この記事の要点
- 赤字決算の企業でもファクタリング審査に通過する可能性が高く、売掛先の信用力次第で迅速な資金調達が実現できます。
- 高い手数料負担というデメリットがあるものの、適切な活用により資金繰り改善と事業立て直しの基盤を構築できます。
- ファクタリングを短期的な資金調達手段として位置づけ、根本的な事業改善と並行して利用することで赤字脱却への道筋を描けます。

1. 赤字決算とファクタリングの基本的理解
赤字決算という状況に直面している企業の経営者にとって、資金調達は喫緊の課題となることが多いでしょう。銀行融資やビジネスローンの審査に通過することが困難な状況において、ファクタリングという選択肢が注目を集めています。
赤字決算であることが必ずしも事業継続の危機を意味するわけではありません。実際、国税庁の法人企業統計調査によると、日本の企業の約7割が赤字経営を行っているといわれており、税務上の戦略として意図的に赤字決算を選択する企業も存在します。
しかし、資金繰りに関する課題は別問題として考える必要があります。
赤字決算の企業であっても、適切な資金調達手段を確保することで、事業の継続と成長を実現することが可能です。特にファクタリングは、従来の融資とは異なる審査基準を持つため、赤字決算企業にとって有効な選択肢となり得ます。
本記事では、赤字決算の企業がファクタリングを利用する際のメリットとデメリット、そして実際の活用方法について詳しく解説いたします。
1-1. 赤字決算の実態と資金調達への影響
赤字決算とは、一定期間内において企業の支出が収入を上回っている状態を指します。収益性の観点から見ると好ましくない状況といえますが、赤字の要因には様々なものがあります。設備投資による減価償却費の増加、一時的な特別損失の発生、税務上の節税戦略といった理由で赤字となっている場合もあります。
このような赤字決算の状態が資金調達に与える影響は深刻です。銀行融資やビジネスローンの審査では、企業の返済能力が最も重要な判断材料となります。赤字ということは利益が出ていないことを意味するため、金融機関は「利益が出ていないのにどのように返済するのか」という疑問を抱くのは当然です。
特に継続的な赤字状態にある企業の場合、将来的な収益改善の見通しが立たない限り、融資の審査に通過することは非常に困難となります。金融機関にとって、回収の見込みが低い融資は避けるべきリスクであるため、赤字決算の企業への融資に対しては極めて慎重な姿勢を取ることになります。
1-2. ファクタリングの仕組みと特徴
ファクタリングは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却することで、売掛金の入金予定日よりも早期に現金化を実現する資金調達手法です。これは融資ではなく、債権の売買取引という性質を持っています。
具体的な流れとしては、企業がサービスや商品を提供し売掛金が発生した後、その債権をファクタリング会社に売却します。ファクタリング会社は手数料を差し引いた金額を企業に支払い、後日、売掛先から売掛金を回収する仕組みです。
この仕組みの重要な特徴は、ファクタリング会社が最も重視するのは売掛先の信用力であることです。つまり、売掛金を支払う取引先の財務状況や支払い能力が審査の主要な判断材料となり、ファクタリングを利用する企業自体の経営状況は二次的な要素として扱われます。
1-3. 赤字決算企業におけるファクタリングの位置づけ
赤字決算の企業にとって、ファクタリングは従来の融資とは異なる審査基準を持つ資金調達手段として重要な意味を持ちます。銀行融資では企業の長期的な返済能力が問われるのに対し、ファクタリングでは売掛債権の確実性と売掛先の信用力が主要な判断基準となります。
このため、自社が赤字決算であっても、信用力の高い取引先との間に確実な売掛債権が存在すれば、ファクタリングによる資金調達の可能性は十分にあります。
極端な例でいえば、ファクタリングを利用する企業が1か月から2か月程度の短期間で倒産する可能性が低ければ、売掛先からの入金によってファクタリング会社は資金を回収できるため、利用企業の長期的な経営見通しは重要な要素とはなりません。
2. 赤字決算企業がファクタリングを利用できる理由
