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金融庁が注意を喚起する給与ファクタリングの危険性とは?

2024.11.08

この記事の要点

  1. 金融庁の警告内容と給与ファクタリングの違法性を正確に理解することで、危険な金融サービスによる深刻な被害を未然に防ぐことができます。
  2. 適法な資金調達手段や公的支援制度の具体的な選択肢を把握することで、緊急時にも安全で合理的な資金調達が可能になります。
  3. 被害を受けた場合の相談窓口と対処法を知ることで、迅速かつ適切な解決に向けた行動を取ることができます。
ATOファクタリング

1. 金融庁が警告する給与ファクタリングの実態

給与ファクタリングは、個人が将来受け取る予定の給与を債権として業者に売却し、手数料を差し引いた金額を先払いで受け取るサービスです。しかし、金融庁はこのサービスに対して強い警告を発しており、利用者に深刻な被害をもたらす危険性を指摘しています。

近年、資金繰りに困った個人がインターネット上で手軽に申し込める給与ファクタリングに手を出し、結果として多重債務や職場での信用失墜といった深刻な問題に発展するケースが急増しています。

金融庁は令和2年3月から継続的にこの問題について注意喚起を行っており、給与ファクタリング業者の多くが実質的な貸金業を無登録で営んでいる違法行為であると明確に位置づけています。

1-1. 給与ファクタリングの基本的な仕組み

給与ファクタリングは、労働者が勤務先から将来支払われる給与債権を、ファクタリング業者に売却する形式を取っています。業者は給与額から手数料を差し引いた金額を利用者に先払いし、給与支給日に利用者が給与を受け取った後、業者に対して契約金額を支払うという流れになります。

この仕組みの表面的な説明では、通常の債権売買のように見えますが、実際の運用においては多くの問題が存在します。

業者は給与債権の買取と称しながら、実質的には利用者に対して高金利での貸付を行っているのが現実です。手数料名目で徴収される金額は、年利換算すると数百パーセントから千パーセントを超える場合も珍しくありません。

さらに深刻な問題として、給与債権そのものの法的な性質があります。労働基準法第24条では賃金の直接払いの原則が定められており、使用者は労働者本人に直接賃金を支払わなければならないとされています。

この法的制約により、給与債権の第三者への譲渡は極めて制限的であり、多くの場合において有効な債権譲渡として成立しない可能性が高いのです。

1-2. 金融庁による注意喚起の背景

金融庁が給与ファクタリングに対して厳しい姿勢を示す背景には、利用者被害の深刻さと業者の違法性があります。

金融庁は令和2年3月5日付けで「給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!」との注意喚起文書を公表し、給与ファクタリング業者の多くが貸金業登録を受けずに違法営業を行っていることを明確に指摘しました。

この注意喚起の背景となったのは、全国の消費生活センターや弁護士会に寄せられる被害相談の急増です。利用者は当初、簡単な資金調達手段として給与ファクタリングを利用しますが、高額な手数料により返済が困難となり、複数の業者から借り入れる多重債務状態に陥るケースが頻発しています。

金融庁はさらに、給与ファクタリング業者が用いる勧誘手法についても問題視しています。多くの業者がインターネット広告やSNSを通じて「審査なし」「即日現金化」「ブラックリストでも利用可能」といった甘い言葉で勧誘し、金融知識の乏しい消費者を標的にしている実態を把握しています。

2. 給与ファクタリングが違法とされる法的根拠

2-1. 貸金業法違反の可能性

給与ファクタリングの最も重要な法的問題は、貸金業法違反の可能性です。金融庁は給与ファクタリングについて、形式的には債権の売買契約であっても、実質的には金銭の貸付けに該当すると判断しています。この判断の根拠となるのは、給与債権の性質と取引の実態です。

貸金業法第2条第1項では、貸金業を「金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介を業として行うこと」と定義しています。給与ファクタリングにおいて、業者は利用者に対して現金を交付し、後日それを上回る金額の返還を受けるという構造になっており、これは実質的に金銭の貸付けそのものです。

さらに決定的な要因として、給与債権が完全に第三者に移転することが困難である点があります。労働基準法の制約により、使用者は労働者本人以外に賃金を支払うことができないため、給与ファクタリング業者が直接使用者から給与を回収することは法的に不可能です。

