ファクタリング

貸し付けとは?ファクタリングとの違いメリットデメリットを解説

2025.03.18

この記事の要点

  1. 貸し付けとファクタリングの法的根拠と適用される規制の違いを理解することで、企業の状況に応じた最適な資金調達方法を選択し、コンプライアンスリスクを回避できます。
  2. それぞれの審査基準、手数料体系、資金調達期間の特徴を把握することで、緊急時でも迅速かつ適切な判断を下し、事業継続に必要な資金を効率的に確保できます。
  3. 税務処理や企業信用度への影響を含む長期的な観点から資金調達戦略を立案することで、財務基盤の強化と持続的な企業成長を実現できます。

目次

ATOファクタリング

1. 貸し付けとファクタリングの法的根拠と基本構造

企業経営において資金調達は事業継続と成長のための重要な課題です。資金調達手段として「貸し付け」と「ファクタリング」がありますが、両者の法的性質や適用される規制は根本的に異なります。

金融庁は「ファクタリングとは、一般に、企業が取引先に対し有する売掛債権をファクタリング会社が買い取り、買い取った債権の管理・回収を自ら行う金融業務をいいます」と定義しており、貸し付けとは明確に区別されています。

本記事では、貸し付けとファクタリングの法的根拠に基づく違いを詳しく解説し、それぞれのメリット・デメリットと適切な選択基準について専門的な分析を提供します。中小企業の資金調達担当者が適切な判断を行うための実用的な情報をお届けします。

1-1. 貸し付けの法的根拠と金銭消費貸借契約の性質

貸し付けは民法第587条(消費貸借)に規定される金銭消費貸借契約に基づく取引です。この契約により、貸主は借主に対して金銭を交付し、借主は同種同等の物を返還する義務を負います。法的には外部資金調達に該当し、借入金として貸借対照表の負債の部に計上されます。

貸金業法第2条第1項により、金銭の貸付けを業として行う者は財務局長または都道府県知事の登録を受ける必要があります。また、利息制限法第1条第1項により、元本100万円以上の場合は年率15.0%を上限とする金利規制が適用されます。

銀行融資、日本政策金融公庫の融資、信用保証付き融資などが代表的な貸し付け制度として位置づけられています。借主には元本と利息を契約で定められた期間内に返済する法的義務が発生します。

1-2. ファクタリングの法的根拠と債権譲渡契約の特徴

ファクタリングは民法第466条第1項「債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない」に基づく債権譲渡契約です。金融庁の見解によると「このようなファクタリングの法定性質は、売買契約に基づく指名債権の譲渡であり、金銭の貸し借りではないので、貸金業の登録は必要ありません」と明確に定められています。

債権譲渡契約では、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に譲渡し、対価として現金を受け取ります。これは内部資産の現金化に該当し、負債として計上されることはありません。民法第466条第2項により、当事者が債権譲渡を禁止する意思表示をした場合でも、当該債権の譲渡は有効とされています。

2020年4月1日施行の民法改正により、債権譲渡禁止特約が付されている債権が譲渡されても、その譲渡は原則「有効」として扱われるようになりました。経済産業省は「債権法改正により資金調達が円滑になります」として、この改正が企業の資金調達環境の改善に寄与すると評価しています。

1-3. 契約類型による法的効果の相違

貸し付けとファクタリングの契約類型による法的効果には重要な違いがあります。金銭消費貸借契約では、借主に返済義務が発生し、期限の利益を失った場合は期限前弁済を求められる可能性があります。また、担保権の設定や保証人の徴求により債権保全が図られます。

債権譲渡契約では、原則としてノンリコース(償還請求権なし)で取引が行われます。東京地方裁判所令和2年9月18日判決では「ファクタリング業者は償還請求権を有しておらず、売主としても債権の買戻しを予定していないことなどから、実質的にも債務者の不払いリスクがファクタリング業者に移転していると評価できる」として、正当なファクタリング取引が貸金業法の適用外であることを確認しています。

