが必要な場合、カードの限度額が不足して利用できない可能性があります。
個人事業主や小規模企業の場合、クレジットカードの利用限度額は数十万円から数百万円程度に設定されることが多く、大きな設備投資や仕入れには対応できない場合があります。 法人カードでも、設立間もない会社や信用力が低い場合は、十分な利用限度額が設定されないことがあります。
利用限度額の増額は可能ですが、カード会社の審査が必要で、時間がかかる場合があります。 また、利用実績や財務状況によっては増額が認められない可能性もあるため、高額な支払いが予想される場合は事前の準備が重要です。 複数のカードを組み合わせて利用することで限度額の制約を緩和できる場合もありますが、管理の複雑化というデメリットも生じます。
3-3. 根本的な資金繰り改善にはならない
請求書カード払いは支払いを先延ばしする手段であり、根本的な資金繰りの改善にはなりません。 延長期間が終了すれば、結局は支払いを行う必要があるため、一時的な解決策に過ぎません。
慢性的な資金不足に陥っている事業の場合、請求書カード払いを利用しても問題の根本解決には至りません。 むしろ、手数料負担が増加することで、財務状況がさらに悪化する可能性もあります。 売上の増加や経費削減など、本質的な経営改善策と併用することが重要です。
また、請求書カード払いに依存し過ぎると、通常の資金繰り管理能力が低下するリスクがあります。 支払延長に慣れてしまい、適切な資金計画を立てなくなる可能性があるため、あくまで緊急時の手段として位置づけることが重要です。 継続的な利用により手数料負担が累積し、年間では相当な金額になることも考慮する必要があります。
4. ファクタリングとの違いとどちらを選ぶべきか
4-1. 請求書カード払いとファクタリングの比較
請求書カード払いとファクタリングは、どちらも資金繰り改善を目的としたサービスですが、基本的な仕組みと目的が大きく異なります。
請求書カード払いは買掛金(支払債務)の支払いを先延ばしする債務延長サービスです。 一方、ファクタリングは売掛金(売掛債権)を早期に現金化する債権譲渡サービスです。 請求書カード払いでは一時的に負債が増加しますが、ファクタリングでは資産の売却により現金を獲得するため、負債は増加しません。
手数料面では、請求書カード払いが3.0パーセントから4.0パーセント程度であるのに対し、ファクタリングは5.0パーセントから20.0パーセント程度と高く設定されています。 審査についても、請求書カード払いは基本的に不要ですが、ファクタリングでは売掛先の信用力を中心とした審査が行われます。
利用可能な金額については、請求書カード払いがクレジットカードの限度額に制約される一方、ファクタリングは売掛金の額面金額まで利用可能です。 また、請求書カード払いの延長期間は最大60日程度ですが、ファクタリングでは売掛金の支払期日に関係なく即日から数日で現金化できます。
4-2. 状況別の使い分け方法
請求書カード払いとファクタリングの選択は、事業の状況と資金需要の性質によって決めるべきです。
短期的な資金繰りの調整が目的で、手数料を抑えたい場合は請求書カード払いが適しています。 特に、売上の入金が近い将来に見込める場合や、季節変動による一時的な資金不足の場合には、請求書カード払いの方がコスト効率が良くなります。 支払期日が近づいているものの、数週間後には売掛金の入金が予定されている状況では、請求書カード払いが最適です。
一方、まとまった現金が早急に必要で、クレジットカードの限度額では不足する場合はファクタリングが適しています。 また、継続的な資金不足に悩んでいる場合や、事業拡大のための投資資金が必要な場合も、ファクタリングの方が有効です。 売掛金の回収期間が長期にわたる場合も、ファクタリングによる早期現金化が効果的です。
両サービスを組み合わせて利用することも可能です。 例えば、まず請求書カード払いで小額の支払いを延長し、大型の支払いについてはファクタリングで売掛金を現金化して対応するといった使い分けができます。 この方法により、手数料負担を最小限に抑えながら、必要な資金を確保できます。
5. 請求書カード払いサービスの選び方のポイント
5-1. 手数料と支払延長期間の確認
請求書カード払いサービスを選ぶ際は、手数料率と支払延長期間の確認が最も重要です。 手数料は各社で異なり、2.7パーセントから4.0パーセント程度の幅があります。
手数料を比較する際は、税込み料金で確認することが重要です。 表示されている手数料率に消費税が含まれていない場合、実際の負担は表示より10.0パーセント程度高くなります。 また、最低手数料の設定も確認が必要です。 少額利用の場合、手数料率よりも最低手数料の方が高くなる可能性があります。