2-1. 審査基準の根本的違い
銀行融資とファクタリングでは、審査で重視される要素が根本的に異なります。銀行融資の場合、長期借入となることが多いため、企業の成長性、安全性、継続的な返済能力を総合的に評価します。
これに対してファクタリングでは、債権の存在確認と継続した取引実績、そして売掛先の信用力に焦点が当てられます。
ファクタリング会社にとって最大のリスクは、売掛先の倒産による買取額の全損失です。このリスクを回避するため、ファクタリングの審査では「売掛金の入金を確実に行ってくれる会社かどうか」という売掛先の信用力が最重要視されます。
したがって、利用企業が赤字決算であっても、取引先が上場企業や公的機関、あるいは財務状況の安定した企業であれば、ファクタリングの審査に通過する可能性は高くなります。
売掛先の企業規模が小さくても、遅延や滞納なく毎月確実に売掛金の支払いが行われている実績があれば、審査においてプラスの評価を受けることができます。
2-2. 短期的な回収見込みに基づく判断
ファクタリング会社の審査において重要なのは、売掛金の支払期日までの期間です。一般的に、支払期日が2か月以内の債権であれば、その間に大幅な状況変化が起こる可能性は低いとみなされます。
この短期的な視点により、赤字決算の企業であっても「売掛金の入金までの短期間で倒産する可能性が低い」「十分な手元資金がある」といった条件を満たせば、ファクタリングの利用が可能となります。
銀行融資のように長期的な事業計画や返済計画の詳細な検証は求められず、むしろ目の前にある売掛債権の確実性と、それを回収するまでの短期間における安全性が重視されるのです。
2-3. 2社間と3社間ファクタリングによる審査の違い
ファクタリングには2社間ファクタリングと3社間ファクタリングという2つの方式があり、それぞれ審査の焦点が異なります。
2社間ファクタリングでは、売掛先からの入金後にファクタリング利用者がファクタリング会社へ支払いを行います。このため、「取引先の信用性(売掛金は支払われるのか)」と「利用者の信用性(きちんと支払いを行うのか)」の両方が審査対象となります。
一方、3社間ファクタリングでは、売掛先が直接ファクタリング会社へ支払いを行うため、主に債権の実態と取引先からの回収見込みが審査の対象となります。ファクタリング会社が直接債権の回収を行うため、利用者の信用性よりも売掛先の信用力がより重要視されます。
3. 赤字決算企業によるファクタリング利用のメリット
3-1. 迅速な資金調達の実現
赤字決算の企業が直面する最も深刻な問題の一つは、資金調達に要する時間です。銀行融資の場合、審査に数週間から数か月を要することも珍しくありません。しかし、ファクタリングであれば、必要書類が整っていれば最短即日から数日以内での資金調達が可能です。
この迅速性は、特に支払期日が迫っている状況や、急な受注に対応するための運転資金が必要な場合に大きな価値を持ちます。赤字決算による資金繰りの悪化が進行している企業にとって、時間的な猶予がないケースは多く、ファクタリングの迅速性は事業継続に直結する重要な要素となります。
審査から入金までのプロセスが効率化されており、オンライン完結型のサービスを提供するファクタリング会社も増加しています。これにより、地理的な制約を受けることなく、全国どこからでもサービスを利用することが可能となっています。
3-2. 担保・保証人不要での資金調達
従来の融資では、特に経営状況の悪化した企業に対して担保や保証人の提供を求められることが一般的です。しかし、ファクタリングでは売掛債権そのものが担保の役割を果たすため、追加的な担保や保証人を用意する必要がありません。
これは赤字決算の企業にとって大きなメリットとなります。担保として提供できる不動産などの資産が限られている場合や、保証人を依頼できる適切な人物がいない場合でも、売掛債権さえあればファクタリングを利用できます。
また、個人保証を避けたいと考える経営者にとっても、ファクタリングは魅力的な選択肢となります。企業の債務が個人の財産に影響を及ぼすリスクを回避しながら、必要な資金を調達することが可能です。
3-3. 貸借対照表のオフバランス化効果
