ファクタリング

廻し手形とファクタリングの違いとは?メリットデメリットを解説

2024.11.11

この記事の要点

  1. 廻し手形とファクタリングの基本的な違いと特徴を理解することで、自社の状況に最適な資金調達方法を選択できるようになります。
  2. 2026年手形廃止政策の具体的な影響と対策を把握することで、事前に適切な準備を進め、事業継続性を確保できます。
  3. 償還請求権やコスト構造などのリスク要因を正確に理解することで、資金調達に伴うリスクを適切に管理し、安全な経営判断ができます。

目次

ATOファクタリング

1. 廻し手形とファクタリングの基本的な違い

企業の資金調達や支払方法には様々な選択肢がありますが、特に中小企業において注目されているのが「廻し手形」と「ファクタリング」です。どちらも債権を活用した方法でありながら、その仕組みや特徴には大きな違いがあります。

本記事では、廻し手形とファクタリングの基本的な違いから、それぞれのメリット・デメリット、実際の活用場面における比較まで詳しく解説します。特に2026年に予定されている紙の手形廃止政策を踏まえ、今後の資金調達戦略を検討する上で重要な情報をお伝えします。

適切な資金調達方法を選択することで、企業の資金繰りは大幅に改善され、事業の安定性と成長性を確保することができます。廻し手形とファクタリングの特徴を正しく理解し、自社の状況に最適な方法を見つけましょう。

1-1. 廻し手形の基本概念

廻し手形とは、他社から受け取った手形を、自社の支払い先に対して裏書譲渡することで決済に用いる方法です。現金の代わりに手形を使用して支払いを行うため、一時的に資金繰りを調整する効果があります。

この方法は明治時代から続く伝統的な商慣行であり、特に建設業や製造業などで広く活用されてきました。手形の額面金額をそのまま譲渡するため、コストをかけずに支払いを完了できる点が特徴です。

ただし、廻し手形を実行するためには、支払い先の承諾が必要となります。相手方が手形の振出人の信用力を懸念する場合、受け取りを拒否される可能性もあります。また、譲渡した手形が不渡りとなった場合、裏書した企業が買い戻し義務を負うリスクが存在します。

手形法第11条以降では約束手形の裏書譲渡について詳細に規定されており、廻し手形の法的基盤となっています。裏書譲渡により手形債権が移転し、裏書人は支払保証責任を負うことが明確に定められています。

1-2. ファクタリングの基本概念

ファクタリングとは、企業が保有する売掛金をファクタリング会社に売却し、売掛債権の金額から手数料を差し引いた現金を早期に受け取る資金調達方法です。通常の売掛金の回収期日よりも前に現金化できるため、キャッシュフローの改善に効果的です。

ファクタリングには2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの2つの契約方式があります。2社間ファクタリングでは、ファクタリング会社と利用者のみで契約を完結し、売掛先に通知することなく最短即日での資金調達が可能です。

一方、3社間ファクタリングでは売掛先も契約に参加するため、手数料を抑えることができますが、資金化まで数日から1週間程度を要します。どちらの方式も、通常は償還請求権なしの契約となるため、売掛先が倒産した場合でも利用者に返済義務は生じません。

民法第466条では「債権は、法令に別段の定めがある場合を除き、譲り渡すことができる」と規定されており、ファクタリングの法的根拠となっています。第467条では債権譲渡の対抗要件について定められ、第三者に対抗するためには確定日付のある証書による通知または承諾が必要とされています。

1-3. 両者の根本的な相違点

廻し手形とファクタリングの最も重要な違いは、活用する債権の種類と目的にあります。廻し手形は受取手形という有価証券を支払い手段として活用し、現金を動かすことなく決済を完了することが目的です。

これに対してファクタリングは、売掛金という債権を現金に換える資金調達が目的であり、実際に手元に現金が入ってきます。この違いにより、企業の資金繰りに与える効果も大きく異なります。

また、法的な位置づけも異なります。廻し手形は手形法に基づく裏書譲渡であり、ファクタリングは民法第466条以降に規定される債権譲渡契約です。この法的基盤の違いが、リスクの所在や利用時の手続きにも影響を与えています。

貸金業法の適用についても重要な違いがあります。ファクタリングは債権の売買であるため貸金業法の適用を受けませんが、手形割引は融資とみなされるため貸金業法の規制対象となります。これにより、手数料の上限や業者の登録要件に違いが生じています。

