この記事の要点
- 併存的債務引受方式とファクタリングの法的性質と契約構造の違いを理解することで、自社に最適な資金調達手法を選択できるようになります。
- 償還請求権の有無と手数料構造の差異を把握することで、リスクとコストのバランスを考慮した合理的な資金調達判断が可能になります。
- 各方式の適用条件と業種別活用法を学ぶことで、事業特性に応じた効果的な資金繰り改善策を実践できるようになります。

1. 併存的債務引受方式とファクタリングの基本的な違い
現代の中小企業が直面する資金調達の課題において、従来の銀行融資に加えて多様な選択肢が注目されています。本記事では、一括決済方式の代表的な手法である併存的債務引受方式とファクタリングについて、両者の法的性質、実務上の違い、適用場面を詳しく解説します。
資金調達を検討される事業者の皆様が、自社の状況に最適な手法を選択するための判断材料を提供し、それぞれの特徴とリスクを正確に理解していただくことを目的としています。
1-1. 法的性質と契約構造の根本的差異
併存的債務引受方式は、民法第470条に規定される債務引受の一形態として法的に位置づけられます。この方式では、金融機関が支払企業と併存的に同一債務を負担し、両者が連帯債務者として法的責任を共有する仕組みです。
債権者である納入企業は、支払企業と金融機関のいずれに対しても全額請求を行う権利を保有します。金融機関は単なる仲介者ではなく、法的に債務者としての地位を獲得し、支払義務を負担することになります。
ファクタリングは売掛債権の譲渡契約に基づく資金調達方法です。債権者がファクタリング会社に対して売掛債権を売却し、債権の所有権がファクタリング会社に完全に移転します。原則として償還請求権が存在せず、売掛先の支払不能リスクはファクタリング会社が負担する構造となっています。
1-2. 契約当事者の関係性と義務
併存的債務引受方式では、債権者、支払企業、金融機関の三者間契約が必須となります。すべての当事者が契約に参加し、金融機関が支払企業と連帯して債務を負担する構造です。支払企業は金融機関との間で債務引受契約を締結し、債務の履行について連帯責任を負います。
ファクタリングにおいては、三者間ファクタリングと二者間ファクタリングの選択が可能です。二者間ファクタリングでは、債権者とファクタリング会社のみで契約を締結し、支払企業には債権譲渡の事実を通知しません。三者間ファクタリングの場合は、支払企業も契約に参加しますが、その役割は債権譲渡の承諾であり、債務負担は発生しません。
2. 償還請求権と回収リスクの構造的違い
2-1. 償還請求権の有無による影響
併存的債務引受方式では、償還請求権が存在することが重要な特徴です。支払企業が債務を履行できない場合、債権者は金融機関から受け取った資金を返還する義務を負います。金融機関が債務を引き受けたとしても、元の債権者の責任が完全に免除されることはありません。
この償還請求権により、債権者は売掛金回収不能リスクを完全に転嫁することができません。支払企業の倒産や経営悪化により支払いが困難になった場合、最終的な損失は債権者が負担することになります。
ファクタリングでは、原則として償還請求権が存在しません。債権譲渡により売掛債権の所有権がファクタリング会社に移転するため、支払企業の支払不能リスクはファクタリング会社が負担します。債権者は手数料を支払うことで、回収リスクを完全に移転できることが大きなメリットといえます。
2-2. リスク分担メカニズムの違い
併存的債務引受方式におけるリスク分担は、金融機関と支払企業が連帯債務を負う構造により実現されます。債権者にとっては、支払企業と金融機関という二つの支払源泉を確保できるため、単独の債務者に依存するリスクを軽減できます。
ただし、最終的な回収不能リスクは債権者が負担するため、支払企業の信用力について慎重な評価が必要です。特に、支払企業の財務状況が悪化している場合は、金融機関から回収した資金の返還リスクを十分に検討する必要があります。
ファクタリングにおけるリスク分散効果は、ファクタリング会社の信用力と回収能力に依存します。ファクタリング会社は複数の債権を取り扱うことで、ポートフォリオ効果によりリスクを分散しています。債権者は個別の支払企業リスクから解放される代わりに、ファクタリング会社の経営状況に依存することになります。
