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ファクタリング一括送金の原則と分割が出来ない理由を解説

2024.11.11
ATOファクタリング

1. ファクタリングにおける送金方式の基本原則

ファクタリングを利用して資金調達を行った企業の中には、売掛先から回収した売掛金をファクタリング会社に送金する際、一括ではなく分割での支払いを希望される方がいらっしゃいます。しかし、ファクタリングにおいては一括送金が原則であり、分割送金は法的根拠により認められていません。

本記事では、ファクタリングにおける一括送金の原則と、分割送金が禁止される法的根拠について詳しく解説いたします。また、分割送金を提案する業者の危険性や、送金が困難な場合の適切な対処法についてもご紹介します。

1-1. 一括送金が原則となる仕組み

ファクタリングは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に譲渡することで資金調達を行う金融サービスです。法的には民法第466条に基づく債権の売買(債権譲渡)契約であり、金銭の貸し借りとは根本的に異なる取引となります。

ファクタリング契約においては、売掛債権の譲渡と同時に債権の所有権がファクタリング会社に移転します。そのため、売掛先から入金された売掛金は法的にファクタリング会社の所有物となり、利用企業はこれを一括でファクタリング会社に引き渡す義務を負います。

この一括送金の原則は、ファクタリングが債権譲渡契約である以上、法的に避けることのできない要件です。売掛金を分割して支払うということは、実質的に債務の分割返済を意味し、これはファクタリングではなく金銭消費貸借契約の性質を帯びることになります。

金融庁の公式見解においても、ファクタリングは「事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス」として定義されており、債権の売買契約であることが明確に示されています。この定義からも、一括送金が原則となる理由を理解することができます。

1-2. 2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの送金方法の違い

ファクタリングには2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの2つの契約形態がありますが、いずれの場合においても一括送金の原則は変わりません。ただし、ファクタリング分割送金の流れには違いがあります。

2社間ファクタリングでは、利用企業とファクタリング会社の2者間で契約が完結します。売掛先からの入金は一旦利用企業の口座に振り込まれ、その後利用企業がファクタリング会社に対して一括で送金する流れとなります。この方式では売掛先にファクタリング利用を知られることがありませんが、利用企業には確実な送金義務が課せられます。

一方、3社間ファクタリングでは、利用企業、ファクタリング会社、売掛先の3者間で契約を締結します。債権譲渡の通知が売掛先に行われ、売掛金は売掛先から直接ファクタリング会社に支払われます。この場合、利用企業が送金作業を行う必要はありませんが、やはり売掛金は一括でファクタリング会社に支払われることになります。

どちらの契約形態を選択した場合でも、ファクタリング分割送金や分割支払いは法的根拠により認められていません。これは、分割払いを認めることがファクタリングの法的性質を損ない、貸金業に該当する可能性があるためです。

2. ファクタリングで分割送金が禁止される法的根拠

2-1. 民法第466条に基づく債権譲渡の性質

ファクタリングにおいて分割送金が認められない最も重要な法的根拠は、民法第466条に規定された債権譲渡の性質にあります。同条第1項では「債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない」と定められており、ファクタリングはこの規定に基づく適法な債権譲渡として位置づけられています。

債権譲渡契約が成立した時点で、売掛債権の所有権は完全にファクタリング会社に移転します。この移転は包括的なものであり、債権の一部のみを譲渡したり、分割して譲渡したりすることは、債権譲渡の本質に反する行為となります。

民法第467条第1項においては、債権譲渡の対抗要件について「指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない」と規定されています。この対抗要件の取得も、債権の完全な譲渡を前提としており、ファクタリング分割での権利移転は想定されていません。

2020年の民法改正により、債権譲渡禁止特約が付されている債権であっても、その譲渡は原則として有効とされました。これにより債権の流動化が促進されましたが、同時に債権譲渡の性質についてより厳格な理解が求められるようになっています。分割送金を認めることは、この改正民法の趣旨にも反する行為といえます。

2-2. 貸金業法との明確な区別の必要性

ファクタリングが適法な資金調達手段として認められるためには、貸金業法の規制対象である貸金業との明確な区別が必要です。貸金業法第2条では、貸金業を「金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介で業として行うもの」と定義しており、この定義に該当する業務を行う場合には貸金業登録が必要となります。

ファクタリング分割送金を認めることは、実質的に金銭の貸付けと同様の機能を有することになります。売掛金を分割で受け取るということは、未回収分について金利が発生することを意味し、これは金銭消費貸借契約の特徴と一致します。このような取引形態は貸金業法の規制対象となり、無登録での営業は違法行為となります。

金融庁の注意喚起文書においても、「ファクタリングとして行われる取引であっても、経済的に貸付けと同様の機能を有していると思われるようなものは、貸金業に該当するおそれがある」と明記されています。ファクタリング分割送金はまさにこの「貸付けと同様の機能」に該当する行為です。