2. 廻し手形の仕組みとメリット・デメリット

2-1. 廻し手形の具体的な流れ

廻し手形の取引は以下の手順で進行します。まず、企業が商品やサービスの提供対価として、取引先から約束手形を受け取ります。この受取手形には、振出人、受取人、支払期日、金額などが記載されています。

次に、この企業が別の取引先への支払いが必要になった際、現金の代わりに受け取った手形を裏書譲渡します。裏書譲渡とは、手形の裏面に譲渡の意思を表示し、受取人を変更する手続きです。この時点で、支払い先が新しい手形の受取人となります。

最終的に、手形の支払期日になると、最終的な手形保有者が振出人の取引銀行で手形を呈示し、現金化を行います。この一連の流れを通じて、現金を使わずに企業間の決済を完了することができます。

手形の裏書譲渡では、印紙税法に基づく印紙の貼付が必要となる場合があります。譲渡金額に応じて200円から2万円の印紙税が課税されますが、これは現金決済と比較して非常に低いコストです。

2-2. 廻し手形のメリット

廻し手形の最大のメリットは、手数料などのコストが一切発生しないことです。手形の額面金額がそのまま支払金額となるため、経済的な負担なく決済を完了できます。これは特に利益率の低い業界や、大額の取引において重要な利点となります。

また、手形の管理コストを削減できる効果もあります。受け取った手形をそのまま支払いに活用することで、期日まで保管する必要がなくなり、手形管理業務の負担を軽減できます。金庫での保管費用や管理スタッフの人件費削減にもつながります。

さらに、現金を手元に置いておく必要がないため、資金繰りの調整手段として活用できます。特に季節性のある事業や、入金と支払いのタイミングがずれる業種において、一時的な資金需要を回避する効果的な方法となります。

取引先との関係性を維持しながら支払いを延期する効果もあります。現金での支払いが困難な状況でも、信頼できる振出人の手形であれば相手方に受け入れられやすく、取引継続につながる場合があります。

2-3. 廻し手形のデメリットとリスク

廻し手形の最大のリスクは償還請求権の存在です。譲渡した手形が不渡りとなった場合、裏書した企業が手形の買い戻し義務を負います。これは法的な強制力を持つ義務であり、振出人が倒産した場合でも免れることはできません。

また、取引先の承諾が必要なため、確実性に欠ける面があります。支払い先が手形による決済を拒否した場合、別の支払い方法を検討する必要があり、資金調達の計画が狂う可能性があります。特に振出人の信用力が不透明な場合、受け取りを断られるケースが多くなります。

手形の分割譲渡ができない点も制約となります。100万円の手形であれば100万円全額を譲渡する必要があり、一部のみを支払いに充てることはできません。これにより、支払金額と手形額面が一致しない場合の柔軟性が失われます。

さらに、取引先からの信用悪化リスクも考慮する必要があります。廻し手形の利用が頻繁になると、支払い先から「資金繰りが厳しい企業」と判断され、今後の取引関係に悪影響を及ぼす可能性があります。

2-4. 業種別の活用事例と注意点

建設業においては、下請企業から元請企業への支払いで廻し手形が活用されるケースがあります。工事代金の回収サイクルが長期化しがちな建設業界では、手形による決済が資金繰りの調整手段として重要な役割を果たしてきました。ただし、建設業法では下請代金の支払いについて現金払いの原則が定められているため、手形による支払いには制約があります。

製造業では、部品調達から製品販売までのサプライチェーンにおいて、複数の企業間で手形が循環することがあります。特に自動車産業や電子機器製造業では、系列企業間での決済手段として廻し手形が利用される場合があります。しかし、サプライチェーンの国際化により、海外企業との取引では手形が受け入れられないことが多くなっています。

卸売業では、商品の仕入れから販売までの期間に生じる資金ギャップを埋める手段として、廻し手形による決済が選択されることがあります。季節性のある商材を扱う企業では、売上の変動に合わせた柔軟な決済方法として活用されています。ただし、小売業界のデジタル化により、決済手段も電子化が進んでおり、手形の利用頻度は減少傾向にあります。

3. ファクタリングの仕組みとメリット・デメリット

3-1. ファクタリングの具体的な流れ

ファクタリングの取引は、利用者とファクタリング会社の間で売掛債権の売買契約を締結することから始まります。利用者は、商品やサービスの提供が完了し、請求書を発行した売掛債権をファクタリング会社に提示します。

