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ファクタリングの債権とは?確定と架空の違いを解説

2025.03.21

この記事の要点

  1. 確定債権と架空債権の法的区別により、詐欺罪などの重大なリスクを回避し、安全なファクタリング活用が実現できます。
  2. 2020年民法改正の影響を把握することで、新たに利用可能となった債権譲渡の機会を適切に活用できます。
  3. 業種別の判定基準と書類整備により、ファクタリング審査の通過率向上と迅速な資金調達を実現できます。
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1. ファクタリングにおける債権の基本概念と法的位置づけ

ファクタリングにおける債権の理解は、適切な資金調達と法的リスクの回避において極めて重要です。特に確定債権と架空債権の違いを正確に把握することで、詐欺罪などの重大な法的問題を未然に防ぐことができます。

本記事では、ファクタリングで取り扱われる債権の基本概念から、確定債権と架空債権の具体的な違い、さらに2020年民法改正が及ぼした影響まで、実務に直結する知識を体系的に解説します。読者の皆様は、法的根拠に基づいた正確な情報により、安全で効果的なファクタリング活用が可能となります。

1-1. 債権の法的定義と民法上の根拠

ファクタリングで取り扱われる債権とは、民法第466条に基づく「特定の人に対して特定の行為を請求することができる権利」を指します。この権利は、商品やサービスを提供した企業が取引先に対して代金の支払いを求める法的な請求権として位置づけられます。

債権が法的に成立するためには、債権者(売り手企業)、債務者(買い手企業)、給付内容(商品・サービスの具体的内容)の三要素が明確に特定されている必要があります。これらの要素が欠けている場合、債権としての法的効力が認められず、ファクタリングの対象とならない可能性があります。

ファクタリング会社は、民法第466条「債権は、譲り渡すことができる」という条文に基づいて債権を買い取ります。この法的根拠により、債権譲渡による資金調達は正当な商取引として位置づけられています。

1-2. ファクタリングで扱われる債権の分類と特徴

ファクタリングで取り扱われる債権は、主に確定債権、将来債権、給与債権に分類されます。確定債権は商品やサービスの提供が完了し、検収も済んでおり、金額と支払期日が確定している債権です。この種の債権は最も安全性が高く、多くのファクタリング会社で積極的に買い取られています。

将来債権は2020年の民法改正により明文化され、将来発生予定の債権も譲渡対象となりました。具体的には、継続的取引契約に基づく定期的な売上や、工事請負契約における将来の出来高部分などが該当します。

給与債権については、金融庁が「給与ファクタリングは貸金業に該当する」との見解を明確に示しており、正当なファクタリング業務とは区別されています。事業者向けファクタリングでは、原則として事業活動に基づく売掛債権のみが取り扱い対象となります。

1-3. 債権譲渡の対抗要件と法的効力

債権譲渡が第三者に対して法的効力を持つためには、対抗要件の具備が必要です。対抗要件とは、債権の譲渡を第三者に主張するための法的要件であり、債務者への通知または債務者からの承諾が基本的な要件となります。

2社間ファクタリングでは債務者への通知を行わないため、債権譲渡登記により対抗要件を具備する場合があります。債権譲渡登記は法務省が管轄する制度であり、法人が行う金銭債権の譲渡について第三者対抗要件を備えるための制度として位置づけられています。

3社間ファクタリングでは債務者への通知または承諾により対抗要件を具備します。この方法は民法の原則的な手続きであり、債権譲渡の法的安定性が最も高い方法とされています。

2. 確定債権の定義と成立要件の詳細解説

2-1. 確定債権の法的定義と成立プロセス

確定債権とは、商品の納品やサービスの提供が完了し、売掛先による検収も終了して、支払金額と支払期日が明確に確定している債権を指します。法的には、給付の履行完了、債務者による受領確認、支払条件の合意という三つの要件をすべて満たした状態の債権です。

成立プロセスにおいて重要なのは、商品やサービスに対する売掛先の受け入れが完了していることです。単なる納品だけでは不十分であり、検収という法的な受領確認手続きが完了していることが必要です。検収が未完了の場合、返品や修正の可能性があるため確定債権とはなりません。

分割納品契約の場合は、納品済み部分についてのみ確定債権が成立します。全体契約の一部として扱われる場合であっても、検収済み部分と未検収部分は明確に区別して評価されます。

