この記事の要点
- ビジネスローンとファクタリングの根本的な違いを理解することで、自社の状況に最適な資金調達方法を選択できるようになります。
- それぞれの審査基準、コスト構造、財務への影響を把握することで、将来的な資金調達戦略を効果的に立案できます。
- 緊急時の資金需要への対応方法を知ることで、事業継続リスクを最小限に抑えた経営が可能になります。

1. ビジネスローンとファクタリングの基本的な違い
事業資金の調達を検討する際、多くの経営者がビジネスローンとファクタリングのどちらを選ぶべきか迷われます。両者は迅速な資金調達が可能である点で共通していますが、その仕組みや特徴には大きな違いがあります。
本記事では、ビジネスローンとファクタリングの根本的な違いから、手数料・金利の相場、審査基準、財務への影響まで詳しく解説します。また、それぞれのメリット・デメリットを比較し、どのような状況でどちらを選ぶべきかの判断基準もお示しします。
この記事を読むことで、あなたの事業に最適な資金調達方法を見極め、効率的な資金繰り改善を実現できるでしょう。
1-1. 資金調達の仕組みの違い(借入 vs 売掛債権売却)
ビジネスローンとファクタリングの最も重要な違いは、資金調達の根本的な仕組みにあります。ビジネスローンは金融機関からお金を借りる「借入」による資金調達であり、借りた資金は元本と利息を合わせて返済する必要があります。
一方、ファクタリングは企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却する「資産売却」による資金調達です。経済産業省の「売掛債権の利用促進について」(令和4年12月改訂)によると、ファクタリングは中小企業の資金調達の多様化を図る重要な手段として位置づけられています。
ビジネスローンでは、申込企業の信用力や返済能力に基づいて融資が実行されます。融資を受けた企業は、契約で定められた期間内に元本と利息を返済しなければなりません。返済原資は事業の収益から捻出される必要があり、売上が低迷した場合でも返済義務は継続します。
ファクタリングでは、売掛債権の額面金額から手数料を差し引いた金額が企業に支払われます。売掛債権は既に確定した売上に基づく債権であるため、将来の売上予測に依存することなく資金化が可能です。売掛先から期日通りに入金があれば取引は完了し、追加の支払義務は発生しません。
1-2. 法的性質の違い(金銭消費貸借契約 vs 債権譲渡契約)
法的観点から見ると、ビジネスローンとファクタリングは全く異なる契約形態に基づいています。ビジネスローンは民法第587条に規定される「金銭消費貸借契約」に該当し、貸金業法の適用を受けます。金融庁の「貸金業者向けの総合的な監督指針」(令和5年3月改正)により、金利には利息制限法に基づく上限金利規制が適用されます。
利息制限法では、元本額に応じて段階的に上限金利が設定されており、元本額10万円未満では年率20%、元本額10万円以上100万円未満では年率18%、元本額100万円以上では年率15%が上限となります。
ファクタリングは民法第466条から第473条に規定される「債権譲渡契約」に基づく取引です。債権の売買であるため、貸金業法や利息制限法の適用を受けません。経済産業省の「ファクタリングに関する研究会報告書」(令和3年3月)では、ファクタリング手数料には法的な上限がないことが明記されています。
金銭消費貸借契約では、借主は元本と利息の返済義務を負い、返済が滞った場合は遅延損害金の支払義務も発生します。債権譲渡契約では、売主は債権を譲渡した時点で当該債権に関する権利と義務が買主に移転し、原則として追加の義務は負いません。
1-3. 返済義務の有無
ビジネスローンとファクタリングの決定的な違いの一つが返済義務の有無です。ビジネスローンでは借入金の返済義務が発生し、契約期間中は毎月または一定期間ごとに元本と利息を返済する必要があります。返済が困難になった場合でも、この義務は継続し、最悪の場合は法的措置を受ける可能性があります。
ファクタリングでは、売掛債権を売却した時点で取引は基本的に完了します。売掛先から期日通りに入金があれば、利用企業に追加の支払義務は発生しません。これは「ノンリコース」と呼ばれる契約形態で、売掛先が倒産などで支払不能になった場合でも、原則として利用企業が責任を負うことはありません。
ただし、ファクタリングにおいても例外的に償還請求権が付く場合があります。これは売掛債権の存在が虚偽だった場合や、利用企業が売掛金を他の支払いに充当してしまった場合などです。適切な利用であれば、このようなリスクは発生しません。
2. 審査基準と利用条件の違い
