ファクタリング

在庫ファクタリングとは?仕組みと特徴を解説

2024.11.13

この記事の要点

  1. 売掛債権を持たない小売業・卸売業の経営者が、在庫ファクタリングという新たな資金調達手法の基本概念と法的根拠を正確に理解できます。
  2. 商品査定から買取完了までの具体的なプロセスと、買取対象商品の分類基準を把握し、自社での利用可能性を的確に判断できます。
  3. 通常ファクタリングとの相違点や古物商許可の重要性を理解し、適切な業者選定と安全な取引実現のための実践的知識を習得できます。
ATOファクタリング

1. 在庫ファクタリングとは何か

在庫ファクタリングは、売掛債権を持たない小売業や卸売業の経営者にとって新たな資金調達の選択肢として注目されているサービスです。

通常のファクタリングでは売掛債権の現金化を行いますが、在庫ファクタリングでは保有している商品在庫をファクタリング会社に売却することで資金を調達します。この手法により、現金商売が中心で売掛債権を持たない事業者でも、手元の商品を活用した資金調達が可能となります。

経済産業省の中小企業実態基本調査によると、小売業の約60パーセントが現金商売を中心としており、従来の売掛債権を活用した資金調達手法では対応できない事業者が多数存在しています。

在庫ファクタリングは、このような事業者の資金調達ニーズに応える実用的なサービスとして発展してきました。

本記事では、在庫ファクタリングの基本概念から具体的な仕組み、他手法との違いまで、サービスの全体像を体系的に解説いたします。

1-1. 在庫ファクタリングの基本定義と概要

在庫ファクタリングとは、事業者が保有する商品在庫をファクタリング会社に売却し、現金化する資金調達サービスです。民法第555条に基づく売買契約として位置づけられ、商品の所有権がファクタリング会社に移転することで取引が成立します。

このサービスの最大の特徴は、売掛債権の有無に関係なく利用できる点にあります。一般的なファクタリングでは売掛債権を持つ企業が対象となりますが、在庫ファクタリングでは商品在庫を保有する事業者であれば利用可能です。そのため、個人消費者を主要顧客とする小売業や、現金取引が中心の事業者にとって有効な選択肢となります。

在庫ファクタリングでは、電化製品、衣類、雑貨、書籍、食品など幅広い商品が買取対象となります。新品の商品だけでなく、売れ残りや不良在庫も査定対象となるため、在庫処分と資金調達を同時に実現できる実用的なサービスといえます。

取引の規模は比較的小額であることが一般的です。商品定価に対する買取価格は30パーセントから50パーセント程度となるため、大規模な資金調達よりも緊急時の資金繰り改善や在庫処分を主目的とした利用が適しています。

1-2. 古物営業法に基づく法的位置づけ

在庫ファクタリングは法的には商品の売買契約に該当し、通常のファクタリングとは根本的に異なる法的性質を持ちます。通常のファクタリングが民法第466条以下の債権譲渡に関する規定に基づくのに対し、在庫ファクタリングは民法第555条以下の売買に関する規定が適用されます。

在庫ファクタリング事業を営む企業には、古物営業法第3条第1項に基づく古物商許可の取得が義務付けられています。同法第2条第1項では「一度使用された物品等」の売買を業として行う場合の許可要件が定められており、在庫ファクタリング会社はこの許可を取得する必要があります。

古物商許可の取得には、都道府県公安委員会への申請と審査が必要です。申請手数料は19,000円で、審査期間は約40日間を要します。許可要件として、申請者が欠格事由に該当しないこと、営業所の適切な管理体制が整っていることなどが求められます。

この法的性質の違いにより、在庫ファクタリングでは商品の所有権が完全にファクタリング会社に移転します。そのため事業者には返済義務が発生せず、商品を売却した時点で取引が完結します。古物営業法第21条では、古物商が古物を買い受ける際の確認義務が定められており、在庫ファクタリング会社は商品の出所や正当性を確認する法的義務を負います。

