ファクタリング

併存的債務引受方式とファクタリング: 2つの資金調達法の違い

2024.11.13

この記事の要点

  1. 併存的債務引受とファクタリングの法的性質や実務上の違いを正確に理解でき、自社の状況に最適な資金調達方法を選択するための判断材料を得ることができます。
  2. 各資金調達方法の具体的なメリット・デメリットや適している企業の特徴が明確になり、財務状況や取引先との関係性を考慮した戦略的な意思決定が可能になります。
  3. 会計・税務上の取り扱いや専門家への相談ポイントまで体系的に解説されているため、実務における具体的な対応方法や注意点を把握することができます。

目次

ATOファクタリング

1. はじめに

1-1. 本記事の目的と対象読者

企業経営において資金調達は常に重要な課題です。特に中小企業や成長期にある企業にとって、適切な資金調達方法の選択は事業の継続性と発展に直結する重要な経営判断となります。

本記事では、資金調達の選択肢として注目される「併存的債務引受」と「ファクタリング」という二つの方法について詳しく解説します。これらの方法は一見似ているようで、法的性質や実務上の取り扱いが大きく異なります。

この記事は主に企業の経営者、財務責任者、資金調達の担当者を対象としています。法律や金融の専門知識がなくても理解できるよう、基本的な概念から実務的なポイントまで体系的に説明いたします。

両方式の違いを正確に理解することで、自社の状況に最適な資金調達方法を選択するための判断材料としていただければ幸いです。

1-2. 資金調達の重要性と多様な選択肢

企業活動を継続・拡大するためには、適切なタイミングで必要な資金を調達することが不可欠です。資金不足は事業機会の喪失や取引先との関係悪化、最悪の場合は事業継続の危機につながりかねません。

現代の企業経営においては、従来の銀行融資だけでなく、様々な資金調達の選択肢が存在します。エクイティファイナンス、デットファイナンス、メザニンファイナンスなど、資金の性質や調達条件に応じた多様な方法があります。

その中でも「併存的債務引受」と「ファクタリング」は、既存の債権・債務関係を活用した資金調達方法として、近年注目を集めています。両者はいずれも債権・債務に関わる取引ですが、その法的性質や実務的な影響は大きく異なります。

企業の財務状況や取引先との関係性、将来の事業計画などを総合的に考慮し、最適な資金調達方法を選択することが経営者には求められています。本記事では、その判断の一助となる情報を提供します。

2. 併存的債務引受の基本

2-1. 併存的債務引受とは何か

併存的債務引受とは、既存の債務者(原債務者)に加えて、新たな債務者(引受人)が同一内容の債務を負担する法律行為です。この結果、原債務者と引受人の両方が債権者に対して同一の債務を負うことになります。

併存的債務引受が行われると、原債務者と引受人は連帯債務者の関係に立ちます。債権者は原債務者と引受人のいずれに対しても、債務の全額について履行を請求することができます。

例えば、A社がB社に対して1000万円の債務を負っている状況で、C社が併存的債務引受を行うと、B社はA社とC社のどちらに対しても1000万円の支払いを請求できるようになります。ただし、いずれかが全額を支払えば、債務は消滅します。

併存的債務引受は、債権者にとっては債権回収の可能性が高まるというメリットがある一方、引受人にとっては他者の債務を引き受けるというリスクを伴う取引です。

2-2. 併存的債務引受の法的根拠と民法上の位置づけ

併存的債務引受は、2020年4月に施行された改正民法において明文化されました。民法第470条第1項に「債務者の債務と同一の内容の債務を負担する旨の他人と債権者との契約」として規定されています。

改正前の民法では明文の規定がなかったものの、判例・学説上はすでに認められていた法律行為です。民法改正によって法的な位置づけが明確になり、実務上も活用しやすくなりました。

併存的債務引受は、債務引受の一種であり、免責的債務引受(原債務者が債務から解放される形態)と対比されます。併存的債務引受では原債務者の債務は消滅せず、引受人が新たに同一内容の債務を負担するという特徴があります。