ファクタリングは債権の売買取引であるため、企業の貸借対照表において負債を増加させることがありません。これは赤字決算の企業にとって重要な意味を持ちます。
赤字決算の企業は既に財務指標の悪化に直面していることが多く、さらなる負債の増加は自己資本比率の低下や債務超過の拡大につながる可能性があります。
ファクタリングを利用することで、負債を増加させることなく現金を獲得し、むしろ貸借対照表をスリム化する効果が期待できます。
獲得した現金を既存の借入金の返済に充当することで、負債の圧縮と財務体質の改善を同時に実現することも可能です。これにより、将来的な金融機関からの評価向上にもつながる可能性があります。
3-4. キャッシュフローの改善と事業継続性の確保
赤字決算の企業において最も重要なのは、キャッシュフローの確保です。利益が出ていなくても、手元資金が十分にあれば事業を継続することができます。逆に、利益が出ていても資金が枯渇すれば倒産のリスクに直面します。
ファクタリングにより売掛金を早期に現金化することで、仕入れ代金の支払いや人件費、家賃などの固定費の支払いに必要な資金を確保できます。これにより、資金繰りの悪循環を断ち切り、事業の継続性を確保することが可能となります。
また、手元資金に余裕ができることで、新たなビジネスチャンスへの対応や、事業改善のための投資を行う余地も生まれます。赤字からの脱却を目指す企業にとって、こうした戦略的な資金の活用は極めて重要です。
3-5. 信用情報への影響回避
銀行融資やビジネスローンを利用する場合、企業の信用情報に借入の記録が残り、将来的な資金調達に影響を与える可能性があります。特に返済に遅延が生じた場合、信用情報に悪影響を及ぼすリスクがあります。
ファクタリングは融資ではなく債権の売買であるため、信用情報機関への記録が残ることはありません。これにより、将来的に経営状況が改善した際の資金調達選択肢を狭めることなく、現在の資金需要に対応することができます。
この特徴は、一時的な資金需要への対応や、事業の立て直し期間中の資金確保において特に価値を発揮します。
4. 赤字決算企業によるファクタリング利用のデメリット
4-1. 高い手数料負担
ファクタリングの最大のデメリットは、手数料の高さです。2社間ファクタリングの場合、手数料相場は8%から18%程度、3社間ファクタリングでは2%から9%程度が一般的です。これは銀行融資の利率と比較すると非常に高い水準となります。
特に赤字決算の企業の場合、利用者の信用リスクも考慮されるため、手数料が相場の上限に近い水準で設定される可能性があります。
継続的にファクタリングを利用する場合、この手数料負担が収益を圧迫し、さらなる赤字の拡大につながるリスクがあります。
手数料以外にも、債権譲渡登記費用(7,500円の登録免許税と5万円から10万円程度の司法書士報酬)、印紙税、事務手数料などの諸費用が発生する場合があり、総コストを事前に正確に把握することが重要です。
4-2. 資金調達額の制約
ファクタリングで調達できる資金額は、保有する売掛債権の範囲内に限定されます。大規模な設備投資や事業拡大のための資金需要に対しては、売掛債権の額面によって調達額が制約される可能性があります。
また、ファクタリング会社によっては買取対象となる債権の下限額が設定されている場合があり、小額の売掛債権では利用できないケースもあります。
逆に、高額な売掛債権の場合、ファクタリング会社のリスク許容度を超える可能性もあり、全額の買取が困難な場合もあります。
継続的にファクタリングを利用する場合、常に十分な売掛債権を確保する必要があり、売上の減少や取引先の変更などによって利用が困難になるリスクも考慮する必要があります。
4-3. 売掛先との関係性への潜在的影響
2社間ファクタリングでは売掛先に通知されることはありませんが、何らかの理由でファクタリングの利用が知られた場合、取引先との関係に影響を与える可能性があります。
資金繰りに困っているという印象を与え、将来的な取引条件に悪影響を及ぼすリスクがあります。
3社間ファクタリングの場合は、売掛先の承諾が必要となるため、必然的にファクタリングの利用が知られることになります。これにより、取引先から経営状況に対する懸念を抱かれ、取引の継続や条件に影響が生じる可能性があります。
