この記事の要点
- ファクタリングで請求書を偽造すると詐欺罪で最大10年以下の懲役という重い刑事処分を受け、企業の社会的信用が完全に失墜します。
- 現代の審査技術により偽造行為は高確率で発覚し、一時的な資金調達のメリットを大きく上回る深刻なリスクが存在します。
- 正確な書類作成と透明性の高い取引管理により、法令遵守したファクタリング利用で安全な資金調達が実現できます。

1. ファクタリング請求書偽造の犯罪該当性と法的根拠
ファクタリングで請求書を偽造する行為は詐欺罪や私文書偽造罪などの重大な犯罪行為であり、最大10年以下の懲役という深刻な法的制裁を受ける可能性があります。
資金調達を急ぐあまり、売掛金の金額を水増しした請求書や架空の請求書を作成してファクタリング会社に提出することは、決して許されない犯罪行為です。
本記事では、ファクタリングにおける請求書偽造が該当する犯罪の具体的内容、刑事罰の詳細、社会的制裁の実態、そして偽造がバレるメカニズムについて法的根拠に基づいて解説します。
適切な資金調達を行うためにも、どのような行為が犯罪に該当するのかを正しく理解することが重要です。
1-1. 詐欺罪の成立要件と刑事罰
ファクタリングで請求書を偽造してファクタリング会社を騙す行為は、刑法第246条の詐欺罪に該当します。詐欺罪は「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する」と規定されています。
ファクタリング会社を錯誤(さくご、誤解や勘違いの状態)に陥らせて売掛債権を買い取らせる行為が該当します。詐欺罪が成立するためには、欺罔行為、錯誤、交付、因果関係の4つの要件が必要です。
ファクタリングにおいては、偽造した請求書を提出する行為が欺罔行為にあたります。ファクタリング会社がその請求書を真正なものと信じて錯誤に陥り、売掛債権の買取代金を交付することで詐欺罪が成立します。
重要なのは、実際に売掛金が回収されなくても、ファクタリング会社から買取代金を受け取った時点で詐欺罪が成立することです。また、金額の大小に関わらず、偽造行為があれば詐欺罪として処罰される可能性があります。
1-2. 私文書偽造罪の適用範囲
請求書自体を偽造する行為については、一般的に私文書偽造罪ではなく詐欺罪が適用されます。これは請求書が自社名義で作成される文書であり、刑法第159条の私文書偽造罪が規定する「他人の印章もしくは署名を使用」という要件に該当しないためです。
ただし、ファクタリングに関連する他の書類を偽造した場合は私文書偽造罪が適用されます。具体的には、取引先との契約書を偽造した場合や、銀行通帳の取引履歴を改ざんした場合などです。
これらの書類は他者が作成または発行したものであるため、偽造すると刑法第159条の私文書偽造罪に該当します。私文書偽造罪の法定刑は3か月以上5年以下の懲役が科される可能性があります。
契約書の偽造においては、取引先の印章や署名を無断で使用することになります。このような行為は有印私文書偽造罪として重く処罰されます。また、金融機関が発行する通帳や取引履歴を改ざんする行為も私文書偽造罪の対象となります。
1-3. 横領罪の成立条件
ファクタリングで調達した資金を売掛先からの入金とは別の目的に使用する行為は、横領罪に該当する可能性があります。特に、2社間ファクタリングにおいて、売掛先から回収した資金をファクタリング会社に支払わずに流用した場合は業務上横領罪となります。
業務上横領罪の法定刑は10年以下の懲役という重い刑罰が科される可能性があります。通常の横領罪の法定刑は5年以下の懲役ですが、業務上の信任関係に基づいて委託された資金を横領する業務上横領罪はより重く処罰されます。
ファクタリング契約においては、売掛先からの入金をファクタリング会社に支払う義務があります。これを流用すると業務上横領罪が適用される可能性が高くなります。牽連犯(けんれんぱん、一つの犯罪を実行する手段として別の犯罪を犯すこと)として、詐欺罪と併せて処罰される場合もあります。
2. 刑事処罰の詳細と逮捕後の流れ
2-1. 詐欺罪の量刑と実刑リスク
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役であり、罰金刑が設定されていません。これは詐欺罪が重大犯罪として位置づけられていることを示しており、有罪が確定すれば懲役刑が科される可能性が高いことを意味します。