ただし、東京高等裁判所令和3年7月1日判決では「債務者が弁済しなかった場合、売主が債権額以上の金額をファクタリング業者に支払う旨の公正証書を作成するなど、ファクタリング業者が負担すべき不払いのリスクを負担していない」事案について、貸金業法上の貸付けに該当すると判断されており、契約内容の精査が重要です。

2. 手数料体系と金利規制の法的枠組み

2-1. 貸し付けの金利体系と利息制限法による規制

貸し付けでは利息制限法第1条第1項により厳格な金利規制が適用されます。元本10万円未満の場合は年率20.0%、10万円以上100万円未満の場合は年率18.0%、100万円以上の場合は年率15.0%が法定上限金利として定められています。

事業者向け融資の実際の金利相場は、都市銀行で年率1.0%から3.0%程度、地方銀行で年率2.0%から5.0%程度となっています。日本政策金融公庫の一般貸付では令和7年度基準金利として年率1.16%から2.75%程度が適用されています。信用保証付き融資では、金融機関への利息に加えて信用保証協会への保証料が年率0.3%から1.9%程度発生します。

出資法第5条により、法定金利を超える利息の受領は刑事罰の対象となります。これらの法規制により、借主の利益保護が図られている一方で、金利設定には明確な法的制約が存在します。

2-2. ファクタリングの手数料体系と規制の相違

ファクタリングの手数料には利息制限法や出資法による上限規制がありません。金融庁は「貸金業ではないため金利の上限の規制も適用されません(リコース型を除く)」と明確に示しています。

2者間ファクタリングの手数料相場は売掛債権額の8.0%から18.0%程度となっています。一方、3者間ファクタリングでは2.0%から9.0%程度です。この手数料差は、ファクタリング会社が負担するリスクの違いに起因します。一般社団法人日本中小企業金融サポート機構の調査によると、手数料率は売掛先の信用度と利用金額により大きく変動することが確認されています。

ファクタリングの手数料は債権額面に対する一回限りの費用であり、期間による複利計算は適用されません。例えば、売掛債権1,000万円を手数料10.0%で譲渡した場合、支払期日が1ヶ月後でも3ヶ月後でも手数料は100万円で一定です。

2-3. コスト比較における法的考慮事項

貸し付けとファクタリングのコスト比較では、法的性質の違いを考慮する必要があります。貸し付けの利息は法人税法第22条により損金算入が可能ですが、資金調達期間に応じて利息負担が増加します。

ファクタリングの手数料は売掛債権売却損として法人税法上の損金算入が認められています。国税庁の法人税基本通達2-1-1により、債権譲渡に係る費用の損金算入が明確化されています。また、消費税法第6条により、債権譲渡は非課税取引として扱われるため、ファクタリング手数料には消費税が課されません。

3. 審査基準と信用リスク評価の相違

3-1. 貸し付けの審査基準と返済能力評価

貸し付けの審査では、借主企業の返済能力が最重要視されます。金融検査マニュアルに基づき、過去3期分の決算書、試算表、資金使途明細書、返済計画書などの詳細な財務分析が実施されます。

審査項目には売上高営業利益率、自己資本比率、流動比率、債務償還年数などの財務指標分析が含まれます。中小企業庁「令和5年中小企業実態基本調査」によると、借入申込企業の約30%が財務内容不備により審査で否決されています。

銀行融資では金融庁の金融検査マニュアル別冊に基づく債務者区分の判定が重要です。正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先の6区分により、与信判断と金利設定が決定されます。

3-2. ファクタリングの審査基準と売掛先信用力評価

ファクタリングの審査では、売掛先企業の信用力と売掛債権の実在性が主要な評価ポイントとなります。帝国データバンクや東京商工リサーチの企業信用情報により、売掛先の支払能力と過去の支払実績が詳細に調査されます。

審査に必要な書類は請求書、納品書、基本契約書、過去6ヶ月間の入金実績などです。申込企業の財務状況は参考程度の評価に留まり、債務超過企業や税金滞納企業でも優良な売掛債権があれば契約が可能です。

