資金調達

企業成長の資金調達方法デットファイナンスのメリットデメリット

2024.11.13

この記事の要点

  1. デットファイナンスは経営権維持や節税効果などのメリットがある一方、返済義務や財務健全性への影響などのデメリットも存在する。
  2. 企業の成長段階に応じて、スタートアップ期は政府系融資やクラウドファンディング、成長期は銀行融資やベンチャーデット、成熟期はシンジケートローンや社債発行など、適切な手法を選択することが重要。
  3. リスク管理のために返済計画の策定・見直しとキャッシュフロー管理が不可欠であり、代替手段としてファクタリングや公的融資制度の活用も検討すべき。
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1. デットファイナンスの基礎知識

1-1. デットファイナンスの定義と特徴

デットファイナンスとは、企業が借入や社債発行を通じて資金を調達する方法です。この手法の最大の特徴は、資金提供者に対して元本と利息の返済義務が生じる点にあります。

デットファイナンスには、銀行融資、社債発行、ベンチャーデット、クラウドファンディング(負債型)などの様々な形態があります。各形態によって、金利、返済期間、担保の有無などの条件が異なります。

この資金調達方法は、株式発行(エクイティファイナンス)とは異なり、所有権の希薄化を避けられるメリットがあります。一方で、返済義務があるため、計画的な資金管理が求められます。

デットファイナンスは、企業の成長段階や資金需要に応じて柔軟に活用できる点も特徴的です。スタートアップ期から成熟期まで、各フェーズに適した手法を選択することが可能となっています。

1-2. 成功のための重要ポイント

デットファイナンスを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。まず、自社の財務状況と将来の成長計画を綿密に分析することが不可欠です。

次に、適切な資金調達手段の選択が重要となります。銀行融資、社債、ベンチャーデットなど、各手法の特徴を理解し、自社の状況に最適な方法を選ぶ必要があります。

返済計画の策定も成功の鍵となります。将来のキャッシュフローを慎重に予測し、無理のない返済スケジュールを立てることが重要です。過度な借入は、財務リスクを高める可能性があるため注意が必要でしょう。

また、金融機関との良好な関係構築も重要です。定期的なコミュニケーションを通じて信頼関係を築き、将来の資金調達をより円滑にすることができます。

最後に、調達した資金の効果的な運用も成功のポイントとなります。成長投資への適切な配分、運転資金の確保、そして資金効率の向上を図ることが、企業価値の増大につながります。

2. デットファイナンスのメリット

2-1. 経営権の維持

デットファイナンスの最大のメリットの一つは、経営権の維持が可能な点にあります。株式発行による資金調達とは異なり、新たな株主が増えることがないため、既存株主の持分や議決権が希薄化されません。

この特徴は、特にスタートアップや成長期の企業にとって重要となります。創業者や経営陣が自社の方向性を保ちつつ、必要な資金を調達できるからです。

また、経営の自由度も維持されやすくなります。株主からの干渉や要求を受けにくいため、長期的な視点での経営判断が可能となります。

ただし、過度なデットファイナンスは財務リスクを高める可能性があるため、適切なバランスを保つことが重要です。経営権の維持と財務の健全性を両立させる戦略が求められます。

2-2. 節税効果

デットファイナンスによる資金調達には、節税効果というメリットがあります。借入金の利息は、税務上、損金(経費)として認められるため、課税所得を減少させる効果があるのです。

例えば、1億円を年利3%で借り入れた場合、年間300万円の支払利息が発生します。この300万円は損金として扱われ、課税所得から控除されます。法人税率を23.2%と仮定すると、約69.6万円の節税効果が得られることになります。

この効果は、特に収益性の高い成長期の企業にとって魅力的です。増加する利益に対する税負担を軽減しつつ、成長に必要な資金を確保することができます。

ただし、節税効果を過度に追求し、過剰な借入を行うことは避けるべきです。財務の健全性とのバランスを考慮しながら、適切な水準でデットファイナンスを活用することが重要となります。