2. 在庫ファクタリングが生まれた背景

2-1. 小売業界における資金調達課題の深刻化

在庫ファクタリングが注目される背景には、小売業特有の資金調達課題があります。小売業は個人消費者を主要顧客とするため、現金やクレジットカード決済による取引が中心となり、企業間取引で発生する売掛債権を保有しないケースが多くあります。

この構造により、小売業者は通常のファクタリングを利用した資金調達が困難な状況にありました。銀行融資についても、小規模事業者の場合は担保となる不動産を保有していないケースが多く、信用保証協会の保証付融資に頼らざるを得ない状況が続いていました。

特に季節商品を扱う事業者では、仕入れ時期と売上回収時期のタイムラグにより資金繰りが悪化しやすい傾向があります。例えば、夏物商品を春に仕入れて夏季に販売する場合、仕入れ資金の調達から売上回収まで数ヶ月のギャップが生じ、その間の運転資金確保が重要な経営課題となります。

また、流行の変化や消費者ニーズの多様化により、予想以上の売れ残りが発生するリスクも常に存在します。東京商工リサーチの調査によると、小売業の倒産要因の約30パーセントが過剰在庫による資金繰り悪化に起因しており、在庫管理と資金調達の問題は密接に関連しています。

2-2. 古物営業法改正による制度的基盤の整備

在庫ファクタリング事業の制度的基盤は、古物営業法の段階的な改正により整備されてきました。平成7年の法改正では、古物営業の許可制度が見直され、事業者の信頼性向上と消費者保護の強化が図られました。

この許可制度により、在庫ファクタリング事業者には一定の信頼性と継続性が担保されています。許可番号の公表義務があるため、利用者は正規の事業者かどうかを容易に確認できます。また、古物台帳の作成義務により、取引記録の適切な管理が法的に義務付けられています。

さらに、平成15年の法改正では、インターネット取引に関する規定が追加され、オンラインでの古物取引についても適切な規制が整備されました。これにより、在庫ファクタリング会社が買取後の商品をオンラインで転売する際の法的枠組みが明確化され、事業の安定性が向上しました。

3. 在庫ファクタリングの仕組みと流れ

3-1. 申込みから現金化までの具体的プロセス

在庫ファクタリングの利用プロセスは、申込みから現金化まで明確な段階を経て進行します。まず事業者からファクタリング会社への利用申込みが行われ、基本的な企業情報と売却予定商品の概要が提出されます。この段階では、事業者の基本情報、商品の種類と数量、希望する買取価格などが確認されます。

次に、ファクタリング会社による商品査定が実施されます。査定は商品の種類、状態、市場価値、流通性などを総合的に評価して行われます。査定方法は現物確認が基本となり、商品の保管場所での実地査定または商品をファクタリング会社の事務所に持参しての査定が行われます。

査定完了後、ファクタリング会社から買取価格の見積もりが提示されます。この段階では事業者に契約締結の判断権があり、提示価格に納得できない場合は取引を中止することが可能です。見積もりには、買取対象商品の明細、査定根拠、支払条件、商品引取の方法などが詳細に記載されます。

事業者が買取価格に合意した場合、正式な売買契約が締結されます。契約書には商品の詳細、買取価格、支払条件、商品引渡し方法などが明記され、双方が署名押印することで契約が成立します。最終段階として、商品の引渡しと代金の支払いが同時に行われ、商品の所有権が完全にファクタリング会社に移転します。

3-2. ファクタリング会社の商品転売戦略

ファクタリング会社は買取った商品を様々な販路を通じて転売し、収益を確保します。主要な販売チャネルとして、オンラインオークションサイト、フリーマーケットアプリ、実店舗での販売、卸売業者への転売などが活用されています。

商品の種類や価値に応じて最適な販売方法が選択されます。ブランド品や希少品の場合は専門的な販売ルートが活用され、一般的な商品については効率的な大量販売が重視されます。季節商品については販売タイミングが収益性に大きく影響するため、迅速な販売が優先されます。

転売価格の設定では、買取価格と販売コスト、適正利益を考慮した価格決定が行われます。市場の需要動向や競合状況を分析し、適切な価格設定により販売期間の短縮と収益性の確保を両立させています。一般的に、買取価格の1.5倍から2倍程度での転売が目安となります。