中小企業庁「令和5年中小企業実態基本調査」によると、ファクタリングの審査通過率は約85%と高く、銀行融資の審査通過率約60%を大きく上回っています。これは審査対象が申込企業ではなく売掛先企業であることに起因します。

3-3. 資金調達期間と緊急対応能力の比較

貸し付けの審査期間は、銀行融資で一般的に2週間から1ヶ月程度、日本政策金融公庫では1ヶ月から2ヶ月程度を要します。信用保証付き融資では、信用保証協会の審査も必要となるため、さらに時間を要する場合があります。

ファクタリングの審査期間は最短即日から3営業日程度と短期間です。特に2者間ファクタリングでは売掛先への通知が不要なため、申込から入金まで最短2時間で完了する場合もあります。緊急の資金需要に対する対応能力では、ファクタリングが圧倒的に優位です。

4. 適用法規制と偽装取引の識別基準

4-1. 貸金業法による規制体系と監督体制

貸金業法第3条により、貸金業を営む者は財務局長または都道府県知事の登録を受けなければなりません。登録を受けずに貸金業を営むことは同法第47条により罰則の対象となります。

貸金業法第13条の2では過剰貸付けの禁止が定められており、借主の返済能力を超える貸付けは禁止されています。また、同法第19条から第21条により、取立て行為の規制が厳格に定められています。

金融庁による監督体制では、貸金業者に対する定期的な立入検査と業務改善命令の発出により、法令遵守の徹底が図られています。令和6年3月末現在、登録貸金業者数は1,665社となっています。

4-2. ファクタリングの法的位置づけと適正取引の要件

正当なファクタリング取引では、真正な売掛債権の存在とその譲渡が確認できること、ファクタリング会社が債権回収リスクを負担すること、分割返済ではなく一括決済であることが要件となります。

経済産業省は「ファクタリングに関する留意事項」において「売掛債権の売買契約であり、金銭消費貸借契約ではない」ことを明確に示しています。また、債権譲渡登記制度の活用により、第三者対抗要件の具備が可能です。

ただし、金融庁は「ファクタリングの利用に関する注意喚起」において「ファクタリングとして行われる取引であっても、経済的に貸付けと同様の機能を有していると思われるようなものは、貸金業に該当するおそれがあります」と警告しています。

4-3. 偽装ファクタリングの識別基準と対処法

偽装ファクタリングの識別基準として、手数料率が異常に高い場合、分割返済を認める契約内容、担保や保証人を要求される場合に注意が必要です。

名古屋地方裁判所令和3年7月16日判決では「譲渡債権の性質や、債権譲渡日から支払日までの期間の短さからして債務者による不履行の可能性は極めて低い」事案について、貸金業法上の貸付けに該当すると判断されています。

疑わしい業者との取引は避け、金融庁の登録貸金業者情報検索サービスにより、相手方が正当な業者であることを確認することが重要です。問題のある契約を結んだ場合は、速やかに警察庁または各都道府県警察の相談窓口に通報することが推奨されます。

5. 最適な資金調達方法の選択基準と戦略的活用

5-1. 貸し付けが最適となる企業特性と活用場面

貸し付けは、安定した収益基盤を持つ企業の長期的な資金需要に適しています。設備投資、店舗展開、研究開発投資など、投資回収期間が長期にわたる案件では、低金利での資金調達が可能な貸し付けが有効です。

財務内容が健全で、自己資本比率が30%以上、売上高営業利益率が5%以上の企業は、銀行融資において優遇金利での借入れが期待できます。また、金融機関との良好な取引関係を維持している企業は、迅速な審査と有利な条件での融資が可能です。

税務上の観点では、支払利息の損金算入により法人税の軽減効果があります。法人税率が23.2%の場合、年率3.0%の支払利息による実質的な資金調達コストは約2.3%となります。

5-2. ファクタリングが最適となる企業特性と活用場面

ファクタリングは、売掛債権を多く保有し、支払いサイトが長期化している企業に適しています。建設業、製造業、IT業など、大手企業との取引が多く、請求から入金まで60日から90日程度の期間を要する業界では特に効果的です。

