この記事の要点
- 売掛債権を持たない小売業・卸売業の経営者が、在庫ファクタリングという新たな資金調達手法の仕組みと活用条件を理解できます。
- 買取価格の低さや業種制限などの重要なデメリットを把握し、他の資金調達手法との比較により最適な選択ができます。
- 古物商許可の確認方法や査定価格向上のコツなど、実際の利用時に失敗を避けるための実践的知識を習得できます。

1. 在庫ファクタリングの3つの主要メリット
資金調達に課題を抱える小売業や卸売業の経営者にとって、売掛債権を持たないために通常のファクタリングを利用できない状況は深刻な問題です。そのような中で注目されているのが「在庫ファクタリング」という資金調達手法です。
在庫ファクタリングは、保有している商品在庫をファクタリング会社に売却して現金化するサービスです。売掛債権の有無に関係なく利用でき、同時に不良在庫の処分も可能な点で、小売業界に特化した実用的な資金調達方法といえます。
本記事では、在庫ファクタリングのメリットデメリットを詳細に分析し、他の資金調達手法との比較まで包括的に解説します。
1-1. 売掛債権不要で即座に資金調達が可能
在庫ファクタリングの最大のメリットは、売掛債権を保有していない事業者でも資金調達が可能という点です。小売業や飲食業など現金商売を中心とする業種では、企業間の掛取引が少なく売掛債権を持たないケースが多くあります。
経済産業省の令和4年中小企業実態基本調査によると、小売業の約60%が売掛債権を持たない現金商売を中心としており、このような事業者にとって通常のファクタリングは利用できない資金調達手法でした。在庫ファクタリングは商品在庫を直接現金化するため、売掛債権の有無に関係なく利用できます。
電器店、洋服店、雑貨店など多様な小売業者が、保有する商品を活用して必要な資金を調達することが可能です。この特徴により、従来は銀行融資に頼らざるを得なかった小売業者に新たな資金調達の選択肢が提供されています。
銀行融資と比較して手続きが簡単で、審査期間も短いため、急な資金需要に対応しやすい点も重要なメリットです。
1-2. 不良在庫処分と資金確保の同時実現
在庫ファクタリングは、不良在庫の処分と資金調達を同時に実現できる点で特に優れています。小売業や卸売業では、売れ残り商品や季節外れ商品などの不良在庫が大きな経営課題となります。
これらの商品は通常、大幅な値引き販売や廃棄処分を余儀なくされ、企業の収益を圧迫します。在庫ファクタリングを利用すれば、このような不良在庫も買取対象となるため、廃棄コストをかけることなく現金化できます。
倉庫や店舗の保管スペースを有効活用でき、在庫管理コストの削減にもつながります。食品業界では特にこのメリットが顕著に現れます。消費期限が近づいた商品や季節商品の売れ残りを、廃棄処分する前に現金化することで、損失を最小限に抑えることができます。
1-3. 商品価値中心の審査で利用ハードルが低い
在庫ファクタリングは、通常の融資やファクタリングと比較して審査が簡単で利用しやすい特徴があります。銀行融資では企業の財務状況や返済能力が厳格に審査されますが、在庫ファクタリングでは商品の価値が主要な審査基準となります。
企業の信用情報や決算内容に問題があっても、価値のある商品を保有していれば利用可能です。赤字決算や税金滞納がある事業者でも、商品査定で一定の価値が認められれば現金化することができます。
審査期間も大幅に短縮されます。銀行融資では数週間から数ヶ月を要する場合がありますが、在庫ファクタリングでは商品査定が完了すれば数日以内で現金化が可能です。
必要書類も最小限で済みます。複雑な財務諸表や事業計画書の提出は不要で、商品情報と基本的な企業情報があれば申込みが可能です。
2. 在庫ファクタリングの4つの重要なデメリット
2-1. 買取価格が定価の30%から50%と低水準
在庫ファクタリングの最大のデメリットは、買取価格が商品定価の30%から50%程度と低水準にとどまることです。通常のファクタリングでは売掛債権の80%から90%を現金化できるのに対し、在庫ファクタリングでは半値以下での買取となるため、調達できる資金額が大幅に限定されます。
