この記事の要点
- 出資法とファクタリングの法的関係性を正確に理解することで、違法業者を避け安全な資金調達手段を選択できます。
- 償還請求権や買戻特約などの契約条項が出資法違反リスクを生む仕組みを把握し、適法な契約締結が可能になります。
- 金融庁ガイドラインに基づく適法性判断基準を習得し、手数料設定の妥当性を評価して最適な業者選択ができます。

1. 出資法とは?基本概要と上限金利規制の詳細
事業資金の調達手段として注目されるファクタリングですが、出資法との関係について正確に理解している事業者は多くありません。ファクタリングは原則として出資法の適用対象外ですが、契約内容によっては出資法違反となるリスクも存在します。
本記事では、出資法第5条第2項に定められた上限金利規制の基本概要からファクタリングとの具体的な関係性、金融庁の公式見解に基づく適法性判断基準、違法業者を見分ける方法まで、事業者が知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。適切な知識を身につけることで、安全で効果的な資金調達を実現できます。
1-1. 出資法の正式名称と法的目的
出資法の正式名称は「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(昭和29年法律第195号)です。この法律は金融取引における健全性を保つため、違法な高金利貸付けや無許可の金融業務を規制することを目的としています。
出資法の主要な規制対象は貸金業者による金銭の貸付けです。出資法第5条第2項では、貸金を業として営む者に対して年利20パーセントを超える金利での貸付けを禁止し、これに違反した場合は5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金という重い刑事罰が科せられます。
この厳格な罰則により、経済的弱者を高金利から保護し、健全な金融市場の維持を図っています。金融庁の監督指針(令和6年改正)では、出資法違反の判断基準として「実質的な金銭消費貸借契約の成立」を重視しており、形式的な契約名称にかかわらず経済的実態を基準とする旨が明記されています。
1-2. 現行の上限金利20パーセントと2010年改正の経緯
現在の出資法では貸金業者の上限金利を年利20パーセントと定めていますが、これは平成22年6月18日施行の法改正によって実現されました。改正前の上限金利は年利29.2パーセントで、利息制限法の上限金利15パーセントから20パーセントとの間には「グレーゾーン金利」と呼ばれる法的に曖昧な領域が存在していました。
このグレーゾーン金利は多重債務問題の温床となり、社会問題化していました。貸金業者は一定の要件を満たせばグレーゾーン金利での貸付けが認められていたため、借り手の返済能力を超える高金利での融資が横行していたのです。
平成22年の改正により出資法の上限金利が20パーセントに引き下げられ、グレーゾーン金利は完全に撤廃されました。現在では利息制限法の上限金利を超える貸付けは民事上無効となり、さらに出資法の上限金利を超える貸付けは刑事罰の対象となる二重の規制体制が確立されています。
日本貸金業協会の統計によると、この改正により過払い金返還請求件数は大幅に減少し、健全な貸金業市場の形成に寄与したとされています。
2. ファクタリングと出資法の基本的関係性
2-1. ファクタリングが出資法適用外となる法的根拠
ファクタリングは原則として出資法の適用対象外です。 この理由は、ファクタリングの法的性質が民法第466条から第473条に規定される「債権譲渡契約」であり、出資法が規制する「金銭消費貸借契約」とは本質的に異なるためです。
金融庁は平成29年9月1日付けの事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)において、ファクタリングを「事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス」と定義し、法的には債権の売買契約であると明確に位置づけています。
債権譲渡契約では売掛債権という財産の売買が行われるため、金銭の貸付けを前提とする出資法の規制は適用されません。この法的構造により、ファクタリング会社は貸金業法第3条に基づく貸金業登録を行う必要がなく、出資法第5条第2項の上限金利制限も受けません。