初犯であっても、被害額が大きい場合や悪質性が高い場合は実刑判決が下される可能性があります。ファクタリングにおける請求書偽造は計画的な犯行とみなされやすく、執行猶予が付かない実刑判決のリスクが高い犯罪です。
近年の判例では、数百万円程度の被害額でも実刑判決が下されるケースが見られます。また、複数のファクタリング会社に対して同様の手口で偽造を行った場合は、被害額の累積により刑期が重くなる傾向があります。
2-2. 逮捕から起訴までの手続き
請求書偽造による詐欺罪で逮捕された場合、警察署で最長48時間の取り調べが行われます。その後、検察庁に身柄が移され、検察官による最長24時間の取り調べが実施されます。
逃亡や証拠隠滅の恐れがあると判断された場合は、勾留請求が行われ、最長20日間の身柄拘束が継続されます。勾留期間中は、家族との面会も制限され、社会生活に深刻な影響を与えることになります。
検察官が起訴相当と判断した場合は、刑事裁判が開始されます。詐欺罪は重大犯罪であるため、略式起訴ではなく正式裁判となることが一般的です。
公開法廷での審理により、犯行内容が社会に知られることになります。これにより企業や個人の社会的信用は大きく損なわれ、事業継続が困難になる可能性があります。
2-3. 民事責任と損害賠償
刑事責任とは別に、ファクタリング会社に対する民事上の損害賠償責任も発生します。ファクタリング会社は、偽造により被った損害について、買取代金の返還に加えて、調査費用や弁護士費用などの損害賠償を請求することができます。
損害賠償額は被害額を大きく上回ることが一般的であり、数百万円の偽造事件でも数千万円の損害賠償請求を受ける可能性があります。また、遅延損害金も加算されるため、時間の経過とともに賠償額が増大していきます。
民事責任は破産手続きを行っても免責されない場合があります。詐欺による債務は「非免責債権」として扱われることがあり、自己破産後も支払い義務が継続する可能性があります。
3. 社会的制裁と信用失墜のリスク
3-1. 企業の社会的信用失墜
ファクタリングにおける請求書偽造が発覚した場合、企業の社会的信用は深刻な打撃を受けます。取引先企業は、偽造行為を行った企業との取引継続に慎重になり、新規取引の獲得も困難になります。
金融機関との関係も悪化し、融資の停止や既存融資の期限前回収を求められる可能性があります。信用情報機関への登録により、他の金融機関からの借入も困難になり、事業継続に必要な資金調達が極めて困難になります。
業界内での風評被害も深刻な問題となります。同業他社との関係悪化により、業界からの排除や孤立状態に陥る可能性があります。
復旧には長期間を要し、場合によっては事業廃止を余儀なくされることもあります。特に信用を重視する業界においては、一度失った信頼を回復することは極めて困難です。
3-2. 個人への社会的影響
経営者個人についても、社会的制裁は深刻です。刑事事件として報道された場合、個人名が公表され、社会復帰が極めて困難になります。
家族への影響も避けられず、就職や進学に支障をきたす可能性があります。専門職の場合は、資格剥奪や業務停止処分を受ける可能性があります。
弁護士、公認会計士、税理士などの士業では、刑事処分により資格を失い、従来の職業に従事できなくなります。再就職についても、経歴詐称やバックグラウンドチェックにより、犯罪歴が発覚するリスクがあります。
信用を重視する職種では、採用されること自体が困難になる場合があります。これらの影響は当事者だけでなく、家族の生活基盤も脅かすことになります。
3-3. 業界全体への影響
個別の偽造事件は、ファクタリング業界全体の信頼性にも影響を与えます。偽造事件の増加により、ファクタリング会社は審査を厳格化し、手数料の上昇や利用条件の厳格化につながります。
健全な事業者にとっても、ファクタリングの利用が困難になる可能性があります。業界全体の健全性確保のため、偽造行為の撲滅は重要な課題となっています。
金融庁などの監督官庁も、ファクタリング業界に対する監視を強化しており、規制強化により利用者の負担増加が懸念されています。
4. 請求書偽造がバレるメカニズム
4-1. ファクタリング会社の審査体制