結果として、利用者が給与を受け取った後に業者に支払うという形になり、これは債権譲渡ではなく金銭貸借の実態を示しています。

2-2. 出資法違反による高金利問題

給与ファクタリング業者が徴収する手数料は、実質的な金利として計算すると出資法の上限金利を大幅に超過するケースが大半です。

出資法第5条第2項では、年利20パーセントを超える金利での貸付けを禁止しており、違反した場合は刑事罰の対象となります。

具体的な計算例を示すと、月給20万円の労働者が給与ファクタリングを利用し、手数料5万円を差し引かれた15万円を受け取るケースを考えてみます。

この場合、実質的に15万円を借り入れて20万円を返済することになり、1カ月間での利息は5万円となります。これを年利換算すると400パーセントという異常な高金利になります。

多くの給与ファクタリング業者は、この手数料を「債権買取手数料」や「事務手数料」と称して貸付金利ではないと主張していますが、金融庁はこのような名目の如何を問わず、実質的な金利として判断する立場を明確にしています。

利用者が支払う対価が実質的に金銭貸借の利息に該当する場合、出資法の規制対象となることは避けられません。

3. 給与ファクタリング業者の危険な手法と被害事例

3-1. 違法な取り立て行為の実態

給与ファクタリング業者による取り立て行為は、貸金業法で禁止されている違法な手法が多用されており、利用者に深刻な精神的苦痛を与えています。

貸金業法第21条では、債務者や関係者に対する威迫的な言動や、正当な理由なく夜間や早朝の取り立て、勤務先への連絡などを禁止していますが、多くの給与ファクタリング業者はこれらの規制を無視しています。

実際の被害事例では、支払いが遅れた利用者に対して業者が深夜や早朝に執拗に電話をかけ続けたり、威圧的な言葉で恫喝したりするケースが報告されています。

中には、利用者の家族や親族に対して債務の肩代わりを要求する悪質な業者も存在します。これらの行為は明らかに貸金業法違反であり、場合によっては脅迫罪や強要罪などの刑事犯罪に該当する可能性もあります。

さらに深刻な問題として、一部の業者は利用者の個人情報を悪用し、SNSのアカウントや連絡先を調べ上げて嫌がらせを行うケースも確認されています。このような行為は利用者のプライバシーを著しく侵害するものであり、個人情報保護法違反の疑いも生じます。

3-2. 職場への連絡による社会的信用失墜

給与ファクタリング業者の最も悪質な手法の一つが、利用者の勤務先への連絡です。多くの業者は契約時に勤務先の情報を収集し、支払いが滞った場合の圧力手段として勤務先への連絡を行います。この行為は利用者の社会的信用を著しく損なう結果をもたらします。

勤務先への連絡により、利用者は職場での立場が悪化し、最悪の場合は解雇や降格といった重大な不利益を被ることになります。

特に金融機関や公務員など、信用が重視される職業に従事している場合、その影響は計り知れません。また、同僚や上司からの信頼を失うことで、職場での人間関係にも深刻な亀裂が生じます。

このような勤務先への連絡は、貸金業法第21条第1項第6号で明確に禁止されている行為です。正当な理由なく債務者の勤務先に連絡することは違法行為であり、業者には行政処分や刑事罰が科される可能性があります。しかし、多くの給与ファクタリング業者は貸金業登録を行っていないため、このような規制を軽視している実態があります。

4. 個人向けファクタリングと給与ファクタリングの違い

4-1. 適法なファクタリングサービスとの区別

適法なファクタリングサービスと給与ファクタリングには、債権の性質と法的な有効性において根本的な違いがあります。

通常のファクタリングは、事業者が持つ売掛債権を第三者に譲渡することで資金調達を行う合法的な金融サービスです。売掛債権は譲渡が可能な財産権であり、債権者の合意があれば有効に第三者に移転することができます。

一方、給与債権については労働基準法第24条の直接払いの原則により、使用者は労働者本人に直接賃金を支払わなければならないとされています。

この法的制約により、給与債権を第三者に譲渡したとしても、使用者は依然として労働者本人に対して賃金支払義務を負うことになります。つまり、給与債権の譲渡は法的に完全な効力を持たないのです。