法的には、原債務と引受人の債務は同一性を有する別個の債務と考えられています。そのため、原債務に付随する担保権や保証は原則として引受人の債務には及びません。

2-3. 併存的債務引受の成立要件と手続き

併存的債務引受の成立には、主に二つの方法があります。一つは債権者と引受人の間の契約によるもの、もう一つは債務者と引受人の間の契約に債権者が承諾を与えるものです。

債権者と引受人の間の契約による場合、原債務者の意思に関わらず成立します。この場合、原債務者の承諾は必要ありません。これは民法第470条第1項に規定されています。

一方、債務者と引受人の間の契約による場合には、債権者の承諾が必要です。この承諾があって初めて債権者に対する効力が生じます。これは民法第470条第2項に規定されています。

実務上の手続きとしては、債務引受契約書の作成が一般的です。契約書には引受の対象となる債務の特定、引受の範囲、原債務者と引受人の関係、求償関係などを明記します。また、対抗要件として債権者への通知や承諾の取得が必要な場合もあります。

3. ファクタリングの基本

3-1. ファクタリングとは何か

ファクタリングとは、企業が保有する売掛金(売掛債権)を金融機関や専門のファクタリング会社に売却し、資金を調達する金融手法です。通常の債権回収を待たずに、早期に資金化できる点が最大の特徴となっています。

ファクタリングでは、売掛金を有する企業(売主)が債権をファクタリング会社(買主)に譲渡し、その対価として売掛金額から手数料を差し引いた金額を受け取ります。ファクタリング会社は後日、債務者(売掛先企業)から債権の回収を行います。

例えば、D社がE社に対して販売した商品の売掛金1000万円がある場合、D社はこの売掛金をファクタリング会社に売却し、例えば950万円(差額50万円が手数料)を即時に受け取ることができます。後日、E社からの支払いはファクタリング会社が受け取ります。

ファクタリングは債権譲渡の一種であり、資金調達だけでなく、債権管理や回収代行といった機能も併せ持つ金融サービスとして発展してきました。

3-2. ファクタリングの種類と特徴

ファクタリングには複数の種類があり、それぞれ特徴やメリットが異なります。主な種類としては、買取型と保証型、2社間と3社間の区分があります。

買取型ファクタリングは、債権をファクタリング会社が完全に買い取る形態です。債務者が支払不能になった場合でも、売主企業はファクタリング会社に対して返還義務を負いません。そのため、売掛金の回収リスクをヘッジする効果があります。

保証型ファクタリングは、債務者が支払不能になった場合、売主企業がファクタリング会社に対して債権相当額を返還する義務を負う形態です。手数料は買取型より安価ですが、回収リスクは売主企業に残ります。

2社間ファクタリングは、売主企業とファクタリング会社の間だけで完結する取引で、債務者には通知されないケースも多いです。手続きが簡便である一方、債務者との関係に影響を与える可能性があります。

3社間ファクタリングは、売主企業、ファクタリング会社、債務者の三者間で行われる取引です。債務者もファクタリングの実施を認識し、支払先がファクタリング会社に変更されます。透明性が高い反面、手続きが煩雑になりがちです。

各企業の状況や目的に応じて、最適なファクタリングの形態を選択することが重要です。

3-3. ファクタリングの法的位置づけ

ファクタリングは民法上の債権譲渡として位置づけられます。民法第466条以下に規定される債権譲渡の一形態であり、売掛債権を第三者に移転させる取引です。

債権譲渡の対抗要件については、民法第467条に規定されています。債務者以外の第三者に対する対抗要件は確定日付のある通知または承諾であり、債務者に対する対抗要件は通知または承諾です。

ファクタリングでは、債権譲渡登記や債務者への通知など、適切な対抗要件を具備することが重要です。特に複数の金融機関と取引がある場合や、将来的な債権譲渡が予定されている場合には、対抗要件の具備が重要な意味を持ちます。

近年では電子記録債権(でんさい)を活用したファクタリングも普及しています。でんさいを用いる場合は、譲渡登記や債務者への通知とは異なり、電子記録債権法に基づく電子記録による譲渡方式となります。これにより対抗要件具備の手続きが簡略化され、より安全かつ効率的に債権譲渡が行えるという特徴があります。