2-1. 審査対象の違い(申込者の信用力 vs 売掛先の信用力)
ビジネスローンとファクタリングでは、審査の重点が全く異なります。ビジネスローンの審査では、申込企業の信用力が最重要視されます。具体的には、企業の業績推移、財務状況、代表者の信用情報、事業の将来性などが詳細に検証されます。
日本政策金融公庫の「中小企業の資金調達に関する調査」(令和4年度)によると、金融機関は貸倒れリスクを最小限に抑えるため、決算書における売上高、営業利益、当期純利益の推移を重要な判断材料としています。赤字が続いている企業や債務超過の状態にある企業は審査通過が困難になります。
ファクタリングの審査では、売掛先企業の信用力が主要な評価対象となります。ファクタリング会社は売掛先から確実に代金を回収できるかを重視するため、売掛先の財務状況、業界での地位、過去の支払実績などを調査します。利用企業自体が赤字であっても、売掛先が優良企業であれば審査通過の可能性は高くなります。
2-2. 必要書類と審査期間の違い
必要書類と審査期間においても、両者には明確な違いがあります。ビジネスローンでは、法人の場合、代表者の本人確認書類、商業登記簿謄本、決算書2期分、納税証明書、事業計画書などの提出が求められます。個人事業主の場合は、本人確認書類、確定申告書、所得証明書などが必要となります。
ビジネスローンの審査期間は、書類審査、信用情報照会、担当者による面談、稟議など複数の段階を経るため、最短でも数日から1週間程度を要します。大手金融機関の場合、2週間から1ヶ月程度かかることも珍しくありません。
ファクタリングでは、必要書類が比較的簡素です。基本的には売掛金を証明する請求書、過去の入金実績を示す通帳、商業登記簿謄本程度で審査が可能です。決算書の提出を求められる場合もありますが、ビジネスローンほど詳細な財務分析は行われません。
ファクタリングの審査期間は非常に短く、最短で即日、遅くても2〜3営業日で結果が出ることが一般的です。オンライン完結型のファクタリングサービスでは、数時間で審査が完了する場合もあります。
2-3. 利用可能な企業の条件(赤字・債務超過企業での利用可能性)
赤字や債務超過の企業にとって、利用可能性に大きな差があります。ビジネスローンでは、申込企業の財務状況が重要な審査基準となるため、赤字決算や債務超過の企業は審査通過が困難です。特に2期連続の赤字や大幅な債務超過がある場合、大手金融機関での審査通過はほぼ不可能と考えられます。
ファクタリングでは、利用企業の財務状況よりも売掛債権の確実性が重視されるため、赤字や債務超過の企業でも利用可能です。売掛先が信用力の高い企業であれば、利用企業が税金を滞納していたり、リスケジュール中であったりしても、ファクタリングの利用は可能です。
創業1年未満の企業や個人事業主でも、適切な売掛債権を保有していればファクタリングを利用できます。これは、ファクタリング会社が売掛先からの回収に重点を置いているためです。
3. 資金調達コストと条件の違い
3-1. ビジネスローンの金利相場(年率3%〜18%)
ビジネスローンの金利は提供機関によって大きく異なります。日本銀行の「貸出先別貸出金」統計(令和5年12月)によると、メガバンクが提供するビジネスローンの金利相場は年率3%から12%程度で、比較的低い水準に設定されています。
地方銀行や信用金庫のビジネスローンでは、年率3%から15%程度の金利相場となっています。地域密着型の金融機関では、長期的な取引関係を重視する傾向があり、既存の取引先に対してはより有利な条件を提示する場合があります。
ノンバンク系のビジネスローンでは、年率5%から18%と幅広い金利設定となっています。日本貸金業協会の「貸金業者の業務実態調査」(令和4年度)によると、消費者金融系のビジネスローンでは上限金利が18%に設定されることが多く、信販会社系では10%から15%程度が一般的です。
実際に適用される金利は、申込企業の信用力、借入金額、返済期間、担保の有無などによって決定されます。初回利用時は高めの金利が適用されることが多く、継続利用や取引実績を積むことで金利の引き下げ交渉が可能になる場合があります。
3-2. ファクタリングの手数料相場(2社間:8%〜18%、3社間:2%〜9%)
ファクタリングの手数料は、契約形態によって大きく異なります。一般社団法人日本ファクタリング業協会の「ファクタリング業界実態調査」(令和4年度)によると、2社間ファクタリングでは、利用企業とファクタリング会社のみで取引が完結するため、手数料相場は債権額に対する割合として8%から18%程度と比較的高く設定されています。
