この記事の要点
- 銀行系ファクタリングの3社間取引による透明で安全な仕組みを理解し、独立系との手数料差10ポイント以上の優位性を活用できます。
- 民法改正により債権譲渡禁止特約付き債権も利用可能となった最新の法的環境を把握し、より多くの債権を資金化対象とできます。
- 選び方の5つの重要基準を習得することで、自社に最適な銀行系ファクタリング会社を効率的に特定し、長期的な資金調達戦略を構築できます。

1. 銀行系ファクタリングの仕組み解説
銀行系ファクタリングは、銀行またはその関連会社が提供する売掛債権の早期資金化サービスです。民法第466条に基づく債権譲渡制度を活用し、企業が保有する売掛金をファクタリング会社に譲渡することで支払期日前の現金化を実現します。
本記事では銀行系ファクタリングの基本的な仕組みから選び方まで、利用を検討する企業が知っておくべき重要な情報を体系的に解説いたします。
1-1. 基本的な定義と運営形態
銀行系ファクタリングとは、銀行法に基づいて設立された銀行またはその子会社が提供するファクタリングサービスを指します。三菱UFJファクター株式会社、株式会社みずほファクター、三井住友ファイナンス&リース株式会社などの大手銀行グループの専門子会社が主要な事業者として市場をリードしています。
運営形態は3つの類型に分類されます。第一は銀行の直接運営型で、地方銀行を中心に銀行本体がファクタリング業務を提供します。第二は銀行子会社型で、メガバンクが銀行法第52条の2に基づく子会社として専門のファクタリング会社を設立します。第三は銀行関連会社型で、銀行が出資または業務提携により運営に関与します。
これらの運営形態に共通するのは、親会社である銀行が金融庁の直接監督下にあることです。銀行法、金融商品取引法、貸金業法などの関連法規を完全に遵守し、適切なリスク管理体制を構築することが法的に義務づけられています。
1-2. 債権譲渡の法的根拠
銀行系ファクタリングの法的根拠は民法第466条から第473条の債権譲渡制度に基づいています。民法第466条第1項では「債権は、法令の制限内において、自由に譲り渡すことができる」と規定されており、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に譲渡することで早期資金化を図る仕組みが法的に明確に保護されています。
2020年4月に施行された民法改正により、債権譲渡の利便性が大幅に向上しました。改正前は債権譲渡禁止特約がある債権の譲渡は無効とされていましたが、改正後は民法第466条第2項により「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない」と明文化されました。
債権譲渡は法的に売買契約として位置づけられるため、貸金業法の適用対象外となり、利息制限法の上限金利規制を受けることなく適正な価格設定が可能となっています。
1-3. 独立系との仕組み上の違い
銀行系ファクタリングと独立系の最も重要な仕組み上の違いは、資金調達構造と監督体制にあります。銀行系は預金保険法に基づく預金業務により極めて低コストで資金を調達できるため、ファクタリング事業においても競争力の高い手数料設定が構造的に可能となります。
日本銀行の統計によると、令和5年度における銀行の平均資金調達コストは年率0.2%程度となっています。一方で独立系ファクタリング会社は自己資本または金融機関からの借入により資金を調達しており、その調達コストは年率3%から8%の範囲で推移しています。
契約形態においても明確な違いがあります。銀行系ファクタリングは原則として3社間ファクタリングのみを提供し、売掛先の承諾を前提とした透明性の高い取引を実現しています。独立系では2社間ファクタリングも提供されており、売掛先への通知を避けることができる一方で、手数料が高く設定される構造となっています。
2. 3社間取引の具体的なプロセス
2-1. 申込みから契約締結まで
銀行系ファクタリングにおける3社間取引のプロセスは、法的要件を満たしながら確実な債権移転を実現するため、段階的なステップで構成されています。
第1ステップは事前相談です。利用企業はファクタリング会社に対して資金需要の背景、譲渡予定債権の概要、売掛先の基本情報を提供し、利用可能性について初期判断を受けます。
第2ステップは正式申込みです。利用企業は直近3期分の決算書、売掛債権明細、取引先との契約書、入金確認資料などの必要書類を提出します。書類の不備は審査期間の延長に直結するため、事前の十分な準備が重要となります。
第3ステップは信用調査です。ファクタリング会社は帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査機関を活用し、利用企業と売掛先の財務状況、取引実績を総合的に評価します。
第4ステップは内部審査および条件決定です。審査結果に基づき手数料率、買取可能額、その他の取引条件が最終決定されます。第5ステップは契約締結で、債権譲渡契約書の調印と債権譲渡登記の手続きが実施されます。