また、債権譲渡禁止特約が付されている場合には、ファクタリングが制限される可能性があります。ただし、改正民法では、譲受人が特約の存在を知らなかった場合には、特約の効力を譲受人に対抗できない旨が規定されています。

ファクタリングは法的には単なる債権譲渡ですが、実務上は資金調達、債権管理、信用補完などの機能を持つ総合的な金融サービスとして発展しています。

4. 併存的債務引受とファクタリングの違い

4-1. 法的性質の違い

併存的債務引受とファクタリングの最も根本的な違いは、その法的性質にあります。併存的債務引受は債務に関する法律行為であるのに対し、ファクタリングは債権に関する法律行為です。

併存的債務引受は、既存の債務者に加えて新たな債務者が同一内容の債務を負担するものです。債権者と債務者の関係は維持されたまま、新たな債務者が加わります。この結果、債権者の債権回収の可能性が高まります。

一方、ファクタリングは債権の譲渡であり、債権者の地位がファクタリング会社に移転します。原債権者(売主企業)は債権を失う代わりに、その対価として金銭を受け取ります。債務者にとっては支払先が変更されることになります。

この法的性質の違いにより、契約当事者の関係性、リスクの分担、会計・税務上の取り扱いなど、様々な実務的な違いが生じています。

4-2. 契約当事者の関係性の違い

併存的債務引受とファクタリングでは、契約当事者の関係性が大きく異なります。このことは実務上の手続きや権利義務関係に影響を与えます。

併存的債務引受では、原債務者と引受人が連帯債務者の関係に立ちます。債権者は両者のいずれに対しても債務の全額を請求できます。原債務者と引受人の間には求償関係が生じ、一方が全額を支払った場合、他方に対して求償権を行使できます。

ファクタリングでは、債権者の地位がファクタリング会社に移転します。原債権者と債務者の間の契約関係は終了し、新たにファクタリング会社と債務者の間に債権債務関係が生じます。原債権者はファクタリング会社から対価を受け取るという関係になります。

併存的債務引受では三者の関係が継続するのに対し、ファクタリングでは債権者の交代が生じるという点が大きな違いです。このことは取引先との関係性を考慮する際に重要なポイントとなります。

4-3. 債権・債務の扱いの違い

併存的債務引受とファクタリングでは、債権・債務の扱いが根本的に異なります。この違いは資金調達の目的や状況によって、どちらが適しているかを判断する重要な要素となります。

併存的債務引受では、原債務は存続したまま、新たな債務者が同一内容の債務を負担します。債権者から見れば、同一内容の債権を複数の債務者に対して持つことになり、債権の二重化が生じます。ただし、一方の債務者から全額の弁済を受ければ、他方の債務者に対する債権も消滅します。

一方、ファクタリングでは債権そのものが移転します。原債権者は債権を失い、その代わりに対価を得ます。債務者は支払先が変更されるだけで、債務の内容自体は変わりません。

併存的債務引受では債務の重複が生じるのに対し、ファクタリングでは債権の移転が生じるという違いがあります。このことは会計処理や税務上の取り扱いにも影響します。

4-4. リスク分担の違い

併存的債務引受とファクタリングでは、関係者間のリスク分担の構造が大きく異なります。この違いは資金調達方法を選択する際の重要な判断材料となります。

併存的債務引受では、原債務者の債務不履行リスクを引受人が負担します。引受人は債権者に対して原債務者と同等の責任を負います。このリスク引受の対価として、原債務者との間で何らかの経済的利益のやり取りが行われるのが一般的です。

ファクタリングでは、買取型の場合、債務者の支払不能リスクはファクタリング会社が負担します。この信用リスクの引受対価として手数料が設定されます。一方、保証型の場合は最終的なリスクは原債権者に残ります。

併存的債務引受では債務者のリスクを追加的に引き受けるのに対し、ファクタリングでは債権者のリスクを第三者に移転するという違いがあります。企業の財務状況やリスク許容度に応じて選択することが重要です。