2-2. 確定債権と仕掛債権の法的区別基準

仕掛債権は、受注は確定しているものの商品やサービスの提供が完了していない段階の債権です。建設業における工事請負契約の未完成部分や、システム開発における開発途中の成果物などが典型例です。仕掛債権は将来債権の一種として法的に扱われます。

確定債権と仕掛債権の判定においては、契約書の記載内容と実際の履行状況を総合的に判断します。契約上は一括納品となっていても、実際には分割検収が行われている場合、検収済み部分のみが確定債権となります。この区別は、ファクタリング会社の買取可否判断に直接影響します。

法的な観点から重要なのは、債権の確定性です。将来の履行に依存する部分がある債権は、その部分について確定債権とはなりません。履行済み部分と未履行部分の明確な区分により、それぞれ異なる法的性質を持つことになります。

2-3. 業種別確定債権判定の実務基準

建設業では、工事完成確認書や引渡証明書の取得により確定債権となります。建設業法に基づく適切な手続きが完了していることが判定の基準となります。出来高部分については、出来形検査調書などの公的書類により確定性が確認されます。

製造業では、検査合格証明書や受領書の発行が判定基準です。品質管理体系に基づく検査手続きの完了と、顧客による正式な受領確認が必要です。ISO9001などの品質マネジメントシステムに基づく検収手続きがある場合は、その手続きに従った確認が求められます。

IT業界では、システムの本稼働開始や検収書の取得が重要な判定要素となります。テスト環境での動作確認だけでは不十分であり、本稼働環境での安定稼働確認と顧客による業務運用開始の確認が必要です。

介護事業では、サービス提供完了と国保連への請求データ送信により確定債権が成立します。介護保険法に基づく適切な手続きの完了が確定性の根拠となります。

3. 架空債権の定義と重大な法的リスク

3-1. 架空債権の具体的定義と類型

架空債権とは、実際には存在しない取引や債務に基づいて作成された虚偽の債権を指します。具体的には、商品やサービスの提供が全く行われていないにもかかわらず、請求書や契約書を偽造して債権があるように装った場合が該当します。

架空債権には複数の類型があります。第一に、完全に存在しない取引を装うパターンがあります。この場合、売掛先との取引関係自体が虚偽であり、請求書や契約書がすべて偽造されています。第二に、実在する取引の金額を意図的に水増しするパターンがあります。

第三に、売掛先との共謀により偽装取引を行うケースがあります。この場合、売掛先も詐欺に加担しており、虚偽の取引を実在するように装います。調達した資金を利用者と売掛先で分け合うという悪質な手口も確認されています。

3-2. 架空債権による刑事責任と法的制裁

架空債権をファクタリングに利用した場合、刑法第246条の詐欺罪が適用されます。詐欺罪は「人を欺いて財物を交付させた者」に対する罪であり、10年以下の懲役が科されます。この犯罪には罰金刑がなく、有罪となった場合は必ず懲役刑が科されます。

被害額が500万円を超える場合、裁判実務では執行猶予が付かない実刑判決となるケースが多く報告されています。特に組織的な犯行や常習性が認められる場合は、より重い刑罰が科される傾向があります。

架空の請求書や契約書を作成した場合、私文書偽造罪(刑法第159条)も併せて適用される可能性があります。私文書偽造罪は3月以上5年以下の懲役が科されます。国や地方公共団体との架空契約については、公文書偽造罪(刑法第155条)の適用も考えられ、この場合は1年以上10年以下の懲役となります。

3-3. 民事責任と企業経営への深刻な影響

架空債権による詐欺が発覚した場合、刑事責任に加えて民事上の損害賠償責任も発生します。ファクタリング会社は、詐取された金額の全額返還に加え、弁護士費用、調査費用、機会損失などの損害についても賠償を求めることができます。

企業としては、代表者の刑事責任により事業継続が困難となるリスクがあります。実刑判決により代表者が収監された場合、企業の日常的な意思決定や対外的な取引に重大な支障が生じます。また、取引先や金融機関からの信用失墜により、既存の契約解除や新規取引の停止といった二次的被害も想定されます。

上場企業の場合、適時開示義務により代表者の逮捕や起訴を公表する必要があり、株価への深刻な影響は避けられません。金融機関からの融資についても、期限の利益喪失条項により一括返済を求められる可能性があります。

4. 確定債権と架空債権の識別方法と実務対応

4-1. 書類による真正性確認の具体的手法

確定債権の真正性確認では、請求書、納品書、検収書の三点セットが基本となります。これらの書類について、記載内容の整合性、日付の論理的な前後関係、金額の一致、取引先情報の正確性を詳細に確認します。特に重要なのは、検収書に売掛先の正式な受領印または権限者の署名があることです。