特に長期的な信頼関係に基づいて事業を行っている場合、こうした関係性への影響は事業継続に重大な支障をもたらす可能性があります。
4-4. 悪質業者による被害リスク
ファクタリング業界は法整備が十分でないため、悪質な業者が存在するリスクがあります。金融庁も悪質業者に対する注意喚起を行っており、適切な業者選定が重要となります。
表向きはファクタリングを装いながら、実際は高手数料での資金貸付を行うヤミ金融業者も存在します。このような業者と契約してしまった場合、法外な手数料を請求されたり、違法な取り立てを受けたりするリスクがあります。
契約内容が売掛金の譲渡なのか、それとも担保とした貸付なのかを慎重に確認し、償還請求権の有無、手数料の妥当性、業者の登録状況などを事前に調査することが必要です。
4-5. 長期的な財務改善への影響
ファクタリングは短期的な資金調達手段としては有効ですが、根本的な経営改善にはつながりません。高い手数料負担により、一時的に資金を調達できても、長期的には収益性をさらに悪化させる可能性があります。
赤字決算の根本原因である収益構造の改善や、コスト削減、事業効率化などの抜本的な改革を行わない限り、ファクタリングへの依存は問題の先送りに過ぎません。継続的にファクタリングを利用することで、手数料負担が積み重なり、経営状況のさらなる悪化を招くリスクがあります。
ファクタリングは応急処置的な資金調達手段として位置づけ、並行して事業の抜本的な改善に取り組むことが重要です。
5. 赤字決算企業のファクタリング審査通過のポイント
5-1. 売掛先の信用力確保
ファクタリング審査における最重要ポイントは売掛先の信用力です。上場企業や公的機関、大手企業との取引がある場合は、これらの売掛債権を優先的にファクタリングの対象とすることが有効です。
売掛先の信用力は、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社のデータベースを参考に評価されます。
売掛先の財務状況、業界での地位、過去の支払実績などが総合的に判断されるため、可能な限り信用力の高い取引先の売掛債権を選択することが重要です。
中小企業の売掛先であっても、長期間にわたって遅延なく支払いを行っている実績があれば、審査において有利に評価される可能性があります。取引履歴を整理し、継続的で安定した取引関係であることを証明できる資料を準備することが効果的です。
5-2. 取引実績と継続性の証明
ファクタリング会社は、架空債権や一時的な取引による債権を警戒します。このため、売掛先との取引が継続的で実態のあるものであることを証明することが重要です。
銀行通帳における入金履歴、過去の請求書、契約書、納品書などの書類により、取引の継続性と実在性を証明する必要があります。少なくとも数か月間の取引履歴を提示できることが望ましく、可能であれば1年以上の継続取引を証明できる資料を準備することが効果的です。
取引の内容についても明確に説明できるようにし、サービスや商品の提供実態、請求根拠、支払条件などについて整理しておくことが重要です。
5-3. 支払期日の最適化
ファクタリング会社は、売掛金の支払期日が長いほどリスクが高まるとみなします。一般的に、支払期日が2か月以内の債権が好まれ、これを超える期間の場合は審査が厳しくなる傾向があります。
複数の売掛債権を保有している場合は、支払期日の近い債権から優先的にファクタリングの対象とすることが有効です。また、取引先との交渉により支払条件を改善できる場合は、支払期日の短縮を検討することも一つの戦略となります。
支払期日だけでなく、売掛先の支払慣行についても考慮が必要です。形式的には支払期日が短くても、実際の支払いが慣例的に遅れる傾向がある場合は、審査に悪影響を与える可能性があります。
5-4. 必要書類の完備
ファクタリングの審査において、書類の不備は審査遅延や否認の原因となります。事前に必要書類を確認し、完備した状態で申込を行うことが重要です。
一般的に必要とされる書類には、直近2期から3期分の決算書、試算表、売掛債権に関する請求書や契約書、銀行通帳のコピー、商業登記簿謄本、納税証明書などがあります。