5. 併存的債務引受のメリットとデメリット

5-1. 併存的債務引受のメリット

併存的債務引受には、関係者それぞれにとって様々なメリットがあります。状況に応じてこれらのメリットを活用することが重要です。

債権者にとっては、債権回収の確実性が高まる点が最大のメリットです。複数の債務者から弁済を受けられる可能性が生じるため、信用リスクが分散されます。特に、原債務者の信用力に不安がある場合、信用力の高い引受人が加わることで、債権の価値が向上します。

原債務者にとっては、債権者からの信頼を維持しながら、実質的な返済負担を軽減できる可能性があります。また、引受人との間で返済条件の緩和や支払期限の延長などの合意ができれば、資金繰りの改善につながります。

引受人にとっては、原債務者との間で何らかのビジネス上のメリットを享受できる可能性があります。例えば、取引先との関係強化や、事業提携の一環として活用できます。また、適切な対価を得られれば金融取引としても成立します。

併存的債務引受は、単なる債務保証と異なり、引受人が債権者に対して直接的な債務を負う点が特徴であり、債権者保護の効果が高いといえます。

5-2. 併存的債務引受のデメリット

併存的債務引受には、関係者それぞれにとって注意すべきデメリットやリスクも存在します。これらを事前に理解し、対策を講じることが重要です。

債権者にとっては、債務者が増えることで債権管理の手間が増加する可能性があります。また、債務者間の求償関係が複雑になると、トラブルに巻き込まれるリスクもあります。

原債務者にとっては、債務そのものは消滅せず、引受人に対する求償債務の可能性もあるため、完全な債務からの解放にはならない点に注意が必要です。また、引受人との関係性によっては、経営の自由度が制限される可能性もあります。

引受人にとっては、他者の債務を引き受けるという重大なリスクがあります。原債務者が支払不能に陥った場合、引受人が全額を負担する可能性があります。また、原債務者との関係性によっては、求償権の行使が実質的に困難なケースもあります。

併存的債務引受を行う場合は、これらのリスクを踏まえ、関係者間で明確な契約を締結し、リスク管理を徹底することが重要です。

5-3. 併存的債務引受が適している企業の特徴

併存的債務引受は、特定の状況や企業特性において特に有効な手法です。自社の状況を踏まえ、適切な判断を行うことが重要です。

グループ企業間での資金調達・支援に適しています。親会社が子会社の債務を併存的に引き受けることで、子会社の信用力を補完しつつ、グループ全体の資金効率を高めることができます。

事業承継や組織再編の過程において有効です。事業の引継ぎ段階で、旧経営者と新経営者が共同で債務を負担することで、円滑な移行が可能になります。

取引先との関係維持が重要な企業に適しています。ファクタリングと異なり、債権者と債務者の関係性は変わらないため、重要な取引先との関係を維持したまま資金調達を行いたい場合に有効です。

長期的な事業提携やビジネス関係の構築を目指す企業にも適しています。単なる金融支援を超えて、戦略的なパートナーシップの一環として活用できます。

ただし、法的・財務的な専門知識が必要な取引であるため、専門家の助言を受けながら進めることが推奨されます。

6. ファクタリングのメリットとデメリット

6-1. ファクタリングのメリット

ファクタリングには、資金調達手段として多くのメリットがあります。これらを理解し、自社の状況に合わせて活用することが重要です。

最大のメリットは、売掛金の早期現金化による資金繰りの改善です。通常の回収サイクルを待たずに即時に資金化できるため、運転資金の確保や新規事業への投資などに活用できます。

買取型ファクタリングでは、売掛金の回収リスクを移転できる点も重要なメリットです。取引先の信用不安がある場合でも、確実に資金化できる安心感があります。ただし、契約条件によっては一部リコース(遡求権)が設定される場合もあるため、契約内容を十分に確認することが重要です。完全ノンリコースの場合のみ、回収リスクが完全に移転されると考えるべきでしょう。