電子商取引の場合、メールでの発注確認、システム上の受注記録、電子署名による検収確認などが証憑となります。EDI取引では、取引データの送受信記録やシステムログが真正性の証明となります。これらの電子証憑については、システムの信頼性とデータの改ざん防止措置が担保されていることが前提となります。

契約書の真正性確認では、契約印の押印状況、署名の筆跡、用紙の品質、印刷の状態などを物理的に確認します。最近では、電子契約サービスを利用した契約も増加しており、この場合は電子署名の有効性やタイムスタンプの確認が重要となります。

4-2. 売掛先への確認手続きと調査方法

ファクタリング会社による売掛先への直接確認は、架空債権の発見において最も有効な手段です。電話による取引内容の確認では、売掛先の担当者が取引内容を正確に把握していること、請求内容に異議がないこと、支払予定に変更がないことを詳細に確認します。

書面での債権存在証明書の取得では、売掛先の経理責任者または管理部門からの正式な確認書面を求めます。この書面には、取引の事実、債権の金額、支払予定日、特別な条件の有無などが明記されている必要があります。

大口取引や疑義のある取引については、売掛先への訪問調査を実施する場合があります。訪問調査では、取引の実態確認、商品やサービスの納品状況の確認、関係書類の原本確認などを行います。

4-3. 取引履歴による整合性検証と異常検知

過去の取引履歴との整合性確認により、架空債権を発見できる場合があります。通常の取引パターンから大きく逸脱した金額、頻度、取引先については、特に慎重な確認が必要です。季節変動や事業拡大による取引増加については、合理的な説明と裏付け資料の提出を求めます。

銀行の入出金記録、会計帳簿、税務申告書類との照合により、申告された売上と実際の取引実績の整合性を検証します。売掛金回転率や売上債権回転期間などの財務指標の分析により、異常な変動を検出することも可能です。

取引先との継続的な取引関係の確認も重要です。新規取引先との突然の大口取引や、休眠状態であった取引先との急激な取引再開などは、慎重な調査が必要な案件として扱われます。

5. 2020年民法改正の影響と実務運用の変化

5-1. 債権譲渡禁止特約の法的取扱い変更

2020年4月1日施行の改正民法により、債権譲渡禁止特約が付されている債権であっても、原則として譲渡が有効となりました。改正前民法第466条第2項では「反対の意思表示」により債権譲渡が制限されていましたが、改正後は特約があっても債権譲渡は成立することが明文化されています。

この改正により、これまでファクタリング対象外であった多くの債権が取り扱い可能となりました。特に、大企業との取引契約には債権譲渡禁止特約が付されることが多かったため、中小企業の資金調達手段として大きな進歩となっています。

ただし、債務者は譲受人であるファクタリング会社への直接支払いを拒否する権利を有します(民法第466条第3項)。この場合、債務者は従来どおり譲渡人への支払いにより債務を消滅させることができるため、実務上は2社間ファクタリングの形態で処理されることが一般的です。

5-2. 将来債権譲渡の明文化と活用範囲拡大

改正民法第466条の6により、将来債権の譲渡が明文化されました。第1項では「債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない」と規定し、第2項では「債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する」と定めています。

この改正により、注文書ファクタリングや継続的取引契約に基づく将来債権の譲渡が法的に安定しました。建設業における工事請負契約の将来出来高部分や、システム開発における分割納品契約の未納品部分なども、一定の条件下で譲渡対象となっています。

将来債権の活用では、債権発生の確実性と特定性が重要な要件となります。単なる期待債権ではなく、契約に基づく具体的な債権である必要があり、金額や発生時期についても合理的な特定が求められます。

5-3. 実務運用への具体的影響と対応策

民法改正により、ファクタリング会社の審査基準や契約条件に大きな変更が生じています。債権譲渡禁止特約の存在確認は依然として重要ですが、特約があることを理由とした買取拒否は大幅に減少しています。

将来債権については、発生の確実性、金額の合理性、時期の特定性についてより慎重な審査が行われています。継続的取引の実績、基本契約書の記載内容、売掛先の信用力、過去の取引パターンなどを総合的に判断して買取可否を決定します。

手数料設定についても、確定債権と将来債権で差別化が図られています。将来債権は確定債権と比較してリスクが高いため、手数料が若干高めに設定されることが一般的です。また、償還請求権の有無や保証条件についても、債権の性質に応じてより細かな設定が行われています。