支払延長期間については、30日から60日程度の範囲で設定されており、利用するクレジットカードの種類によって変動します。 自社で利用予定のカードでどの程度の延長が可能かを事前に確認しておくことが重要です。 VISA、Mastercard、JCB、American Expressなど、ブランドによって対応状況が異なる場合もあります。
サービスによっては、延長期間を120日程度まで設定できる場合もありますが、この場合は分割払いとなり、途中での支払いが必要になることが多いため、利用条件を詳しく確認する必要があります。
5-2. 運営会社の信頼性と振込スピード
サービスの継続性と安全性を確保するため、運営会社の信頼性確認は重要な選択基準です。 上場企業や大手金融機関が運営または出資しているサービスは、安定性の面で優位性があります。
運営実績も重要な判断材料です。 サービス開始からの期間、累計利用実績、利用企業数などの情報を確認し、市場での実績と評価を把握することが重要です。 また、他にどのような事業を展開しているかも、会社の安定性を判断する材料となります。
振込スピードは資金繰りの緊急度によって重要性が変わります。 即日振込に対応しているサービスもあれば、3営業日から5営業日程度必要なサービスもあります。 急な支払いが必要な場合は、振込スピードを重視してサービスを選択する必要があります。
カスタマーサポートの充実度も確認すべき点です。 電話やメール、チャットでの問い合わせ対応があるか、営業時間はどの程度かなど、トラブル時の対応体制を確認しておくことで、安心してサービスを利用できます。 特に初回利用時は不明点が多いため、サポート体制の充実は重要な要素となります。
6. よくある質問
6-1. 個人事業主でも利用できますか?
多くの請求書カード払いサービスは個人事業主も利用可能です。 ただし、一部のサービスでは法人のみを対象としている場合があるため、申込前に利用条件を確認することが重要です。 個人事業主の場合でも、事業用のクレジットカードを保有していれば、基本的に法人と同様の条件で利用できます。 開業届の提出や確定申告書の提出実績があれば、多くのサービスで問題なく利用可能です。
6-2. 取引先にバレることはありませんか?
請求書カード払いサービスでは、取引先への振込は利用者の名義で行われるため、サービス利用の事実が取引先に知られることはありません。 振込名義、金額、振込日も通常の支払いと同様に処理されるため、取引先側では何も変化を感じることがありません。 銀行の明細書を確認されても、通常の企業間取引として記録されるため、第三者サービスの利用は判明しません。
6-3. 毎月利用しても問題ありませんか?
技術的には毎月の利用は可能ですが、手数料負担が累積するため、財務面での影響を慎重に検討する必要があります。 毎月3.0パーセントの手数料を支払うと年間で36.0パーセントの負担となり、事業の収益を大幅に圧迫する可能性があります。 継続的な利用は緊急時に留め、根本的な資金繰り改善策を検討することが重要です。 売上拡大や経費削減など、本質的な経営改善と併用することをお勧めします。
6-4. アメックスカードは利用できますか?
多くの請求書カード払いサービスでは、VISA、Mastercard、JCBの3ブランドに対応していますが、American Expressには対応していない場合が多くなっています。 ただし、一部のサービスでは特定の発行会社のAmerican Expressカードに限定して対応している場合があるため、利用前に対応カードブランドを確認することが必要です。 American Expressをメインで利用している場合は、対応サービスを事前に調査することが重要です。
7. まとめ
請求書カード払いは、支払期日を最大60日間先延ばしできる便利な資金繰り改善手段です。 審査不要で即日利用でき、手数料も他の資金調達手段と比較してリーズナブルに設定されています。 また、取引先に知られることなく利用でき、クレジットカードのポイントも獲得できるという多くのメリットがあります。
一方で、手数料負担の発生、クレジットカードの利用限度額による制約、根本的な資金繰り改善にならないといったデメリットも存在します。 これらの特徴を理解した上で、ファクタリングなど他の資金調達手段との比較検討を行い、自社の状況に最適な方法を選択することが重要です。
請求書カード払いは一時的な資金繰りの調整には非常に有効な手段ですが、継続的な利用には注意が必要です。 あくまで緊急時の手段として位置づけ、長期的な経営改善策と組み合わせて活用することで、健全な事業運営を維持できます。