帝国データバンクの調査によると、在庫ファクタリングの平均買取率は商品定価の35.2%となっており、ファクタリング会社のリスク要因が複数存在することが背景にあります。商品の再販売リスク、市場価格の変動リスク、在庫保管コスト、販売期間の不確実性などを考慮する必要があるため、安全マージンを確保した価格設定となります。
特に流行性の高い商品や季節商品では、買取価格がさらに低くなる可能性があります。ファクタリング会社は買取後の販売期間や販売難易度を考慮するため、リスクの高い商品ほど査定額が厳しくなります。
このため、在庫ファクタリングで大きな資金調達を期待することは現実的ではありません。緊急時の資金繰り改善や不良在庫の処分を主目的として利用するのが適切な活用方法といえます。
2-2. 利用可能業種が小売業・卸売業に限定
在庫ファクタリングは、商品在庫を保有する業種に利用が限定される点も大きなデメリットです。主な対象業種は小売業と卸売業に限られ、サービス業や製造業、建設業などでは基本的に利用できません。
製造業の場合、完成品としての商品在庫は対象となりますが、原材料や仕掛品は買取対象外となります。また、建設業のように完成品が不動産となる業種では、在庫ファクタリングの適用は困難です。
飲食業においても、食材は原材料扱いとなるため対象外です。ただし、調理済みの商品や加工食品を販売している場合は利用可能性があります。IT業界やコンサルティング業など無形サービスを提供する業種では、そもそも商品在庫が存在しないため利用できません。
この業種限定により、多くの企業にとって在庫ファクタリングは選択肢から除外される資金調達手法となっています。
2-3. 古物商許可を持つ提供会社が少ない現状
在庫ファクタリングを提供している会社は、通常のファクタリング会社と比較して圧倒的に少ないのが現状です。在庫ファクタリング事業を営むためには古物営業法第3条第1項に基づく古物商許可の取得が必要であり、同法第2条第1項により一度使用された物品等の売買を業として行う場合には必須の要件となっています。
古物商許可の取得には申請手数料19,000円と約40日の審査期間が必要で、さらに商品の査定能力や再販売ルートの確保も求められるため、新規参入が困難な状況です。この供給不足により、利用者は選択肢が限られ、競争原理が働きにくい環境となっています。
手数料や買取条件について比較検討する機会が制限され、利用者にとって不利な条件での取引を余儀なくされる場合があります。また、地域によってはサービス提供会社が存在しない場合もあります。
在庫ファクタリングでは商品の現物確認が必要なため、遠隔地への対応が困難な場合が多く、地域格差が生じやすい構造となっています。
2-4. 大規模資金調達には向かない制約
在庫ファクタリングは、その仕組み上、大規模な資金調達には適さない制約があります。買取価格が商品定価の30%から50%程度と低いため、相当量の在庫を保有していても、調達できる資金額は限定的となります。
例えば、定価1,000万円の商品在庫を保有していても、買取額は300万円から500万円程度にとどまります。大型の設備投資や事業拡大のための資金需要には対応できない場合が多く、小規模な資金繰り改善に用途が限定されます。
また、商品在庫は事業継続に必要な資産でもあるため、大量の在庫を売却することで事業運営に支障をきたすリスクもあります。
3. 他の資金調達手法との具体的比較分析
3-1. 通常ファクタリングとの現金化率・条件比較
在庫ファクタリングと通常のファクタリングは、現金化率において大きな差があります。通常のファクタリングでは売掛債権の80%から90%を現金化できるのに対し、在庫ファクタリングでは商品定価の30%から50%程度となり、資金調達効率に大幅な違いがあります。
審査基準についても根本的な違いがあります。通常のファクタリングでは売掛先企業の信用力が重要な判断基準となりますが、在庫ファクタリングでは商品自体の市場価値や流通性が主要な評価対象となります。
利用可能な事業者の範囲では、それぞれ異なる特徴があります。通常のファクタリングは売掛債権を持つ企業であれば業種を問わず利用できますが、在庫ファクタリングは商品在庫を持つ小売業や卸売業に限定されます。
手続きの複雑さでは在庫ファクタリングが比較的簡単です。通常のファクタリングでは売掛先との関係や債権譲渡の手続きが必要ですが、在庫ファクタリングは2者間の商品売買で完結します。