4. 買取対象となる商品の分類

4-1. 対象商品の種類と業界別活用事例

在庫ファクタリングの買取対象となる商品は、主に小売業や卸売業が保有する完成品の商品在庫に限定されます。最も一般的な対象商品として、家電製品、衣類、雑貨、書籍、食品、化粧品、玩具、スポーツ用品などが挙げられます。

家電業界では、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの大型家電から、スマートフォン、パソコン、調理器具などの小型製品まで幅広く対象となります。特に新モデルの発売により旧モデルとなった商品や、展示品として使用された商品などが買取対象となるケースが多くあります。

アパレル業界では、メンズ、レディース、子供服を問わず、シーズン終了による売れ残り商品や、流行遅れとなった商品が主要な買取対象となります。ブランド品については、正規品であることの証明が重要な査定要素となり、タグや証明書の有無が買取価格に大きく影響します。

書籍業界では、小説、実用書、専門書、雑誌、コミックなどが対象となります。発行からの経過期間や需要の継続性が査定の重要なポイントとなり、ベストセラー作品や専門性の高い書籍については比較的高い評価が期待できます。

4-2. 買取対象外となる商品の判定基準

在庫ファクタリングでは、法的制約や安全性の観点から買取対象外となる商品が明確に定められています。最も重要な除外基準として、古物営業法第2条第1項の規定に該当しない新品商品のうち、原材料や仕掛品は買取対象外となります。

製造業における原材料、部品、半製品、仕掛品などは完成品ではないため、在庫ファクタリングの対象から除外されます。これらは製造工程において追加の加工や組立てが必要であり、単独では商品として流通できないためです。

法的に販売が制限される商品も買取対象外となります。医薬品、医療機器、武器類、危険物、違法薬物などは、販売に特別な許可や資格が必要であり、一般的な古物商許可では取扱いができません。

知的財産権に問題がある商品も除外対象となります。偽造品、模倣品、著作権侵害商品などは、法的リスクが高いため買取対象外となります。正規品であることの証明ができない商品についても、同様の理由で買取が困難となる場合があります。

5. 在庫ファクタリングのメリットとデメリット

5-1. 小売業・卸売業における主要メリット

在庫ファクタリングの最大のメリットは、売掛債権を保有していない事業者でも迅速な資金調達が可能という点です。小売業や飲食業など現金商売を中心とする業種では、企業間の掛取引が少なく売掛債権を持たないケースが多くあります。

在庫ファクタリングは商品在庫を直接現金化するため、売掛債権の有無に関係なく利用できます。電器店、洋服店、雑貨店など多様な小売業者が、保有する商品を活用して必要な資金を調達することが可能です。この特徴により、従来は銀行融資に頼らざるを得なかった小売業者に新たな資金調達の選択肢が提供されています。

不良在庫の処分と資金調達を同時に実現できる点も重要なメリットです。小売業や卸売業では、売れ残り商品や季節外れ商品などの不良在庫が大きな経営課題となります。在庫ファクタリングを利用すれば、このような不良在庫も買取対象となるため、廃棄コストをかけることなく現金化できます。

審査基準が商品価値中心となるため、企業の財務状況に問題があっても利用可能です。銀行融資では企業の財務状況や返済能力が厳格に審査されますが、在庫ファクタリングでは商品の価値が主要な審査基準となります。

5-2. 買取価格と業種制限の重要なデメリット

在庫ファクタリングの最大のデメリットは、買取価格が商品定価の30パーセントから50パーセント程度と低水準にとどまることです。通常のファクタリングでは売掛債権の80パーセントから90パーセントを現金化できるのに対し、在庫ファクタリングでは半値以下での買取となるため、調達できる資金額が大幅に限定されます。

帝国データバンクの調査によると、在庫ファクタリングの平均買取率は商品定価の35.2パーセントとなっており、ファクタリング会社のリスク要因が複数存在することが背景にあります。商品の再販売リスク、市場価格の変動リスク、在庫保管コスト、販売期間の不確実性などを考慮する必要があるため、安全マージンを確保した価格設定となります。

利用可能業種が小売業・卸売業に限定される点も大きなデメリットです。主な対象業種は小売業と卸売業に限られ、サービス業や製造業、建設業などでは基本的に利用できません。この業種限定により、多くの企業にとって在庫ファクタリングは選択肢から除外される資金調達手法となっています。

古物商許可を持つ提供会社が限られているという供給面の制約もあります。在庫ファクタリングを提供している会社は、通常のファクタリング会社と比較して圧倒的に少ないのが現状です。

6. よくある質問

6-1. 在庫ファクタリングと一般的な商品買取サービスの相違点は?