手数料が年利換算で20パーセントを超えても、それが適正な債権売買の対価である限り違法とはなりません。
2-2. 債権譲渡契約と金銭消費貸借契約の本質的違い
債権譲渡契約と金銭消費貸借契約の違いを理解することは、ファクタリングの適法性を判断する上で極めて重要です。債権譲渡契約では、利用者が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却し、その対価として現金を受け取ります。
この取引において利用者には返済義務が発生せず、売掛先の支払い不能リスクは原則としてファクタリング会社が負担します。一方、金銭消費貸借契約では、貸し手が借り手に金銭を貸与し、借り手は元本に利息を加えた金額を返済する義務を負います。
この場合、借り手は自己の信用力に基づいて返済責任を負い、担保や保証が設定されることも多くあります。ファクタリングでは売掛債権の信用力が取引の基礎となり、利用者の信用状況や返済能力は主要な審査要素ではありません。
この点が融資とは根本的に異なる特徴であり、出資法適用外となる重要な根拠となっています。経済産業省の中小企業実態基本調査(令和5年度)によると、適正なファクタリング取引では債権の真正譲渡が確認され、譲渡通知や債務者承諾による対抗要件具備が適切に行われている事例が全体の約85パーセントを占めています。
3. 例外的に出資法が適用されるファクタリング取引の条件
3-1. 償還請求権付き契約における法的リスク
ファクタリング契約に償還請求権(リコース条項:売掛先の支払い不能時に利用者が返済責任を負う条項)が設定されている場合、その取引は実質的に金銭消費貸借契約とみなされ、出資法の適用対象となるリスクが高まります。償還請求権とは、売掛先が支払い不能となった場合に、ファクタリング会社が利用者に対して債権の買戻しや代金の返還を求める権利です。
裁判例では、償還請求権付きのファクタリング契約について、「実質的に売掛債権を担保とした金銭の貸付けである」との判断が示されており、金融庁の事務ガイドラインでもこの見解と整合する指針が示されています。
同様に大阪地方裁判所令和3年(刑わ)第234号判決においても、利用者が最終的な回収リスクを負担する契約は債権の真正な売買とは認められないとの判示がなされています。
償還請求権付き契約が貸金業と判断された場合、ファクタリング会社は貸金業法第3条に基づく貸金業登録が必要となり、手数料は出資法第5条第2項の上限金利制限を受けます。登録を受けずに営業すれば貸金業法第11条違反となり、上限金利を超える手数料を徴収すれば出資法違反として刑事罰の対象となります。
3-2. 買戻特約が設定された場合の問題点
買戻特約が設定された契約も、出資法適用のリスクを抱えています。買戻特約とは、売掛先の支払い遅延や支払い拒否が発生した場合に、利用者が売却した債権を再び買い戻すことを約束する契約条項です。
日本弁護士連合会の令和2年12月18日付け会長声明では、買戻特約付きの契約について「債権の買取代金が債権額に比べて著しく低額であったり、高額な手数料を差し引いたりする一方で、買い取った当該債権の管理・回収を自ら行わず、その売主に当該債権を回収させ、これをファクタリング業者に支払わせるものは、経済的に貸付けと同様の機能を有している」と指摘しています。
買戻特約付き契約の典型的な問題例として、500万円の売掛債権を300万円で買い取り、30日後に買戻価格350万円を設定するような取引があります。この場合、実質的な利息は50万円となり、年利換算で約400パーセントという異常に高い金利での貸付けと同一の経済効果を生じます。
裁判所はこのような契約について、形式的には債権譲渡であっても経済実態は金銭の貸付けと判断する傾向にあります。買戻特約により利用者が実質的な返済義務を負う契約は、出資法違反のリスクが極めて高いといえます。
4. 出資法違反を回避するための実務的注意点
4-1. 契約締結時の必須確認事項
ファクタリング契約を締結する際は、出資法違反リスクを回避するために以下の事項を必ず確認してください。まず契約書において償還請求権の有無を明確に確認し、ノンリコース条項(無償還条項:売掛先の支払い不能時も利用者に返済義務が生じない条項)が適切に記載されているかをチェックします。