ファクタリング会社は、請求書偽造を見抜くため、複数の審査手法を組み合わせています。請求書の記載内容と提出された契約書や取引履歴との整合性確認は基本的な審査項目です。
売掛先企業の信用調査も重要な要素となります。帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査機関のデータベースを活用し、売掛先の実在性や財務状況を確認します。
存在しない企業や倒産企業への請求書が提出された場合は、即座に偽造が判明します。取引履歴の分析により、過去の取引パターンとの相違点を検出します。
急激な取引金額の増加や、通常とは異なる取引条件の請求書は、詳細な調査対象となります。専門スタッフによる目視確認により、書式の不自然さや印影の相違なども発見されます。
4-2. 3社間ファクタリングでの発覚リスク
3社間ファクタリングでは、売掛先企業とファクタリング会社が直接連絡を取るため、偽造は即座に発覚します。売掛先への債権存在確認により、架空請求や金額の水増しは確実に発見されます。
売掛先企業が偽造に協力している場合でも、税務調査や会計監査により不正が発覚するリスクがあります。売掛先企業にとってもメリットがない偽造協力は、実際には困難であることが多くなっています。
ファクタリング会社は、3社間ファクタリングにおいて売掛先から直接回収を行うため、実際の入金がない場合は即座に偽造が判明します。2社間ファクタリングと比較して、偽造の成功率は極めて低くなります。
4-3. 技術的な検証手法
最近では、AI技術を活用した偽造検出システムが導入されています。過去の正常な請求書データとの比較により、異常なパターンを自動検出します。
書式の微細な相違や記載内容の不自然さも、技術的に発見可能となっています。電子透かしやQRコードなどの技術により、請求書の真正性を確認する仕組みも普及しています。
これらの技術により、偽造請求書の作成は技術的に困難になっています。ブロックチェーン技術を活用した請求書管理システムも開発されており、偽造や改ざんが技術的に不可能な仕組みが構築されています。
今後、このような技術の普及により、偽造行為はさらに困難になると予想されます。
5. 適切なファクタリング利用の実務ポイント
5-1. 正確な書類作成の重要性
ファクタリングを適切に利用するためには、提出書類の正確性が最も重要です。請求書の記載内容は、実際の取引内容と完全に一致させる必要があります。
金額、取引先名、支払期日などのすべての項目について、契約書や発注書との整合性を確認してください。書類作成時のミスを防ぐため、複数人でのチェック体制を構築することが推奨されます。
経理担当者と管理職による二重チェックにより、意図しない誤記載を防止できます。記載ミスが偽造と疑われることを避けるためにも、慎重な書類作成が必要です。
取引履歴の管理も重要な要素です。過去の取引データを適切に保管し、ファクタリング会社からの問い合わせに迅速に対応できる体制を整備してください。
5-2. 信頼できるファクタリング会社の選択
適切なファクタリング会社の選択は、トラブル回避の重要な要素です。金融庁への登録や業界団体への加盟状況を確認し、法令遵守体制が整備された会社を選択してください。
手数料が極端に低い会社や、審査が甘すぎる会社には注意が必要です。適正な審査を行わない会社は、違法業者の可能性があり、後日トラブルに発展するリスクがあります。
複数のファクタリング会社から見積もりを取得し、条件を比較検討することが重要です。ただし、同一の売掛債権を複数の会社に売却する二重譲渡は詐欺罪に該当するため、絶対に行わないでください。
5-3. 法的リスクの回避策
ファクタリング契約締結前に、弁護士や公認会計士などの専門家に相談することを推奨します。契約内容の法的問題点を事前に確認し、予期しないトラブルを回避できます。
社内研修により、従業員に対してファクタリングの適切な利用方法を周知することが重要です。特に、請求書偽造が重大犯罪であることを明確に伝え、コンプライアンス意識を徹底してください。
内部統制システムの構築により、不正行為を防止する体制を整備してください。承認フローの明確化や監査機能の強化により、組織的な不正を防止できます。
6. よくある質問
6-1. 請求書の金額を少し水増しするだけでも犯罪になるのですか?