2-2. 売掛先への通知と承諾取得
3社間ファクタリングにおける売掛先への通知は、民法第467条に基づく法的義務であり、債権譲渡の対抗要件を満たすために不可欠な手続きです。
通知書の作成は利用企業が主体となって行いますが、ファクタリング会社から標準的なひな形が提供される場合が一般的です。通知書には債権譲渡の事実、譲渡債権の特定事項、今後の支払先の変更、支払期日および支払方法などが明記されます。
通知のタイミングは戦略的な判断が求められます。決算期末、大型設備投資の直前、業界の繁忙期などの時期を選択することで、事業拡大や効率化に伴う自然な資金需要である旨を印象づけることができます。
売掛先からの承諾取得は、通知書の送付から通常1週間から2週間程度の期間を要します。売掛先が承諾を拒否した場合は、代替債権への変更、他の資金調達手段への切り替えなどの選択肢を事前に準備しておくことが重要です。
2-3. 入金から回収完了まで
売掛先からの承諾書取得後、ファクタリング会社から利用企業への買取代金の入金が実行されます。入金額は売掛債権の額面金額からファクタリング手数料およびその他の必要経費を控除した金額となります。
入金と同時に債権の法的な所有権がファクタリング会社に移転します。利用企業は売掛債権に関する一切の権利を失い、以後の債権管理および回収業務はファクタリング会社が担当することになります。
売掛債権の支払期日において、売掛先は債権譲渡通知に従ってファクタリング会社に対して直接支払いを実行します。支払方法は銀行振込が原則となり、支払いの確認後、ファクタリング会社は利用企業に対して入金報告を行い、一連の取引が完了します。
3. 4つのサービス種類と仕組み
3-1. 買取ファクタリング
買取ファクタリングは銀行系ファクタリングの中核的なサービスであり、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社が買い取ることで早期資金化を実現する仕組みです。法的には民法第555条の売買契約として位置づけられます。
買取価格の算定は、売掛債権の額面金額から手数料、諸経費、リスクプレミアムを控除した金額となります。手数料率は売掛先の信用力、債権の支払期日までの期間、利用企業との取引実績などを総合的に評価して決定されます。銀行系ファクタリングでは売掛債権額の1.0%から5.0%程度が標準的な手数料率となっています。
債権の適格性判定では、確定債権であることが基本的な要件となります。商品の納入完了、サービスの提供完了、請求書の発行完了などにより債権が確定している必要があります。
3-2. 保証ファクタリング
保証ファクタリングは売掛債権の回収を保証するサービスであり、売掛先の倒産や支払不能により債権が回収できなくなるリスクを回避する仕組みです。買取ファクタリングが資金調達を主目的とするのに対し、保証ファクタリングはリスク管理を主目的とした金融サービスとなります。
保証の仕組みでは、利用企業が保証料を支払うことで、ファクタリング会社が売掛債権の支払いを保証します。保証料は売掛債権額の0.5%から3.0%程度が一般的で、売掛先の信用力と保証期間により決定されます。
保証の対象となる事由は、売掛先の倒産、民事再生手続きの開始、会社更生手続きの開始、破産手続きの開始などが含まれます。保証事由が発生した場合にファクタリング会社から保証金が支払われます。
3-3. 国際・一括ファクタリング
国際ファクタリングは海外企業との貿易取引において発生する売掛債権を対象とした専門的なサービスです。為替リスク、政治リスク、回収リスクを包括的にカバーし、輸出企業の海外取引の安全性を高める仕組みとなっています。
国際ファクタリングの仕組みでは、4者間の契約関係により構成されます。輸出企業、国内ファクタリング会社、輸入国のファクタリング会社、輸入企業の4者が連携し、国境を越えた債権管理と回収業務を実現します。
一括ファクタリングは企業の支払業務効率化を目的としたシステム統合型のサービスです。支払企業、ファクタリング会社、納入業者の3者が電子的なプラットフォームを通じて連携し、支払業務の効率化と納入業者の資金調達支援を同時に実現する仕組みとなっています。
4. 審査から入金の詳細な流れ
4-1. 2段階審査システム
銀行系ファクタリングでは利用企業と売掛先の両方について厳格な審査が実施されます。第1段階で利用企業の適格性、第2段階で売掛先の信用力と債権の適格性が詳細に評価される仕組みとなっています。
第1段階の利用企業審査では、財務健全性が最も重要な評価基準となります。直近3期分の決算書に基づき、売上高、営業利益、当期純利益の推移が分析されます。3期連続黒字、自己資本比率30%以上、流動比率120%以上などの定量基準が設定されています。
第2段階の売掛先審査では、信用調査機関のデータベースを活用した総合的な評価が実施されます。帝国データバンクや東京商工リサーチの信用評価、決算書の財務分析、業界内でのポジション、支払実績などが多角的に検討されます。
