この記事の要点
- インボイスファイナンスとファクタリングの正確な違いと法的根拠を理解し、適切な資金調達手法を選択できます。
- 緊急性・コスト・秘匿性の優先順位に応じた最適な選択基準により、自社に最適な資金調達戦略を構築できます。
- 手数料体系・審査基準・入金スピードの詳細比較により、具体的な利用計画と費用対効果を事前に検討できます。

1. インボイスファイナンスとファクタリングの本質的な違い
中小企業の資金調達において、従来の不動産担保融資に代わる新しい手法として注目されているのがインボイスファイナンスです。特にファクタリングとの関係性について混乱されている経営者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、インボイスファイナンスの正確な定義から、ファクタリングとの具体的な違い、それぞれの活用メリットまで詳しく解説します。この記事を読むことで、自社の資金調達ニーズに最も適した方法を選択するための判断材料を得られるでしょう。
1-1. インボイスファイナンスの正確な定義
インボイスファイナンスとは、企業が取引先に発行した請求書(インボイス)を活用した資金調達方法の総称です。英語の「Invoice」は請求書を意味し、「Finance」は資金調達を指します。つまり、売掛金を受け取る権利である売掛債権を資産として活用し、外部から資金を調達する手法全般を表しています。
重要なのは、インボイスファイナンスが単一の資金調達方法ではなく、請求書を基盤とした複数の手法を包含する概念であることです。従来の日本企業では不動産を担保とした資金調達が主流でしたが、担保不動産を保有していない中小企業や新興企業でも、売掛債権という流動資産を活用することで平等に資金調達の機会が得られます。
1-2. ファクタリングとインボイスファイナンスの関係性
ファクタリングは、インボイスファイナンスの代表的な手法の一つに位置づけられます。具体的には、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に譲渡し、売掛金の回収期日前に現金化する債権売買取引です。
この関係性を正確に理解するためには、インボイスファイナンスが上位概念であり、その中にファクタリングが含まれているという構造を把握することが重要です。一般的にインボイスファイナンスと呼ばれる場合、売掛金担保融資を指すことが多いのですが、厳密にはファクタリングも含めた包括的な概念として定義されています。
1-3. 資金調達における位置づけの相違
インボイスファイナンスとファクタリングでは、資金調達における基本的な仕組みが異なります。インボイスファイナンス(主に売掛金担保融資)は「デットファイナンス」に分類され、売掛債権を担保として金融機関から融資を受ける借入取引です。一方、ファクタリングは「アセットファイナンス」に該当し、売掛債権そのものを売却する資産売買取引となります。
この違いにより、会計処理上の扱いも大きく変わります。売掛金担保融資では借入金として負債計上されますが、ファクタリングでは債権売却のため負債は発生しません。また、返済義務の有無についても、融資では継続的な返済が必要ですが、ファクタリングでは売掛金回収時にファクタリング会社へ入金すれば取引が完了します。
2. インボイスファイナンスの3つの種類と特徴
2-1. 売掛金担保融資(ABL)の仕組み
売掛金担保融資は、Asset Based Lending(ABL)とも呼ばれ、企業が保有する売掛債権を担保として銀行や金融機関から融資を受ける手法です。一般的にインボイスファイナンスと表現される場合、この売掛金担保融資を指すことが最も多くなっています。
この方式では、売掛債権に根抵当権を設定し、融資枠を決定するか1年以内の短期融資を実行するのが一般的です。従来の不動産担保融資と異なり、売掛金という流動資産を担保とすることで、不動産を所有していない中小企業でも融資を受けることが可能になります。
ただし、あくまで融資契約のため、会計上は負債として計上され、契約条件に応じた返済義務が発生します。金融庁の監督指針により、売掛金担保融資は銀行業または貸金業の登録を受けた事業者のみが取扱い可能となっています。