さらに重要な違いとして、通常のファクタリングでは債権者が債務者に対して直接債権回収を行うことができますが、給与ファクタリングでは業者が使用者から直接回収することは法的に不可能です。

結果として、利用者が給与を受け取った後に業者に支払うという構造となり、これは実質的な金銭貸借関係を示しています。

4-2. 債権譲渡の有効性における法的差異

債権譲渡の有効性について、売掛債権と給与債権では法的な取り扱いが大きく異なります。売掛債権の譲渡については、民法第466条以下の債権譲渡に関する規定が適用され、譲渡禁止特約がない限り原則として有効に譲渡することができます。

譲渡通知や承諾により第三者対抗要件も具備され、譲受人は債務者に対して直接権利行使が可能になります。

これに対して給与債権については、労働基準法の強行規定により譲渡の効力が制限されています。仮に給与債権の譲渡契約を締結したとしても、使用者は労働基準法第24条の規定により労働者本人に対して直接賃金を支払う義務を免れることはできません。

したがって、給与ファクタリング業者が使用者に対して給与の支払いを請求したとしても、使用者はこれに応じる法的義務を負わないのです。

この法的構造の違いにより、給与ファクタリングは実質的に債権譲渡ではなく、利用者に対する金銭の貸付けとしての性格を持つことになります。金融庁はこの点を重視し、給与ファクタリング業者に対して貸金業登録の必要性を強調しているのです。

5. 給与ファクタリング被害を避けるための対策

5-1. 資金調達の適法な代替手段

給与ファクタリングに頼らない適法な資金調達手段として、まず検討すべきなのは正規の金融機関からの借入れです。銀行や信用金庫のカードローン、消費者金融会社のキャッシングサービスは、貸金業法に基づく適正な金利で提供されており、年利20パーセント以下の合法的な範囲内で利用することができます。

クレジットカードのキャッシング機能も、緊急時の資金調達手段として有効です。多くのクレジットカード会社では年利18パーセント程度でキャッシングサービスを提供しており、給与ファクタリングと比較して圧倒的に低い金利で資金を調達することができます。

また、既存のクレジットカードがあれば審査も迅速に行われるため、急な資金需要にも対応可能です。

公的な支援制度の活用も重要な選択肢です。生活福祉資金貸付制度では、低所得世帯や高齢者世帯、障害者世帯に対して無利子または低利での貸付けを行っています。

緊急小口資金では最大10万円まで、総合支援資金では月額20万円以内で生活費の貸付けを受けることができ、給与ファクタリングよりもはるかに有利な条件で資金調達が可能です。

5-2. 被害を受けた場合の相談窓口

給与ファクタリング被害を受けた場合の相談窓口として、まず挙げられるのは消費生活センターです。全国の消費生活センターでは給与ファクタリングに関する相談を受け付けており、専門の相談員が被害の状況を聞き取り、適切な解決方法をアドバイスしています。

消費者ホットライン188番に電話をかけることで、最寄りの消費生活センターにつながります。

法的な解決が必要な場合は、弁護士や司法書士への相談が効果的です。日本弁護士連合会や各地の弁護士会では、多重債務や違法金融に関する法律相談を実施しており、給与ファクタリング被害についても専門的なアドバイスを受けることができます。

法テラスの法律相談援助制度を利用すれば、収入が一定額以下の場合に無料で法律相談を受けることも可能です。

警察への相談も重要な選択肢です。給与ファクタリング業者による違法な取り立て行為や脅迫行為については、警察に被害届を提出することで刑事事件としての捜査が開始される場合があります。特に身体への危害を加える旨の脅迫を受けた場合や、執拗な嫌がらせを受けている場合は、迷わず警察に相談することが重要です。

6. 金融庁の監督指導と今後の規制強化

6-1. 無登録業者への行政処分

金融庁は給与ファクタリング業者に対する監督指導を強化しており、貸金業法違反の疑いがある業者については積極的な調査と行政処分を実施しています。令和2年以降、複数の給与ファクタリング業者に対して業務停止命令や業務改善命令が発出されており、違法営業の撲滅に向けた取り組みが本格化しています。

特に重大な違反行為を行った業者に対しては、刑事告発も実施されています。無登録での貸金業営業は貸金業法第47条により刑事罰の対象となり、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金、またはこれらの併科が科される可能性があります。