ファクタリング会社によって要求される書類は異なるため、事前に確認することが必要です。
書類の準備段階で、記載内容の整合性や正確性を確認し、疑問点や不明点については事前に説明できるよう準備しておくことが効果的です。透明性の高い情報提供は、ファクタリング会社からの信頼獲得につながります。
5-5. 複数社への見積依頼
ファクタリング会社によって審査基準や手数料は異なるため、複数の会社に見積を依頼することが重要です。A社で審査に通らなかった場合でも、B社では承認される可能性があります。
手数料についても会社間で大きな差が生じる場合があり、複数社の条件を比較することで最適な選択が可能となります。
ただし、あまりに多くの会社に同時に申込を行うと、各社の審査に悪影響を与える可能性もあるため、適度な数に絞って検討することが賢明です。
見積依頼の際は、自社の状況や売掛債権の詳細を正確に伝え、実際の契約条件に近い見積を取得することが重要です。概算ではなく、具体的な契約条件を確認できる見積を求めることが効果的です。
6. 赤字決算脱却に向けたファクタリング活用戦略
6-1. 短期的な資金繰り安定化
ファクタリングを活用した赤字決算からの脱却戦略の第一段階は、短期的な資金繰りの安定化です。まず、差し迫った支払義務に対応し、事業継続に必要な最低限の資金を確保することが優先されます。
具体的には、仕入代金、人件費、家賃、光熱費などの固定費の支払いに必要な資金をファクタリングにより調達し、資金ショートによる事業停止リスクを回避します。この段階では、手数料の高さよりも資金調達の確実性とスピードを重視することが重要です。
資金繰りが安定することで、経営者は目先の支払いに追われることなく、中長期的な事業改善に集中できる環境を整えることができます。精神的な余裕を確保することも、適切な経営判断を行う上で重要な要素となります。
6-2. 事業改善のための投資資金確保
資金繰りの安定化が図られた後は、赤字脱却のための事業改善に必要な投資資金をファクタリングにより確保することを検討します。これには、生産性向上のための設備投資、人材育成、マーケティング活動の強化などが含まれます。
ただし、この段階では投資効果を慎重に検討し、確実に収益改善につながる投資に限定することが重要です。ファクタリングの手数料負担を考慮すると、投資収益率が十分に高い案件のみを対象とすべきです。
また、投資の実行と並行して、その効果を定期的に測定し、期待通りの成果が得られない場合は速やかに軌道修正を行う体制を整備することが必要です。
6-3. 取引条件の改善交渉
ファクタリングにより資金的な余裕を確保した段階で、取引先との条件改善交渉を積極的に行うことが有効です。支払条件の短縮、前払い条件の導入、価格改定などにより、根本的な収益構造の改善を図ります。
取引先に対しては、一方的な条件変更を求めるのではなく、サービス品質の向上や付加価値の提供と引き換えに条件改善を提案することが効果的です。Win-Winの関係を構築することで、長期的な取引継続と収益改善の両立が可能となります。
新規取引先の開拓においても、収益性を重視した取引条件の設定を行い、赤字体質からの脱却を図ることが重要です。
6-4. コスト構造の見直し
ファクタリングによる資金確保と並行して、徹底的なコスト削減を実行することが必要です。固定費の削減、業務効率化による人件費の最適化、仕入先との交渉による調達コストの削減などを体系的に実施します。
特に、収益に直結しない間接費用や、効果の不明確な支出については厳格に見直しを行います。一時的に事業活動に制約が生じる場合でも、収益改善を優先した判断を行うことが重要です。
コスト削減の効果を定量的に把握し、削減額がファクタリング手数料を上回ることを確認しながら進めることで、全体的な収益改善を実現します。削減したコストをファクタリング手数料と比較し、実質的な改善効果を測定することが重要です。
また、コスト削減により生み出された資金をファクタリングへの依存度軽減に活用し、徐々に手数料負担を軽減していく戦略的なアプローチが効果的です。短期的な痛みを伴う削減であっても、中長期的な収益体質改善を優先した判断が求められます。