2-2. インボイスディスカウントファイナンスの概要
インボイスディスカウントファイナンスは、主に輸出取引において活用される資金調達手法です。輸出企業が海外の取引先に対して発行した請求書を、金融機関が一定の手数料を差し引いて買い取り、代金の早期回収を実現します。
この手法は国際取引特有のリスク、特に為替変動リスクや政治的リスクを軽減する目的でも利用されます。海外企業との取引では、代金回収までの期間が長期化しやすく、その間のキャッシュフロー改善効果が特に高く評価されています。
ただし、取扱い金融機関が限定的で、輸出実績や取引先の信用力について厳格な審査が実施される傾向があります。経済産業省が推進する中小企業の海外展開支援策の一環として、この手法の普及が図られています。
2-3. ファクタリングの2つの取引形態
ファクタリングには、取引当事者の数に応じて2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの2つの形態があります。2社間ファクタリングは、利用企業とファクタリング会社のみで完結する取引で、売掛先への通知や承諾が不要です。最短即日での資金調達が可能な反面、手数料が比較的高く設定される傾向があります。
3社間ファクタリングは、利用企業、ファクタリング会社、売掛先の3者が関与する取引です。売掛先の承諾を得ることで手数料が大幅に削減され、1%から5%程度の低コストでの利用が可能です。また、売掛金の回収業務をファクタリング会社が代行するため、管理コストの削減効果も期待できます。
ただし、売掛先への通知が必要で、申込みから入金まで2週間程度の時間を要する点に注意が必要です。民法第466条から第473条に基づく債権譲渡契約として実行されるため、法的な対抗要件の具備も重要な要素となります。
3. ファクタリングと売掛金担保融資の法的・会計上の相違点
3-1. 法的性質の根本的違い
ファクタリングと売掛金担保融資では、取引の法的性質が180度異なります。ファクタリングは民法第466条から第473条に基づく債権譲渡契約であり、売掛債権の所有権がファクタリング会社に完全に移転します。一方、売掛金担保融資は金融商品取引法および銀行法に基づく融資契約で、売掛債権はあくまで担保として設定されるにとどまります。
この法的性質の違いにより、リスク負担の構造も大きく変わります。ファクタリングでは、売掛先の支払不能リスクをファクタリング会社が負担する「ノンリコース取引」が原則です。売掛金担保融資では、売掛先が支払不能となった場合でも借入企業に返済義務が残存し、最終的なリスクは借入企業が負担することになります。
3-2. 会計処理上の取扱い差異
会計処理においても両者は明確に区別されます。ファクタリングは売掛債権の売却取引として処理され、売掛金勘定から除外されると同時に、手数料相当額は売上債権売却損として費用計上されます。負債の増加は発生しないため、自己資本比率や借入金比率などの財務指標に影響を与えません。
売掛金担保融資では、借入金として負債に計上されるため貸借対照表の負債項目が増加します。金利負担は支払利息として損益計算書に計上され、返済に応じて借入金残高が減少する従来の融資と同様の会計処理が適用されます。
この違いは、金融機関からの格付けや与信判断において重要な評価要素となります。法人税法における損金算入の取扱いについても、ファクタリング手数料は売上債権売却損として適切に処理されることが税務上の要件となります。
3-3. 監督法令と業者規制の相違
取扱い業者に適用される法的規制も大きく異なります。売掛金担保融資は融資業務に該当するため、銀行法または貸金業法の登録を受けた事業者のみが取扱い可能です。金融庁による監督下にあり、金利規制や与信管理に関する厳格なルールが適用されます。
ファクタリングは債権売買取引であるため、現時点では特定の業法による規制はありません。ただし、経済産業省が2023年に公表した「ファクタリングに関する法的整理」において、実質的に融資と同様の機能を有する場合の規制強化が検討されており、今後の法制度整備が注目されています。
