資金調達

企業の資金調達:コンバーティブルエクイティのメリット・デメリットと活用のポイント

2024.12.13

この記事の要点

  1. コンバーティブルエクイティの基本的な仕組みから実務的な導入手順まで、段階的に理解を深められる構成となっており、企業経営者や実務担当者が具体的な検討を行える内容です。
  2. 企業側と投資家側双方の視点からメリット・デメリットを詳細に分析し、実務における重要なポイントや具体的な契約設計のアプローチまで、意思決定に必要な情報を網羅しています。
  3. 成長段階に応じた活用戦略や他の資金調達手段との組み合わせ方、将来のEXITを見据えた設計など、経営戦略的な観点からの実践的なアドバイスを提供します。
ATOファクタリング

1. コンバーティブルエクイティの基本

1-1. コンバーティブルエクイティとは

コンバーティブルエクイティは、スタートアップ企業やベンチャー企業が初期段階で活用する革新的な資金調達手法として注目を集めております。この手法は、将来の株式への転換権を含む投資契約を通じて、企業の成長資金を調達する仕組みとなっています。

投資家は契約時に定められた条件に基づき、将来的に株式への転換が可能な権利を取得することができます。この権利は、一定の条件が満たされた場合や投資家の判断により行使されることになります。

米国のシリコンバレーを中心に発展してきたこの手法は、近年日本国内においても、スタートアップ企業の資金調達手段として徐々に普及が進んでいます。特に、事業の成長速度が速く、企業価値の評価が難しい初期段階の企業において、その活用価値が高いとされています。

1-2. 仕組みと特徴

コンバーティブルエクイティの基本的な仕組みは、投資時点での企業価値評価を先送りにする点にあります。従来の株式投資では、投資時点で企業価値を確定させる必要がありましたが、この手法では次回の資金調達ラウンドまでその評価を延期することが可能となっています。

投資家は通常、次回の資金調達ラウンド時に、一定のディスカウント率を適用して株式に転換する権利を得ることができます。このディスカウント率は、初期投資のリスクに対する補償として機能する重要な要素となっているのです。

株式への転換条件には、投資家保護の観点から、バリュエーションキャップと呼ばれる企業価値の上限が設定されることが一般的です。これにより、企業価値が想定以上に上昇した場合でも、投資家は一定の投資リターンを確保することが可能となります。

2. 企業側のメリットとデメリット

2-1. 企業価値評価の柔軟性

コンバーティブルエクイティの最大の特徴は、投資時点での企業価値評価を延期できる点にあります。この柔軟性により、事業の初期段階における適正な企業価値の算定という困難な課題を回避することが可能となっております。

企業価値評価の延期は、創業間もない企業にとって特に重要な意味を持ちます。事業計画の実現可能性や市場の成長性が不確実な段階において、確定的な企業価値を設定することは、企業側にとって大きなリスクとなる可能性があるためです。

将来の資金調達ラウンドまで評価を延期することで、より実態に即した企業価値での株式転換が実現可能となります。これにより、初期段階での過小評価あるいは過大評価のリスクを軽減することができるのです。

2-2. 迅速な資金調達と手続きの簡素化

コンバーティブルエクイティによる資金調達では、契約書の標準化が進んでいることにより、法務コストと時間を大幅に削減することが可能となっております。従来の株式発行と比較して、必要な社内手続きも簡素化されています。

株主総会の特別決議が必要となる株式発行と異なり、取締役会決議のみで実行可能なケースが多いことも、意思決定の迅速化に寄与しています。これにより、事業機会を逃すことなく、必要なタイミングでの資金調達が可能となるのです。

契約交渉においても、主要な条件が標準化されていることにより、効率的な合意形成が可能となっております。これは、スタートアップ企業の経営リソースを本業に集中させることができるという副次的な効果ももたらしています。

2-3. 既存株主への影響と株式希薄化

コンバーティブルエクイティでは、投資実行時点では株式が発行されないため、既存株主の持分比率に即時の影響を与えることはありません。これにより、初期の株主構成を維持したまま、成長資金の調達が可能となります。

ただし、将来的な株式転換時には希薄化が発生することを考慮しておく必要があります。特に、バリュエーションキャップを下回る企業価値で次回調達が行われた場合、想定以上の希薄化が発生する可能性があることには留意が必要です。