2-3. 資金調達の柔軟性

デットファイナンスは、資金調達の柔軟性を高めるメリットがあります。企業の成長段階や資金需要に応じて、様々な手法を選択できるからです。

例えば、創業初期には日本政策金融公庫の新創業融資制度を利用し、成長期には民間金融機関からの融資やベンチャーデットを活用するといった段階的な戦略が可能となります。

また、運転資金の調達にはコミットメントラインを設定し、大型の設備投資には長期借入や社債発行を利用するなど、資金使途に応じた最適な調達方法を選択できます。

さらに、返済条件の交渉も可能です。据置期間の設定や、業績連動型の返済スケジュールの設定など、企業の状況に合わせた柔軟な条件設定ができる場合があります。

2-4. 信用力の向上

デットファイナンスの活用は、企業の信用力向上につながる可能性があります。金融機関からの融資実績は、企業の信頼性や成長性の証明となり得るからです。

特に、メガバンクや有力地方銀行からの融資獲得は、企業の信用力を大きく高めます。これは、取引先や他の金融機関からの評価にもポジティブな影響を与えます。

また、デットファイナンスの返済を着実に行うことで、金融機関との信頼関係が強化されます。これは将来的な資金調達をより円滑にし、有利な条件での借入につながる可能性があります。

さらに、社債発行による資金調達は、企業の知名度向上にも寄与します。特に、公募債の発行は、投資家や市場からの信頼獲得につながり、企業のブランド価値向上にも貢献するでしょう。

3. デットファイナンスのデメリット

3-1. 返済義務と利息負担

デットファイナンスの最大のデメリットは、返済義務と利息負担にあります。借入金や社債発行による資金調達では、定められた期限までに元本と利息を返済する必要があります。

この返済義務は、企業の業績に関わらず発生するため、財務上の大きな負担となる可能性があります。特に、事業が計画通りに進展しない場合、返済が経営を圧迫する要因となりかねません。

利息負担も看過できない点です。金利水準によっては、長期的に見て多額の利息支払いが発生し、企業の収益性を低下させる可能性があります。

また、返済スケジュールが固定されている場合、企業の成長機会を逃す可能性もあります。急速な事業拡大のチャンスがあっても、返済義務のために十分な投資ができないケースも考えられます。

3-2. 財務健全性への影響

デットファイナンスは、過度に利用すると財務健全性に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、負債比率の上昇は財務リスクを高める要因となります。

高い負債比率は、企業の信用力低下につながる可能性があります。これにより、将来の資金調達が困難になったり、調達コストが上昇したりする恐れがあります。

また、財務レバレッジの上昇は、業績変動に対する感応度を高めます。好況時には高い収益性が期待できる一方、不況時には急速な業績悪化のリスクが高まります。

さらに、過度なデットファイナンスは、企業の成長投資を制限する可能性もあります。返済負担が大きくなることで、研究開発や設備投資などの成長のための支出が抑制されかねません。

3-3. 担保・保証人の必要性

デットファイナンスにおいて、担保や保証人の設定を求められることが多いのも一つのデメリットです。特に、スタートアップや成長期の企業にとっては、これが大きな障壁となる可能性があります。

担保設定は、企業の資産を拘束することになります。これにより、その資産を活用した事業展開が制限される可能性があります。また、担保となる資産が不足している場合、必要な資金を調達できないリスクもあります。

経営者個人の保証を求められるケースも多く存在します。これは経営者にとって大きな心理的負担となり、積極的な経営判断を躊躇させる要因になりかねません。

さらに、担保や保証人の設定は、融資の手続きを複雑にし、資金調達のスピードを遅らせる可能性があります。急な資金需要に対応できない恐れもあるでしょう。

3-4. 資金使途の制限

デットファイナンスでは、資金の使途に制限が設けられることがあります。これは、特に銀行融資において顕著に見られるデメリットです。

例えば、運転資金としての融資は、在庫の購入や人件費の支払いには使用できても、新規事業への投資や研究開発費用には使用できないケースがあります。このような制限は、企業の柔軟な資金運用を妨げる可能性があります。