正規のファクタリング会社は、貸金業法に抵触するリスクを避けるため、分割送金を一切認めていません。逆に、分割送金を積極的に提案する業者は、ファクタリングを装った違法な貸金業者である可能性が高いといえます。

3. 分割払いを認めると貸金業に該当する理由

3-1. 金銭消費貸借契約への変質リスク

ファクタリングにおいて分割払いを認めることは、取引の性質を債権譲渡から金銭消費貸借契約へと変質させるリスクを伴います。金銭消費貸借契約とは、借主が貸主から金銭を借り受け、後日同額の金銭を返還する契約であり、この契約には必然的に金利や利息の概念が伴います。

ファクタリング分割払いが認められた場合、未払い分の売掛金に対して事実上の金利が発生することになります。これは、売掛金の回収期間が延長されることにより、ファクタリング会社が本来得られるはずの資金運用機会を失うためです。このような金利の発生は、取引の性質を貸付けに近づけることになります。

最高裁判所の判例においても、契約の名称や形式ではなく、その実質的な内容によって取引の性質が判断されることが示されています。分割払いを伴うファクタリング契約は、実質的には金銭の貸付けとして認定される可能性があり、これにより貸金業法の適用を受けることになります。

東京地方裁判所令和2年9月18日判決では、「ファクタリング業者は償還請求権を有しておらず、実質的にも債務者の不払いリスクがファクタリング業者に移転していると評価できること」などを総合考慮して貸金業法の適用を否定していますが、ファクタリング分割払いが認められた場合にはこの判断基準を満たすことが困難となります。

3-2. 利息制限法・出資法による上限金利規制の適用

ファクタリング分割払いを認めることにより取引が貸金業に該当すると判断された場合、利息制限法および出資法による上限金利規制の適用を受けることになります。これは、ファクタリング業者にとって致命的な法的リスクとなる可能性があります。

利息制限法では、貸付金額に応じて年利15.0%から20.0%の上限金利が設定されています。一方、ファクタリングの手数料は一般的に債権額の2.0%から15.0%程度となっており、これを年利換算すると利息制限法の上限を大幅に超過するケースが多くなります。

例えば、債権額の10.0%の手数料で1か月間のファクタリングを行った場合、年利換算では120.0%となり、利息制限法の上限である年利20.0%を大きく上回ります。このような高い手数料率は、ファクタリングが債権の売買であり、金利ではなく売買手数料であるからこそ許容されているものです。

出資法では、年利20.0%を超える金利での貸付けを刑事罰の対象としています。ファクタリング分割払いを認めることにより取引が貸金業に該当すると判断された場合、ファクタリング業者は出資法違反として刑事処罰を受ける可能性があります。このようなリスクを避けるため、正規のファクタリング会社は分割払いを一切認めていません。

4. 分割送金提案業者の危険性と送金困難時の対処法

4-1. 偽装ファクタリング業者の手口と見分け方

ファクタリング分割送金を積極的に提案する業者の多くは、ファクタリングを装った違法な貸金業者、いわゆる偽装ファクタリング業者です。これらの業者は巧妙な手口を用いて利用者を騙し、法外な手数料や金利を請求します。

偽装ファクタリング業者の典型的な手口として、まず利用者に対して「柔軟な対応が可能」「分割払いも相談に応じます」といった甘い言葉で勧誘を行います。資金繰りに困っている事業者にとって、このような提案は非常に魅力的に映るため、つい契約してしまうケースが後を絶ちません。

契約後、これらの業者は「利息分だけ支払えば元金は据え置き可能」といった提案を行います。これは貸金業界で「ジャンプ」と呼ばれる手法であり、利用者を継続的に高金利の支払いに縛り付ける悪質な手口です。当初の手数料は低く設定されていても、ファクタリング分割手数料として法外な金利が請求されることになります。

悪徳業者を避けるためには、分割払いの提案や相談に応じる業者は避けることが重要です。また、償還請求権や買戻し特約の有無を必ず確認し、契約書のタイトルが「金銭消費貸借契約」となっている場合や、「利息」「金利」という用語が使用されている場合は、ファクタリングではなく貸付契約である可能性があるため注意が必要です。

4-2. 売掛先からの入金遅延時の適切な対応手順

正当な理由により売掛先からの入金が遅延し、ファクタリング会社への送金が困難となった場合には、適切な対応手順に従って行動することが重要です。このような状況では、隠蔽や放置ではなく、誠実な対応が問題解決の鍵となります。

まず、売掛先からの入金遅延が判明した時点で、直ちにファクタリング会社に連絡を行ってください。遅延の理由、現在の状況、今後の見通しについて正確な情報を提供することが重要です。多くの優良ファクタリング会社は、このような状況に対して理解を示し、適切な対応を協議してくれます。