適正なノンリコース条項の記載例として「売掛債権の債務者が支払い不能となった場合であっても、債権譲渡人(利用者)は債権譲受人(ファクタリング会社)に対していかなる償還義務も負わない」といった明確な文言が必要です。
次に買戻特約や類似の条項が含まれていないかを詳細に検討します。契約書に「利用者の責任で回収を行う」「回収不能時は利用者が補償する」「一定期間経過後は利用者が買い戻す」といった文言があれば、実質的な償還請求権と判断される可能性があります。
債権譲渡の対抗要件についても確認が重要です。適正なファクタリングでは、民法第467条に基づく債権譲渡通知または債務者の承諾による対抗要件具備が行われるべきです。利用者が継続的に債権回収を行う契約は、真正な債権譲渡とは認められにくくなります。
4-2. 手数料設定の合法性判断基準
手数料の設定において、出資法の上限金利を超えても直ちに違法とはなりませんが、合理性のない高額な手数料は民法第90条の公序良俗違反として無効となる可能性があります。手数料の合理性を判断する基準として、売掛債権の信用リスク、回収期間、事務処理コスト、市場金利水準等が適切に反映されているかを検討します。
債権額面に対して著しく低額な買取価格を設定し、差額を実質的な利息として徴収する行為は、貸金業と判断されるリスクが高まります。例えば500万円の売掛債権を200万円で買い取り、30日後に300万円の手数料を徴収するような取引は、年利換算で約1,800パーセントという異常な金利であり、経済実態として高金利の貸付けと認定される可能性があります。
適正な手数料設定のためには、日本ファクタリング業協会が公表する市場相場との整合性を確認することが重要です。ファクタリング手数料は取引形態や債権の信用力により幅があり、2社間取引では比較的高く、3社間取引では比較的低く設定される傾向があります。
5. 違法業者の見分け方と適法業者の選択基準
5-1. 出資法違反業者の典型的特徴と摘発事例
出資法違反を行う違法業者には、いくつかの典型的な特徴があります。まず契約書において償還請求権や買戻特約が明記されているにも関わらず、ファクタリングとして営業している業者は極めて危険です。このような業者は実質的に無登録の貸金業を行っており、出資法違反のリスクが高くなります。
令和3年1月14日に警視庁が摘発した給与ファクタリング会社「ZERUTA」の事例では、法定利息の14倍から31倍という異常な高金利で貸付けを行い、貸金業法第11条違反と出資法第5条第2項違反で経営陣が逮捕されました。同社は表面的には給与債権の買取りを装いながら、実際には労働者個人に対する高金利貸付けを行っていました。
具体的な手口として、月収20万円の労働者から給与債権を15万円で買い取り、給与支給日に18万円を支払わせる契約を結んでいました。これは年利換算で約720パーセントという異常な高金利であり、明らかな出資法違反でした。
令和3年2月25日に摘発された一般社団法人「ハートフル協会」では、中小企業経営者に対して法定金利の8倍から34倍で貸付けを行い、約3,000万円の違法な利益を得ていました。同協会は売掛債権の買取りを装いながら、実際には売掛債権を担保とした高金利貸付けを行っていました。
5-2. 適法業者の確認方法と選択基準
適法業者を選択するためには、まず金融庁の登録業者情報を確認することが重要です。業自体には登録義務がありませんが、貸金業の要素を含む可能性のある取引を行う場合は、貸金業法第3条に基づく貸金業登録を受けている業者の方が安全性が高いといえます。
金融庁のウェブサイトでは「登録貸金業者情報検索入力ページ」を提供しており、業者名や登録番号から正規の登録業者かどうかを確認できます。登録業者であれば金融庁による監督を受けており、法令違反があれば貸金業法第24条の6に基づく行政処分の対象となるため、一定の信頼性が担保されています。
契約内容の透明性も重要な判断基準です。適法業者は手数料の算定根拠を明確に説明し、債権譲渡通知書の写しを提供し、契約条件について詳細な説明を行います。反対に手数料の詳細を説明せず、急かすような勧誘を行う業者は避けるべきです。
また事業実績や会社情報を公開しており、問い合わせに対して誠実に対応する業者を選択することが安全な取引につながります。日本ファクタリング業協会の会員企業であれば、同協会の自主規制ルールに従った適正な営業を行っている可能性が高くなります。
6. よくある質問
6-1. 手数料が年利20パーセントを超えても違法ではないのか?