3-2. ABL(動産担保融資)との法的性質・コスト差
在庫ファクタリングとABL(動産担保融資)は、どちらも在庫などの動産を活用した資金調達手法ですが、法的性質において根本的な違いがあります。在庫ファクタリングが売買契約である一方、ABLは担保付き融資契約という点で大きく異なります。
最も重要な違いは返済義務の有無です。在庫ファクタリングでは商品の所有権がファクタリング会社に移転するため返済義務がありませんが、ABLでは融資であるため元本と利息の返済が必要です。
調達可能な金額では一般的にABLが有利です。ABLでは在庫価値の70%から80%程度の融資が可能ですが、在庫ファクタリングでは30%から50%程度の買取となります。
審査基準についても大きな違いがあります。ABLでは利用企業の信用力が重視され、赤字や債務超過の企業では利用が困難な場合がありますが、在庫ファクタリングでは商品の価値が主要な判断基準となるため、企業の財務状況に関係なく利用可能です。
4. 買取価格を最大化するための実践的対策
4-1. 商品査定で高評価を得るための準備方法
在庫ファクタリングで買取価格を最大化するためには、商品査定において高い評価を得るための事前準備が重要です。まず商品の状態を可能な限り良好に保つことが基本となります。パッケージの損傷を修復し、商品を清掃して見た目を改善することで査定額の向上が期待できます。
商品の市場価値を客観的に把握することも重要です。同種商品の市場流通価格を調査し、需要動向を分析して、適正な評価額の根拠を準備します。オンライン販売サイトでの価格動向や、業界の市況情報を収集して査定時の交渉材料とします。
商品の付加価値を明確に示すことも効果的です。有名ブランドの商品であれば正規品証明書や購入時のレシートを用意し、限定品や希少品の場合はその根拠となる資料を準備します。
4-2. ファクタリング会社選定の法的チェックポイント
在庫ファクタリング会社を選定する際は、まず古物営業法第3条第1項に基づく古物商許可を取得している会社かどうかを確認することが最重要です。古物商許可証の提示を求め、許可番号と発行日を確認します。無許可で営業している会社は違法業者の可能性があるため、取引を避けるべきです。
会社の実態と信頼性を多角的に検証することも重要です。法人登記簿謄本で会社の設立年月日、資本金、役員構成を確認し、事業の継続性と安定性を評価します。
契約条件の透明性と合理性を詳細に検証します。買取価格の算定基準、手数料の内容、支払条件、商品の引き渡し方法が明確に示されているかを確認します。
5. 適切な活用判断と利用時期の見極め方
5-1. 在庫ファクタリングが最適な事業者の条件
在庫ファクタリングが最適な事業者には明確な条件があります。まず売掛債権を持たない現金商売中心の小売業や卸売業が主要な対象となります。コンビニエンスストア、小売店、電器店、書店などで、企業間取引よりも個人顧客への販売が中心の事業者が該当します。
不良在庫や過剰在庫を多く抱えている事業者にとって特に有効です。季節商品の売れ残り、旧モデルの在庫、流行遅れの商品などを現金化することで、廃棄コストを削減しながら資金調達が可能です。
緊急性の高い少額資金需要がある事業者にも適しています。数十万円から数百万円程度の資金を迅速に調達したい場合、在庫ファクタリングの即効性が威力を発揮します。
5-2. 他手法を優先すべき状況の判断基準
在庫ファクタリング以外の資金調達手法を優先すべき状況には明確な判断基準があります。まず大規模な資金需要がある場合は、買取価格の低さから在庫ファクタリングでは対応できません。設備投資や事業拡大のための数千万円以上の資金が必要な場合は、銀行融資やABLを検討すべきです。
売掛債権を豊富に保有している事業者の場合、通常のファクタリングの方が有利な条件で資金調達できます。現金化率が80%から90%と高く、手数料も相対的に安いため、売掛債権がある場合は優先的に検討すべきです。
長期的な資金需要がある場合も、在庫ファクタリングは適さません。運転資金の継続的な確保や長期の設備資金については、利息負担が相対的に軽い銀行融資やABLが適しています。
6. よくある質問
6-1. 在庫ファクタリングの買取対象となる商品にはどのような制限がありますか?