債権の適格性審査では、債権の確定性、支払期日、金額、法的な問題の有無などが確認されます。債権譲渡禁止特約の有無、相殺権の存在、担保権の設定状況なども詳細に調査されます。
4-2. 必要書類と準備方法
銀行系ファクタリングの審査を円滑に進めるためには、必要書類の完備と効率的な提出が重要となります。
基本書類として、直近3期分の税務申告書、直近の試算表、法人登記簿謄本、印鑑証明書が必要となります。売掛債権関連書類として、売掛債権明細表、取引先との基本契約書、納品書または検収書、請求書、過去の入金実績を示す通帳コピーなどが必要となります。
資金使途および事業計画として、資金調達の目的と使途、事業計画書、資金繰り表などの提出が必要となる場合があります。計画的かつ建設的な資金需要であることを示すことで、ファクタリング会社からの信頼を得ることができます。
書類提出の効率化では、電子データでの提出が推奨されます。PDFファイルでの提出により、郵送時間の短縮と書類管理の効率化が実現されます。
4-3. 契約から入金までの期間
銀行系ファクタリングにおける契約締結から入金実行までのタイムラインは、法的手続きの完了と安全性の確保を優先するため、標準的なケースでは1週間から2週間程度を要します。
審査完了から条件提示までは1営業日から3営業日程度を要します。条件合意から契約書作成までは3営業日から5営業日程度を要します。売掛先への債権譲渡通知から承諾取得までは1週間から2週間程度を要します。
契約締結から入金実行までは1営業日から3営業日程度となります。入金は銀行振込により実行され、平日午後3時までの手続き完了で当日入金、それ以降は翌営業日入金となります。
債権譲渡登記が必要な場合は、司法書士による登記手続きに2営業日から5営業日程度を要します。登記費用として登録免許税7,500円、司法書士報酬5万円から10万円程度が必要となります。
5. 銀行系ファクタリング会社の選び方
5-1. 手数料体系と透明性
銀行系ファクタリング会社の選択において、手数料体系の透明性と総コストの正確な把握は最も重要な判断基準となります。表面的な手数料率だけでなく、追加費用を含めた実質コストの比較検討が不可欠です。
基本手数料の比較では、債権額に応じた逓減構造を理解することが重要です。1,000万円未満の小口債権では3.0%から5.0%、1,000万円から1億円の中口債権では2.0%から4.0%、1億円を超える大口債権では1.0%から3.0%が標準的な水準となります。
追加費用の内訳確認では、債権譲渡登記費用、審査手数料、事務手数料、印紙代、出張費用などの詳細な開示を求めることが重要です。これらの費用は債権額に関わらず定額で発生するため、小口債権では実質的な手数料率を大幅に押し上げる要因となります。
継続利用における優遇条件の有無も長期的な判断材料となります。利用実績に応じた手数料率の引き下げ、審査簡素化、限度額の拡大などの優遇措置を提供する会社を選択することで、継続的なコスト削減が期待できます。
5-2. 取扱可能債権額と業種対応力
銀行系ファクタリング会社の選択では、自社の事業規模と業種特性に適合する取扱能力を有する会社を特定することが重要です。
取扱可能債権額の上限評価では、自社の最大債権規模と将来の成長計画を考慮することが重要です。都市銀行系では数十億円規模の超大型案件まで対応可能ですが、地方銀行系では10億円程度が上限となる場合があります。
最低取扱金額の確認も重要な評価要素です。多くの銀行系ファクタリング会社では数百万円から数千万円の最低利用額が設定されており、小口債権の利用は現実的ではありません。
業種対応力の評価では、各社の得意分野と実績を詳細に確認することが重要です。製造業、建設業、商社などの伝統的業種では多くの会社が対応していますが、IT業界、サービス業、医療・介護業界などでは対応可能な会社が限定される場合があります。
特殊債権への対応能力では、将来債権、仕掛債権、診療報酬債権、介護報酬債権などの取扱可能性を確認することが重要です。
5-3. 親会社の信頼性と継続性
銀行系ファクタリング会社の選択において、親会社である銀行の経営健全性と信頼性は長期的な取引関係を構築する上で極めて重要な判断基準となります。
親会社銀行の財務健全性評価では、自己資本比率、不良債権比率、ROE、格付け評価などの定量指標を確認することが重要です。メガバンクでは自己資本比率15%以上、不良債権比率1%以下という高い健全性を維持しています。
金融庁による検査結果と行政処分の履歴も重要な判断材料です。重大な法令違反や業務改善命令の履歴がある銀行グループでは、コンプライアンス体制に不安がある可能性があります。
事業継続性の観点では、ファクタリング事業への取組姿勢と戦略的位置づけを確認することが重要です。銀行の中期経営計画におけるファクタリング事業の位置づけ、投資方針から、長期的なサービス提供への意欲を判断できます。
6. よくある質問
6-1. 銀行系ファクタリングで最も大事なことって何?