ファクタリング会社は、提示された売掛債権の信用性を審査します。この審査では、売掛先の信用力や支払い実績、債権の内容などが詳細に検討されます。審査通過後、売掛債権の売買契約が成立し、債権額から手数料を差し引いた金額が利用者に支払われます。

2社間ファクタリングの場合、売掛先への通知は行われず、利用者が従来通り売掛金を回収し、ファクタリング会社に送金します。3社間ファクタリングでは、売掛先に債権譲渡の通知が行われ、売掛先から直接ファクタリング会社に支払いが実行されます。

債権譲渡登記を行う場合は、法務局での登記手続きが必要となります。これにより第三者対抗要件を満たすことができ、債権譲渡の確実性が高まります。登記費用として1件あたり7,500円の登録免許税が必要となります。

3-2. ファクタリングのメリット

ファクタリングの最大のメリットは、償還請求権がないことです。売掛先が倒産や経営破綻により支払不能となった場合でも、利用者に返済義務は生じません。このノンリコース契約により、貸し倒れリスクをファクタリング会社に移転できます。

資金調達のスピードも大きな利点です。特に2社間ファクタリングでは、最短即日での現金化が可能であり、緊急の資金需要に対応できます。銀行融資のような担保や保証人も不要で、売掛債権さえあれば利用できる手軽さがあります。

また、信用情報に影響を与えない点も重要なメリットです。ファクタリングは融資ではなく債権の売買であるため、貸借対照表上の借入金にはならず、他の融資の審査に悪影響を与えることもありません。

分割譲渡が可能な点も柔軟性を高めています。100万円の売掛債権のうち40万円分のみをファクタリングし、残りの60万円は通常通り回収するといった使い方ができるため、必要な資金額に応じた調整が可能です。

3-3. ファクタリングのデメリットと注意点

ファクタリングの最大のデメリットは手数料の高さです。2社間ファクタリングでは債権額の8%から20%程度、年率換算で20%から40%に相当する高額な手数料が発生することもあり、頻繁に利用すると資金繰りが悪化する可能性があります。

また、売掛債権の額面以上の資金調達はできないため、大きな資金需要には対応しきれない場合があります。必要資金が売掛債権の合計額を上回る場合、他の資金調達方法との併用が必要となります。

悪質なファクタリング業者の存在も注意すべき点です。貸金業法の適用を受けないファクタリングでは、手数料に法的な上限がないため、法外な手数料を請求する業者も存在します。業者選択の際は、手数料の妥当性や契約内容を慎重に検討する必要があります。

さらに、取引先にファクタリング利用が知られることで、信用不安を招く可能性もあります。特に3社間ファクタリングでは売掛先への通知が必要となるため、取引関係への影響を考慮して利用を検討する必要があります。

継続利用による手数料負担の累積も重要な懸念事項です。月次での利用を続けた場合、年間の手数料負担が売上の相当な割合を占めることになり、本業の収益性を圧迫するリスクがあります。

3-4. 業種別の適用状況と成功事例

IT業界では、システム開発やソフトウェア提供の対価として発生する売掛債権のファクタリング利用が増加しています。プロジェクトベースでの取引が多いIT企業にとって、キャッシュフローの安定化は重要な経営課題となっています。特に受託開発企業では、プロジェクト完了から入金まで2から3ヶ月を要するケースが多く、その間の運転資金確保にファクタリングが活用されています。

介護事業では、介護報酬の請求から入金までに2ヶ月程度を要するため、ファクタリングによる早期資金化のニーズが高まっています。人件費や設備費の負担が重い介護事業者にとって、安定した資金調達手段として注目されています。国民健康保険団体連合会からの支払いは確実性が高いため、ファクタリング手数料も比較的低く抑えられる傾向があります。

運送業では、燃料費の高騰や人件費の上昇により、運転資金の確保が重要な課題となっています。荷主企業からの運送代金をファクタリングにより早期現金化することで、事業の継続性を確保する企業が増加しています。特に長距離輸送を行う企業では、高速道路料金や燃料費の先払いが必要となるため、ファクタリングの有効性が高いとされています。

製造業においても、原材料価格の変動や設備投資のタイミングに合わせて、ファクタリングを戦略的に活用する企業が出てきています。特に中小の部品製造企業では、大手メーカーからの発注変動に対応するため、柔軟な資金調達手段として評価されています。