金額の大小に関わらず、実際の取引金額と異なる請求書を作成してファクタリング会社に提出する行為は詐欺罪に該当します。数万円の水増しでも犯罪として処罰される可能性があり、「少しだけなら問題ない」という認識は危険です。
詐欺罪は故意犯であるため、意図的に金額を偽った場合は確実に犯罪が成立します。被害額の大小は量刑に影響しますが、犯罪の成立には関係ありません。
6-2. 売掛先が倒産して回収できない場合、詐欺になりますか?
売掛債権が実在し、請求書の内容が真実である限り、売掛先の倒産により回収できなくなっても詐欺にはなりません。ファクタリングには本来的に回収リスクが含まれており、売掛先の信用状況の悪化は通常の商取引リスクです。
ただし、倒産が確実にわかっている状況で意図的に隠してファクタリングを利用した場合は、詐欺罪に該当する可能性があります。売掛先の財務状況について知り得た重要な情報は、誠実に開示することが重要です。
6-3. 請求書を間違えて提出した場合はどうすればよいですか?
記載ミスや書類の取り違えに気づいた場合は、直ちにファクタリング会社に連絡して訂正を申し出てください。故意ではない誤りであることを説明し、正しい書類を再提出します。
早期の訂正により、偽造の疑いを避けることができます。ただし、契約締結後の訂正は困難な場合があるため、提出前の確認を徹底することが重要です。誠実な対応により、信頼関係を維持できます。
6-4. 二重譲渡とは何ですか?
二重譲渡とは、同一の売掛債権を複数のファクタリング会社に売却する行為です。既に売却済みの売掛債権を他の会社にも売却することは詐欺罪に該当し、重い刑事処分を受ける可能性があります。
債権譲渡登記により二重譲渡は発見されやすくなっており、確実に発覚する犯罪行為です。一つの売掛債権は一つのファクタリング会社にのみ売却することが法的に定められています。
6-5. ファクタリング会社から詐欺で告訴されるとどうなりますか?
ファクタリング会社から刑事告発された場合、警察による捜査が開始され、逮捕される可能性があります。詐欺罪は重大犯罪であるため、逮捕後は長期間の身柄拘束を受ける可能性があり、社会生活に深刻な影響を与えます。
また、刑事責任とは別に、高額な損害賠償請求も予想されます。企業の場合は事業継続が困難になり、個人の場合は社会復帰が極めて困難になる可能性があります。
6-6. 偽造がバレた場合、示談で解決できますか?
民事上の損害賠償については示談による解決が可能ですが、刑事責任については検察官の判断により起訴される可能性があります。示談成立は情状酌量の要素となりますが、起訴を確実に回避できるわけではありません。
詐欺罪は社会的影響の大きい犯罪であるため、示談成立後も刑事処分を受ける可能性があります。早期の専門家への相談により、適切な対応策を検討することが重要です。
7. まとめ
ファクタリングにおける請求書偽造は、詐欺罪として最大10年以下の懲役という重い刑事処分を受ける重大犯罪です。金額の水増しや架空請求だけでなく、請求日の変更や売掛先の偽装なども犯罪行為に該当し、発覚すれば確実に処罰されます。
現代のファクタリング会社は高度な審査体制を構築しており、偽造行為は技術的にも発見されやすくなっています。一時的な資金調達のために犯罪行為に手を染めることは、企業の存続を危険にさらす極めてリスクの高い行為です。
健全な事業運営のためには、正確な書類作成と透明性の高い取引記録の維持が不可欠です。適切な内部統制システムの構築により組織的な不正を防止し、法令遵守を徹底することで、安全で効果的なファクタリング利用が可能となります。

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