2社間ファクタリングでは、売掛先に債権譲渡の事実を通知しないため、売掛金は一旦利用企業に入金されます。その後、利用企業がファクタリング会社に送金する仕組みとなっており、利用企業が売掛金を他の支払いに充当してしまうリスクがあります。このリスクを考慮して、手数料が高めに設定されています。
3社間ファクタリングでは、売掛先企業も契約に関与し、売掛金は売掛先からファクタリング会社に直接支払われます。この方式では未回収リスクが大幅に軽減されるため、手数料相場は債権額に対する割合として2%から9%程度と低く抑えられています。
3-3. 調達可能額と期間の違い
調達可能額において、ビジネスローンとファクタリングには明確な違いがあります。ビジネスローンでは、申込企業の信用力や担保の有無に応じて融資限度額が設定されます。一般的には数百万円から数千万円程度が上限となりますが、優良企業の場合は1億円を超える融資も可能です。
ファクタリングでは、保有する売掛債権の額面金額が調達可能額の上限となります。月商の範囲内でしか資金調達できないため、大規模な設備投資資金の調達には不向きです。一方で、売掛債権の範囲内であれば、企業規模に関係なく利用可能です。
資金調達期間については、ビジネスローンが最短即日から1週間程度、ファクタリングが最短数時間から3営業日程度となっています。緊急性を重視する場合はファクタリングが有利ですが、まとまった資金が必要な場合はビジネスローンの方が適しています。
4. 財務・信用情報への影響の違い
4-1. 信用情報機関への記録の有無
ビジネスローンとファクタリングでは、信用情報機関への記録において大きな違いがあります。ビジネスローンは金銭消費貸借契約に基づく借入であるため、契約情報、借入残高、返済状況などが信用情報機関に記録されます。株式会社日本信用情報機構の「信用情報の活用状況」(令和4年度)によると、法人の場合は株式会社日本信用情報機構や株式会社シー・アイ・シーに登録され、金融機関が与信判断を行う際の重要な参考資料となります。
ファクタリングは債権譲渡契約に基づく売買取引であり、借入ではないため信用情報機関への登録は行われません。ファクタリングの利用履歴が信用情報に記録されることはなく、将来の融資審査に直接的な影響を与えることもありません。
4-2. 財務諸表への影響(負債計上 vs オフバランス化)
財務諸表への影響は、両者の最も重要な違いの一つです。ビジネスローンでは、借入金が貸借対照表の負債の部に計上されます。この結果、総資産に対する負債の割合である負債比率が上昇し、財務安全性の指標が悪化します。
ファクタリングでは、売掛金が現金に変わるだけで、貸借対照表の資産の部内での移動となります。負債が増加することはないため、負債比率や自己資本比率に影響を与えません。この特徴は「オフバランス化」と呼ばれ、財務指標の改善効果があります。
企業会計基準委員会の「金融商品に関する会計基準」に基づき、ファクタリング手数料は売上債権売却損として営業外費用に計上されますが、一時的な費用であり、継続的な利息負担と比較すると財務への影響は限定的です。
4-3. 将来の銀行融資への影響度
将来の銀行融資への影響度は、資金調達方法選択の重要な判断要素です。ビジネスローンの利用は、信用情報機関に記録されるため、将来の融資審査で必ず確認されます。適切な返済実績があれば信用度向上につながりますが、ノンバンク系ビジネスローンの利用は、銀行から「資金繰りの悪化」として認識される可能性があります。
ファクタリングは信用情報に記録されないため、直接的には将来の融資審査に影響しません。しかし、決算書における売上債権売却損の計上から、ファクタリング利用が推測される場合があります。重要なのは、ファクタリングを一時的な資金調達手段として適切に活用し、根本的な収益性改善に取り組むことです。
5. 状況別の最適な選択基準と活用方法
5-1. ビジネスローンが適している場面と企業特性
ビジネスローンは、まとまった資金を中長期的に活用したい場合に最適です。設備投資や新規事業の立ち上げ、大規模な在庫購入など、売掛金の範囲を超える資金需要がある場合は、ビジネスローンの利用を検討すべきです。
中小企業庁の「中小企業実態基本調査」(令和4年度)によると、企業の信用力に問題がなく、安定した収益基盤を持つ企業にとって、ビジネスローンは効率的な資金調達手段となります。特に金融機関との取引実績がある企業や、担保となる不動産を保有する企業は、有利な条件でビジネスローンを利用できる可能性があります。
売掛金が少ない業種や現金商売を行う企業にとって、ビジネスローンは貴重な資金調達手段です。飲食業や小売業など、売掛債権をあまり持たない業種では、ファクタリングの利用が困難なため、ビジネスローンが主要な選択肢となります。