4. 両者の5つの重要な違いを徹底比較

4-1. 対象となる債権の違い

廻し手形とファクタリングでは、活用する債権の種類が根本的に異なります。廻し手形は「受取手形」という有価証券を対象とし、手形の現物が存在することが前提となります。手形には振出人の当座預金口座での支払いが約束されており、法的な強制力を持つ支払約束書としての性格があります。

一方、ファクタリングは「売掛金」という債権を対象とします。売掛金は商品やサービスの提供後に発生する金銭債権であり、請求書に基づく支払約束です。手形のような現物は存在せず、帳簿上の債権として管理されます。

この違いにより、利用可能な企業の範囲も変わります。手形取引を行っていない企業では廻し手形は利用できませんが、掛取引を行っている企業であればファクタリングは利用可能です。現在、手形取引は減少傾向にあるため、ファクタリングの方が幅広い企業で活用できる状況となっています。

債権の確実性についても違いがあります。約束手形は銀行の当座預金口座開設時の厳格な審査を経ているため、一般的に信用力が高いとされています。これに対し売掛金は、取引先との商取引に基づく債権であり、信用力は取引先企業の財務状況に依存します。

4-2. 資金調達スピードの違い

資金調達スピードにおいても両者には大きな違いがあります。廻し手形では、支払い先の承諾を得る必要があり、相手方が振出人の信用調査を実施する場合、数日から数週間を要することがあります。特に振出人の信用力が不明確な場合、承諾を得るまでに時間がかかるケースが多くなります。

ファクタリングでは、特に2社間契約の場合、最短即日での資金調達が可能です。ファクタリング会社の審査は売掛先の信用力を中心に行われ、必要書類が揃えば迅速に審査が完了します。オンライン審査を導入している業者では、申込みから入金まで数時間で完了するケースもあります。

3社間ファクタリングでも、売掛先への通知と承諾の手続きを含めて1週間程度での資金化が一般的であり、廻し手形よりも確実性とスピードの両面で優位性があります。

緊急時の対応力についても差があります。ファクタリングでは24時間365日対応のサービスも存在し、土日祝日でも審査を受けることができます。一方、廻し手形では取引先の営業時間内での交渉が必要となるため、緊急時の対応に制約があります。

4-3. コストと手数料の違い

コスト面では廻し手形が圧倒的に有利です。廻し手形では手数料や利息などの直接的なコストは一切発生せず、手形の額面金額がそのまま支払金額となります。印紙税についても、譲渡する際の印紙代のみで済みます。

ファクタリングでは必ず手数料が発生します。2社間ファクタリングの手数料は債権額の8%から20%程度、3社間ファクタリングでも2%から8%程度が一般的です。年率に換算すると、2社間ファクタリングでは20%から40%に相当する高額な手数料となることもあります。

ただし、ファクタリングの手数料には貸し倒れリスクの保険料的な性格もあるため、リスク回避のコストとして考える必要があります。廻し手形では償還請求権があるため表面的なコストは発生しませんが、潜在的なリスクコストは利用者が負担することになります。

長期的なコスト負担の観点では、廻し手形は一回限りの利用であれば明らかに有利ですが、ファクタリングは継続利用により手数料負担が累積する点を考慮する必要があります。月次での利用を前提とした場合、年間コストは相当な金額になる可能性があります。

4-4. リスクの所在と責任の違い

リスクの所在において、両者には決定的な違いがあります。廻し手形では償還請求権により、譲渡した手形が不渡りとなった場合、裏書した企業が買い戻し義務を負います。この責任は法的な強制力を持ち、振出人の倒産後も継続します。

廻し手形のリスクは連鎖的な性格も持ちます。手形が複数回裏書譲渡されている場合、最終的に不渡りとなると、すべての裏書人が連帯して責任を負うことになります。このため、信用力の低い振出人の手形は、譲渡を重ねるほどリスクが拡大します。

ファクタリングでは、通常のノンリコース契約において、売掛債権の回収不能リスクはファクタリング会社が負担します。利用者は債権を売却した時点でリスクから解放され、売掛先の倒産や支払遅延の影響を受けません。

ただし、ファクタリング契約では瑕疵担保責任が問われる場合があります。債権の存在や内容について虚偽の申告があった場合、利用者が責任を負うことになります。また、一部のファクタリング契約では償還請求権付きの契約もあるため、契約内容の詳細な確認が重要です。