創業間もない企業や債務超過企業でも、優良な売掛債権があれば利用可能です。銀行融資の審査に通らない企業や、負債比率の上昇を避けたい企業にとって、ファクタリングは有効な資金調達手段となります。

季節変動の大きい事業や突発的な大口受注に対応する必要がある企業では、柔軟な資金調達手段としてファクタリングが威力を発揮します。必要な時に必要な分だけ迅速に資金調達できる点が最大のメリットです。

5-3. 併用戦略によるリスク分散手法

貸し付けとファクタリングの併用により、資金調達手段の多様化とリスク分散が可能です。長期的な設備投資には低金利の銀行融資を活用し、短期的な運転資金にはファクタリングを活用する戦略が効果的です。

併用戦略では、金融機関との関係維持も重要な要素です。ファクタリングの利用により一時的に負債比率を改善し、その後の銀行融資における信用評価の向上を図ることができます。

6. よくある質問

6-1. ファクタリング利用時の取引先への影響と対処法について

2者間ファクタリングでは、債権譲渡通知が不要なため、売掛先企業に知られることなく資金調達が可能です。民法第467条第1項の債権譲渡の対抗要件は、ファクタリング利用企業が売掛先から回収した売掛金をファクタリング会社に支払うことで満たされます。

3者間ファクタリングでは売掛先の承諾が必要ですが、手数料が大幅に低減される利点があります。取引関係への影響を最小限に抑えるため、事前に売掛先との良好な関係構築と適切な説明が重要です。

6-2. 個人事業主の資金調達選択肢と注意点について

個人事業主も貸し付けとファクタリングの両方を利用可能です。日本政策金融公庫の一般貸付や経営環境変化対応資金では、個人事業主向けに年率1.16%から2.75%程度での融資が提供されています。

ファクタリングでは、法人と比較して売掛債権の信用度により依存する傾向があります。ただし、いわゆる「給与ファクタリング」は金融庁により貸金業に該当すると判断されており、個人が勤務先に対して有する給与債権の買取りは違法行為です。

6-3. 税務処理と会計上の取り扱いに関する相違点について

貸し付けの支払利息は法人税法第22条により損金算入が可能です。また、借入金の会計処理では、短期借入金と長期借入金に区分して貸借対照表に計上します。

ファクタリングでは、売掛債権売却損として手数料を損金計上します。会計処理は売掛金の減少と現金の増加として仕訳され、負債として計上されることはありません。これにより、自己資本比率や流動比率などの財務指標の改善効果があります。

6-4. 企業信用度への長期的影響と金融機関評価について

貸し付けは借入金として信用情報機関に登録され、金融機関の与信判断に長期的な影響を与えます。適切な返済実績は企業信用度の向上に寄与しますが、過度な借入れは債務償還能力の低下として評価される可能性があります。

ファクタリングは売掛債権の売却取引であり、信用情報機関への登録はありません。負債として計上されないため、金融機関の財務分析における負債比率には影響せず、むしろ現金化による流動性向上として評価される場合があります。

7. まとめ

貸し付けとファクタリングは、法的根拠、適用される規制、審査基準において根本的に異なる資金調達手段です。貸し付けは金銭消費貸借契約に基づく外部資金調達であり、利息制限法による厳格な金利規制が適用されます。一方、ファクタリングは債権譲渡契約に基づく内部資産の現金化であり、手数料に関する法的上限規制はありません。

企業の財務状況、資金需要の緊急度、調達希望額を総合的に考慮し、最適な方法を選択することが重要です。安定した収益基盤を持つ企業の長期的資金需要には低金利の貸し付けが、売掛債権を多く保有し迅速な資金調達を要する企業にはファクタリングが適しています。

金融庁をはじめとする監督官庁の見解と最新の法令改正動向を踏まえ、適法かつ効果的な資金調達戦略を構築することが企業の持続的成長につながります。複数の資金調達手段を組み合わせることで、リスク分散と財務基盤の強化を実現することができます。

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