銀行融資と異なり、財務諸表上の負債として計上されないため、財務比率の改善につながる可能性があります。特に、自己資本比率や負債比率を重視する企業にとっては有効な手段となります。

審査基準が融資よりも柔軟な場合が多く、創業間もない企業や財務状況が厳しい企業でも利用できる可能性があります。売掛先の信用力が評価の中心となるためです。

債権管理や回収業務をファクタリング会社に委託できることで、管理コストの削減や業務効率化につながる場合もあります。

6-2. ファクタリングのデメリット

ファクタリングにも、いくつかのデメリットやリスクが存在します。これらを事前に理解し、適切に対処することが重要です。

最も一般的なデメリットは、手数料の高さです。一般的な金融機関からの借入と比較して、コストが高くなる傾向があります。一般的には売掛金額の3%〜10%程度の手数料が発生しますが、企業の信用状況や売掛先の信用力、取引量、業界慣行などによっては、この範囲を超える場合もあります。特に小口取引や信用リスクの高い取引では、手数料率が15%以上になるケースも見られます。事前に複数の業者から見積もりを取り、比較検討することが重要です。

取引先との関係に影響を与える可能性もあります。特に3社間ファクタリングでは、取引先に対して自社の資金繰りに関する情報が間接的に伝わる可能性があります。取引先によっては、このことを否定的に捉える場合もあります。

継続的に利用すると、利益率の低下を招く恐れがあります。高い手数料を継続的に支払うことで、本来得られるはずの利益が減少します。短期的な資金調達手段として位置づけ、計画的に利用することが重要です。

一部の悪質なファクタリング業者による過剰な手数料請求や不透明な契約内容などのトラブルも報告されています。信頼できる業者を選定し、契約内容を十分に確認することが重要です。

6-3. ファクタリングが適している企業の特徴

ファクタリングは、特定の状況や企業特性において特に有効な資金調達手段です。自社の状況を踏まえ、適切な判断を行うことが重要です。

季節変動の大きい業種や、受注から入金までの期間が長い業種に適しています。建設業、製造業、卸売業などでは、大きな受注と長い入金サイクルによる一時的な資金不足を解消する手段として有効です。

急速に成長している企業にも適しています。売上の増加に伴い運転資金需要が高まる成長企業では、柔軟かつ迅速な資金調達手段として活用できます。

取引先の支払サイトが長い企業にも有効です。大企業との取引では支払サイトが60日、90日と長期化する傾向がありますが、ファクタリングにより早期に資金化できます。

銀行融資を受けにくい状況にある企業にとっても有力な選択肢となります。創業間もない企業や、一時的に財務状況が悪化している企業でも、良質な売掛債権があれば資金調達が可能です。

ただし、手数料などのコストを考慮し、一時的・補完的な資金調達手段として位置づけることが望ましいでしょう。

7. 実務における選択基準

7-1. 財務状況に基づく選択ポイント

併存的債務引受とファクタリングのどちらを選択するかは、企業の財務状況を踏まえて判断することが重要です。具体的な財務指標や状況に応じた選択ポイントを理解しましょう。

資金調達の緊急性が高い場合は、手続きが比較的シンプルで即時性の高いファクタリングが適しています。一方、計画的な資金調達であれば、コスト面で有利になる可能性がある併存的債務引受も検討の余地があります。

企業の信用力によっても適した方法は異なります。信用力が高い企業は併存的債務引受の引受人として機能できるため、グループ内での資金調達手段として活用できます。一方、信用力に課題がある企業は、売掛債権の質に依存するファクタリングが選択肢となりえます。

グループ企業間での併存的債務引受を検討する場合、具体的なコスト構造を明確にすることが重要です。直接的な手数料は発生しなくても、引受人のリスク負担に対する対価として、グループ内での資金振替や金利相当額の支払い、将来的な利益配分の調整などが行われるケースが一般的です。また、税務上の移転価格問題も考慮する必要があります。

負債比率や自己資本比率などの財務指標を重視する場合、オフバランス化が可能なファクタリングが有利です。一方、グループ全体での財務最適化を目指す場合は、併存的債務引受による柔軟な債務管理が効果的です。