また、資金使途の変更が必要になった場合、金融機関との再交渉が必要となり、迅速な経営判断が困難になることもあります。

さらに、使途制限は金融機関による経営への介入につながる可能性もあります。特に、大型の設備投資などでは、金融機関の承認が必要となるケースもあるでしょう。

4. 企業成長段階別デットファイナンスの活用戦略

4-1. スタートアップ期の資金調達

スタートアップ期のデットファイナンス戦略は、リスクと成長のバランスを取ることが重要です。この段階では、事業の不確実性が高いため、過度な借入は避けるべきでしょう。

主な資金調達手段としては、政府系金融機関の融資制度が挙げられます。日本政策金融公庫の新創業融資制度などは、担保や保証人が不要な場合もあり、スタートアップにとって有効な選択肢となります。

クラウドファンディング(負債型)も注目すべき手法です。この方法では、事業のPRと資金調達を同時に行えるメリットがあります。

また、ベンチャーキャピタルからのコンバーティブルノートの活用も検討に値します。これは、将来の株式転換権を付与することで、現時点での株式評価を避けつつ資金調達を行う方法です。

4-2. 成長期における活用法

成長期におけるデットファイナンスの活用は、事業拡大のための重要な戦略となります。この段階では、より多様な資金調達手段が選択可能となります。

銀行融資は、成長期の主要な資金調達手段の一つです。事業の安定性が増すにつれ、融資条件も有利になる傾向があります。特に、メインバンクとの関係構築は、将来の資金調達を円滑にする上で重要となります。

ベンチャーデットの活用も効果的です。この手法は、高成長を期待できる企業向けの融資であり、通常の銀行融資よりも柔軟な条件設定が可能な場合があります。

また、売掛債権を活用したファクタリングも、運転資金の確保に有効です。成長に伴う一時的な資金需要に対応する手段として検討する価値があるでしょう。

社債発行も選択肢の一つとなります。特に、転換社債は、将来の株式転換の可能性を投資家に提供することで、比較的有利な条件での資金調達が可能となる場合があります。

4-3. 成熟期の財務戦略

成熟期のデットファイナンス戦略は、安定性と効率性のバランスを重視します。この段階では、より洗練された財務戦略が求められます。

シンジケートローンの活用は、大規模な資金調達を行う上で有効です。複数の金融機関が協調して融資を行うため、単独の銀行融資では難しい大型の資金調達が可能となります。

社債発行も重要な選択肢となります。特に、格付けの取得により、より有利な条件での起債が可能となるでしょう。公募債の発行は、企業の知名度向上にも寄与します。

また、アセットファイナンスの活用も検討に値します。不動産や設備などの資産を担保とした資金調達により、より低利での借入が可能となる場合があります。

さらに、グローバル展開を視野に入れた場合、外貨建ての資金調達も選択肢となります。為替リスクには注意が必要ですが、海外での事業展開に合わせた柔軟な資金調達が可能となります。

5. デットファイナンスのリスク管理

5-1. 返済計画の策定と見直し

デットファイナンスを活用する上で、適切な返済計画の策定とその定期的な見直しは極めて重要です。返済計画は、企業の将来キャッシュフローを考慮しつつ、無理のない形で設定する必要があります。

返済計画の立案にあたっては、まず借入条件(金利、返済期間、返済方法など)を確認します。その上で、事業計画に基づく将来の収益予測と照らし合わせ、安定的に返済可能な計画を策定します。

返済方法には、元利均等返済や元金均等返済、期日一括返済などがあります。企業の資金繰りと将来の成長計画に最適な方法を選択することが重要となります。

返済計画の見直しは、定期的に行うことが望ましいですが、特に以下のタイミングでは必ず実施すべきです。まず、事業環境の大きな変化があった場合です。市場動向の変化や競合状況の変化により、当初の事業計画との乖離が生じた際には、速やかに返済計画の見直しを検討する必要があります。

5-2. キャッシュフロー管理の重要性

デットファイナンスを活用する企業にとって、適切なキャッシュフロー管理は事業の存続と成長に直結する重要な要素となります。特に、返済義務を伴うデットファイナンスでは、継続的な資金繰りの把握が不可欠です。

まず、詳細なキャッシュフロー計画の策定が基本となります。月次、週次レベルでの入出金予測を立て、資金ショートのリスクを事前に把握し対策を講じることが重要です。

売上の回収サイクルと支払いサイクルのギャップにも注意が必要です。特に成長期の企業では、売上の急増に伴い運転資金需要が拡大するため、このギャップ管理が重要となります。