3. 手数料構造と資金調達コストの比較
3-1. 費用構造の基本的な違い
併存的債務引受方式では、金融機関への手数料は比較的低水準に設定されています。銀行などの金融機関が提供するサービスであるため、利息制限法の適用を受け、年率換算で数パーセント程度の手数料が一般的です。期日前現金化を利用する場合は、期日までの期間に応じた金利が追加で発生します。
手数料の算定は債権額に対する割合で表示され、取引規模や継続性により優遇条件が適用される場合があります。複数回の利用により手数料率の改善が期待でき、長期的な取引関係構築によるメリットが存在します。
ファクタリングの手数料は、リスクの対価として設定されるため、併存的債務引受方式と比較して高水準となります。二者間ファクタリングでは手数料率が高くなる傾向があり、債権額の10%から20%程度が相場とされています。三者間ファクタリングでは、支払企業の承諾により回収リスクが低減するため、手数料率は5%から10%程度に設定されることが多くなっています。
3-2. 適用条件と利用可能性の違い
併存的債務引受方式では、債権額の一部買取が可能であることが特徴的です。売掛債権の総額のうち、必要な金額のみを対象として金融機関に債務引受を依頼できます。これにより、過剰な資金調達を避け、必要最小限の手数料負担で資金需要を満たすことが可能です。
分割での利用により、資金繰り計画に応じた柔軟な資金調達を実現できます。月次の運転資金需要に応じて段階的に資金化を進めることで、金利負担を最小化しながら必要な資金を確保できます。
ファクタリングでは、原則として債権の全額買取が前提となります。売掛債権を部分的に譲渡することは、債権の管理や回収の複雑化を招くため、多くのファクタリング会社では対応していません。債権の分割譲渡を希望する場合は、複数の債権を個別に取り扱うか、債権額を調整した契約の締結が必要となります。
4. 資金調達スピードと手続きの実務的差異
4-1. 審査プロセスと所要期間
併存的債務引受方式の審査では、金融機関が支払企業の信用力を詳細に評価します。銀行などの金融機関が提供するサービスであるため、通常の融資に準じた審査基準が適用されることが一般的です。支払企業の財務諸表、事業計画、担保の有無などが総合的に検討されます。
審査期間は通常1週間から2週間程度を要し、金融機関の内部審査体制や案件の複雑さにより変動します。継続的な取引関係がある場合は、審査期間の短縮が期待できますが、新規取引の場合は十分な時間を見込む必要があります。
ファクタリングの審査は、主に支払企業の信用力に焦点を当てて実施されます。債権者の財務状況よりも、売掛債権の確実性と支払企業の支払能力が重視されます。必要書類も比較的簡素で、売掛金の存在を証明する請求書や契約書、支払企業の基本情報などが中心となります。
4-2. 取引先との関係への影響と配慮事項
併存的債務引受方式では、支払企業が必ず契約当事者となるため、取引先に資金調達の事実が必ず通知されます。支払企業にとっては、金融機関との間で債務引受契約を締結することにより、支払義務が明確化され、期日管理の効率化というメリットが生まれます。
債権者の資金繰り状況が支払企業に認識されることで、今後の取引条件や関係性に影響を与える可能性があります。特に、頻繁な利用は財務状況への懸念を招く恐れがあるため、計画的な活用が重要です。
ファクタリングにおける二者間取引では、支払企業に債権譲渡の事実を通知する必要がありません。取引先との関係を維持しながら資金調達を実施できるため、継続的な事業関係への影響を最小限に抑制できます。三者間ファクタリングでは支払企業への通知が必要となりますが、債務引受のような法的責任の変更は発生しません。
5. 業種別活用法と法的注意点
5-1. 建設業界における活用事例と効果
建設業界では、工事代金の支払いサイトが長期間に及ぶことが一般的であり、資金繰り改善のニーズが高い業界です。併存的債務引受方式は、大手ゼネコンとの継続的な取引関係がある中小建設会社にとって有効な選択肢となります。
大手ゼネコンの信用力を背景として、金融機関との債務引受契約により安定した資金調達を実現できます。工事代金の一部を段階的に現金化することで、材料費や人件費の支払いに充当し、工事進行中の資金繰りを安定化できます。