キャッシュフローの安定性や予測可能性も重要な判断要素です。キャッシュフローが不安定な企業にとっては、確実に資金化できるファクタリングが安全策となります。

これらの選択ポイントは、企業ごとの状況や優先事項によって重みづけが異なります。自社の財務状況と経営目標を総合的に考慮し、最適な資金調達方法を選択することが重要です。

7-2. 取引先との関係性を考慮した選択

資金調達方法の選択にあたっては、取引先との関係性も重要な考慮要素です。両方式が取引先に与える印象や影響は大きく異なります。

取引先との関係維持を最優先する場合は、取引構造に変更を加えない併存的債務引受が適しています。債権者と債務者の関係は変わらず、支払先も変更されないため、取引先への影響が最小限に抑えられます。

一方、取引先が大企業で支払サイトが長い場合など、取引条件の改善が難しい状況ではファクタリングが有効です。特に2社間ファクタリングであれば、取引先に通知せずに資金化できる場合もあります。

信頼関係が強固な取引先との間では、状況を説明した上でファクタリングを利用することも可能です。中には、サプライチェーン金融の一環として、取引先主導でファクタリングプログラムを提供するケースもあります。

取引先が金融機関や公的機関の場合は、債権譲渡禁止特約が付されていることが多いため、ファクタリングが制限される可能性があります。この場合は併存的債務引受が代替手段となりえます。

いずれの方法を選択する場合も、長期的な取引関係への影響を考慮し、慎重に判断することが重要です。

7-3. コストと手続きの比較

資金調達方法を選択する際は、コストと手続きの面からも比較検討することが重要です。両方式には明確な違いがあります。

ファクタリングは一般的に手数料が高めであり、売掛金額の3%〜10%程度が一般的です。一方、併存的債務引受のコストは明示的な手数料ではなく、引受人と原債務者の間の合意によって決まります。グループ企業間では低コストで実施できる可能性があります。

手続きの複雑さについては、ファクタリングの方が比較的シンプルで迅速に実行できます。特に2社間ファクタリングは、ファクタリング会社との契約だけで完結するため、手続きが簡便です。ファクタリング会社によっては申込みから入金まで数日で完了するサービスもあります。

併存的債務引受は、法律専門家の関与が必要なケースが多く、契約書の作成や当事者間の合意形成に時間がかかる傾向があります。特に債権者の承諾が必要なケースでは、交渉や説明に時間を要することもあります。

実務上の負担という観点では、ファクタリングを継続的に利用する場合、売掛債権の管理や譲渡手続きの負担が生じます。一方、併存的債務引受は一度契約を締結すれば、継続的な手続き負担は比較的軽減されます。

コストと手続きの両面から総合的に判断し、自社の状況に適した方法を選択することが重要です。

8. 会計・税務上の違いと注意点

8-1. 併存的債務引受の会計処理と税務上の取り扱い

併存的債務引受を行った場合の会計処理と税務上の取り扱いには、いくつかの注意点があります。適切な処理を行うためには、専門家の助言を受けることも重要です。

原債務者の会計処理としては、基本的に債務は引き続きバランスシート上に計上されます。併存的債務引受では債務が免除されるわけではないためです。ただし、引受人との間で内部的な取り決めがある場合は、その内容に応じた会計処理が必要となります。

引受人の会計処理としては、引き受けた債務をバランスシート上の負債として計上します。同時に、原債務者に対する求償権を資産として計上することが一般的です。ただし、求償権の行使が実質的に困難な場合は、その実態に応じた処理が必要です。

税務上は、引受人が債務を引き受けることの対価として原債務者から何らかの経済的利益を受ける場合、それは引受人の益金として課税対象となります。一方、原債務者にとっては、その経済的利益の提供が損金として認められるかどうかは、その性質や取引の実態によって判断されます。

グループ企業間での併存的債務引受の場合は、移転価格税制や寄附金課税などの観点からも検討が必要です。特に国際取引の場合は、各国の税法に基づく慎重な検討が求められます。