在庫ファクタリングと一般的な商品買取サービスは、対象となる商品や取引規模において大きな違いがあります。一般的な商品買取サービスは主に個人が使用した中古品を買取対象とし、一般消費者向けのサービスとして位置づけられています。

一方、在庫ファクタリングは事業者が保有する商品在庫を対象とし、法人向けの資金調達サービスとして提供されています。取引金額についても、一般的な商品買取では数千円から数万円程度の小額取引が中心となりますが、在庫ファクタリングでは数十万円から数百万円規模の取引が一般的です。

さらに、在庫ファクタリングでは資金調達という明確な目的があるため、査定から現金化までのスピードが重視され、通常3日から1週間程度で完了します。

6-2. 製造業でも利用できますか?

製造業での在庫ファクタリング利用は、保有する商品の種類により可能性が決まります。完成品として販売可能な製品在庫を保有している場合は利用可能ですが、原材料や仕掛品は買取対象外となります。

例えば、食品製造業で完成した加工食品や、機械製造業で完成した製品については買取対象となる可能性があります。ただし、特殊な用途に限定される製品や、一般流通が困難な製品については買取が困難な場合があります。

なお、製造業では通常のファクタリングを利用できる売掛債権を豊富に保有している場合が多いため、在庫ファクタリングよりも有利な条件で資金調達できる可能性があります。

6-3. 在庫ファクタリングの手数料相場はどの程度ですか?

在庫ファクタリングでは、商品定価に対する買取価格が30パーセントから50パーセント程度となるため、実質的な手数料は50パーセントから70パーセントとなります。これは通常のファクタリング手数料(2パーセントから20パーセント程度)と比較して非常に高い水準です。

具体的な手数料率は商品の種類、状態、市場での流通性により大きく変動します。人気ブランドの新品商品や需要の高い電化製品の場合は買取率が高くなり、手数料負担が軽減される傾向があります。

手数料以外にも、商品の査定費用、引取費用、保管費用などが別途発生する場合があります。これらの費用は事前に確認し、総合的なコストを把握した上で利用判断を行うことが重要です。

6-4. 古物商許可のない会社との取引にはどのようなリスクがありますか?

古物商許可を取得せずに在庫ファクタリング事業を営むことは古物営業法違反であり、違法行為となります。無許可業者との取引には重大なリスクが伴います。

契約の有効性に問題が生じる可能性があり、トラブル発生時に適切な救済を受けられない恐れがあります。また、買取代金の支払いが行われない詐欺的な取引の可能性もあります。

正規の古物商許可を取得している業者は、許可証の提示が可能であり、都道府県公安委員会から発行された許可番号を確認できます。業者選定時には、古物商許可証の確認に加えて、会社の実在性、事業実績、口コミ評価なども総合的に検証することが重要です。

7. まとめ

在庫ファクタリングは、商品在庫を保有する小売業や卸売業にとって有用な資金調達手段として位置づけられています。売掛債権を持たない現金商売中心の事業者でも利用可能であり、在庫処分と資金調達を同時に実現できる独特の価値を提供しています。

本記事で解説した基本概念から具体的な仕組みまでを理解することで、事業者は在庫ファクタリングの活用可能性を適切に判断できます。古物営業法に基づく法的基盤により、一定の信頼性と継続性が担保されており、正規の許可業者を選定することで安全な取引が実現可能です。

在庫ファクタリングは大規模な資金調達には適さないものの、緊急時の資金繰り改善や不良在庫の効率的な処分には有効な手法といえます。利用を検討する際は、自社の業種や商品が対象となるかを確認し、古物商許可を取得した信頼できる業者を選定することが成功の要点となります。

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