株式転換時の希薄化の程度は、主にディスカウント率とバリュエーションキャップの設定に依存します。これらの条件設定においては、将来の資金調達計画や既存株主の利益保護を総合的に考慮する必要があるのです。

2-4. 法務・会計面での留意点

コンバーティブルエクイティの会計処理においては、その法的性質に応じた適切な計上方法を選択する必要があります。一般的には、金融負債として計上されることが多く、この場合、貸借対照表上の負債比率に影響を与える可能性があります。

財務諸表への影響を考慮する際には、将来の株式転換に伴う資本構成の変化も重要な検討要素となります。転換権の行使により負債から資本への振替が発生することから、中長期的な財務計画においてもこの点を考慮する必要があります。

契約書作成においては、転換条件や投資家の権利内容を明確に規定することが重要となります。特に、転換価格の算定方法や転換権行使の条件については、将来の紛争を防ぐために詳細な規定が求められるのです。

3. 投資家側のメリットとデメリット

3-1. リターン獲得の機会

投資家にとってコンバーティブルエクイティの最大の魅力は、成長企業への早期段階での投資機会を得られる点にあります。株式転換時のディスカウント率の適用により、次回調達ラウンドの投資家よりも有利な条件での投資が可能となります。

バリュエーションキャップの設定により、企業価値が大幅に上昇した場合でも一定のリターンが確保されます。これは、初期投資のリスクに対する適切な報酬として機能し、投資家の利益を保護する重要な要素となっています。

将来の株式転換を前提とした投資となるため、投資期間中は議決権等の株主権利は発生しませんが、その分、投資実行時の手続きが簡素化され、迅速な投資判断が可能となります。

3-2. 株主権利の制限と保護

コンバーティブルエクイティ投資においては、株式転換前の投資家の権利は契約で定められた範囲に限定されます。一般的な株主が有する議決権や剰余金配当請求権などは、原則として株式転換後まで発生しない仕組みとなっています。

投資家保護の観点から、重要な経営判断に対する拒否権や定期的な財務情報の開示請求権などが契約に含まれることがあります。これらの権利は、投資家が適切なモニタリングを行うための最低限の保護措置として機能することになります。

満期到来時の取り扱いについても、投資家保護の観点から明確な規定が必要となります。一般的には、満期時点で最も投資家に有利な条件での株式転換が可能となるよう設計されているのです。

3-3. 投資リスクとその管理方法

コンバーティブルエクイティ投資には、スタートアップ企業特有の事業リスクに加え、株式転換に関連する固有のリスクが存在します。特に、次回の資金調達ラウンドが実現しない場合や、想定以上に時間を要する場合には、投資の回収可能性に影響を与える可能性があります。

投資リスクの管理においては、契約条件の適切な設計が重要な役割を果たします。バリュエーションキャップの設定水準や、ディスカウント率の決定に際しては、対象企業の成長性や市場環境を総合的に評価する必要があるのです。

満期到来時のシナリオについても、事前に十分な検討が必要となります。投資回収の選択肢として、株式転換以外の対応策についても契約で規定しておくことが、リスク管理の観点から推奨されます。

3-4. バリュエーションと転換条件

株式転換時の価格算定方法は、投資リターンを大きく左右する重要な要素となります。転換価格は通常、次回調達ラウンドの価格にディスカウント率を適用して決定されますが、バリュエーションキャップが設定されている場合には、そちらが優先されることになります。

転換条件の設計においては、企業の成長ステージや事業リスクを適切に反映させることが重要となります。特に、バリュエーションキャップの設定水準は、将来の企業価値上昇の可能性と、投資家へのリターンのバランスを考慮して決定する必要があります。

転換価格の算定に関する具体的な計算方法や、適格資金調達の定義については、契約書において明確に規定することが推奨されます。これにより、将来的な解釈の相違や紛争を防止することが可能となるのです。

4. 実務における重要ポイント

4-1. 契約設計の基本と重要条項

コンバーティブルエクイティの契約設計においては、転換条件や投資家の権利内容を明確に規定することが重要となります。特に、転換価格の算定方法や転換権行使の条件については、将来の紛争を防ぐために詳細な規定が必要です。

契約書には、適格資金調達の定義や満期到来時の取り扱い、投資家の各種権利など、重要な条項を漏れなく規定する必要があります。これらの条項は、投資家と企業双方の権利義務関係を明確にする役割を果たすことになります。