4-5. 取引先への影響と関係性の違い

取引先への影響も重要な違いの一つです。廻し手形では、支払い先が手形を受け取ることで、その企業も振出人の信用リスクを負うことになります。また、現金での支払いを予定していた相手方の資金繰り計画に影響を与える可能性があります。

廻し手形の利用が頻繁になると、支払い先から資金繰りの悪化を懸念され、取引条件の見直しや取引停止につながるリスクもあります。商業道徳上も、相手方への負担を考慮した慎重な利用が求められます。

2社間ファクタリングでは、売掛先に通知されることなく利用できるため、取引関係への直接的な影響はありません。売掛先は従来通りの支払いを行うだけで、ファクタリング利用の事実を知る必要もありません。

3社間ファクタリングでは売掛先への通知が必要となりますが、これは正当な債権譲渡の手続きであり、廻し手形のように相手方にリスクを転嫁するものではありません。適切な説明により、取引先の理解を得やすい傾向があります。

長期的な取引関係への影響を考慮すると、ファクタリングの方が取引先との関係を維持しながら資金調達を行える利点があります。特に重要な取引先との関係を損なうリスクを回避したい場合、2社間ファクタリングは有効な選択肢となります。

5. 2026年手形廃止政策が与える影響と対策

5-1. 政府の手形廃止政策の背景と詳細

2021年6月に政府が発表した成長戦略実行計画では、「5年後の約束手形の利用廃止」と「小切手の全面的な電子化」が明記されました。この政策は、中小企業の資金繰り改善と支払慣行の近代化を目的としています。

手形廃止の主な理由として、受取企業の資金繰り悪化があります。従来の手形では支払期日が3ヶ月から4ヶ月後に設定されることが多く、特に中小企業にとって長期間の現金不足が経営圧迫の要因となっていました。

また、2024年11月からは下請法の運用基準が見直され、約束手形のサイトを業種を問わず60日以内とすることが義務付けられました。これは手形の短期化を促進し、最終的な廃止への移行期間として位置づけられています。

経済産業省の調査によると、約束手形の利用企業のうち27.6%が資金繰りのために手形を利用していると回答しており、廃止による影響は広範囲に及ぶと予想されます。特に建設業や製造業では、従来の商慣行の根本的な見直しが必要となります。

5-2. 全国銀行協会の自主行動計画と具体的スケジュール

全国銀行協会は2026年度末までに全国の手形交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを目標とする自主行動計画を策定しました。主要銀行はすでに具体的な廃止スケジュールを発表しており、移行準備が本格化しています。

三井住友銀行では2025年9月30日をもって手形・小切手帳の新規発行受付を終了し、2026年9月30日を手形・小切手の振出期限としています。この期限以降に振出された手形・小切手は、当座勘定からの支払いができなくなります。

他のメガバンクも同様のスケジュールで準備を進めており、みずほ銀行や三菱UFJ銀行も2025年中に新規発行を停止する予定です。地方銀行についても、全国銀行協会の指針に従って順次対応を進めています。

この動きにより、廻し手形を活用してきた企業は代替手段への移行が急務となっています。電子記録債権(でんさい)や銀行振込による決済への変更、必要に応じた追加融資の検討など、総合的な資金繰り戦略の見直しが必要です。

5-3. 廻し手形利用企業への具体的影響

手形廃止により、廻し手形を資金繰りの調整手段として活用してきた企業には直接的な影響が生じます。現金による支払いへの移行により、運転資金の需要が増加し、新たな資金調達手段の確保が必要となります。

特に建設業や製造業など、従来から手形取引の比重が高い業界では、支払慣行の根本的な見直しが求められます。取引先との決済方法の再協議、電子記録債権の導入検討、銀行融資枠の拡大交渉などが必要です。

また、手形廃止に伴う運転資金の増加量は企業により大きく異なります。従来の手形による支払額と支払サイクルを分析し、現金決済への移行により必要となる追加資金を正確に把握することが重要です。

中小企業庁の試算によると、手形廃止により全国で約1兆円の追加運転資金が必要になると予想されており、金融機関の融資対応能力や企業の資金調達手段の多様化が急務となっています。

5-4. ファクタリングの重要性の高まり

手形廃止により、売掛債権を活用した資金調達手段としてファクタリングの重要性が一層高まっています。手形に代わる資金繰り調整手段として、ファクタリングの活用を検討する企業が増加すると予想されます。