また、季節変動や大型案件の影響なども考慮に入れる必要があります。これらの要因を踏まえた上で、必要に応じて追加の資金調達や支払いタイミングの調整を行うことが求められます。

定期的なキャッシュフロー分析も重要です。実績と計画の差異を分析し、その要因を明確にすることで、より精度の高い将来予測と適切な対策立案が可能となります。

6. 代替的なデットファイナンス手法

6-1. クラウドファンディング(負債型)

クラウドファンディング(負債型)は、インターネットを通じて不特定多数の個人から資金を募る新しい形態のデットファイナンスです。この方法では、プラットフォームを通じて事業計画や資金使途を公開し、支援者から資金を募ります。

従来の金融機関を介さないため、審査基準が比較的緩やかである点が特徴です。また、資金調達と同時に事業のPRや市場調査を行えるという副次的な効果も期待できます。

一方で、目標金額に達しなければ資金調達が成立しない「All or Nothing」方式を採用しているプラットフォームも多く存在します。そのため、支援を集めるための効果的なプロモーション戦略が不可欠となります。

金利や返済条件はプロジェクトごとに設定されるため、柔軟な資金調達が可能です。ただし、資金調達の成否が公開されるため、失敗した場合の信用リスクも考慮する必要があるでしょう。

6-2. ファクタリングと売掛債権の活用

ファクタリングは、企業が保有する売掛債権を金融機関や専門業者に売却することで、資金を調達する方法です。この手法は、特に成長期の企業にとって、運転資金の確保に有効な手段となります。

ファクタリングの最大の利点は、売掛金の回収を待たずに即時に資金化できる点にあります。これにより、キャッシュフローの改善や資金繰りの安定化が図れます。また、債権管理や回収業務を外部に委託できるため、経営資源の効率的な配分にも寄与します。

一方で、ファクタリング手数料が発生するため、資金調達コストが比較的高くなる傾向があります。また、顧客との関係性に影響を与える可能性もあるため、慎重な導入判断が必要となります。

ファクタリングを活用する際は、自社の資金需要と顧客との関係性を十分に考慮し、適切な規模と頻度で利用することが重要でしょう。成長段階に応じた戦略的な活用が、企業の持続的な成長を支える鍵となります。

6-3. 公的融資制度の利用

公的融資制度は、政府や地方自治体が提供する資金調達手段であり、特にスタートアップや中小企業にとって重要な選択肢となります。これらの制度は、民間金融機関と比較して有利な条件で融資を受けられる可能性があります。

代表的な公的融資制度としては、日本政策金融公庫の各種融資制度が挙げられます。新創業融資制度や中小企業経営力強化資金など、企業の成長段階や目的に応じた多様なメニューが用意されています。

また、信用保証協会による保証制度も、デットファイナンスの一形態として重要です。この制度を利用することで、民間金融機関からの借入がより容易になる可能性があります。

地方自治体による制度融資も、地域の特性に応じた支援を受けられる点で魅力的です。地域経済の活性化を目的とした融資制度なども存在し、地域に根ざした事業展開を行う企業にとっては有効な選択肢となるでしょう。

公的融資制度の活用にあたっては、各制度の要件や手続きを十分に理解し、自社の状況に最適な制度を選択することが重要です。また、これらの制度は定期的に改定されることがあるため、最新の情報を常に確認する必要があります。

7. まとめ

デットファイナンスは、企業成長に不可欠な資金調達手法です。経営権維持や節税効果といったメリットがある一方で、返済義務や財務健全性への影響などのデメリットも存在します。

企業の成長段階に応じた適切な活用が重要です。スタートアップ期は政府系融資やクラウドファンディング、成長期は銀行融資やベンチャーデット、成熟期はシンジケートローンや社債発行など、各段階に適した手法を選択すべきでしょう。

リスク管理のためには、返済計画の策定・見直しとキャッシュフロー管理が不可欠となります。また、ファクタリングや公的融資制度など、代替的な手法の活用も検討する価値があります。デットファイナンスを戦略的に活用することで、持続的な企業成長を実現できるのです。

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