6-5. 段階的なファクタリング依存度軽減
赤字脱却に向けた最終段階では、ファクタリングへの依存度を段階的に軽減し、より低コストな資金調達手段への移行を図ります。収益改善により財務状況が好転すれば、銀行融資などの低手数料な資金調達が可能となる場合があります。
まず、ファクタリング利用額の段階的な削減を計画し、自己資金での運転資金確保を目指します。売上増加や収益改善により生み出されたキャッシュフローを効果的に活用し、外部資金への依存を減らしていきます。
最終的には、ファクタリングを緊急時の資金調達手段として位置づけ、通常の事業運営では自己資金で賄える体制の構築を目指します。この段階で、真の意味での赤字脱却と財務体質の改善が実現されることになります。
7. ファクタリング利用時の注意点と対策
7-1. 適切なファクタリング会社の選定
赤字決算の企業がファクタリングを利用する際、最も重要なのは信頼できるファクタリング会社の選定です。悪質業者を避けるため、以下の点を必ず確認する必要があります。
まず、契約内容が売掛金の譲渡であることを明確に確認します。償還請求権がない(ノンリコース)契約であること、手数料が相場内の適正な水準であること、契約書の内容が明確で理解しやすいことなどを確認します。
また、ファクタリング会社の実績、口コミ、財務状況などを事前に調査し、長期間の事業実績がある会社を選択することが重要です。金融庁や業界団体からの警告を受けていないか、適切な事業者登録を行っているかなども確認ポイントとなります。
7-2. 契約条件の詳細確認
ファクタリング契約では、手数料以外にも様々な費用が発生する可能性があります。債権譲渡登記費用、事務手数料、印紙税などの諸費用を含めた総コストを事前に正確に把握することが重要です。
契約書の内容についても、曖昧な表現や理解困難な条項がないか慎重に確認します。特に、追加費用の発生条件、契約解除の条件、遅延時のペナルティなどについては明確に理解しておく必要があります。
不明な点や疑問点については、契約前に必ず確認し、口約束ではなく書面での回答を求めることが重要です。後日のトラブルを避けるため、重要な条件は契約書に明記されていることを確認します。
7-3. 資金使途の明確化と計画的利用
ファクタリングにより調達した資金の使途を事前に明確化し、計画的に利用することが重要です。場当たり的な資金利用では、一時的に資金を確保できても根本的な問題解決にはつながりません。
優先順位を明確にし、最も重要な支払いから順番に資金を配分します。緊急性の高い支払い、事業継続に不可欠な支払い、収益改善に直結する投資の順で資金配分を行うことが効果的です。
また、調達した資金の一部を次回のファクタリング手数料や運転資金として確保し、資金繰りの連続性を維持することも重要です。短期的な視点だけでなく、中期的な資金計画を立てて利用することが求められます。
7-4. 取引先との関係管理
ファクタリングの利用が取引先に知られた場合の対応策を事前に検討しておくことが重要です。特に2社間ファクタリングでも、何らかの理由で利用が発覚する可能性があります。
事前に主要な取引先との関係性を評価し、ファクタリング利用に理解を示してくれる可能性の高い取引先を把握しておきます。必要に応じて、事前に相談を行い、3社間ファクタリングへの協力を求めることも検討します。
万が一、ファクタリング利用が問題視された場合の説明方法や代替案についても準備しておき、取引関係への悪影響を最小限に抑える対策を講じることが重要です。
7-5. 定期的な利用状況の見直し
ファクタリングの利用状況を定期的に見直し、継続利用の妥当性を検証することが重要です。手数料負担と得られる効果を定量的に比較し、利用継続の判断を行います。
月次または四半期ごとに、ファクタリング利用額、手数料負担額、事業改善効果を整理し、費用対効果を評価します。事業状況の改善に伴い、より低コストな資金調達手段への移行可能性についても検討を続けます。
また、複数のファクタリング会社との取引がある場合は、各社の条件を定期的に比較し、最適な取引先の選択を継続的に行うことが効果的です。
8. よくある質問と回答
8-1. 赤字決算でもファクタリング審査に通るの?