4-2. 企業価値算定方法の選択

企業価値算定方法の選択は、コンバーティブルエクイティの転換条件を決定する上で極めて重要な要素となります。一般的な算定方法としては、DCF法、類似会社比較法、純資産価額法などが存在しますが、スタートアップ企業の場合、将来キャッシュフローの予測が困難なケースが多く見られます。

次回の資金調達ラウンドにおいては、新規投資家との交渉を通じて企業価値が決定されることになります。この際、事業の進捗状況や市場環境の変化を適切に反映させた評価を行うことが重要となるのです。

投資家と企業の双方が納得できる算定方法を選択することで、円滑な取引の実行が可能となります。特に、バリュエーションキャップの設定水準については、将来の成長性と現在の事業ステージを総合的に勘案する必要があります。

4-3. 転換権行使時の実務対応

転換権行使時には、適切な手続きと書類の準備が必要となります。具体的には、取締役会決議による新株発行、種類株式の設計、株主名簿の更新などの実務対応が求められることになります。

株式転換に伴う定款変更や各種登記手続きについても、適時適切な対応が必要となります。特に、種類株式を発行する場合には、その権利内容を定款に明確に規定する必要があるのです。

転換後の株主としての権利行使に備えて、株主間契約の整備も重要な検討事項となります。既存株主との権利関係を明確にし、将来的な紛争を防止する観点から、慎重な契約設計が求められます。

4-4. 税務・会計処理の基本

コンバーティブルエクイティの会計処理においては、その法的性質に応じた適切な計上方法を選択する必要があります。一般的には、金融負債として計上されることが多く、この場合、貸借対照表上の負債比率に影響を与える可能性があります。

株式転換時には、適切な会計処理と税務申告が必要となります。特に、転換価格と時価との差額については、税務上の取り扱いに留意が必要となるのです。

財務諸表への影響については、監査法人や税理士などの専門家との事前相談を行うことが推奨されます。適切な会計処理と開示を行うことで、投資家や取引先からの信頼確保にもつながることになります。

5. 具体的な導入プロセス

5-1. 事前準備と検討事項

コンバーティブルエクイティの導入に際しては、綿密な事前準備と検討が不可欠となります。資金調達の目的や必要金額、調達のタイミングなど、基本的な事項について経営陣での合意形成を図る必要があります。

既存の株主構成や将来の資金調達計画との整合性についても、詳細な検討が必要となります。特に、既存株主への影響や、将来的な株式希薄化の可能性については、慎重な評価が求められるのです。

社内体制の整備も重要な準備事項となります。法務・財務担当者の配置や、外部専門家との連携体制の構築など、実務面での対応能力を確保することが必要となります。

5-2. 投資家との交渉のポイント

投資家との交渉においては、バリュエーションキャップやディスカウント率など、主要な契約条件について合意形成を図る必要があります。これらの条件は、将来の資金調達や企業価値に大きな影響を与える可能性があるため、慎重な検討が求められます。

投資家の権利内容についても、明確な合意形成が必要となります。情報開示の範囲や、経営判断への関与度合いなど、投資家と企業の関係性を規定する重要な要素について、双方が納得できる条件を設定することが重要です。

契約条件の交渉においては、業界標準的な条件を参考にしつつ、自社の状況に適した内容とすることが推奨されます。特に、将来の事業展開に制約を与える可能性のある条件については、その影響を十分に検討する必要があります。

5-3. 必要な社内手続きと書類

コンバーティブルエクイティの導入には、取締役会での決議を始めとする社内手続きが必要となります。投資契約の締結や、必要に応じた定款変更など、法的要件を満たすための対応が求められます。

契約書類の作成においては、弁護士などの専門家のサポートを受けることが推奨されます。特に、転換条件や投資家の権利内容など、重要な契約条件については、法的な観点からの精査が必要となるのです。

社内規程の整備や、情報管理体制の構築も重要な準備事項となります。投資家への定期的な報告体制や、重要事項の決定プロセスなど、実務面での対応方針を明確化することが求められます。

5-4. 既存株主への対応方法

既存株主に対しては、コンバーティブルエクイティ導入の目的や影響について、丁寧な説明と合意形成が必要となります。将来的な株式希薄化の可能性や、企業価値への影響について、具体的な数値を用いた説明を行うことが重要です。