ファクタリングは、新規発注者との取引や小規模工事において威力を発揮します。発注者の信用調査が完了していない場合でも、ファクタリング会社の審査により迅速な資金化が可能です。二者間ファクタリングを活用すれば、発注者に知られることなく資金調達を実施できるため、取引関係への影響を回避できます。
5-2. 法的リスクと民法改正の影響
2020年4月施行の改正民法により、併存的債務引受に関する規定が明文化されました。民法第470条の規定により、併存的債務引受の成立要件と効果が明確に定められ、法的安定性が向上しています。
改正により、連帯債務における絶対的効力事由が限定され、相対的効力事由が原則となりました。これにより、債務者または引受人の一方に対する請求の効力が他方に及ばないケースが増加し、債権者は両者に対する個別の権利行使を検討する必要があります。
ファクタリングについては、民法の債権譲渡に関する規定の明確化により、譲渡禁止特約の制限や対抗要件の簡素化が図られました。これにより、ファクタリングの利用環境が改善され、より多くの債権がファクタリングの対象となる可能性が高まっています。
金融規制との関係において、併存的債務引受方式は銀行法や金融商品取引法の規制下で提供されるサービスです。ファクタリングについては、金融業登録の有無により規制適用の範囲が異なるため、利用者は提供事業者の登録状況と信頼性を十分に確認する必要があります。
6. よくある質問
6-1. 個人事業主でも併存的債務引受方式を利用できますか?
個人事業主でも併存的債務引受方式の利用は可能ですが、金融機関の審査基準を満たす必要があります。継続的な取引実績と安定した売掛債権の存在が重要な判断要素となります。法人と比較して審査が厳格になる傾向があるため、十分な事業実績と財務資料の準備が必要です。ファクタリングの方が個人事業主にとって利用しやすい選択肢といえます。
6-2. どちらの方式が税務上有利ですか?
併存的債務引受方式では、金融機関への手数料は支払利息として損金算入が可能です。利息制限法の範囲内での手数料であることから、税務上の取扱いが明確です。ファクタリングにおける手数料は、債権譲渡に伴う費用として営業外費用に計上されます。どちらも適切な会計処理により税務メリットを享受できます。
6-3. 複数の方式を同時に利用することは可能ですか?
異なる売掛債権を対象とすれば、併存的債務引受方式とファクタリングの同時利用は可能です。ただし、同一の売掛債権に対する重複利用は、権利関係の混乱を招くため避けるべきです。資金調達手段の多様化により、リスク分散と調達コストの最適化を図ることができます。
6-4. 海外企業との取引でも利用できますか?
併存的債務引受方式では、支払企業が国内に所在し、金融機関との契約締結が可能であることが前提となります。海外企業が支払企業の場合は、実務上の困難が伴うため、利用は限定的です。ファクタリングでは、海外企業との売掛債権も取扱対象となる場合があり、国際ファクタリングサービスを提供する会社では包括的なサービスを利用できます。
6-5. 支払企業が倒産した場合のリスクはどうなりますか?
併存的債務引受方式では、支払企業の倒産時も金融機関への償還義務が残存します。金融機関から受け取った資金の返還と、支払企業からの回収不能額の損失を同時に負担するリスクがあります。ファクタリングでは、支払企業の倒産リスクはファクタリング会社が負担し、償還請求権のない契約であれば、債権者に追加的な負担は発生しません。
7. まとめ
併存的債務引受方式とファクタリングは、どちらも売掛債権を活用した有効な資金調達手法ですが、それぞれ異なる特徴とメリットを持っています。併存的債務引受方式は安定した取引関係と低コストでの資金調達を実現できる一方、三者間契約の必要性と償還請求権の存在がリスク要因となります。
ファクタリングは迅速性と回収リスクの完全移転という大きなメリットがある反面、高い手数料負担が課題となります。事業者の皆様には、それぞれの資金需要の性質と取引先との関係性を総合的に検討し、最適な資金調達手法を選択していただくことをお勧めいたします。

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