6. よくある質問

6-1. 確定債権の判定で迷いやすいケースの対処法

分割納品契約において、一部納品済みで残りが未納品の場合、納品済み部分のみが確定債権となります。システム開発では、フェーズ別の検収が完了した部分について確定債権として扱うことができます。建設業の場合、出来高部分の検収により部分的な確定債権が成立する場合があります。

検収条件が曖昧な契約では、実際の運用状況を確認して判定します。自動検収条項がある場合、条項の発動条件と実際の状況を照合します。契約書の記載と実際の商慣行が異なる場合は、実際の運用に基づいて判定することが重要です。

長期契約における月次確定部分の取り扱いでは、各月のサービス提供完了と顧客による承認確認により、月次単位での確定債権成立を判断します。継続的サービス契約では、サービス提供記録と顧客の利用実績により確定性を評価します。

6-2. 架空債権と疑われないための予防策

取引の実態を示す客観的な証憑を整備することが最も重要です。契約書、発注書、納品書、検収書、請求書の一連の書類に整合性があることを確認します。取引先との通信記録、配送記録、作業写真などの補完資料も有効です。

異常に高額な取引や、通常の取引パターンから逸脱した内容については、事前に合理的な説明と裏付け資料を準備します。新規取引先との大口取引では、取引開始の経緯、相手方の信用調査結果、取引条件の合理性を文書化しておくことが推奨されます。

継続的な取引記録の管理により、取引の継続性と信頼性を証明できる体制を整備します。会計システムや販売管理システムでの取引記録の適切な管理により、後日の証明に耐えうる記録を残すことが重要です。

6-3. 2020年民法改正後の将来債権活用方法

継続的な取引関係にある売掛先との間で、定期的に発生する売上について将来債権として譲渡することが可能です。賃貸不動産の家賃収入、保守契約による月額料金、定期購入契約による売上、継続的なコンサルティング契約による報酬などが対象となります。

将来債権の活用では、基本契約書の整備が重要です。取引条件、支払条件、契約期間、自動更新条項、解除条件を明確に定め、債権発生の確実性を担保します。過去の取引実績により将来債権の妥当性を立証できるよう、取引履歴の管理も欠かせません。

注文書ファクタリングの活用では、発注書や基本契約書に基づく将来の納品予定について、納品スケジュール、検収条件、支払条件を明確にします。発注者の信用力と継続的な取引関係が、将来債権の価値評価において重要な要素となります。

6-4. ファクタリング審査で重視される書類と準備方法

基本的な取引書類として、売買契約書、注文書、納品書、検収書、請求書が必要です。売掛先の信用力確認のため、商業登記簿謄本、決算書、取引実績を示す資料も求められます。申込企業については、直近3期分の決算書、確定申告書、商業登記簿謄本が標準的な提出書類です。

大口案件では、売掛先からの取引証明書や支払予定確認書の提出を求められる場合があります。業種特有の許可証や届出書、品質証明書、完成検査報告書なども審査資料となることがあります。

書類の真正性確認のため、原本確認や公的機関への照会が行われる場合もあります。電子契約や電子納品の場合は、システムの信頼性を証明する資料や、電子署名の有効性を示す証明書の提出が求められることがあります。事前に必要書類を整備し、迅速な審査対応ができる体制を構築することが重要です。

7. まとめ

ファクタリングにおける債権の理解、特に確定債権と架空債権の違いを正確に把握することは、適法で安全な資金調達の実現において不可欠です。確定債権は商品やサービスの提供完了と検収確認により成立し、法的に安定した譲渡対象となります。一方、架空債権の利用は詐欺罪をはじめとする重大な刑事責任を招くリスクがあり、企業経営に致命的な影響を与える可能性があります。

2020年の民法改正により債権譲渡の利便性は大幅に向上しましたが、それと同時に適正な取引実態の確保がより重要となっています。債権譲渡禁止特約付き債権の譲渡可能化や将来債権譲渡の明文化により、中小企業の資金調達手段は拡充されました。

ファクタリングを活用する際は、取引の実態を客観的に証明できる書類の整備、売掛先との健全な取引関係の維持、法的要件の遵守を徹底することで、安全で効果的な資金調達が実現できます。適切な知識と準備により、ファクタリングは中小企業の資金繰り改善と事業拡大に大きく貢献する資金調達手段となります。

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