消費税については、売掛債権の譲渡は消費税法施行令第9条第1項第5号に基づく非課税取引に該当するため、ファクタリング手数料に消費税は課税されません。この法的根拠により、ファクタリング利用時に消費税の二重課税は発生しない仕組みが確保されています。
4. 利用シーン別の最適な選択基準
4-1. 緊急性を重視する場合の判断基準
資金調達の緊急性が高い場合、最も適しているのは2社間ファクタリングです。売掛先への通知が不要で、最短即日から3営業日程度での資金化が可能です。審査も売掛先の信用力を中心とするため、自社の業績や財務状況に不安がある場合でも利用しやすい特徴があります。
売掛金担保融資では、担保評価や融資審査に1週間から2週間程度を要するのが一般的です。3社間ファクタリングも売掛先の承諾取得が必要なため、同程度の期間が必要となります。ただし、継続的な資金需要が見込まれる場合、一度融資枠を設定すれば迅速な追加融資が可能になる点は売掛金担保融資の優位性です。
特に建設業や製造業など、工事代金や納品代金の回収期間が長期化しやすい業界では、緊急時の資金調達手段として2社間ファクタリングの活用効果が高く評価されています。
4-2. コスト重視での選択ポイント
資金調達コストを最優先する場合、3社間ファクタリングまたは売掛金担保融資が有力な選択肢となります。3社間ファクタリングの手数料相場は年率換算で1%から5%程度と低水準です。売掛金担保融資の金利は8%から15%程度ですが、融資期間が長期にわたる場合、トータルコストでの比較が重要になります。
2社間ファクタリングは利便性が高い反面、手数料が10%から20%程度と高額に設定される傾向があります。ただし、一時的な資金需要で短期間の利用に留まる場合、年率換算での負担は軽減されます。また、ファクタリングでは金利負担が継続しないため、売掛金回収後の財務負担がない点も考慮すべき要素です。
介護事業や運送業など、比較的安定した売掛先を有する業界では、3社間ファクタリングによるコスト削減効果が特に顕著に現れる傾向があります。
4-3. 取引先との関係性を考慮した選択
売掛先との関係性を重視する場合、2社間ファクタリングまたは売掛金担保融資の選択が適切です。これらの手法では売掛先への通知が不要で、資金調達の事実を秘匿できます。特に、売掛先に経営状況の悪化を懸念される可能性がある場合、この秘匿性は重要な判断要素となります。
一方、売掛先との関係が良好で、資金調達への理解が得られる場合、3社間ファクタリングの活用によりコスト削減効果が期待できます。近年は、中小企業の資金繰り改善支援として、売掛先企業がファクタリング利用に積極的に協力するケースも増加しています。
IT業界では、元請企業がファクタリング利用に理解を示すケースが多く、3社間ファクタリングの活用による双方のメリット創出が実現されています。売掛先の協力度合いによって最適な手法を選択することが重要です。
5. 手数料・審査・入金スピードの比較分析
5-1. 手数料体系の詳細比較
インボイスファイナンス各手法の手数料体系には明確な特徴があります。売掛金担保融資では年率8%から15%の金利が適用され、担保評価費用や登記費用として別途10万円から30万円程度の実費が発生します。継続利用する場合、金利負担は毎月発生しますが、一度設定した融資枠内での追加借入れでは手数料が不要な場合があります。
ファクタリングでは売掛債権額に対する手数料率で費用が決定されます。2社間ファクタリングで10%から20%、3社間ファクタリングで1%から5%が相場となっています。売掛金回収期間が短い場合、年率換算での負担は売掛金担保融資を下回る可能性があります。
また、債権譲渡登記を実施する場合、登記費用として5万円から10万円程度が追加で必要です。ただし、登記費用は司法書士報酬を含む実費相当額であり、ファクタリング会社の利益ではない点に注意が必要です。
5-2. 審査基準と通過率の実態
審査基準においても各手法で重視するポイントが異なります。売掛金担保融資では、利用企業の信用力、財務状況、事業継続性が主要な審査項目です。複数の継続取引先を有し、安定した売掛金が発生していることが審査通過の前提条件となります。金融機関によっては、売上高や従業員数などの最低基準が設定されている場合があります。