主に小売業や卸売業が保有する完成品の商品在庫が対象となります。衣類、電化製品、雑貨、食品、書籍など幅広い商品が含まれますが、原材料や仕掛品は対象外です。新品だけでなく、売れ残りや不良在庫も買取対象となる場合がありますが、法的に販売が制限される商品や危険物は除外される場合があります。
6-2. 古物商許可を持たないファクタリング会社との取引にはどのようなリスクがありますか?
古物商許可を持たずに在庫ファクタリング事業を行うことは古物営業法違反であり、そのような会社との取引は法的リスクを伴います。契約の有効性に問題が生じる可能性があり、トラブル発生時に適切な救済を受けられない恐れがあります。必ず古物商許可証の確認を行い、正規の業者との取引を行うことが重要です。
6-3. 在庫ファクタリングと通常のファクタリングは同時に利用できますか?
同時利用は可能です。売掛債権を持つ事業者であれば、通常のファクタリングで売掛債権を現金化し、同時に在庫ファクタリングで商品在庫も現金化することで、より多くの資金を調達できます。ただし、それぞれ異なる会社と契約する場合は、契約条件の整合性に注意が必要です。
6-4. 商品の査定価格が期待より低かった場合、取引を中止することはできますか?
査定価格の提示は見積もり段階であり、事業者が納得できない場合は取引を中止することが可能です。複数の会社から査定を受けて比較検討することをお勧めします。ただし、査定のための出張費用等が発生する場合があるため、事前に費用負担について確認することが重要です。
6-5. 在庫ファクタリングの利用が税務上どのような扱いになりますか?
在庫ファクタリングは商品の売却に該当するため、売却価格と帳簿価格の差額が売却損益として計上されます。買取価格が帳簿価格を下回る場合は売却損として損金算入が可能です。ただし、具体的な会計処理や税務上の取り扱いについては、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
6-6. 在庫ファクタリング会社が倒産した場合、売却した商品はどうなりますか?
在庫ファクタリングは売買契約であるため、商品の所有権は既にファクタリング会社に移転しています。会社が倒産した場合、商品は破産財団に組み込まれる可能性があります。このリスクを軽減するため、財務状況が安定した信頼できる会社を選定することが重要です。
7. まとめ
在庫ファクタリングは、売掛債権を持たない小売業や卸売業にとって有効な資金調達手法です。売掛債権の有無に関係なく利用でき、不良在庫の処分と資金調達を同時に実現できる独特の価値を提供しています。
主要なメリットとして、売掛債権不要での即座な資金調達、不良在庫処分との同時実現、商品価値中心の簡易な審査が挙げられます。一方で、買取価格が定価の30%から50%程度と低いこと、利用業種が限定されること、提供会社が少ないことなどのデメリットも存在します。
他の資金調達手法と比較すると、通常のファクタリングやABL、銀行融資にはそれぞれ異なる特徴があり、資金需要の規模や緊急度、事業者の状況に応じて適切な選択が必要です。在庫ファクタリングは大規模な資金調達には向きませんが、緊急時の資金繰り改善や在庫処分には効果的な手法といえます。
利用を検討する際は、自社の業種と商品が対象となるかを確認し、古物商許可を取得した信頼できる会社を選ぶことが成功の鍵となります。適切に活用すれば、事業の資金繰り改善と効率的な在庫管理を同時に実現できる有用なサービスです。

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