赤字決算であってもファクタリングの審査に通過することは十分可能です。ファクタリングの審査では、利用企業の財務状況よりも売掛先の信用力が重視されるためです。
ただし、審査に通らないケースもあります。売掛先の信用力が低い場合、売掛債権の支払期日が長すぎる場合、税金の滞納が長期間継続している場合などは審査が困難になる可能性があります。
審査通過の可能性を高めるためには、信用力の高い売掛先の債権を選択し、必要書類を完備して申込を行うことが重要です。
8-2. 手数料はどの程度が妥当な水準なの?
ファクタリングの手数料相場は、2社間ファクタリングで8%から18%程度、3社間ファクタリングで2%から9%程度とされています。ただし、売掛先の信用力や債権額によって変動します。
赤字決算の企業の場合、利用者の信用リスクも考慮されるため、相場の上限に近い手数料が提示される可能性があります。複数社で見積を取得し、条件を比較することが重要です。
手数料以外の諸費用も含めた総コストで比較し、最も有利な条件を提示する会社を選択することが効果的です。
8-3. 継続的な利用は可能?
ファクタリングは継続的に利用することが可能です。ただし、高い手数料負担により収益性がさらに悪化するリスクがあるため、根本的な事業改善と並行して利用することが重要です。
継続利用により手数料負担が蓄積し、経営状況の悪化を招く可能性があります。ファクタリングを短期的な資金調達手段として位置づけ、中長期的には依存度を軽減する計画が必要です。
定期的に利用状況を見直し、費用対効果を評価しながら適切な利用期間を判断することが求められます。
8-4. 税務上の取扱いはどうなるの?
ファクタリング手数料は、法人税法上、売上債権売却損として損金算入が可能です。これにより、税務上の負担軽減効果が期待できます。ただし、具体的な処理方法については税理士等の専門家に相談することが重要です。
債権譲渡登記費用や契約時の印紙税なども適切に処理する必要があります。会計処理については、売掛金の減少と現金の増加、手数料の費用計上を適切に行うことが求められます。
消費税法上の取扱いについても、債権譲渡時の消費税の処理を適切に行う必要があります。
8-5. どのような書類が必要なの?
ファクタリングの申込には、一般的に以下の書類が必要となります。直近2期から3期分の決算書、試算表、売掛債権に関する請求書や契約書、銀行通帳のコピー(3か月分程度)、商業登記簿謄本、納税証明書などです。
ファクタリング会社によって要求される書類は異なるため、申込前に必要書類を確認し、事前に準備しておくことが重要です。書類に不備があると審査が長期化したり、否認の原因となったりする可能性があります。
書類の準備段階で内容の整合性を確認し、疑問点については事前に説明できるよう準備しておくことが効果的です。
8-6. 取引先にバレずに利用できる?
2社間ファクタリングを利用すれば、原則として取引先に知られることなくファクタリングを利用することができます。ただし、債権譲渡登記を行う場合は、登記情報から利用が判明する可能性があります。
絶対に取引先に知られたくない場合は、債権譲渡登記不要のファクタリング会社を選択することが重要です。ただし、この場合は手数料が高くなる傾向があります。
万が一利用が発覚した場合の対応策についても事前に検討しておき、取引関係への悪影響を最小限に抑える準備をしておくことが重要です。
9. まとめ
赤字決算の企業にとって、ファクタリングは従来の融資では得られない資金調達の機会を提供する有効な手段となり得ます。売掛先の信用力を重視する審査基準により、自社の財務状況にかかわらず資金調達の可能性が開かれることは、資金繰りに困窮する企業にとって大きな価値を持ちます。
しかし、高い手数料負担や根本的な事業改善への直接的効果の限界など、重要なデメリットも存在します。ファクタリングを単なる資金調達手段として捉えるのではなく、赤字脱却に向けた総合的な経営改善戦略の一部として位置づけることが重要です。
成功の鍵は、適切なファクタリング会社の選定、計画的な資金利用、そして並行した事業改善の実行にあります。短期的な資金繰り安定化を図りながら、中長期的にはファクタリングへの依存度を軽減し、健全な財務体質の構築を目指すことが求められます。

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