金融庁は警察や検察庁と連携し、悪質な業者の摘発を進めています。

また、給与ファクタリング業者の多くがインターネット広告を利用していることから、金融庁は広告掲載事業者に対しても協力を要請しています。違法な金融業者の広告掲載を防止することで、消費者が被害に遭う機会を減らす取り組みが行われています。

6-2. 利用者保護のための制度改正

金融庁は給与ファクタリング被害の防止と利用者保護の観点から、制度改正の検討も進めています。貸金業法の運用解釈を明確化し、給与ファクタリングが実質的な貸金業に該当することを法的により明確に位置づける方向で検討が行われています。

消費者教育の充実も重要な取り組みの一つです。金融庁は金融リテラシー向上のための教育プログラムにおいて、給与ファクタリングの危険性について啓発活動を強化しています。特に若年層や金融知識の乏しい消費者に対して、正しい金融知識を身につけるための情報提供を積極的に行っています。

さらに、関係省庁との連携強化も図られています。労働基準法を所管する厚生労働省、消費者保護を担当する消費者庁、インターネット広告を規制する公正取引委員会など、関係省庁が連携して給与ファクタリング問題に取り組む体制が構築されています。

7. よくある質問

Q1: 給与ファクタリングは絶対に利用してはいけないのでしょうか?

給与ファクタリングは金融庁が明確に警告している違法性の高いサービスです。実質的な高金利貸付けであり、利用者に重大な被害をもたらす危険性があるため、利用は避けるべきです。緊急の資金需要がある場合は、正規の金融機関や公的支援制度を利用することを強く推奨します。

Q2: 既に給与ファクタリングを利用してしまった場合はどうすればよいですか?

まず消費生活センターや弁護士に相談し、適切な解決方法を検討することが重要です。違法な高金利での契約は無効となる可能性があり、過払い金の返還請求ができる場合もあります。

また、違法な取り立てを受けている場合は警察への相談も検討してください。

Q3: 給与ファクタリング業者から職場に連絡があった場合の対処法は?

勤務先への連絡は貸金業法で禁止されている違法行為です。まず事実関係を記録し、消費生活センターや弁護士に相談してください。職場には事情を説明し、今後の連絡を拒否する旨を業者に伝えることも重要です。必要に応じて警察への相談も検討してください。

Q4: 給与債権の譲渡契約書にサインしてしまいましたが、契約は有効ですか?

給与債権の譲渡は労働基準法により制限されており、完全な法的効力を持ちません。また、実質的な貸金業である場合、無登録業者との契約は貸金業法違反となり、契約の無効や取り消しが可能な場合があります。専門家に相談し、契約の有効性を検証することをお勧めします。

Q5: 他の資金調達方法が見つからない場合はどうすればよいですか?

生活福祉資金貸付制度や緊急小口資金など、公的な支援制度の利用を検討してください。また、家族や知人からの援助、勤務先の従業員貸付制度なども選択肢となります。

どうしても民間の金融サービスを利用する場合は、必ず貸金業登録を受けた正規の業者を選び、金利や返済条件を十分に確認してください。

8. まとめ

金融庁が注意を喚起する給与ファクタリングは、債権買取を装った実質的な違法貸金業であり、利用者に深刻な被害をもたらす危険な金融サービスです。

高額な手数料による実質的な超高金利、違法な取り立て行為、職場への連絡による社会的信用の失墜など、多方面にわたって利用者の生活を破綻させる要因を含んでいます。

法的な観点から見ても、給与ファクタリングは貸金業法違反と出資法違反の両面で問題があり、多くの業者が無登録で違法営業を行っている実態があります。給与債権の譲渡は労働基準法により制限されており、真正な債権譲渡として成立することは極めて困難です。

資金調達の必要がある場合は、正規の金融機関からの借入れや公的支援制度の利用を検討し、給与ファクタリングのような違法性の高いサービスには絶対に手を出さないことが重要です。

既に被害を受けている場合は、消費生活センターや弁護士などの専門機関に速やかに相談し、適切な解決を図ることが必要です。

金融庁は今後も給与ファクタリング業者に対する監督指導を強化し、利用者保護のための制度改正を進めています。消費者自身も正しい金融知識を身につけ、違法な金融業者による被害を未然に防ぐことが求められています。

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