8-2. ファクタリングの会計処理と税務上の取り扱い

ファクタリングを利用した場合の会計処理と税務上の取り扱いは、その形態や契約内容によって異なります。適切な処理を行うために重要なポイントを理解しましょう。

売掛債権を譲渡した企業(原債権者)の会計処理としては、売掛金の消滅と入金の計上を行います。差額となるファクタリング手数料は、原則として支払手数料または金融費用として処理されます。

買取型ファクタリングの場合、売掛金は完全に譲渡されるため、オフバランス化(バランスシートからの除外)が可能です。この点は財務指標の改善を目的とする場合に重要なポイントとなります。

一方、保証型ファクタリングの場合は、リスクと経済価値の大部分が原債権者に残るため、実質的には担保付借入と同様の性質を持ちます。そのため、会計上も借入金として処理されるケースが多いです。

税務上は、ファクタリング手数料が一般的な販売費及び一般管理費または営業外費用として損金算入できます。ただし、保証型ファクタリングの場合、実質的に金利と同様の性質を持つため、支払利息として処理することが適切なケースもあります。個別の取引形態や契約内容によって税務上の取り扱いが異なる可能性があるため、税理士などの専門家に確認することをお勧めします。

消費税の取り扱いについては、ファクタリング手数料が金融取引の対価と位置づけられる場合は非課税取引となります。ただし、債権管理サービスなど課税対象となるサービスが含まれる場合は、その部分については消費税が課されます。契約内容によって課税関係が異なる場合があるため、事前に確認が必要です。

電子記録債権(でんさい)を活用したファクタリングの場合は、通常の債権譲渡とは異なる会計処理が必要となることもあります。特に、でんさいの分割譲渡や譲渡記録など、電子記録債権特有の処理については、会計専門家に相談することが望ましいでしょう。

8-3. 決算・申告時の注意点

併存的債務引受とファクタリングのいずれを選択した場合も、決算・申告時には特有の注意点があります。適切な開示と処理を行うことが重要です。

併存的債務引受の場合、連帯債務の存在を財務諸表の注記事項として適切に開示することが重要です。特に、偶発債務として将来的なリスクを開示する必要があるかどうかを検討します。

ファクタリングの場合、特に保証型や買戻条件付きの場合は、実質的な金融取引として適切に開示することが求められます。会計監査においても、その実態に応じた処理が行われているかがチェックされます。

グループ企業間での取引の場合、連結財務諸表作成時には相殺消去の処理が必要となります。また、関連当事者取引として適切な開示が求められるケースもあります。

税務申告においては、両方式とも、その経済的実態に即した処理が重要です。形式的な取引構造だけでなく、実質的な経済効果や取引の目的を踏まえた適切な処理が求められます。

中小企業においては、会計処理の複雑さから専門家の支援を受けることが推奨されます。特に初めて導入する場合は、事前に会計士や税理士に相談し、適切な処理方法を確認することが重要です。

9. 専門家の関与と相談のポイント

9-1. 法律専門家への相談の重要性

併存的債務引受とファクタリングのいずれを選択する場合も、法律専門家への相談は非常に重要です。特に注意すべきポイントと相談のタイミングについて理解しましょう。

併存的債務引受は比較的新しい法的制度であり、実務上の取り扱いに不明確な点も残されています。弁護士への相談を通じて、最新の判例や実務動向を踏まえた適切なアドバイスを受けることが重要です。

契約書の作成段階では、当事者間の権利義務関係、特に求償関係や担保権の取り扱いについて明確に規定することが重要です。これらの点について法律専門家のチェックを受けることで、将来的な紛争リスクを軽減できます。

ファクタリングの場合も、契約内容の確認や債権譲渡の対抗要件具備など、法的な観点からのチェックが重要です。特に債権譲渡禁止特約がある場合の対応策や、将来債権の譲渡に関する法的リスクについて専門家の意見を求めることが有効です。

法律専門家への相談は、単に契約書のチェックにとどまらず、取引の全体設計や将来的なリスク管理の観点からも重要です。早い段階から専門家を交えて検討することで、より効果的な資金調達戦略を構築できます。