ファクタリングは手形のような法的制約がなく、柔軟な利用が可能です。必要な金額のみを債権売却により調達し、残りは通常通り回収するといった使い分けも可能であり、きめ細かい資金管理に適しています。

また、償還請求権がないファクタリングは、手形の不渡りリスクを回避したい企業にとって魅力的な選択肢となります。手形廃止後の不安定な移行期間において、確実性の高い資金調達手段として位置づけられることが期待されます。

金融庁の統計では、ファクタリングの市場規模は年率15%から20%で成長しており、手形廃止政策がこの成長をさらに加速させると予想されています。特に中小企業向けのファクタリングサービスの充実が進んでいます。

5-5. 今後の対策と準備事項

手形廃止に備えた対策として、まず自社の手形利用状況の詳細な把握が必要です。受取手形と支払手形の金額、件数、平均サイト、主要な取引先などを整理し、廃止による影響の規模を定量的に分析します。

次に、代替決済手段の検討と導入準備を進めます。電子記録債権(でんさい)の利用開始、インターネットバンキングの機能拡充、ファクタリング会社との契約締結など、複数の選択肢を準備することが重要です。

さらに、取引先との決済条件の再協議も必要です。従来の手形による決済から現金振込への変更、支払サイトの短縮、分割払いの導入など、双方にとって負担の少ない移行方法を模索します。

金融機関との関係強化も重要な要素です。運転資金の増加に備えた融資枠の拡大、当座貸越の設定、ABL(動産・債権担保融資)の利用検討など、多様な資金調達ルートの確保が求められます。

6. よくある質問

6-1. 廻し手形とファクタリングはどちらが安全ですか?

廻し手形には償還請求権があるため、譲渡した手形が不渡りとなった場合、裏書した企業が買い戻し義務を負います。一方、ファクタリングは通常ノンリコース契約であり、売掛先の倒産リスクはファクタリング会社が負担するため、利用者にとってはファクタリングの方が安全性が高いといえます。

6-2. コスト面ではどちらが有利ですか?

短期的なコストでは廻し手形が有利です。廻し手形では手数料が発生しませんが、ファクタリングでは年率換算で10%から40%の手数料が必要です。ただし、ファクタリングの手数料にはリスク回避の保険料的な性格があるため、総合的なリスクコストを考慮した判断が必要です。

6-3. 急いで資金が必要な場合はどちらが良いですか?

緊急の資金需要には2社間ファクタリングが適しています。最短即日での現金化が可能で、売掛先への通知も不要です。廻し手形では支払い先の承諾が必要であり、相手方の信用調査などで時間がかかる場合があります。

6-4. 2026年の手形廃止後はどうなりますか?

2026年度末に紙の手形が廃止されるため、廻し手形の利用はできなくなります。代替手段として電子記録債権(でんさい)が推奨されていますが、裏書譲渡の仕組みは継続されます。ファクタリングは手形廃止の影響を受けないため、引き続き利用可能です。

6-5. どのような企業に向いていますか?

廻し手形は手形取引を行っており、支払い先の理解が得られる企業に適しています。ファクタリングは掛取引を行うすべての企業で利用可能であり、特に急な資金需要がある企業や、貸し倒れリスクを回避したい企業に向いています。

6-6. 取引先にバレずに利用できますか?

廻し手形では支払い先への手形譲渡となるため、必然的に相手方に知られます。2社間ファクタリングでは売掛先に通知されることなく利用できるため、取引関係に影響を与えずに資金調達が可能です。

7. まとめ

廻し手形とファクタリングは、どちらも債権を活用した資金調達・決済手段でありながら、その仕組みや特徴には大きな違いがあります。廻し手形は手数料不要で利用できる一方、償還請求権のリスクと取引先の承諾が必要という制約があります。ファクタリングは手数料が発生しますが、ノンリコース契約によりリスクを回避でき、迅速な資金調達が可能です。

2026年に予定されている紙の手形廃止により、廻し手形の利用環境は大きく変化します。この政策変更を踏まえ、企業は早期に代替手段の検討と準備を進める必要があります。ファクタリングは手形廃止後も継続して利用できる資金調達手段として、その重要性がさらに高まることが予想されます。

自社の資金繰り状況、取引先との関係性、リスク許容度などを総合的に考慮し、最適な資金調達方法を選択することが企業の安定的な成長につながります。どちらの方法も適切に活用することで、効率的な資金管理と事業運営の改善を実現できるでしょう。

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