5-2. ファクタリングが適している場面と企業特性
ファクタリングは、緊急性の高い資金需要がある場合に威力を発揮します。支払期日が迫った買掛金の決済や、突発的な設備故障への対応、税金の納付など、即座に現金が必要な状況では、ファクタリングの迅速性が大きなメリットとなります。
企業の財務状況に問題があり、銀行融資やビジネスローンの審査通過が困難な場合も、ファクタリングが有効です。帝国データバンクの「企業倒産集計」(令和4年度)分析によると、赤字決算や債務超過の企業、創業間もない企業、税金滞納がある企業でも、優良な売掛債権を保有していればファクタリングを利用できます。
財務指標の改善を図りたい企業にとっても、ファクタリングは有効な手段です。オフバランス化により負債比率や自己資本比率が改善され、金融機関や投資家からの評価向上が期待できます。
5-3. 状況別判断基準と戦略的併用の可能性
資金調達方法の選択は、企業の置かれた状況を総合的に勘案して判断する必要があります。緊急性を最重視する場合はファクタリング、コストを重視する場合はビジネスローンを選択するのが基本的な考え方です。
資金需要が一時的なものか継続的なものかも重要な判断基準です。季節的な売上変動に伴う運転資金需要や、大口受注に伴う仕入資金需要など、一時的な資金需要にはファクタリングが適しています。一方、設備投資や人員増強など、継続的な資金需要にはビジネスローンが適しています。
両者の併用も検討に値する選択肢です。例えば、長期的な事業資金はビジネスローンで調達し、短期的な資金繰り改善にはファクタリングを活用するという使い分けが可能です。ただし、併用する場合は総借入額と手数料負担を慎重に検討し、返済能力を超えない範囲で利用することが肝要です。
6. よくある質問
6-1. どちらの方が資金調達しやすいですか?
一般的に、ファクタリングの方が資金調達しやすいとされています。ファクタリングでは利用企業の財務状況よりも売掛先の信用力が重視されるため、赤字決算や債務超過の企業でも優良な売掛債権があれば利用可能です。審査期間も短く、必要書類も比較的簡素であることから、迅速な資金調達が実現できます。
ビジネスローンでは申込企業の信用力が厳格に審査されるため、財務状況に問題がある企業は審査通過が困難です。ただし、優良企業であればビジネスローンの方が有利な条件で資金調達できる可能性が高いという使い分けが重要です。
6-2. 手数料と金利はどちらが安いですか?
コスト面では、一般的にビジネスローンの方が安価です。ビジネスローンの金利は年率3%から18%程度で、利息制限法に基づく上限金利規制があります。また、金利は年率で計算されるため、短期利用の場合は実際の負担額が抑えられます。
ファクタリングの手数料は債権額に対する割合として2%から18%程度ですが、これは期間に関係なく一律で適用されます。年率換算すると高い水準になる可能性がありますが、短期間の資金需要であれば、ファクタリングの方が総コストを抑えられる場合もあります。
6-3. 緊急時にはどちらが早いですか?
緊急性を重視する場合は、ファクタリングが圧倒的に有利です。オンライン完結型のファクタリングサービスでは、最短数時間で資金調達が可能です。2社間ファクタリングであれば、売掛先への通知や承諾取得が不要なため、利用企業の判断だけで手続きを進められます。
ビジネスローンでは、最短即日融資を謳っている商品もありますが、実際には数日から1週間程度を要することが一般的です。ただし、事前に審査を完了しているカードローン型のビジネスローンであれば、利用限度額の範囲内で即座に資金調達が可能です。
7. まとめ
ビジネスローンとファクタリングは、どちらも迅速な資金調達を可能にする有効な手段ですが、その仕組みと特徴には大きな違いがあります。ビジネスローンは借入による資金調達で返済義務を伴う一方、ファクタリングは売掛債権の売却による資金調達で返済義務がありません。
審査基準においても、ビジネスローンは申込企業の信用力を重視するのに対し、ファクタリングは売掛先の信用力を主要な評価対象とします。この違いにより、財務状況に課題がある企業でもファクタリングなら利用できる可能性があります。
コスト面では一般的にビジネスローンの方が安価ですが、緊急性や財務指標への影響を考慮すると、ファクタリングが適している場面も多くあります。重要なのは、企業の状況と資金需要に応じて最適な方法を選択することです。
資金調達方法の選択は企業の将来にも大きな影響を与えるため、短期的な資金繰り改善だけでなく、長期的な財務戦略の観点からも検討することが重要です。両者の特徴を正しく理解し、計画的な資金調達を実現しましょう。