特に複数の金融機関と取引がある場合や、海外企業との取引がある場合は、法的な複雑性が高まるため、専門家の関与がより一層重要となります。

9-2. 会計専門家の役割

資金調達方法の選択と実行においては、会計専門家の助言も非常に重要です。会計・税務の専門家に相談することで得られるメリットを理解しましょう。

会計専門家は、各資金調達方法が財務諸表に与える影響を事前に分析し、最適な選択をサポートします。例えば、財務比率の改善を目的とする場合、オフバランス化が可能なファクタリングが適しているかどうかを評価できます。

税務上の影響についても、専門家のアドバイスが重要です。特に手数料や金融費用の損金算入可能性、消費税の取り扱い、グループ企業間取引における税務リスクなどについて、事前に確認することが重要です。

会計システムへの反映方法や仕訳パターンの設計など、実務的な観点からのサポートも会計専門家の重要な役割です。特に継続的にファクタリングを利用する場合は、効率的な会計処理の仕組みを構築することが業務効率化につながります。

決算時の開示方法や監査対応についても、事前に会計専門家の意見を受けることで、スムーズな決算プロセスを実現できます。特に上場企業や監査法人の監査を受ける企業では、開示の適切性が重要なポイントとなります。

会計専門家への相談は、資金調達の検討初期段階から行うことが望ましいです。取引構造の検討段階から専門家の意見を取り入れることで、後から大きな修正が必要になるリスクを軽減できます。

9-3. 効果的な専門家の活用方法

併存的債務引受やファクタリングを活用する際は、専門家の知見を最大限に活用することが重要です。効果的な専門家活用のポイントを押さえましょう。

法律、会計、税務の各専門家がチームとして連携することが理想的です。各分野の専門家が協力して総合的な観点から助言することで、最適な資金調達スキームを構築できます。

専門家への相談時は、自社の状況や目的を明確に伝えることが重要です。財務状況、取引先との関係性、将来計画など、判断に影響する要素を包括的に共有することで、より適切なアドバイスを受けられます。

業界特性や取引慣行についても専門家に情報提供することが有効です。特に専門的な業界や特殊な取引構造がある場合は、その背景を専門家に理解してもらうことで、より実践的なアドバイスを得られます。

専門家からの助言は、単に従うだけでなく、経営判断の材料として活用することが重要です。最終的な意思決定は経営者自身が行うものであり、専門家の意見を踏まえつつも、自社の経営方針や価値観に基づく判断が求められます。

長期的な関係構築も重要です。一時的なアドバイスにとどまらず、継続的に相談できる関係を構築することで、状況変化に応じた柔軟な対応が可能になります。

10. まとめ

併存的債務引受とファクタリングは、いずれも資金調達の有効な手段ですが、その法的性質や実務的な影響は大きく異なります。両者の特徴を正しく理解し、自社の状況に応じた選択を行うことが重要です。

併存的債務引受は債務に関する法律行為であり、原債務者と引受人が連帯して債務を負担します。取引先との関係維持が重要な場合や、グループ企業間での資金調達に適しています。一方、手続きが複雑で時間がかかる傾向があります。

ファクタリングは債権譲渡の一形態であり、売掛債権を早期に現金化できる点が特徴です。資金調達の即時性が求められる場合や、債権管理コストの削減を図りたい場合に有効です。一方、手数料が比較的高く、取引先との関係に影響を与える可能性があります。

選択にあたっては、自社の財務状況、取引先との関係性、コストと手続きの負担、会計・税務上の影響など、様々な要素を総合的に考慮することが重要です。また、法律や会計の専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることも推奨されます。

いずれの方法を選択する場合も、単なる一時的な資金調達にとどまらず、中長期的な財務戦略の一環として位置づけることが重要です。企業の成長ステージや事業計画に合わせた、最適な資金調達方法の選択が企業価値の向上につながります。

資金調達の方法は常に進化しており、法改正や新たな金融サービスの登場によって選択肢が広がっています。最新の情報を収集し、柔軟な発想で資金調達戦略を構築することが、現代の経営者には求められています。

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