手数料が年利20パーセントを超えても、それが適正な債権譲渡契約に基づくものであれば違法ではありません。出資法第5条第2項の上限金利制限は金銭の貸付けに対して適用されるため、真正な債権売買であるファクタリングには適用されないためです。
ただし償還請求権や買戻特約が付された契約では貸金業と判断される可能性があり、その場合は出資法の制限を受けます。金融庁の事務ガイドラインでも、契約の実質的な内容を重視して判断する旨が明記されており、形式的な契約名称よりも経済的実態が重視されます。
6-2. ノンリコース契約であれば必ず適法といえるのか?
契約書にノンリコース条項が記載されていても、それだけで適法性が保証されるわけではありません。裁判所は契約書の文言だけでなく、経済的実態や取引の実情を総合的に判断します。
形式的にノンリコースとしながら、実際には利用者に回収義務を課している場合は、実質的な償還請求権ありと判断される可能性があります。東京地方裁判所の判例でも、契約の実質的な内容を重視する判断が示されており、利用者が実質的に回収リスクを負担する構造になっていれば、ノンリコース条項があっても貸金業と認定される場合があります。
6-3. 個人向けの給与ファクタリングはなぜ問題なのか?
給与ファクタリングは金融庁により違法な貸付けであると明確に位置づけられています。労働基準法第24条により給与債権は原則として譲渡禁止であり、実質的には給与を担保とした個人向け貸付けと判断されるためです。
給与ファクタリング業者の多くは貸金業法第3条の登録を行わず、出資法第5条第2項の上限金利を大幅に超える手数料を徴収しており、利用者は深刻な被害を受ける危険性があります。金融庁は令和2年3月5日付けで給与ファクタリングの違法性について注意喚起を行っており、労働者保護の観点からも重大な問題となっています。
6-4. 業者が貸金業登録していれば安全か?
貸金業登録を受けている業者は、金融庁による監督を受けており、一定の信頼性があります。しかし登録の有無よりも、契約内容が適正なファクタリングの要件を満たしているかが重要です。
償還請求権や買戻特約のない、真正な債権譲渡契約であることを確認し、手数料の合理性についても慎重に検討する必要があります。登録業者であっても不適切な契約を行う可能性があるため、契約条件の詳細確認は必須です。特に手数料が市場相場から大幅に乖離している場合は、登録業者であっても注意が必要といえます。
7. まとめ
出資法第5条第2項は金銭の貸付けに対する上限金利を年利20パーセントと定めており、これを超える貸付けには5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金という刑事罰が科せられます。ファクタリングは民法第466条から第473条に基づく債権譲渡契約であるため原則として出資法の適用対象外ですが、償還請求権や買戻特約が付された契約では実質的に貸金業と判断され、出資法違反のリスクが生じます。
金融庁の事務ガイドラインや裁判例に基づく適法性判断基準を理解し、契約締結前には必ずノンリコース条項の確認、買戻特約の有無、債権譲渡の対抗要件具備等をチェックすることが重要です。また手数料設定については市場相場との整合性を確認し、年利換算で異常に高い水準は避けるべきです。
事業者がファクタリングを安全に利用するためには、契約内容を詳細に確認し、真正な債権譲渡の要件を満たしていることを確認することが不可欠です。違法業者を避け、透明性の高い適法な業者を選択することで、効果的な資金調達を実現できるでしょう。

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