次に、売掛先に対して入金状況の確認と催促を行います。売掛先の経営状況や支払い能力に問題がないか、単純な事務的な遅延なのか、それとも資金繰りの問題なのかを把握することが必要です。この際、ファクタリング会社との相談の上で対応方針を決定することをお勧めします。

短期的な資金調達方法として、銀行からの短期融資やビジネスローンの活用も考えられます。他の売掛債権を活用した追加的なファクタリングや、売掛債権担保融資(ABL)の活用、日本政策金融公庫や信用保証協会の保証付き融資など、公的な資金調達制度の活用も重要な選択肢となります。

4-3. 代替資金調達方法の検討

売掛先からの入金遅延により、ファクタリング会社への送金が困難となった場合、代替的な資金調達方法の検討が必要となります。この際、事業の継続性と財務の健全性を両立させる方法を選択することが重要です。

銀行からの短期融資やビジネスローンは比較的迅速に実行され、ファクタリング会社への支払いに充当することができます。ただし、追加の借入れとなるため、返済計画を慎重に検討する必要があります。他の売掛債権がある場合は、これを新たにファクタリングすることで必要な資金を調達できる可能性があります。

売掛債権担保融資(ABL)は売掛債権を担保として融資を受ける方法であり、金利はファクタリング手数料よりも低く設定されることが多く、中長期的な資金調達には適している場合があります。また、日本政策金融公庫や信用保証協会の保証付き融資など、公的な資金調達制度は金利が低く設定されており、中小企業の資金繰り支援を目的としています。

5. よくある質問

5-1. 支払期日の延期は可能ですか?

ファクタリング契約における支払期日の延期については、原則として認められていません。支払期日は売掛金の入金予定日に基づいて設定されており、これを変更することは契約の根本的な変更となるためです。

ただし、売掛先からの入金が客観的な理由により遅延した場合には、その事情を考慮して支払期日の調整が行われる場合があります。この場合、売掛先からの入金遅延を証明する書類の提出や、遅延理由の詳細な説明が求められることが一般的です。支払期日の延期が認められた場合でも、追加の手数料や遅延損害金が発生する可能性があります。

5-2. 売掛金の一部だけ先に送金することは認められますか?

売掛金の一部を先行して送金することについては、ファクタリング会社によって対応が異なります。債権額の全額回収が前提となっているため、部分的な入金のみでは契約の完全な履行とはみなされない場合があります。

一部入金があった場合の取り扱いについては、契約書に明記されていることが一般的です。多くの場合、一部入金は受領されますが、残額についても所定の期日までに支払うことが求められます。部分的な入金が継続的に行われる場合、その都度ファクタリング会社に連絡し、入金スケジュールについて協議することが重要です。

5-3. 3社間ファクタリングでも一括送金が原則ですか?

3社間ファクタリングにおいても、一括送金の原則は2社間ファクタリングと同様に適用されます。3社間ファクタリングでは売掛先から直接ファクタリング会社に支払いが行われるため、利用企業が送金作業を行う必要はありませんが、売掛金は一括で支払われることになります。

3社間ファクタリングの場合、債権譲渡通知が売掛先に送付され、売掛先はファクタリング会社を新たな債権者として認識します。この時点で、売掛先はファクタリング会社に対して売掛金の全額を支払う義務を負うことになり、ファクタリング分割での支払いは法的根拠により認められません。

5-4. 分割送金を認める業者は違法業者ですか?

ファクタリング分割送金を認める業者が必ずしも違法業者であるとは限りませんが、高い可能性で問題のある業者であると考えられます。正規のファクタリングにおいて分割送金は法的根拠により認められていないため、これを認める業者は適切な法的理解を欠いているか、意図的に法律を無視している可能性があります。

一部のファクタリング会社では、特殊な事情がある場合に限り、個別の対応を行うことがあります。しかし、この場合でもファクタリング分割「送金」ではなく、支払期日の調整や入金方法の変更といった形で対応されることが一般的です。真にファクタリング分割での支払いを認める業者は、適法性に疑問があると考えるべきです。

6. まとめ

ファクタリングにおける一括送金の原則は、民法第466条に基づく債権譲渡の性質と、貸金業法との明確な区別を維持するための法的要件です。ファクタリング分割送金を認めることは、取引の性質を債権譲渡から金銭消費貸借契約へと変質させ、利息制限法や出資法による規制の対象となる可能性があります。

正規のファクタリング会社は、法的リスクを回避するためファクタリング分割送金を一切認めていません。逆に、分割送金を積極的に提案する業者は、ファクタリングを装った違法な貸金業者である可能性があり、利用は避けるべきです。

売掛先からの入金遅延により送金が困難となった場合には、隠蔽や放置ではなく、ファクタリング会社との誠実な協議を通じて解決を図ることが重要です。同時に、銀行融資やABLなど代替的な資金調達方法の検討も必要となります。

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