特に創業株主や初期投資家に対しては、自社の成長戦略における本調達の位置づけを明確に説明する必要があります。資金使途や期待される事業成果について、具体的な見通しを示すことで、理解と協力を得ることが可能となります。

株主間での利害調整が必要となる場合には、株主間契約の見直しや追加契約の締結を検討することも有効です。既存株主の権利保護と新規投資の促進のバランスを図ることが、円滑な資金調達の実現につながるのです。

6. 戦略的な活用方法

6-1. 成長段階に応じた活用戦略

コンバーティブルエクイティは、企業の成長段階に応じて柔軟な活用が可能な資金調達手法となります。シード期においては、事業計画の実現可能性が不確実な段階での企業価値評価の課題を解決する手段として有効です。

アーリーステージにおいては、事業の急速な成長に対応した機動的な資金調達を可能とします。次回の本格的な資金調達ラウンドまでのつなぎ資金としての活用や、特定の事業機会に対応するための資金調達手段として機能させることができます。

成長ステージが進んだ企業においても、特定のプロジェクトファイナンスや、戦略的提携に伴う資金調達など、目的に応じた活用が可能となります。企業の発展段階に合わせた適切な活用戦略を検討することが重要です。

6-2. 他の資金調達手段との組み合わせ

コンバーティブルエクイティは、他の資金調達手段と組み合わせることで、より効果的な資金調達戦略を構築することが可能となります。従来型の株式発行や融資との併用により、調達手段の多様化と最適化を図ることができるのです。

特に、段階的な資金調達を計画する場合には、各段階での最適な調達手段の選択と組み合わせが重要となります。企業の成長フェーズや資金需要の特性に応じて、柔軟な資金調達スキームを設計することが推奨されます。

投資家層の多様化という観点からも、複数の調達手段の併用は有効な戦略となり得ます。各投資家の投資方針や期待リターンに応じた調達手段を提供することで、より幅広い投資家からの資金調達が可能となるのです。

6-3. 将来のEXITを見据えた設計

コンバーティブルエクイティの設計においては、将来的なIPOや事業売却などのEXITシナリオを考慮することが重要となります。特に、転換条件や投資家の権利内容が、将来のEXIT時の価値実現に与える影響について、慎重な検討が必要です。

EXITまでの想定期間や目標とする企業価値を踏まえ、バリュエーションキャップの設定水準を決定することが推奨されます。過度に低い水準での設定は、将来的な株式価値の希薄化を通じて、EXITでの価値実現に影響を与える可能性があるのです。

株式転換後の株主構成についても、EXITを見据えた設計が必要となります。投資家の売却制限や優先引受権など、株式流動性に関する条件については、将来のEXIT時の柔軟性を確保する観点から検討を行う必要があります。

6-4. リスク管理と対応策

コンバーティブルエクイティに関連するリスクの特定と管理は、経営上の重要課題となります。特に、株式転換時の希薄化リスクや、投資家との関係性に関するリスクについては、事前の対応策を検討することが必要です。

契約条件の設計においては、想定されるリスクシナリオに対する対応策を組み込むことが推奨されます。例えば、次回調達の遅延リスクに対しては、満期時の取り扱いに関する明確な規定を設けることで、不確実性を低減することが可能となります。

定期的なモニタリングと投資家との対話も、重要なリスク管理手法となります。事業の進捗状況や市場環境の変化について、適時適切な情報共有を行うことで、潜在的な問題の早期発見と対応が可能となるのです。

7. まとめ

コンバーティブルエクイティは、スタートアップ企業の成長を支援する革新的な資金調達手法として、その重要性を増しています。企業価値評価の柔軟性や手続きの簡素化といった特徴は、急速な成長を目指す企業にとって大きな利点となります。

一方で、契約設計や実務対応における専門的な知識と慎重な検討が必要となることも事実です。特に、将来の株式構成や企業価値への影響については、長期的な視点での評価が求められます。

本手法の効果的な活用のためには、企業の成長戦略との整合性を確保しつつ、投資家との適切な関係構築を図ることが重要となります。これらの要素を総合的に考慮した戦略的な活用により、持続的な企業価値の向上が実現可能となるのです。

ATOファクタリング

関連記事

個人事業主が法人化するメリットとデメリットを徹底解説

事業計画書で差をつける!資金調達に役立つ具体的な方法

新規開業創業後の資金調達で銀行融資以外の方法とは

起業家のための創業資金調達戦略:選択肢と活用のポイント