銀行系ファクタリングの仕組みで最も重要なポイントは、3社間取引による透明性の確保と法的安全性の実現です。民法第467条に基づく対抗要件として売掛先への通知と承諾が必要となるため、債権譲渡の事実が法的に確実に保護されます。
また、親会社である銀行の信用力と監督体制により、継続的で安定したサービス提供が保証されている点も重要です。金融庁の監督下にある銀行グループとして、厳格なコンプライアンス体制により、利用企業は安心して長期的な取引関係を構築することができます。
6-2. 売掛先にどのくらい影響するの?
3社間取引の仕組みでは売掛先への債権譲渡通知が法的に必須となるため、ファクタリング利用の事実が必ず知られることになります。この影響は売掛先の企業文化により大きく異なります。
上場企業や大手企業では資金調達手段の多様化として理解される傾向がある一方、従来的な企業では資金繰り悪化として懸念される可能性があります。影響を最小化するためには、事業拡大を目的とした戦略的な資金調達である旨を明確に伝えることが重要となります。
6-3. 審査でどこが一番違うところ?
銀行系ファクタリングの審査では、売掛先の信用力に加えて利用企業の財務状況も厳格に評価される点が最大の違いです。独立系では売掛先の信用力を主要な判断基準とし、利用企業の状況は副次的な要素として扱われます。
一方、銀行系では利用企業の3期連続黒字、自己資本比率30%以上、流動比率120%以上などの厳格な財務基準が設定されています。この違いは、銀行の融資業務との連携と長期的な取引関係の構築を重視しているためです。
6-4. 手数料が安い理由って続くの?
銀行系ファクタリングの手数料の低さは、親会社である銀行の資金調達構造に根拠があります。預金保険法に基づく預金業務により年率0.2%程度という極めて低コストで資金を調達できるため、この優位性がファクタリング手数料に反映されています。
継続性については、銀行の事業戦略とファクタリング市場の成長性により保証されています。金融庁の統計によると、ファクタリング市場は年率15%の成長を続けており、銀行にとって収益性の高い事業分野となっています。
6-5. 選び方で最初に何をチェックすべき?
銀行系ファクタリング会社の選択で最初にチェックすべき条件は、自社の債権規模と取扱可能金額の適合性です。多くの銀行系ファクタリング会社では数百万円から数千万円の最低利用額が設定されており、小口債権の利用は現実的ではありません。
次に重要なのは、業種対応力と地域対応範囲の確認です。IT業界、サービス業、医療・介護業界などの特殊な業種では対応可能な会社が限定される場合があります。財務要件の事前確認も必要不可欠です。3期連続黒字、自己資本比率30%以上などの基本的な財務要件を満たしていることを確認することが効率的です。
7. まとめ
銀行系ファクタリングの仕組みは、民法第466条から第473条に基づく債権譲渡制度を活用し、3社間取引による透明性と法的安全性を確保した資金調達手段です。親会社である銀行の信用力と監督体制により、利用企業にとって安心できる取引環境が提供されています。
具体的な仕組みでは、申込みから入金まで段階的なプロセスを経て、確実な債権移転と資金化が実現されます。売掛先への債権譲渡通知と承諾取得が法的に必須となるため、取引の透明性が確保される一方で、売掛先との関係への配慮が重要となります。
銀行系ファクタリング会社の選び方では、手数料体系の透明性、取扱可能債権額と業種対応力、親会社の信頼性による総合的な評価が重要です。自社の事業規模と特性に適合する会社を選択することで、長期的で安定した取引関係を構築できます。
最も重要なことは、銀行系ファクタリングの仕組みが持つ特徴と制約を正確に理解し、自社の資金需要と財務状況に適合するかを慎重に判断することです。厳格な審査基準と利用条件があるものの、適格性を満たす企業にとっては極めて有効な資金調達手段となります。

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