ファクタリングの審査では、売掛先の信用力と売掛債権の確実性が最重要視されます。利用企業が赤字決算や債務超過の状態であっても、売掛先が上場企業や公的機関などの場合、審査通過の可能性は高くなります。
一般的に、ファクタリングの審査通過率は70%から80%程度とされ、従来の融資と比較して利用しやすい資金調達手法として位置づけられています。ただし、売掛債権の真正性や二重譲渡の有無については厳格な確認が実施されます。
5-3. 入金スピードの実績データ
入金スピードでは2社間ファクタリングが最も優位性を示しています。オンライン完結型のサービスでは、申込みから最短2時間での入金実績もあります。必要書類がそろっている場合、即日入金の実現率は80%以上とされています。ただし、初回利用時は面談や詳細審査が必要となるため、1営業日から3営業日程度を要する場合が一般的です。
売掛金担保融資では、担保評価や登記手続きの関係で1週間から2週間程度の時間が必要です。3社間ファクタリングも売掛先の承諾取得に時間を要するため、同程度の期間となります。
ただし、継続利用の場合、売掛金担保融資では既存融資枠内での迅速な実行が可能で、2営業日から3営業日での入金も実現されています。緊急性とコストのバランスを考慮した選択が重要となります。日本ファクタリング業協会の調査によると、継続利用時の入金スピードは各手法で大幅に改善される傾向が確認されています。
6. よくある質問
6-1. インボイス制度の適格請求書でなくてもインボイスファイナンスは利用できますか?
インボイスファイナンスの利用において、インボイス制度の適格請求書である必要はありません。ファクタリング会社や金融機関が重視するのは売掛債権の存在と回収可能性であり、請求書に課税事業者番号が記載されているかどうかは審査に影響しません。免税事業者が発行した請求書でも、取引の実在性と売掛先の支払能力が確認できれば利用可能です。
6-2. 同じ売掛債権を複数の方法で資金化することは可能ですか?
同一の売掛債権を重複して資金化することは法的に禁止されています。売掛金担保融資で担保設定した債権をファクタリングで譲渡する行為は、二重譲渡として契約違反に該当します。民法第466条の債権譲渡規定においても、債権の重複譲渡は無効とされています。ただし、異なる売掛債権であれば、売掛金担保融資とファクタリングを並行して活用することは可能です。
6-3. どちらの方法が信用情報に影響しますか?
売掛金担保融資は融資契約のため、金融機関の信用情報機関への登録対象となります。返済遅延が発生した場合、信用情報に影響する可能性があります。一方、ファクタリングは債権売買取引のため、信用情報機関への登録は行われず、利用履歴が信用情報に記録されることはありません。将来の借入れへの影響を考慮する場合、この違いは重要な判断要素となります。
6-4. 建設業や介護業など特定業界での利用制限はありますか?
インボイスファイナンスは業界を問わず利用可能ですが、業界特性により適した手法が異なります。建設業では工事代金の回収期間が長期にわたるため、3社間ファクタリングや売掛金担保融資が適しています。介護業では診療報酬債権を対象とした専用のファクタリングサービスが提供されています。IT業や製造業では2社間ファクタリングの利用が多く、業界特性に応じた選択が重要です。
7. まとめ
インボイスファイナンスは請求書を活用した資金調達の総称であり、その中でファクタリングは債権譲渡による代表的な手法として位置づけられます。売掛金担保融資が融資契約である一方、ファクタリングは債権売買契約という法的性質の違いにより、会計処理、リスク負担、利用条件が大きく異なります。
緊急性を重視する場合は2社間ファクタリング、コスト削減を優先する場合は3社間ファクタリングまたは売掛金担保融資、継続的な資金需要には売掛金担保融資が適しています。自社の資金調達ニーズ、財務状況、取引先との関係性を総合的に判断し、最適な手法を選択することで、効率的な資金調達と健全な経営基盤の確立が実現できるでしょう。
※本記事は2025年6月時点の法令および制度に基づいて作成されています。

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